第353話 新入社員
今私はスター商会に来て居る。
今年新たに迎えることになったスター商会の新人護衛の方たちに挨拶をする為だ。
新しいメンバーは三人で、いずれもセオの知り合いらしい。ニール達星の牙の皆と同じ、ユルデンブルク領民騎士学校出身の青年達らしいのだが、セオとルイが学校交流会に行った時に知り合った子達らしく、皆いい子のようだ。
学校に入学した事でセオにもルイにも私の知らない沢山の友人が出来た様で、私が寝ている間も学校生活を満喫して居たのだろうと思うと、母親代わりとしてはやっぱり嬉しさが込み上げるのだった。
セオとクルトと私の執務室で待って居ると、護衛のリーダーであるメルキオールが新人三人を連れてやって来た。三人ともとても緊張している様で、手足を揃えて歩いていて歩き辛そうだ。セオは口元を押さえて笑いを堪えている様だった。きっと本来は元気いっぱいの青年達なのだろう。
「会頭、新人を連れて参りました。宜しくお願いします」
「はい、メルメル……ゴホンッ、リーダー、畏まりました。三人ともお座り下さい。お互いに自己紹介しながら少しお話ししましょう」
「「「は、はい!! 宜しくお願いします!!」」」
三人が席に着くと、クルトがお茶とお菓子を出してくれた。どうぞと勧めると、三人は震えながらお茶を飲み始めた。義務的に口元にカップを持っていって居るだけで味など感じて居ない様子に、なんだか可愛いく見えた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。私は会頭のララ・ディープウッズです。セオとルイと仲良くして下さっているそうですね、ありがとうございます」
「い、いえ、兄貴達には俺達の方がお世話になりっぱなしで」
「そ、そうです。アニキ達の居た時期の学校は最高でした」
「兄貴達のお陰でここの試験にも合格できたんです」
三人とも目をキラキラさせてセオを見ている、憧れというよりも恋する乙女の様だ。クルトとメルキオールが今度は口元を手で押さえて笑うのを我慢している様だった。やっぱり可愛いのだろう。
「では自己紹介をお願いしますね。趣味とか特技とかも教えて頂けると嬉しいです」
「は、はい! 俺はユルデンブルク領民騎士学校出身のアーロンです。兄貴とは交流会の時に同じクラスでした。しゅ、趣味は食べる事です。沢山食べられます!」
アーロンは一般的な茶色の髪色をした青年で、体も大きくガッチリした男の子だ。ルイと並ぶと同級生には見えないと思った。
「俺はベンです。アニキ達に出会った瞬間にコテンパンにやられました」
「えっ?」
「と、特技は水魔法です。学校のトイレが汚かった時はこーやってバシャバシャってケツを洗ってました。いつでもやるんで言って下さい」
ベンは黒髪に近い濃い目の茶髪の青年だ。少しヤンチャな男の子って感じで、今の水魔法の説明の時もお尻を少し持ち上げて手から水が出て居る様を表現してくれた。クルトとメルキオールが視線を外し笑いをどうにか誤魔化して居るのが分かった。真剣だからこそ面白いようだ。
それにしても、会った瞬間にセオとルイに倒された様な事を言って居たけど……何があったのか……良く友人になれた物だと不思議だった。
「俺はチャーリーです。料理が得意です。でも、兄貴達の作ったメシを食ったら自分はまだまだだと思いました。料理も出来る護衛になりたいっす」
チャーリーは濃い目の金髪だった。イエローブロンドと言えば良いのだろうか、そばかすが少しありちょっとだけブライスに似てるかもと思った。だけどブライスはひょろっとして居るけどチャーリーは騎士学校出なだけあってガッシリしている。学費を稼ぐ為に力仕事のアルバイトをしていた様なのでそれも影響して居るのだろ。この中で一人だけブルージェ領出身だそうで、だからこそチャーリーに就職しないかとセオとルイが声を掛けた様だった。
