第338話 森へのお出掛け

 今日は待ちに待った森へのお出掛けの日だ。

 私は朝からワクワクしていた。


 ココとキキとお揃いの緑色のリボンをアリナに付けて貰い、動きやすい服に着替えれば準備万端だ。

 お昼も森の中で摂る予定でいるので、今日は沢山森での遊びを楽しむつもりでいた。


 今日森へ一緒に行くのは、ココ、キキ、ベアリン、バーニー、ファルケ、ハーン、カシュそしてマトヴィルだ。

 マトヴィルはずっとココの背中に乗る事を楽しみにしていたようだったが、主である私より先に乗るわけにはいかないと、私が眠っている間ずっと我慢してくれていたようだ。有難いものである。


 ディープウッズ家の裏庭に向かうとココが既に待機して待っていてくれた。

 ココも楽しみだったのか私達が来たことに気が付くとぴょんぴょんと飛んで喜んでいた。でも体が大きくなっているのでココが飛び跳ねるたび砂埃が起きて、咳き込みそうになったが、それでもココの成長が分かって嬉しかった。


 私が乗れる様にとココが頭を下げてくれた。

 マトヴィルが私を抱えてココに乗り、首の近くまで行くとココの頑丈になった毛を掴んだ。

 ココは痛く無いかなぁ? と心配になったが、すっかり逞しく漢らしく(女の子だけど……)なったココには背中に乗られる事も、毛を掴まれる事も痛くも痒くも無いようだった。流石銀蜘蛛、力強い。


 私達がココに乗り込むと、ベアリン達も大好きな魔石バイクに乗り込んだ。小さな虫が目に入らない様にと私が作ったサングラスを掛けると、まるで暴走族の様だった。


 ちょっとこの風態でブルージェ領内を魔石バイクに乗って走り回っていたのかと思うと、怖がられて居なかっただろうかと心配になった……

 まあ、メルキオール達星の牙のメンバーや、ブルージェ領内の警備隊員達も一緒だったはずだから大丈夫だとは思うが……目立って居た事は確実だろう……

 ちょっと服装だけでも可愛いく見える様にしようかなぁーと思ってしまった。


 オルガやアリナが窓辺から手を振って見送ってくれる中、私達は出発をした。


 ココの背中の上は、思っていた以上に乗り心地が良かった。

 ココが上手に魔法で私達を包み込んでくれている様で、かぼちゃの馬車に負けないくらいの乗り心地なのに、自由無人に動きまくれるココは最強と言えるだろ。

 ココは自分の糸を使い、木から木へと飛び移り、魔石バイクに負けないスピードで飛んでいく。

 遊園地の遊具の様であり、最高の乗り心地でもあり、そしてとっても可愛いくもあり、ココが最強の魔獣と言われる事がよく分かる物だった。


「ララの姉貴ー、見てくだせーい!」


 声を掛けられ魔石バイクに乗っているバーニーの方へと顔を向けると、何と逆立ちしてバイクに乗っていた! 私が寝ている間に曲芸が出来るようになっていた様だ。


「バーニー! 凄い! カッコいい! 素敵!」


 バーニーは魔石バイクの上で逆立ちしながら私に手を振った。凄い凄いと褒めたのがいけなかったのか、他のメンバー達にも火がついてしまった。

 皆褒められたバーニーに負けられないと闘志を燃やしだした。


「ララ様! 俺はこんな事が出来ますぜ!」


 ファルケが魔石バイク自体を逆さにして走らせている、座席を足で挟んで自分の体が落ちない様にしている様だ。

 ファルケが真面目な顔で面白いことをやるので笑いが込み上げてきた。マトヴィルも笑っていて嬉しそうだ。


「ララのアネキー! 俺も俺もー!」


 ハーンが魔石バイクの上で短剣数本を使ってお手玉を始めたので、思わず私とマトヴィルは拍手をした。何故ならバイクは片足をハンドルに掛けて運転しているからだ。前をちゃんと見てるのか心配になるが、ハーンは慣れた物だった。


