第348話 ユルデンブルク騎士学校の卒業パーティー②
ダンスを一通り楽しんだ私達は、窓辺に設置された談笑スペースへと行き、そこで会話を楽しむことにした。
ルイはマティルドゥを連れてテラスへと行き、アデルとトマスはもう少しダンスを愉しむようだ。
今丁度ゆったりとした曲が掛かっているので、恋人同士にはいい雰囲気になるグッタイミングだろう。トマスとアデルは自分たちは友人関係だと言っていたけれど、他のメンバーはその言い訳を生温かい目で見ながら頷いていた。
両想いなのは傍から見ればバレバレの二人であった為、照れ隠しの可愛い言い訳にしか聞こえない様だった。
コロンブ兄妹はピエール達と一緒に軽食を取りに行った。動いたのでお腹もすいたし、喉も乾いたようだ。私達の分まで持ってきてくれると言うので、私達はその言葉に甘えて座って待つことにした。
そう言えばお昼を食べた後は、忙し過ぎて何も飲み食いしていない事に気が付いた。そう思った瞬間急にお腹が空いてきた気がして、お腹が鳴らない様にと内心ドキドキしていた。
賑やかな場所なのでもしも鳴ってしまっても、皆には聞こえることは無いと思うけれど、乙女としては流石に恥ずかしさがあった。
「ララ姫……その……今日のドレスは良く似合っていますね?」
レオナルドが頬を赤らめてまで、私の事を気を遣って褒めてくれた。レオナルドのお姉様方に比べたら大豚とレッカー鳥ぐらいの女性としての差があるのだけれど、そこはやっぱり恥ずかしがり屋さんとは言え王子様だ、女性を喜ばせる言葉は忘れない様だ。友人としての優しさなのは分かってはいたが、それでもその気遣いがとっても嬉しい私だった。
「レオ、有難う。いつも通りララで大丈夫ですよ。レオは今日もとっても素敵です。やっぱり本物の王子様は違いますね」
私の言葉を聞いてレオナルドは益々赤くなってしまった。照れ屋さんで可愛い物である。
でも王族としてはこんなに感情を顔に出しては駄目なのか、アレッシオもレオナルドの姉妹であるシャーロットとジュリエットも同じ様に残念な表情を浮かべ、ため息をついていた。
レオナルドはもう少し気持ちを抑える事が必要な様だ。私の精神修行と同じ様な気がして、何だか仲間意識が湧いたのだった。
レオナルド、お互いに頑張ろうね。良い本見つけたら届けるからね!
コロンブ達が食事を持って来てくれたので、皆で味わう事になった。
残念ながらスター商会の食事の方が美味しかったが、お腹が空いていた私からしたらとっても美味しく感じた。流石にお腹いっぱいまでは食べなかったが、すぐにダンスはしたく無いなと思うぐらいは食べてしまった。
でもシャーロットとジュリエットは目の前で皆が美味しそうに食事を摂っていても、飲み物を少しだけ飲んだだけで終わらせてしまった。パーティーでの飲み食いは貴族女性にはご法度の様だ。ウエストを細く見せるためにコルセットをキツくしめているからかも知れないが、それでこのダイナマイトボディを維持しているのかと思うと只々感嘆するしか無かった。
「ララ姫様の美しさの秘密は何なのかしら?」
私よりも数千倍も魅力的なシャーロットが私の顔をジッと見つめながら聴いて来た。ニカノールに美人さんに仕上げて貰ったからと言うのも有るかも知れないが、多分実験で使う美顔魔道具のせいもあると思う。
どうせなので王家の方たちにスター商会の宣伝をする事にした。いずれはユルデンブルク王都に店を持つ気でいるので、丁度良いだろう。しめしめである。
「シャーロット様、ジュリエット様、私はスター商会という店の会頭なんですけれど、その店にはスター・ブティック・ペコラと言って衣類販売とエステ……えーっと、美容のお店があるのです、ですからそのせいかも知れません」
「まあ! 美容の?」
「素敵ですわ! でもブルージュ領ですのよね?」
流石がお姫様が気軽にブルージュ領まで遊びに行くとは行かない様で、シャーロットもジュリエットも明らかにしょんぼりとなってしまった。
今度はレオナルドがそんな二人の姉妹に向けて苦笑いを浮かべていた。
私は美容に興味がある二人にどうにかしてエステを受けさせられ無いかなぁーと、うーむと考え込んで見た。そこで妙案が浮かびポンと手を叩くと、シャーロットとジュリエットは扇子を広げふふふと美しく笑っていた。淑女の見本の様だった。
「レオ、魔石バイクの受け渡しはいつにしますか?」
「あ、はい、出来るだけ早めが良いです。隊長任命式までに練習をしたいので」
アレッシオもピエールもレオナルドの言葉にうんうんと頷居ている。外出許可日に王都の屋敷で訓練はしていたが、それも数回だ。まだまだ練習し足りないのだろう。まあ、ベアリン達のあの曲芸並みの乗りこなしや、セオやルイの上手さを目の前で見れば、焦る気持ちも分かる気がした。
皆真面目なので、きっと毎日練習したいのだろう。
王家とスター商会との契約手続きが必要で無ければ、今すぐ渡して上げたいぐらいなのだけれど……
「では、スター商会の副会頭と相談して連絡しますね。レチェンテ王に直接連絡して良いのかしら?」
「ええ、父も喜ぶでしょう」
