第457話 商業ギルドからの帰り道
「それで、今日ララ様が俺に会いたかった理由は何なんだ?」
ルイスの問いかけに頷き、早速おもちゃ屋さんに向けて作った新商品を魔法袋から取り出す。勿論駄菓子もだ。
テーブルに商品を並べて行くとルイスの目の色が変わった。商業ギルドのギルド長だからというのもあるかもしれないが、それよりも童心に返ってワクワクしているのが分かる。私が玩具を出すたび手に取り楽しそうに眺めている、補佐のナシオも興味津々の様だ。真面目な顔が綻んでいる。大人でもこれだけの表情を引きだせたのだ。玩具の掴みはオッケーだろう。
「これがリアムが言ってたおもちゃ屋さんの玩具達か……スゲー数だなー」
ルイスは試食に出したスターベアーのカステラを口にポイっと放り込みながら、私がする玩具魔道具の説明を聞いている。
ヨナタンとオクタヴィアンが開発を頑張ってくれたので、商品はもう開店しても大丈夫なほど集まった。後はリアム達が商品登録を済ましてくれれば問題無しだ。
「なあなあララ様よー、これは何だぁ?」
ルイスはカエル魔獣のエンカンタドルグレッグの形をした人形を手に取ると、びろーんと伸ばして見せた。口には今度はポップコーンの胡椒味を放り込み「美味っ!」と驚いた顔をしている。
食べながら玩具で遊ぶ姿に、いつもならナシオの注意が入りそうだが今日はその余裕がナシオにはないらしい。
ナシオもルイスと同じようにエンカンタドルグレッグのおもちゃを手に取り、引っ張ったり匂いを嗅いだり、そして掲げてみたりしている、どうやら二人とも気になって仕方が無い様だ。
「ルイス、これはねー、カエル競争用の魔道具なの」
「「帰る競争?」」
「カエルね。エンカンタドルグレッグの事だよー」
実践して見せた方が良いだろうと、クルトとセオにもエンカンタドルグレッグの人形を持たせ、部屋の端へと皆で移動した。
そして各自人形に軽く魔力を流すと、エンカンタドルグレッグの人形はそれに応じて大きくなった。一番大きい人形は勿論私のだ。
別に大量に魔力を流したわけでは無いけれど、軽く……いやほんのちょっぴり魔力を流しただけで、人形はバスケットボールぐらいの大きさになってしまった。
クルトやルイスそしてナシオの人形は大体野球ボールぐらいの大きさで、それ程大きくはない。
そしてセオの人形はラグビーボールの様だ。セオの人形だけカエルの形がスマートでカッコイイ、私たちのカエルの人形は丸っこい形だが、セオのだけは競走馬の様に鍛え上げられたカエル感丸出しだ。
車に例えるならセオだけスポーツカーのようと言えばいいだろうか、見るからに早そうな様子が分かる。
それと色も皆違う、私は金の玉の様に金ぴかの丸々したカエルで、他の皆は髪色だ。だからセオのカエルは濃い紺色をしていて尚更シャープに見えた。セオのカエルには戦う前から勝てる気がしなかった。
「じゃあ、早速競争させましょう」
「はっ?」
いまいち意味が分からない様なルイスの手を引き、各自のカエルを床に置いた。クルトが合図を出してくれ、よーいドンと言って一番に飛びだしたのはやっぱりセオのカエルだった。
セオのカエルはピョンッピョンッと跳ねる速さがとても素早い、スター商会で実験した時もセオのカエルは早かった。それに何よりもセオは魔獣の構造を良く知っているからか、人形に魔力を流すときにエンカンタドルグレッグの事をきちんと思い描いているのが良いのだと思う。セオのカエルはあっと言う間に部屋半分を飛び跳ねて行った。
そして残りのカエル達はどうなったかと言うと、ルイスのカエルは寄り道をしながらフラフラと飛び跳ねて居る、クルトのカエルは私のカエルが動くのを待っているかの様にまだスタート地点にいる。
ナシオのカエルは慎重なようで、飛び跳ねては立ち止まり、きょろきょろと辺りを確認していた。