「ララの姉貴、俺だって出来るでやんすよ!」


 カシュが魔石バイクの上でバク転を披露した。私とマトヴィルはまた拍手を贈り、「おー!」と歓声も上げた。カシュは拍手を貰えて満足そうだ。ドヤ顔をしながら指で鼻を啜って居た。


 獣人族の血が入っているからか、彼らの身体能力は凄い物がある様だ。セオやルイならともかく、他の人達に彼らと同じ事をやれと言っても無理だろう。まあ、無鉄砲だから出来るのかも知れないが……


「フッフッフ、お前らまだまだだなー。ララ様! 最後は俺ですぜ!」


 ベアリンは「うおー!」と叫びながら魔石バイクからジャンプした。すると魔石バイクはベアリンを追いかける様に自動で動き出した。離れていてもベアリンの魔力で魔石バイクを操っている様だ。

 そして間も無くベアリンが地面に落ちるという所で、魔石バイクがベアリンをサッと救い上げ、また上空に戻って来た。

 これには私とマトヴィルだけでなく仲間のバーニー達までも大拍手だ。キキも私の肩で喜んでいる。飛べる仲間としてベアリンの急降下がカッコ良く見えたのかもしれない。


「ベアリン、凄いですね! 離れても魔石バイクを操れる人なんて初めて見ました! 素晴らしいです!」

「へへへっ、ララ様に褒められると照れちまいますねー。実は習得するまでに何度も失敗してココに助けて貰ったんですよ」

「ココに?」

「そうです。失敗して落ちるところを何度も糸でココに助けてもらいました。そのうち地面近くに前もって糸で網を張ってくれて、練習場所を作ってくれたんです。だから魔法が苦手な俺がこんな事を出来るようになったのも、全部ココのお陰なんです。な、ココ!」

(ココ モリ マモル ナカマ マモル)

「ココ……なんていい子なの……主冥利に尽きますわ!」

(ココ イイコ アルジ スキ)

(キキモー オカアサン スキー)

「まあああ!!」


 可愛い私の娘たちであるココをナデナデ、キキには頬擦りをスリスリし、愛情表現をして居ると、目的地である川の近くに着いた。今日はここで魚釣りをする予定だ。

 マトヴィルが準備してくれていた釣竿を魔法鞄から取出し、皆に渡してくれた。餌を付け早速釣りを始める。ベアリン達は今まで手づかみで魚を捕まえて来ていたため、釣は初めてなのだそうだ。私も釣りは素人同然なのでマトヴィルの指導に従う、ベアリン達もだ。


「よーし、皆準備はできたなー、川には流れがあるから上流に向かって静かに仕掛けを流せよー、間違えても石なんかを一緒に投げ込むなよー」

「はーい」

「「「「「ういーっす!」」」」」


 ここから釣り大会が始まった。マトヴィルは少し離れたところで火を起こしていて、大会には参加していない、そう、初心者だけの釣り大会だ。ベアリン達は負けず嫌いなのか目がギラギラとしている。絶対にビリにだけはなりたくないようだ。


 私はそんな彼らの様子を見守りながらキキと一緒に釣を始めた。ココはまだ走り足りない様で森の見回りに出かけていった。きっと魔獣でも見つけて捕まえてくるのだろう。自分の食い扶持は自分で稼ぐ、ココはそう決めている様だった。

 暫くするとキキが(オカアサン キキ テツダウ)と言いだして、私の肩から飛び出すと水の中に飛び込んでいった。


 はわー、蝙蝠って水の中に潜れるんだ……あ、でもウチのキキちゃんは特別だからかなー。


(オカアサン サカナ ツケタ)


