第334話 男の子たちとの話し合い

 男の子達の採寸が終わると、今度はアデルとマティルドゥの採寸になった。女の子達はドレスを作る為、細部まで決めるのには時間が掛かる。色や形、装飾品はどんなものにするか、パートナーとはどの部分の色を会わせるかなどなど、時間が掛かるのは当然の事だった。


 その為男の子達とは私が寝ている間の学校の様子などを聞きながら待つ事にした。

 私と向かい合って座ったレオナルド王子は何故かとても恥ずかしがっているように見えた。恋する乙女の様にキラキラと目が輝いていて、頬も可愛らしいピンク色に染まっていた。ただ私とは目を合わせない様にしていたので、極度の人見知りなのかもしれないとそう思った。だからこそ人付き合いが苦手で最初のうちは上手くセオやルイともコミュニケーションが取れなかったのだろうと思い至った。


 そう思うと、こうやって仲良くなれたことに感慨深くなった。

 友人としてこれからもセオやルイと、そして庶民でもあるトマスやコロンブ達とも仲良くしていってくれたら良いなとそう思えた。やっぱりどうしても母親気分が抜けない私なのだった。


 話は就職先の話になった。

 コロンブは実家のお店を継ぐようで、学校を卒業したら修行が待っている様だ。

 私も鍛冶には興味があるので、是非お店にお邪魔させて頂きたいと興奮気味にお願いすると、コロンブは快く了解してくれた。その時はレオナルド王子も一緒に行きたいと言ってくれたので皆で行こうと約束をした。私はレオナルド王子に目を会わせて貰えないけど嫌われてい無い事が分かってホッとした。


 そしてトマスは何と、何と!

 メイナードの護衛として就職が決まっている様だ。

 なのでこれからも頻繫にセオやルイとは会えるのだと、とても嬉しそうに話してくれた。

 ブルージェ領の夏祭りや冬祭りに参加したことで、領主であるタルコットから直々にコロンブと共に声を掛けられたらしい、コロンブは実家を継ぐので断ったそうだが、トマスはその場で了承の返事をしたそうだ。


「だってブルージェ領は今すっげー人気なんだぜ、住みたい人も沢山いる中での領主様のお誘いだ、あり得ない程の幸運だよな、それにメイナードとは……あー、メイナード様とも友人だしな!」


 トマスは全てセオやルイのお陰だとお礼を言っていた。だけどトマスの人柄や、剣や武術の実力がなければタルコットも声を掛ける事はなかっただろう。本人の努力の結果だとも言える。

 ご両親もとても喜んでくれているようで、「よくやった!」と褒められたらしい。トマスは親孝行も出来たのだと嬉しそうだった。


「そう言えば、アデルとマティルドゥはどこに就職するのかしら?」


 男の子たち皆が顔を見合わせるとセオが私に教えてくれた。

 困惑気味の男の子たちの表情から、さっきの待ち時間の間にきっと話を聞いていたと思ったのだろう。まさか恋バナをしていたとは言えなかったので笑顔で誤魔化しておいた。


「アデルもマティもユルデンブルク王都の王城に勤めることが決まっているんだ」

「そうなの? じゃあ、レオナルド王子がいらっしゃるから安心ね」


 そう言ってレオナルド王子の方へと視線を向けるとサッと逸らされてしまった。

 かなりのシャイボーイのようだ。顔だけじゃなく首まで赤い。

 とにかく私に慣れて貰う為にはレオナルド王子とアレッシオ王子に沢山話しかけるしか無いだろう。


 人見知りも慣れてしまえばきっと大丈夫なはず! 多分……


「レオナルド王子とアレッシオ王子は卒業されたらどうなさるのですか?」


 アレッシオはチラッとレオナルドの方へと視線を送った後、緊張気味のレオナルドの様子が分かったからだろう、先に答えてくれた。でもその表情は少し苦笑いになっていた。


「ララ姫様、どうか私の事もレオナルドの事も気軽にお呼び下さい、私は暫くは父の下につき王都の事を学ぶ予定です。いずれは兄の手助けができたらと思っておりますので」

「ありがとうございます、ではアレッシオと呼ばせて頂きますね、私の事もララと気軽に呼んでください」

 

 アレッシオは良い笑顔で頷くと隣に座るレオナルドの事を肘で突いていた。

 次はお前の番だよとでも言って居る様だった。


「あー……ラ、ララ姫……」

「ララで大丈夫よ、私もレオナルド……えーと、皆と一緒だとレオ? かしら? そう呼ばせて頂きますね」


 レオナルドは恥ずかしかったのか、真っ赤っかになってしまった。

 王子なのにこんなに人見知りで大丈夫なのかと心配になった。きっと同じくらいの年の子と接することが苦手なのだろう。夜会とかで会う大人貴族の事は慣れていてかぼちゃかジャガイモに見えて居るのだと思った。私もかぼちゃで良いんだけどね。美味しいし。


「わ、わったしは……し、暫くは兄上の手伝いで……」

「そうでしたね、お父様であるレチェンテ王がレオナルドは兄思いの優しい子だと褒めて居ましたもの! やっぱりお兄様の為に働かれるのですね、素敵です」


 レオナルドは「いえ……そんな……私など……」と小さく呟くと、手で顔を覆ってしまった。

 恥ずかしがらせてしまったと、セオやルイ達に視線で助けを求めたが、皆苦笑いをするだけで、レオナルドを助ける人はいなかった……まあ、人見知りだけは慣れしかないのかもしれないから、それもしょうがないかもしれないけれど……


