第337話 私の天使たち

 魔石バイク隊の話し合いの数日後、ユルデンブルク騎士学校に居るセオから手紙が届いた。


 レオナルドがレチェンテ王に魔石バイク隊の許可の願いを出したところ、すんなりと承諾が取れたようで、卒業後はレチェンテ国初の魔石バイク隊の隊長に、レオナルドが就任することが決まったようだ。


 その為就任式が秋ごろに開催されるそうなので私とセオ、そしてルイには是非出席してもらいたいレオナルドにお願いされたのだと、セオの手紙には書いてあった。


 クルトにその手紙を見せるとアダルヘルムに相談してからとなった為、返信には許可が下り次第参加しますと、書いておいた。内容をアダルヘルムに見せるために通信魔道具ではなく手紙だったのかもしれないと、そんな気がした。


 きっとアダルヘルムは私の魔力が完璧に落ち着いたと言えるまでは、私を余り外には出したくは無いだろう。どうしても心配な場合は王城迄アダルヘルムについて来てもらうしかないかもしれない……

 その場合、注目がアダルヘルムに集まってしまう為、就任式が台無しになりそうで、違う意味で心配になってしまうのだけれど……


 もし私が出れなくてもセオとルイにだけは出席して貰うつもりなので、安心して下さいと、その事も手紙には付け加えておいた。


 レオナルドが一番この就任式を見せたいのは、きっとセオとルイなのだから……


 おまけである私の出席はそこまで重要度は無いだろう。


 手紙を書き終えると、お母様の部屋へと向かった。

 お母様の体調さえ許せば、毎日の様にお母様のご機嫌伺いに私は行って居る。


 お母様は、急な老体化を迎えたため、今自分で歩くのが厳しい状態になっている。

 ドワーフ人形のクックやトートが車いすを押してテラスに出ることはあっても、外へ出ることは殆どなくなっている。

 なので私は少しでも外の様子を知って貰おうと、自分の毎日の出来事をお母様に話に行って居るのだ。


 お母様は私がキキやココの話をしたり、スター商会の話などをするととても喜んでくれる。

 体が幼いころから余り丈夫では無かったお母様は、私がお転婆をする事が楽しくてしょうがない様だ。自分が疑似体験しているような気持ちになるみたいだ。


「フフフッ、それでベアリン達はとっても打たれ強くなったのね?」

「そうなのです、お母様、人間と言うのは不思議ですねー。ルイもそうだったけれど、私と稽古をして居ると不思議と打たれ強くなるみたいなのです」

「まあ、フフフッ、ララの魔力のお陰で、受け身だけは世界最強になったのかしら?」

「ハッ! そうかも知れません! だからアダルヘルムもマトヴィルも私の攻撃に強いのですね!」

「まあ、アダルヘルムとマトヴィルが? 何故かしら?」

「だってお父様の拳や剣をずっと受けてきたのですもの! 私の攻撃なんて【への河童】なはずですわ! 二人は宇宙最強かもしれません!」

「フフフッ、そうねー。アラスター様の手加減は……フフフッ、そういえば、良くマトヴィルに手加減を覚えるようにとアラスター様は注意されていたわ」

「それはつまり……私もお父さまと同じように手加減しなくていいって事でしょうか……」

「まあ! そうね、その通りよ、ララ、明日からの練習は思いっ切りやってみなさい」

「はい、お母様、頑張ります!」


 私とお母様はどこの母娘でも話すような、何気ない会話をいつもこんな風にしている。


 少し離れたところに立っているクルトは会話が聞こえるためか、困ったような表情をしていた。

 別に秘密の話をしているわけでは無いので聞かれても困らないのだが、クルトは最後には大きなため息をついていた。きっと女子会にいる様で居た堪れなかったのだろう。


 まさかクルトがこの会話を聞いて命の危機を感じているなど思いもしなかった私とお母様であった。


 お母様の部屋を後にして、私は自室へと戻った。

 お母様と楽しい会話をしたこともあるが、この後の楽しみも相俟って私の足取りはふわふわしていた。クルトに注意されない様に勿論魔力は抑え込む、この後のお楽しみが中止になるわけには行かないからだ。


