第380話 ギルド長スター商会への旅②

 リアムに 「何処から見たい?」 と尋ねられたルイスは 「全部だ!」 と気合いが入った様な返事を返していた。

 では、と言う事で先ずは昼時を迎えて混み合っているであろうスターベアー・ベーカリーに向かう事にした。

 店の外に出て、スターベアー・ベーカリーの入口へと向かう。辺りには良い香りと人々が話す賑やかな声が聞こえて来た。店に近づくと行列が見え始め、ルイスからの質問が飛んだ。


「いっつもこんなに混んでるのかぁ?」


 リアムは残念なニヤニヤ顔でそれに答える。

 同級生のルイスを揶揄ったり自慢したい気持ちは分かるのだけれど、あんまりニヤケてばかりだとせっかくの美男子ぶりが残念な気がした。後で後ろに付き添っているガレスからでも注意して貰おう。セオに見られる事はもう諦めるとして、リアムはそれでなくてもスター商会の副会頭として有名人な為この街では注目を浴びている、これ以上幻滅される様な顔は止めた方がいいだろう。


「店の混み具合はいつも通りだ。朝と昼時と夕方前は客には申し訳ないが、どうしても行列になっちまう、二号店の方も同じだな、この辺りは働く者が多いが、二号店は団地の住人が買いに来る、やっぱり立地に恵まれているという事もあるとは思う」


 スターベアー・ベーカリーを見つめながら話を聞いていたルイスは二号店もあり、そして同じ様に混んでいる話を聞いて驚いていた。そしてハッとするとリアムに問いかけた。


「この場所も特殊な土地だったのか?」

「特殊と言うか、お化け屋敷って言われていた、はた迷惑で放置されていた屋敷が建っていたんだ、それをララが気に入って買い上げた。まあ、想像がつくだろう?」


 ルイスもナシオも私をチラッと見ると、頷いていた。王都ではゴミ置き場の土地を購入したので、すぐに納得出来た様だった。別にそう言った土地を好んでいる訳では無いけれど、進められて気に入ったのでしょうがないと思う。それに本当に良い立地だったのだから。


 店に入りたそうだったルイスに今は混んでいるから後でと話し、リアムはスター・リュミエール・リストランテの入口の方へそのまま歩いて行った。こちらは予約制の為行列は無い、ただし店内からの賑やかな声と食欲をそそる香りは漂っている。ルイスとナシオはゴクリと喉を鳴らしながら店内を見ていた。


「このレストランは予約が取れないって王都でも有名だ。俺も申し込もうと思ったがダメだった……」


 ルイスがしょんぼりとした様子で話してくれた。

 そう、スター・リュミエール・リストランテは相変わらずの人気で一年先まで予約がいっぱいだ。ブルージェ領の商業ギルドになんとかしてくれと連絡が入るぐらいなのだ。その為、2階部分に有った空き部屋を改装し、店内に入れる客数を増やしてみたのだけれど、それでもやっぱりずっと混んでいる。なので王都店だけでなく本当はブルージェ領内にも二号店が欲しいぐらいだ。ただし任せられる料理人がまだ育って居ないと言う理由もある、あと、数年すれば可能だとは思うのだけど……


「ルイスさん、スター商会の寮の食堂ではスター・リュミエール・リストランテで出ている料理と同じものが食べられますから、後で一緒に食べましょうね」

「マジかっ?! 本当にっ?! ハッハー! ララ様最高だなー! ありがとう! 宜しくでーす!」


 スター・リュミエール・リストランテと同じ食事が食べられると聞いて、しょんぼりしていたルイスは復活した。ナシオも心なしか嬉しそうに見える。やっぱり美味しい食べ物には皆惹かれる様だ。これで味を気に入って貰えれば、尚更スター商会に興味を持ってもらえるだろう。こちらとしては願ったり叶ったりだ。


