第441話 星が綺麗ですね
ジュリエットがティボールドのプロポーズに乙女な表情で「はい……」と小さく呟くと、二人は益々自分たちだけの世界に入ってしまった。流石にここでキスなどされてしまっては私が居た堪れないなーと思って居ると、ティボールドは自分の魔法鞄から何かを取出し、ジュリエットに差し出した。紙の束だという事はティボールドの書いた小説だろうか? ジュリエットも小説だと分かったのだろう、ぱああっと表情がこれ以上ないほど明るく輝いた。
ううう……眩しい……美少女の笑顔眩し過ぎる……
「ジュリエット様、これは僕が君の為に書いた小説なんだー」
「……私の為に……?」
「そう、僕が愛しいジュリエット様を想って、君を主人公にした小説だよ……」
「私が主人公……」
「そう、ジュリエット様が婚姻を受けてくれたら渡そうって思って居たんだ……ダメにならなくって良かったよー」
「ダメになんて、そんな……私はずっとルド様の事を……」
「フフフ……有難う、嬉しいよ。最初は僕は君の事を妹の様に感じていたよ。でも一生懸命で頑張り屋な君の姿を見ていると胸が締め付けられるような気持ちになってね、これが恋だって気が付いたんだ……ジュリエット様と心が通じ合えてとても嬉しいよー」
「私も……私もです……私は始めからルド様には憧れておりました……ですがずっと優しく教えて下さるルド様の側にいて、ずっとこうして居られたらってそう望むようになって……」
「ジュリエット様、嬉しいよ。僕は君と毎日一緒に過ごしながら『星が綺麗だね』って言い合えるようなそんな関係になりたいんだ。ずっと僕のそばに居てくれるかい?」
「はい、私もルド様と夜空を見上げていつまでも美しさを語り合いたいです……」
「ジュリエット様……」
「どうかジュリーとお呼び下さい……」
「僕だけのお姫様……ジュリー」
「ルド様……」
ゴホンッ!
と私が咳き込めば、二人は私が居ることを思いだしてくれたのか繋いでいた手をサッと離し、やっとここがどこかを思いだしたようだった。私も魔法で出来るだけ存在を消していたのもいけなかったが、流石にこれ以上は見てはいけない気がした。
ジュリエットは恥ずかしさで顔が真っ赤だが、ティボールドはどこ吹く風の様だ。クスクスと笑いながら「ララちゃん見せ付けちゃってごめんねー」と悪びれることなく言ってきた。まあ幸せそうなので私としては何も言うことは有りませんが……ティボールドは手が早そうで違う意味で心配だ。大丈夫だとは思うけれどね。
二人の意思が固まったところで、私を置いて逃げ出したクルト達を呼び出した。
この国のお姫様であるジュリエットの婚姻だ。勝手に決める訳にはいかないだろう。その事はティボールドもジュリエットも良く分かっている。お互いの気持ちだけでは商人の息子とお姫様が結婚できない事は理解できている様だ。ここは力強い味方を連れて王城へと出向かなければならないだろう。私はクルトにお願いをしてアダルヘルムを呼んできてもらう事にした。アダルヘルムならばいい案が浮かぶことは間違いないだろう。
アダルヘルムはすぐにスター商会の私の執務室へとやってきてくれた。
そしてティボールドとジュリエットの婚約の話と、ジュリエットをスター商会の小説家として雇入れたい話を伝えると、アダルヘルムは「分かりました」と頷き直ぐに行動に出た。
「先ずはリアム様に話しましょう」
アダルヘルムにそう言われ、皆でリアムの執務室へと向かった。
何の前触れもなく突然アダルヘルムが執務室へとやって来たからか、リアムは口を開けて驚いている。アダルヘルムの後ろにティボールドとジュリエットが居たことで、何事かと大きなクエスチョンマークがリアムの頭上に浮かんでいるのが見えた気がした。
取りあえず話があるとだけ伝えると応接室に案内してくれたが、それでもまだ何の話しかはピンと来ていない様だった。人の恋心にもリアムは疎い様だ。美男子なのに残念だ。
「え、え、え、ちょ、ちょ、ちょーっと待ってください。えっ? ルドとジュリエット様が婚約? へっ? 何でそうなった?」
「リアム、ジュリエット様もルドもずっとお互いの事が大好きだったんだよー」
まさか今まで全く気が付かなかったの? という言葉は飲み込み、驚いているリアムに二人を結婚させたい話を伝えた。リアムはティボールドが以前私と結婚するとか何とか言って居た冗談を未だに信じていたようで、話についていけずポカンとしている。そんな様子のリアムは置いておいてアダルヘルム主導の下、話はずんずん進んでいく。
先ずはアー君ことレチェンテ王であり、ジュリエットの父親に話を通すためアダルヘルムが手紙を書いてくれた。紙飛行機型の手紙を飛ばすと「きっと明日には王城に呼ばれることでしょう」と呟いた。アダルヘルムが手紙を送ればアー君はすぐに対応してくれるようだ。これまでどれだけアー君を怖がらせてきたのかがそれで分かる。アー君、気の毒に……
「そうですね、どうせ王城へ行くのならばシャーロット様の件も片付けておきたいですね。ジュリエット様、本日はシャーロット様はいらっしゃっておられませんか?」
「はい、今日は姉は王城です」
「そうですか、では本日王城へお戻りになられましたら、明日の話し合いの席にはシャーロット様もお呼びいただけるようレチェンテ王にお伝えください」
「はい、畏まりました」
「フフフ……これであちら側の思惑は潰れることでしょう……フフッ、いい気味ですね」