この三人は自分達で学費を稼ぎユルデンブルク領民騎士学校を卒業したそうだ。ニール達星の牙のメンバーも苦学生が多いけど、本当に立派だと思った。
もし私が彼らの様な家庭に転生していたならば学校は諦めていたかも知れない。そう考えると凄い努力家だと尊敬した。
三人に護衛の制服と腰に付ける護衛用の魔法鞄を渡した。
三人とも驚きを隠せない様子で目がまん丸になっていた。着替えたら武器を決めましょうと話すと、嬉しそうにしていた。年頃の男の子らしい顔に可愛いなと胸がキュンとなった。きっとこれが乙女心だと思う。
メルキオールは仕事に戻って行ったので、私とセオとクルトでスター商会の案内と、武器の選択の付き添いをすることになった。ルイはピエールと今ブルージェ領内の見回りに行って居るので、後で彼らと顔合わせをする予定だ。お昼の時になるだろう。トマスは今日は領主邸に行って居る。メイナードの護衛としての動きを今勉強中だ。戻るのは明日になるだろう。その時彼らを紹介しようと思う。
新人の三人は合馬車を使って昨日の夕方にスター商会に着いたそうだ。交通費も途中の宿泊費も出して貰えて有り難かったと教えてくれた。普通の商会はどうやら違うらしい。
受験の時もスター商会だけは交通費を出してくれたんだと、三人とも熱弁で語ってくれた。そんな店はどこにも無いのだそうだ。
武器を見るために鍛冶室に行き、セオが作った数々の剣を取り出して見た。体格的にクルトやメルキオールみたいにしっかりとした体つきをして居る彼らなので、メルキオールが使っているサイズの剣を持つ事になった。
全てセオが作った物だと教えると、益々セオに対する尊敬が高まった様だった。熱い視線で見つめられてセオは少し照れて居る様だ、セオは男の子にも人気が高い様なので、リアムが焼きもちを焼きそうで心配だった。
「スター商会の従業員の皆には昨日会ったのかしら?」
「は、はい、夕食の時に挨拶させて貰いました」
「皆優しくって良い人ばっかでした」
「ご飯が滅茶苦茶美味しかったっす」
お年頃男子三人を連れて、転移部屋へと向かう。今度は研究所へ挨拶をしに行くからだ。三人に転移をすると話すとまた緊張してゴクリと喉を鳴らしていた。
所長のビルの部屋に入ると、副所長のカイも居て三人を歓迎してくれた。ビルとカイはすっかり大人になっていて自分達より年下の三人が可愛い様だった。困った事があったらいつでも頼ってくれとビルが声を掛けると、三人とも涙目になっていた。優しいビルの言葉に感動した様だ。本当にビルは面倒見がいいと思う。研究所の問題児を統率出来るだけ有って、流石所長だと思った。
研究所の皆に挨拶を終えると寮の食堂でお昼を摂る事になった。三人ともこの時間が一番の楽しみだった様だ。
ユルデンブルク騎士学校時代はお金がなくて殆ど毎日二食か一食の生活だった様で、三色食べられる事が幸せの様だった。
皆でお昼を摂っていると、見回りを終えたルイとピエールが食堂へとやって来た。和かに手を振りながら近づいて来るとガシッとベンとチャーリーの肩を掴んだ。元気だったか? の挨拶らしい。
「ルイの兄貴! お久しぶりです!」
「よう、元気だったかー?」
「は、はい。もちろんです」
「採用になって良かったな、あ、こっちは友達のピエールだ。王城の魔石バイク隊になるんだ」
「ピエール・ドルダンです。宜しくお願いします」
ルイとピエールも食事を選び席に着くと、今後彼らもスター商会の護衛として魔石バイクの練習があるぞとルイは教えていた。
三人とも入社試験ならぬ入会試験の時に魔石バイクにちょっとだけ乗ったそうで、楽しみだと嬉しそうに笑っていた。お年頃男子はやっぱりバイクや車が好きな様だ。