 けれど顔は正直で、ニマニマと緩んでしまうのは抑えられなかった。クルトに結局「ララ様落ち着いて下さい」と注意されてしまうぐらいのニヤケ様だった。


 そう! なんとなんと、今日は私の大切な孫であるステラと、初めて会う孫であるリリーがディープウッズ家に来る日なのだ! (孫ではありません)


 こんなにも心弾む重大なイベントがあるのに関わらず、魔力を抑え大人しく出来ている私を褒めてあげたい!


 どうしても会いたかった二人との面談を勝ち取る為に、修行も朝の訓練も連日ヘトヘトになる程私は頑張った。


 お陰で身体強化を掛けなくても、最近では歩くことが少しは出来るようになって来た!


 自分の頑張りに素直に素晴らしいと褒めてあげたいぐらいだった。


 そもそも先日スター商会に遊びに行った時に、本当はステラに会えるはずだったのだ。


 だけどちょっとだけ興奮してしまったせいでそれは先延ばしになってしまった。


 そしてリリーの存在を知ってからという物、会いたくて会いたくてただ会いたくて……

 私は意識せず元気がなくなってしまった様だ。


 見かねたアダルヘルムが修行を頑張ったらステラとリリーをディープウッズ家に呼んでくれると言ってくれたので、目標に向かって頑張った私は、遂にこの日を迎えたのだった。


 はわーん、ステラとリリーがもうすぐ来るよーん、どうしよう、どうしよう、緊張すっルーン!


 私の浮かれ具合が隠しても分かるのか、ステラとリリーに会う為に、今私の部屋は厳戒態勢が引かれていた。アダルヘルムとマトヴィルが同席している上に、私の魔力が溢れ出しても大丈夫なようにココが庭で待機している。

 それからベアリン達も突然呼び出されても大丈夫なようにと、今日はスター商会へは行かずに廊下で待機をしているのだ。そこまでしなくても良いのでは? とも思ったが、勿論会うのが中止になるのは嫌だったため、大人しくそれに従った。


 孫に会う為なら何でも頑張れるし、余計なことは口出さない私であった。クフフフフ。



 午前のおやつの時間ぐらいになると、トミーとミリーに連れられてリリーが、そしてアーロとミアに連れられてステラが、私の可愛い天使ちゃん達がやって来た。もう二人が部屋に入った瞬間から私の心臓は落ち着かずキュンキュンと鳴りっぱなしだった。


 神様! 私、今日この瞬間に乙女心を掴めたようです! もう今最高に幸せで――――す!!


「ステラ、会いたがっていたララ様ですよー」

「ステラちゃーん、ララおばあちゃ……じゃなくって、ララお姉ちゃんですよー、覚えていますかー?」


 ステラが二年も眠っていた私の事を覚えて居るはずがない事は分かっていても、ついつい覚えているかな? と淡い期待を持って声を掛けてしまった。

 すると可愛いステラが、可愛いさにピッタリな可愛い声で、可愛い両手を私に差し出しながら、可愛い笑顔を浮かべて可愛い事を言ってきた。


「ららしゃまだー」


 キャーキャー! ステラが私の名前呼んだよー! 「ららしゃま」 だって! ヒャッフーン、何それ本当可愛いんだけどー!


 私の胸はずっきゅん、どっきゅん、ばっきゅんとなって可愛さに崩壊寸前となった。


 目の端にアダルヘルムの困ったような顔が入らなければ、確実に魔力を放出していただろう。


 アダルヘルムがチラッと目に入ったことで私は落ち着けた。そう! ステラたちに会うのがこんな一瞬の挨拶だけで終わりなんてそんなの耐えられないからだ。

 今日はステラとリリーを十分に堪能する事を決めていた私は、グッと暴れる魔力を抑え込んでニッコリと微笑んで見せた。根性だ!