じゃあレチェンテ王とお友達っぽいアダルヘルムに連絡して貰おうかな、その方が王様も喜ぶよね。
「それで、日程が決まって王城に伺う際に、シャーロット様とジュリエット様に私がエステをさせて頂きたいのですけれど如何でしょうか?」
「まあ! 宜しいのですの?」
「ララ姫様はレオ兄様が仰る通り、何でも出来るのですわねー」
お姫様二人は目をまん丸にして驚いた後、嬉しそうに微笑んでくれた。もうすっかり扇子は閉じて居て、話に夢中になって居た様だ。その姿は年相応に見えて可愛らしかった。
王城へ行く話を終えると頬をピンク色に染めながらレオナルドが私にダンスを申し込んでくれた。
照れ屋ながらも私と仲良くしてくれようとしている事に嬉しくなった。セオに断りを入れレオナルドとダンスをする為に会場の中央まで向かった。
女の子達が私の事を羨ましげに見ていた、きっとレオナルドと踊りたいのだろう、自分から声を掛ける勇気はない様だ。まあ、お姉様二人がとても美しいので、声をかけ辛いと言う理由も有るのかも知れない。比べてしまう気持ちは私にも良く分かった。
レオナルドの身長はセオと変わらないぐらいなので、私が相手では踊り辛いのでは? と思ったけれど、皆で交代しながら踊った時も思ったが、レオナルドはとってもリードが上手だった。凄く丁寧に誘導して貰えている気がした。
やっぱり王子と言うのは細かい所まで教育されているんだなぁと、大変さも感じた。小さな頃から沢山の事を厳しく学んだからこそ、レオナルドはお兄さんの為に自分が身に付けた力を発揮したくなったのだろう。本当にいい子だなとそう思った。
ダンスを終え、皆の下へと戻ろうとした所でレオナルドに手を引かれた。少し二人で話がしたいとの事だったので、ちょっとだけテラスに行く事にした。
レオナルドがウェイターからサッと飲み物を取ると渡してくれた。ちょっとした事がスマートでカッコいい。成人仕立てでこんな事が出来るなんて、この世界の15歳って凄いなーと感心した私だった。
テラスで夜風にあたると、ダンスをした後の体には丁度よかった。レオナルドは寒く無いですか? と心配気に聞いてくれたけれど、心地良いと伝えた。
レオナルドは軽く微笑んでからグラスに入った飲み物を一気に飲み干すと、私の方へと体を向けてきた。
グラスの中身が私に合わせてジュースだったから良かったけれど、王子らしく振舞っているレオナルドが一気飲みなんてどうしたのかな? と思っていたら、照れ屋さんらしい顔をして話し出した。
「ララ姫……いえ、ララ……私は辛く苦しい時、貴女の言葉に救われました……」
「私の言葉? ですか?」
真剣な表情で頷くレオナルドを見て、はてさて私は何かレオナルドを助ける様な言葉言ったかな? と首を傾げた。
私の気持ちを読み取ってか、レオナルドは頷くと続けて話した。
「ララは何気なく言った言葉だったのかも知れない……でも誰にでも失敗し間違える事はあると言って貰えて……私は心が救われたのです……」
「レオ……」
ニッコリと微笑むレオナルドを見て、王子教育が如何に大変だったのかと不憫になった。失敗をしては行けないなんて人には無理な事だ。誰だって失敗があるから成長出来るのに……
レオナルドはきっと小さな頃から優秀だったのだろう、それが周りも、そして自分も出来て当然と思ってしまったのかも知れない、初めて失敗した時はきっと辛かっただろうなと、胸が痛んだ。王子として立場が高いレオナルドにとっての失敗は、大きな物になってしまうだろうから……
「今日、ララにお礼を言わせて欲しいと……セオにお願いしていたのです」
「セオに?」
驚く私にレオナルドは「セオが貴女のパートナーですからね」と言ってクスリと笑った。
パートナーがいる相手をこうやって連れ出すのには許可が必要と言うわけだ。レオナルドは真面目で紳士なのが良く分かった。だから尚更失敗した時は辛かっただろうなとそう思った。
「ララ、ララを抱きしめても宜しいですか?」
「ええ、勿論です。レオナルドは友人ですからハグしましょう」
さあ、どんと来い! と両手を広げてレオナルドにアピールすると、レオナルドはクスリと笑い、そっと私を抱きしめた。それはとても優しい抱きしめ方で、私の事を友人として大切に思ってくれている事が良く分かる物だった。
「私の愛しい人……」
レオナルドが何かを小さく呟いたが、私には良く聞き取れなかった。もしかしたらまたお礼を言われたのかも知れないなと思い。レオナルドの腕から離れると笑顔でお礼を言った。
「レオ、私からもお礼を言わせて下さい。セオとルイと、そして私とも仲良くして下さって有難うございます。貴方が友人で心強いです」
レオナルドは嬉しそうにハハッと声を出して笑った。
緑色の瞳がユラユラと揺れて居るのが分かって、もしかしたら泣きそうなのかなと思って、気が付かないふりをした。
恥ずかしがり屋さんのレオナルドの事だ。自分より幼い女の子の前では涙を流さないだろう。そう思ってテラスから見える夜景にそっと目を向けた私なのだった。
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