 ちょこんと川の中から顔を出すと、キキがそんな事を言ってきた。それと同時に私の竿がクイクイッと引っ張られるのを感じた。どうやらキキが川に潜って自分で捕まえた魚を、私の竿に付けてくれたようだ。大会としては不正になるけど、キキがとっても嬉しそうなので、私はそれを遠慮なく釣り上げた。

 キキは満足そうに喜ぶとまた水の中に入っていった。私はそれを見て、慌てて釣り上げた魚をバケツに入れると、餌も付けづにすぐに竿を川の中に流しいれた。


(オカアサン アゲテ イイヨ)


 すぐさまキキから声がかかる、クイクイッとまた竿が引っ張られたので竿を上げると、キキの体よりも大きな魚を釣り上げることが出来た。キキが一体どうやって魚を捕まえているのか知りたいところだが、キキから (オカアサン ツギ ツギ!)と催促がかかるのでそんな時間はない、釣ってはバケツに入れを繰り返すこと30分、気が付けば大きなバケツ一杯に魚が釣れていた。この短時間で私とキキの合同チームが一番釣り上げた様だった。

 皆がキキの事を凄い凄いと褒めると、キキは恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに飛びはねていた。本当にうちの子は可愛い子ばかりだ。


 マトヴィルが皆が釣った魚をさばいてくれていたので、私は釣を止めてそちらを手伝う事にした。キキが釣り大会に大満足したので今度は美味しい料理の準備をすることにした。

 ベアリン達は引き続き魚釣りだ。まだ皆んな2、3匹しか釣りあげていないので、やり足りないらしい。いつも賑やかなベアリン達が大人しくして魚釣りをしているのが何だか新鮮だった。楽しい遊びを新しく覚えたので、ベアリン達は今後は釣りに夢中になりそうだ。魚好きの私としては有難い話である。


「マトヴィル、釣った魚は塩で串焼にしますか?」

「ああ、そうしましょう。ベアリン達はそのままの形のが喜びますからねー」

「私も嬉しいです。串焼美味しいですからね、でも……ココは足りないですよね……」


 ココの体を考えるとマグロでも海に行って釣ってこなければ満足しないだろう。マトヴィルはガハハハッ! と笑って、ココには他のものも準備すると言ってくれた。流石ココが大好きだというだけはある料理人のマトヴィルだ。ココの事を良く分かっている。


 ベアリン達の釣りが一段落するころ、ガサガサと音を立ててココが私達の所へと戻って来た。

 自分の体に捕まえた魔獣を縛り上げていて、見て見ればまだ生きているようで手足をバタバタと動かしていた。そしてその魔獣はなんと大豚だったのだ。


「ココ、これは大豚じゃねーか、どこに居たんだ?」

(オオブタ モリノナカ イズミチカク)

「何時も行く泉か……そんなところにまで大豚が……」


 大豚はそもそも魔素の強いところにしかいない幻の魔獣と呼ばれる、普通では目にしない珍しい魔獣だ。それがこの辺りまで来て居る事にマトヴィルは疑問を感じて居る様だった。


「マトヴィル……強い魔獣が森に増えているのですか?」

「ええ、そうですねぇ、これも奴の力のせいかも知れませんがね……」


 マトヴィルのいうヤツとはウイルバード・チュトラリーの事だろう、彼が私の魔力を奪い力を付けたことで魔獣が活性化しているのかもしれない、ディープウッズの森はレチェンテ国とアグアニエベ国の間にあるのだから……


 その後魚を沢山食べて満足した私達はディープウッズ家の屋敷に帰ることになった。

 ココが捕まえた大豚はなんと屋敷で飼う事にしたのだ。メスだったという事もあるので、いずれ雄を捕まえてきて番にさせたいとマトヴィルは嬉しそうに言って居た。生き物好きのセオが聞いたら喜ぶこと間違いないだろう。


 こうして久しぶりの森へのお出掛けはとっても楽しいものとなった。

 次は薬草摘みや木の実取りをしようとワクワクしながら帰路に着いたのだった。


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