そして問題の私の大カエルちゃんは大きなあくびをしたかと思うと、ぐっぐっと足に力を入れ一気の飛び跳ね部屋の壁へと飛び移った。
クルトのカエルが慌ててそれに付いて行こうとするが、私のカエルは一番先頭にいるセオのカエルをターゲットとして見た様だ。
また足に力を入れると、一飛びでセオのカエルに追いつこうとした。その瞬間ルイスの部屋の壁にミシミシと亀裂が入った。私のカエルちゃんの足の力は強い様だ。カッコイイ。
「おいおい、ララ様のカエルは規格外だろうー、アレはもーカエルの跳び方じゃねーぞー」
負けず嫌いだからか、自分のカエルがレースそっちのけで机の下に入り込んでしまったルイスがそんな事を言ってきた。
きっとリアムのカエルがいたらよそ見などせずに追いかけていただろう。とっても悔しそうだが、その子の性格は魔力を流した人の責任なので仕方がない、クルトとナシオのカエルを見れば分かる、とてもまじめだからね。
そしてセオのカエルが部屋を一周回ってゴールしようとした瞬間、私のカエルがセオのカエルの上に覆いかぶさった。そしてそのままゴールし、セオのカエルが鼻先の差で勝利し一位になり、私のカエルちゃんは二位だ。三位が真面目なカエルのナシオ、四位が慌てて主カエルを追いかけてきたクルトだった。
ルイスのカエルは残念ながらゴールはできなかった。今はカエルは書棚の隙間に入って隠れている。元の人形に戻されたくないようだ。
「あー! なんだコレ! なんか悔しいなっ! てか、セオ様のは本物の魔獣みたいじゃねーか、アレはもうおもちゃの域を超えてるだろうー!」
「えへへへ……」
セオは本物の魔獣の様だと言われて照れ笑いをしている。可愛い。ルイスもセオの笑顔にキュンと来たのだろう、頭を撫でて可愛がっていた。
でも大人のルイスがこれだけ悔しがるぐらいだ。カエルレースの掴みはオッケーだろう。これなら子供たちにも受けることは間違いなさそうだ。
もう一回もう一回とレースをせがむルイスを満足させ、何度かカエルレースを行ったが、やっぱり常にセオのカエルがトップを走り抜き、やっとルイスのカエルが寄り道をしなくなったところでルイスは遊ぶのを切り上げてくれた。
たぶん二十回は戦った気がする。ルイスは楽しかった様だ。
魔力がカエルから消えるのは大体数時間、早い物なら30分位だろう。子供の魔力でも十分に楽しめるものだし、今日商業ギルドのギルド長であるルイスに面白いという太鼓判を押して貰えたので、おもちゃ屋さんでも人気商品になることは間違いないだろう。
「なあ、ララ様ー、このカエル貰って良いのー?」
「フフフッ、ルイス、気に入ったの? どうぞ、ここに出した試供品はルイスに持って来たものだから、カエルちゃんも可愛がってあげてね」
「おう、有難う! セオ様、次は負けねーからな-」
「ハハッ、うん、ルイス楽しみにしてるねー」
余裕顔のセオも魔獣のカエルのレースの申し込みとあってなんだか嬉しそうだ。ルイスは人形に戻ったカエルを見つめ、「魔力の流し方か?」とブツブツ呟いている、相当悔しかった様だ。リアムと同じで少年のような可愛い人だと思った。
沢山遊んで、駄菓子も試食をして貰い、満足したところで私達は帰ることになった。
ルイスはまだカエルの人形を抱えている。常に傍において、可愛がる気の様だ。確かにその方が愛情が出て良いかもしれない。
そこでふと、リアムがルイスを驚かせたいと言って居たことを思いだした。今現在これだけ仕事を抱えているルイスを気の毒に思い、前もって私から話をすることにした。リアムの企みは消えてしまうけれど、しょうがないだろう。
「あー……ルイス……」
「なんだぁ? ララ様忘れ物かー?」
部屋から出て玄関先まで向かう途中、突然立ち止まった私にルイスは首を傾げてきた。きっと私達が帰れば早速ナシオとカエルの特訓をする事だろう。そんな気がして少し申し訳ない気持ちになったが、ハッキリと話すことにした。