「ララ様、ステラには毎日ララ様の姿絵を見せていたのですよ、それにピートが沢山ララ様の話をステラにしていたのです」

「そうなんですか?!」


 ピートいい子に育って……母さんは嬉しいよ……(違います)


 ステラをそっと抱っこさせてもらった。「ららしゃまかわいー」と可愛いステラに言われると、もう私をどうにでもして! と言うぐらいの気持ちになってしまった。


 もう本当に一生抱っこしたままでも良いぐらいだった。きっと私に魔力が多いのは、身体強化を掛けたままステラをずっと抱っこしていられる為に神様が用意してくれた物なのだろうと納得出来た。神様ありがとうございます! ララ、感激! です!


 そして今度はリリーちゃんだ。

 リリーはまだ六か月らしく、「あだー」「ちゃーまー」と可愛らしい声を上げていた。

 もう可愛すぎて、この世に生まれて来てくれて本当にありがとう! とそう言うしかなかった。


「トミー、リリーは可愛いですね、ミリーに似て良かったですね!」

「ララ様分かりますか?! もう目の色以外はミリーにそっくりで無茶苦茶可愛い娘でしょう? ウチの天使なんですよ! タッドもゼンも可愛いがってくれてるんすよっ!」

「気持ち分かりますわ! こんなに可愛い天使ちゃんが家にいたら、私だったらずっと側に居たくなりますもの! ミリー、本当に良く産んで下さいました!」


 興奮する旦那のトミーと私を見て頷きながらもミリーは苦笑いだ。

 どうやらスター商会にはリリーを甘やかす人ばかりで心配らしい。それはこんなにも可愛いんだから仕方がない事だと思った。皆リリーの一番に成りたくて仕方ないのだろう。勿論私も含めてだけど。


「ララ様、少し落ち着いて下さい」


 アダルヘルムがステラとリリーの可愛いさに夢中になる私に、冷んやりとした声を掛けてきた。その底冷えするような声を聞いて、私はハッとすると深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。


 次にステラとリリーに会うのが一ヵ月先とか言われる訳には行かない。出来れば毎日会いたいぐらいなのだから……


 その後は私が居ない間のステラとリリーの話を聞かせて貰った。

 ステラはピートが大好きで絵本を読んで貰ったり、遊具で遊んで貰ったりとしているそうだ。


 リリーも兄二人が大好きで父親のトミーが帰って来る時よりタッドとゼンが自宅に戻ってくる時の方が喜ぶらしい。トミーがガックリと肩を落としながら教えてくれた。


 既に家族の中でも男性の中でもリリーの一番ではない事がトミーには地味に応えている様だ。まあ、そこは出来の良い兄二人が居るのだ、しょうがないだろう。


 それからノアが二人に毎日のように洋服を作って来てくれるのだとも教えてくれた。

 私ももっと魔力が落ち着いて、ドレスが作れる様になったら絶対に二人に一番にドレスを縫いたいと話すと、毎日着替えても追いつかないと笑われてしまった。


 本当に幸せ過ぎて怖いぐらいだ。こんな可愛い子達のおばあちゃんになれて私はこれ以上無いぐらい幸せだった。

 

 私もいつか大好きな人の子を産んでみたいなと自然とそう思えた。


 トミーやアーロ達が帰って行くと、私は急に目眩に襲われた。フラフラとして倒れそうになった私を側にいたクルトが支えてくれた。

 アダルヘルムが急いで側に寄ってきて、私の様子を見てくれた。


 私はその間もなんだか頭がクラクラしてのぼせた様になってしまった。顔や体も熱くなってきて、まるで熱いお風呂にずっと浸かっていたみたいな感覚だった。


「ララ様……興奮し過ぎですね……」

「ふへっ?」

「魔力を無理矢理体に溜め込み過ぎたのでしょう……すぐにココに食べて貰いましょう」


 こうして興奮し過ぎた私は我慢の限界でココの手を借りることとなった。

 まだ暫くはスター商会でステラとリリーに会うのは難しそうだ……私の修行はまだまだ続く様だ……。頑張るしか無いだろ。とほほほほ……





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