アダルヘルムの言って居ることはシャーロットに申し込まれている婚約の話であることは私はすぐに分かった。ウイルバート・チュトラリーの作戦なのか何なのか、シャーロットとジュリエットにはアグアニエベ国からとテネブラエ家から婚姻の申し込みが来ていた。
今ジュリエットの婚約者がティボールドに決まった事で、今度はシャーロットの婚約も決めてしまおうとしているのだろう。シャーロットは以前会った時にオクタヴィアンとマティルドゥの兄のデッドリック・シモンと良い雰囲気だった。私がその事をアダルヘルムに伝えてあるので、きっとこの二人もついでにくっつけてしまおうと思っているのだろう。明日のアー君の心が心配だ。胃薬も持っていった方が良いかもしれない。お気の毒に……
アー君からの返信はそれはそれは焦って居るかのようにすぐに飛んできた。
一時間もしていないのに紙飛行機型の手紙はアダルヘルムの元に届き、案の定明日お越しくださいとの返事だった。満足そうなアダルヘルムを見て心底アー君には同情した。きっと手紙を受け取って今頃心臓を押さえて居ることだろう。アー君の寿命が短くなったらアダルヘルムのせいかも知れない。長生きしてもらえるようポーションもプレゼントしておこう。申し訳なさすぎるからね。
「まあ、ディープウッズ家とレチェンテ国は遠い親戚になりますし、その姫様であるララ様の店の従業員との婚姻となればレチェンテ王も文句は無いとは思いますが……フフフッ、もしご練る様ならば、最後は私がどうにでもして見せましょう」
「ディープウッズ家はレチェンテ国と親戚なんですねー」
怖い言葉には突っ込まず、取りあえず親戚という言葉に反応しておく、アダルヘルムは頷くと、レチェンテ国の王子と私の曾おばあ様が結婚した話を教えてくれた。ディープウッズ家とでは無いけれど、私の中にはレチェンテ国の王族の血も流れている様だ。遠い昔のお話のようであまりピンとはこ無いけれどね。
という訳で、次の日がやって来た。
ティボールドは勿論の事、弟であるリアムも一緒に王城へと向かう。
後は私とアダルヘルム、それにセオとクルト、後はウエルス兄弟の護衛のジュリアンとディエゴだ。ティボールドは鼻歌を歌いたくなるほどご機嫌な様子だが、リアムはまだ状況についていけて居ないのか眉間に皺が寄っている。いい加減納得してもよさそうな物なのにね。
馬車の中でリアムがそっと私に話しかけて来た。勿論ティボールドとジュリエットの事だ。何時から二人は両想いだったのか、そして私の事はどうなっているのか、とティボールド本人に聞けば良いことを何故か私に聞いてきた。リアムはもう少し乙女に対する態度を考えた方が良いかもしれな。まあ私の事を恋敵だと思って居たころの事を考えるとリアムもだいぶ成長したようにも思えるけどね。
「だから、二人で小説について話し合っているうちに愛が芽生えたんだと思うよ……」
「でもさ……ルドはいつも通りだっただろ? まったくジュリエット様の前でも変わらなかったじゃねーか……」
「だからそれが愛なんでしょう、ジュリエット様はお姫様なんだもの……」
「意味分かんねーよ」
ひそひそとリアムとそんな話をして居たが、リアムはきっとやっと仲良くなれた兄を取られそうで焼きもちを焼いているのだろう。私にもノアやセオがいるから分かる。だけどリアムはいい大人だ、そろそろ現実を見てティボールドの恋を応援してあげても良いと思う。まだおめでとうもリアムは言って居ない様な気がするものね。
リアムとそんな内緒話をしているうちに、かぼちゃの馬車はあっと言う間に王城へと到着した。
入口ではアー君だけでなく、王妃様に第二妃様、それにジュリエット、シャーロット、それからレオナルド達魔石バイク隊の皆迄そろって出迎えてくれた。アダルヘルムの声掛けはそれだけ効力があるという事だろう。アー君はスター商会に来る時よりも顔色が悪いような気がした。寝不足なのか目の下には隈がある様にも見える。アダルヘルムは一体どんな手紙を昨日送ったのだろうか……気になるところだ。
応接室に案内されながらレオナルド達と話をした。
セオも一緒に会話に入り最近の近況報告会のような状態になった。魔石バイク隊はいまやレチェンテ国には欠かせない物になっているようで、領民たちからも人気が高い様だ。
「ララ様は先日ブルージェ領の領主邸に行かれたそうですね。トマスは元気そうでしたか?」
「はい、元気でしたよ。今度レオナルドも私と一緒にお出掛けしますか?」
「い、一緒にですか?」
「はい、ブルージェ領の街中はとっても活気があって、お祭りの時期なんかはとても楽しいですよ。どうですか? 一緒に行きませんか?」
「は、はい! 是非一緒に行きましょう」
「良かった。じゃあ皆と予定を会わせないといけませんね、トマスとコロンブにも声を掛けて、ふふ、楽しみですね」
「……皆とですか……」
レオナルドは急にガックリと肩を落としていたがアレッシオにポンポンと背中を叩かれると、苦笑いを浮かべていた。二人は従弟同士なのでなにやら通じ合えるものがある様だ。
そして応接室に着くと皆席に着き話し合いが始まった。レオナルド達魔石バイク隊は仕事がある為ここでお別れだったが、ブルージェ領のお祭りに来る約束をしたのでまた会えるだろう。楽しみだ。
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