「えーと、近々リアムとの面談入っているよね?」
「ああ、明後日の10時からだ。それがどうかしたかー? ララ様も来るのかぁ?」
「あのね、その日リアムが沢山商品登録の申し込みを持ってくると思うの……」
「はっ?」
「えっ……?」
私の言葉にルイスだけでなくナシオも驚いた顔になった、一瞬で真っ青だ。
「ララ様……それってまさか……」
「うん、おもちゃ屋さんの玩具と駄菓子全部の登録……ルイスを喜ばせたいって、一遍に持ってくるみたいなの……」
「……全部……あの魔道具とお菓子全部か……」
「そう、それと、おもちゃ屋さんの開店を今月中にはする予定で……」
「はあ?! はああっ?! 今月中って! どうなってんだよ!」
商業ギルド中に響く声で驚いたルイスは、呆然とした表情で顔色は青から今度は白になってしまった。ナシオも同じ表情だ。リアムの嫌がらせ……いやいや、サプライズはどうやら成功したようだ。申し訳ないがルイスには頑張って貰うしか無いだろう。
慌てて溜まっている仕事に取り掛かることになったルイスたちに別れを告げ、私達は王都内を散歩しながら歩いて帰ることにした。
スター商会と商業ギルドはとても近いので、散歩といえる程の距離では無いが、それでも街中を自由に歩けることは楽しくて仕方がなかった。
クルトとセオとスター商会までの帰り道に並んでいる店を覗いたり、客層を確認したりして楽しく散歩した。
ウエルス商会の事が気になったがそちらには行かなかった。道路を挟んだ反対道りにあるので、帰り道ではなくなってしまうので当然なのだが、セリカの事が有ったので、今は出来るだけ近づかないようにしていると言った方が良いだろう。
そうこうしているうちにスター商会が見えてきた。
夕暮れ時とあってスターベアー・ベーカリーには多くの人が並んでいた。護衛達がそれを慣れた手つきで整理し、丁寧に対応していた。試食も配っている様だ。
アーロンと目が合ったので手を振ると笑顔で振り返してくれた。忙しそうだが良い笑顔だ。何だか私まで嬉しくなった。
スター商会の入口が見えてくると、私と同い年ぐらいの男の子が門の前に居るのが分かった。ヨナタンの時みたいにジッとフクロウ君を見つめている。
もしかして魔道具に興味があるのだろうか? いや魔獣好きな可能性もある。
その男の子に興味が湧いたので声を掛けて見ることにした。
「こんにちはー、貴方は魔獣が好きなの?」
ぼーっとフクロウ君を眺めていた少年は、声を掛けられるとビクッと肩を揺らし私を見てきた。私が自分に近い子供だったからか、少しホッとした表情になり、小さく頷くとまたフクロウ君を見上げた。やっぱり気になる様だ。
「これって魔道具ですよね?」
「うん、そう、フクロウ君って名前の防犯カメラ魔道具だよ」
「ぼうはんかめら?」
「可愛いでしょう?」
「うん、可愛いですね……」
少年はとても痩せてはいるが、身だしなみはきちんとしていた。けれど服はお古なのだろうか、少し型が古い物のようだった。
受け答えからも教育がきちんとされている家の子の様に見えるので、もしかして貴族の子かなとも思ったが、こんな夕方に貴族の子が一人で街中に居るのは可笑しいだろう。
もしかして供とはぐれてしまったのかな? と考えて居たら今度は少年から声を掛けてきた。
「あの、君はこの商会の子ですか?」
「ええ、そうです。ララ・ディ……ララといいます」
少年は私の言葉を聞くと、ごくりと喉を鳴らし、ジッと私を見てきた。緊張しているのか、手をぎゅっときつく握りしめていた。
「あの、私の名前はヴァージル・アイツールベイハムエルと言います。このお店では子供も働けると聞いて参りました。私を雇って頂けないでしょうか?」
ヴァージルと名乗った少年の言葉に、私もセオもクルトも驚いたのだった。
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