 そしてそのままスター・ブティック・ペコラへと外から向かう、こちらは平日の昼時はそれ程込んではいない、だからといってひまな訳では無いが、セールの時期に比べれば今は穏やかだろう。後は卒業、入学などの大きな催しものがある時期も混んでいる、今は丁度どれにも当てはまらない時期だ。まあエステは通常通り予約一杯だけれど。


「少し店内を覗いて見ますか?」

「おう、是非見たいぜっ」


 大人数では流石にお客様の邪魔になるので、私とリアムとルイスとナシオだけがスター・ブティック・ペコラに入ることになった。セオとクルトとジュリアンとガレスはスター・ブティック・ペコラの休憩室に先に行ってもらって待機していてもらう。私達は店内を見たら裏口から休憩室の方に回る予定だ。クルトが少し不安げだったけれど、リアムが任せろとでも言うようにウインクしていた。クルトの心配性はかなり重症になっている気がする、私のお転婆なせいでは無くウイルバート・チュトラリーのせいだと思いたい……


 店内に入ると、ルイスとナシオは飾られている洋服や化粧品、装飾品など、ここぞとばかりにじっくりと店内を回ってみていた。ディスプレイには灯りを使い商品が目立つようにしてあるので、それにも驚きを隠せないようだった。

 それに所々に高価な鏡があり、客が商品を自分に合わせチェック出来ることにも驚いていた。前世では当たり前のことがここでは斬新に映るらしい。だけどブルージェ領内では既に常識になり始めては要るんだけれどね。


 エステコーナーは予約客で混雑しているので、そこは王都の店が開店するときに見学してもらう事にして、私達はセオ達が待っているスター・ブティック・ペコラの休憩室へと向かった。クルトは私達が無事に部屋にやって来ると明らかにホッとしていたようだった。少し離れただけなのにとても心配を掛けてしまった様だ。セオも一緒に離れていたという事が尚更不安だったのかもしれない、決して日頃の私の行いのせいでは無いと思う、目覚めてからは大人しい大人の女性に向かっているはずなのだから。


「それじゃあ、そろそろお昼にしましょうか? もう昼時はとっくに過ぎてますからね」


 スター・ブティック・ペコラをかなりの時間を掛けて見ていたので、お昼はとっくに過ぎてしまっていた。寮の食堂も今の時間なら空いているだろう。皆で寮へと向かって居ると、子熊のアリーとオリーとすれ違った。二体が(いらっしゃいませ)と言って頭を下げて通り過ぎると、ルイスとナシオは口を開けて立ち止まってしまった。

 スター・ブティック・ペコラにも魔道具のアルパカ君のグラとベルが居たと思うのだが、気が付かなかったのだろうか? そう言えばあの子達は壁際で大人しくしていたので人形に見えていたかもしれない、それかルイスとナシオが商品にしか目が言って居なかった可能性もあるけれど、会話をしなかったので気が付かなかったのだろう。


「おい、リアム、今のはなんだ! 魔道具か?」

「ああ、そうだ、ウチの従業員の子熊だ。良く働くいい子達だぞ」

「いやいやいや、そんな簡単なことじゃなくって……ハッ! まさかさっきの店に居た白と黒の魔獣の人形も……」

「そうだ、ララが作った魔道具だぞ」

「……ララ姫様、失礼ですが、茶色い鳥の形の人形もございましたが……、まさかあちらも魔道具でございますか?」


 どうやらルイスもナシオもフクロウ君たちやアルパカ君たちに気が付いてはいたようだ。だけどそれが魔道具だとまでは気が付かなかった様だった。私が頷くと二人はまた目をパチパチ……いや、ガチガチさせていた。


 (だから怖いって! 口も開きっぱなしだし!)