今度車造りも挑戦してみようかな、皆喜びそうだ。
「あ、ルイ、シモン家から返事が来たみたいで、アダルヘルムが話が有るって言ってたよ。シモン邸にはアリナとオクタヴィアンも一緒に行くからね」
「ああ、そっか、マディの仕事が始まる前に済ましちゃうって言ってたからそれでかな、ララ様も一緒に行ってくれるんだろ?」
「勿論、大事なルイの婚約ですもの、親代わりの私が行かない訳には行かないでしょう」
「へへへっ、ララ様、有難う」
「「「えっ?」」」
アーロン、ベン、チャーリーは目をまん丸にしてルイを見た。ルイはどうした? と首を傾げている。
三人は顔を見合わせたあと、面白い事にまた声を揃えた。
「「「えっ? 婚約? えっ? ルイの兄貴が?」」」
どうやら同い年のルイが婚約した事に驚いた様だ。
ルイがそうだぞと頷き。セオがその通りと頷くのを見た後三人は、スター商会中に響きそうな大声を上げた。
「「「えーーーー!!」」」と…
その後、メルキオールにとっても怒られていた。さもありなん。
食後はスター商会の庭で他の護衛のメンバー達に混じり訓練をすることになった。新しい武器を試したかった彼らはウキウキしていたが、チラッとルイを見ては、「兄貴が先に大人になるなんて」とか「女子がいる学校ズルい」とか「出会いが欲しい」などなどと呟いていた。
確かに周りの護衛職の人を見渡して見ても……結婚しているのはピエトロぐらいだろうか? ジュリアンに至っては……だし。メルキオールは結婚もしていないのに既にニール達の父親気分だ。三人とも年頃男子だ、出会いが欲しいのも無理は無いと思った。頑張れ青年諸君!
「ララ様、今日は練習に参加はしませんか?」
メルキオールがそんなことを聞いてきた。一緒に練習したいのは山々だが、ディープウッズの屋敷で何度も結界魔道具を壊している私はうーむと悩んだ。すると新人三人が慌てだした。
「リ、リーダー、そんな、会頭みたいな可憐な少女に何言ってるんすか!」
えっ? 可憐? 私って可憐に見える?
アーロンへの好感度が10上がった。冬のボーナスはランスに言って奮発しなきゃだね!
「そうですよ、リーダー! こんな可愛らしいララ様に俺達みたいなのと一緒に練習なんて危険すぎます!」
あら、ベンってば可愛らしいだなんて、やっぱり分かる人には分かるんだね!
ベンの好感度も勿論10上がった。こちらも冬のボーナスはランスに言って奮発しなきゃだね!
「リーダーは鬼っすか? ララ様みたいなか弱い女性を練習に誘うなんて、危ないじゃないですか!」
ほほう! チャーリー、良く分かってるね、そうなのよ、私二年も寝ていたか弱い少女なのよ、うんうん良く見てるね、いい子だね。
チャーリーへの好感度も10上がった。冬のボーナスはランスに言って奮発しなきゃだね!
「ハッハッハッ! お前達何言ってんだ、ララ様の外面に騙されんなよー」
「「「えっ?」」」
「ララ様はこんななりしてるけど、俺より数段強いんだぞ」
「「「へええっ?」」」
メルキオールの言葉を聞いて、何故かアーロン、ベン、チャーリーが一歩後退った。動揺が顔に出て居る……うん……メルメル少し黙ろうか、私のイメージが崩れちゃうでしょ……こんなって、なんでしょう……
「セオ様と互角に戦えるし、それにパワーに至ってはこの国、いや世界中探してもララ様に勝てる奴はいないんじゃないか? なんてたって歩く破壊兵器だからな!」
ハッハッハッと笑うメルキオールの手を引っ張ると、私は笑顔で練習参加を申し出た。
勿論組手のお相手はメルキオール。ええ、存分に歩く破壊兵器を味わって頂きましょう。フフフ……
この後新入社員三人はララには絶対に逆らわない事を決めたのだった。
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