「アルパカ君たちと子熊達は普通の従業員型魔道具ですが、フクロウ君達は防犯カメラ型の魔道具です。以前困ったお客様がスター商会にいらしたので防犯の為に作ったんですよ、今度王都の商業ギルド用の子も準備しますね」

「絶対に欲しい! あ、あの熊は売り物じゃないのか?」

「あの子達は残念ですが従業員なので売り物ではありません、魔力もかなり使う物なので、お客様の多く入るスター商会だからこそ使える魔道具なんです」

「そうなのかぁ……」


 ルイスはガックリと肩を落としてしまった。

 人が多く来る商業ギルドならばあの子達と同じような魔道具は置くことが出来るかもしれないが、それを盗もうとする人が出てきても嫌なので、止めておいた方がいいだろう。セオやアダルヘルム並みに強いアディとセディをまた作れる訳では無いのだから。

 なのでフクロウ君だけは作る約束をしてルイスを励ました。それにこれから食事でしょう? と伝えると元気を取り戻したようだった。子供のようだ。


 寮の食堂に着き、ルイスとナシオにメニュー表を見せた、その中から好きな物を選んでキッチンのカウンターでマティから食事を受取る事を説明した。彼等は今度はメニューに驚いたようだった。


「あ、あのさ……ララ姫様お嬢様よー、なんか……考えられないメニューが載ってんだけど……」

「そうですか? どれでしょうか?」

「このモデストの蒲焼って……あの魔獣のモデストか? それに大豚のメニューもかなりあるが……」

「ああ、本当ですよ、どれもまだ沢山ありますから、何でしたら気になる物全部食べて頂いても大丈夫ですよ」

「いや、そうじゃなくってさ……どれも幻の魔獣だろ? 本物なのか?」

「そうなんですよ、ルイスさん物知りですね、ディープウッズの森でたまたま見つけたんです」

「……たまたまなんて……そんな事あんのかよ……」


 ルイスは何かを呟きながらも、メニューだけからは目を離さなかった。お酒にも興味があったようだけれど、仕事中という事で食事だけを選んでいた。だけど食べたいものが沢山あったようで、ナシオとどれにするかすごく悩んだ末に、ルイスが大豚のカツ丼、ナシオがモデストの蒲焼にしていた。お腹に余裕があれば別の物も食べたいそうだが、デザートのアイスも気になる様で、そっちも食べたいと悩んでいた。女性の様に別腹とは行かないのかもしれない。


 満足する食事を楽しんだ後は、またリアムの応接室へと戻ることになった。

 するとルイスとナシオの商品が出来たらしく、ビルが応接室に来ていた。そして出来立ての数種類の商品をテーブルに並べてくれた。


「右三つがルイス様の香水の試作品です、そして左三つがナシオ様の試作品です、どうぞ手に取って試してみてください」


 ルイスの香水はやはり爽やかな香りの物が三つだった。どれもルイスは気に入ったようだったが、その中からミントが入ったようなさっぱりとした香りの物を選んでいた。作り直ししなくても満足してもらえたようだ。ナシオはどれも自分には勿体ないとは言って居たが、その中から少しフルーティな香りの物を選んでいた。ナシオも満足してもらえたようで、良かった。


「入れ物の形はどれがお好きでしょうか? 勿論別の形も作れますので意見を仰ってください」

「俺はこれだな」


 ルイスは長ぼそい淡い青色の入れ物を選んだ、蓋の部分は金色だ。何だかルイスその物のようだった。そしてナシオは真四角の淡い黄色の様な瓶を選んだ。香りもそうだったが意外と可愛い色合いのものが好きなのかもしれない、見た目とは違って面白かった。


「フッフッフッ、これで開店の目玉商品がまた増えましたねー」

「また?」

「はい、女性用の目玉はシャーロット様とジュリエット様をイメージした商品です。かなりの注目を集めると思います」


 ニヤリと笑って答えると、ルイスとナシオは座ったまま頭を抱えてしまった。

「この国の姫様じゃねーか……」と呟いて……


 こうしてギルド長の訪問は賑やかに楽しく終わったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る