 就職の話が出て王家の話も出たことから、私はそこで以前から考えて居たことをレオナルドとアレッシオに相談して見ることにした。


「あの……レオ、アレッシオ、私はバイク隊を作りたいと思っているのですけど、王家……というか、レチェンテ国……ユルデンブルク王都でも作れるでしょうか?」

「「ば、ばいく隊?!」」


 レオナルドとアレッシオは ”バイク” が分からなかったようなので、以前セオ達をお迎えに行った時に乗っていた乗り物だと話すと、何となく分かってくれたようだった。

 そして今ディープウッズ家では獣人族とのハーフである、ベアリン達がそのバイク隊であることと、スター商会の護衛達はバイクにも乗れること、それからブルージェ領でも勿論バイク隊が有る事を話した。

 ウイルバード・チュトラリーの仲間である ”リード” という占い師が王都に居る様な事をウイルバード・チュトラリーは言っていた。王都内でもいつ爆弾魔のような事件がまた起きるか分からない、直ぐに駆けつけることが出来る王都バイク隊みたいなものがあるに越したことは無いだろう。


 レオナルドとアレッシオの二人に、魔石バイクの事を詳しく話すと目を輝かせながら話を聞いてくれた。やっぱり男の子はバイクとか車とかが好きなのか、凄く興味を持ってくれたことが分かった。


「ララひ……ララ……それはとても素晴らしいです! できたら私とアレッシオがバイク隊の隊長と副隊長になってこの国を……そしてユルデンブルク王都を守れたらと思います、その話を王に話し、計画を進めても宜しいでしょうか?」

「ええ! 勿論です! レオ! ありがとうございます!」


 レオナルドの手を握ってお礼を言うと、レオナルドは固まってしまった。

 顔は真っ赤で焦点が合って居ない、人見知りの人に酷い事をしてしまったと慌てて手を離したが、レオナルドは暫く動かなくなってしまった。

 申し訳ない……慣れるまでは話しかけない方がよさそうだ。


 見かねたアレッシオが一つ咳ばらいをすると話しの続きを引き受けてくれた。

 どうせならマティルドゥとアデルもバイク隊に引き入れて、チームを作ってくれるそうだ。トマスがちょっぴり羨ましそうな顔をしていたが、そこはご愛敬だろう。


「そうしたら、庭で魔石バイクに乗ってみますか? マティとアデルは長の休みで来たときに乗った事が有るので、レオとアレッシオが練習してみましょうか?」


 私達は庭に行き魔石バイクの練習をすることになった。

 勿論私は大人しく見学だ。クルトが冷たいお茶を入れてくれて木陰のベンチで男の子達が魔石バイクに乗る姿を母親気分で見ていた。

 アレッシオもレオナルドも流石ユルデンブルク騎士学校で優秀な成績を収めるだけあって、運動神経は良い様だった。30分も経てば普通に乗れるようになっていた。これなら今後一人で練習しても問題は無いだろう。王からの許可が下りたらすぐにスター商会から魔石バイクを届けたい話まで進んだ。これで街で何か有っても安心できるだろう。


「私とアレッシオ、マティとアデル……隊員が四人では心もとないな……せめて後二人……発足する時には十人ぐらいは隊員が欲しいところだ……」

「そうだね……私達の護衛のルイージとアレロも隊員にするとして……それでも六人か……」

「ピエールも誘う?」

「ああ、たまに食事を共にするBクラスの子か……そうだな、声を掛けてみるか……」

「レオ、アレッシオ、もう魔石バイクに乗れる良い隊員を俺達知ってるけど、な、ルイ」

「ああ、知ってる知ってる、すっげー優しくていい人たちだぜー!」

「セオ、ルイ、それは誰だ?」


 セオとルイは顔を見合わせるとニヤリと笑った。そして――


「ワルシャック第38騎士隊の隊員で俺達の世話係をしてくれた人だよ、アヤンさんとヴィハーンさんて言うんだ」

「そうそう、この二人は最初から上手に乗れたんだよな」

「そうなのか?! それは心強いな!」

「ああ、すでに隊員として働いている者が入ってくれれば尚更心強い、是非声を掛けてみよう」


 男の子達が話している内容を聞いてバイク隊の話が随分進んでいるようで嬉しかった。

 レオナルドとアレッシオの話だと、王からはすぐに許可が下りるだろうと言ってもらえた。レチェンテ王は子供思いの上に懐が広い人のようだ。良いパパである。


 ワルシャック第38騎士隊はセオとルイがお世話になった部隊だそうで、ミハエス領に近い場所にある危険な部隊のようだ。でもセオとルイにとっては森も近くてとても楽しい場所だったらしい、とにかく隊員皆がとても親切で優しかったそうだ。仕事に慣れていないセオやルイの事を叱ることも無く、凄い凄いと褒めてくれて良くしてくれたのだそうだ。


「セオ、その隊の場所はちゃんとわかる?」

「えっ? ああ、勿論行く前に下調べはしていったし、ワルシャック第38騎士隊に居た時も、朝ルイと走ったりしたから頭にはしっかり入ってるよ」

「じゃあ、私とセオでアヤンさんとヴィハーンさんて方を今から迎えに行きましょうか」

「「「「えっ?」」」」

「アデルとマティルドゥももうすぐ採寸は終わると思うし、一度この場で顔合わせをしていた方が安心でしょう?」

「ラ、ララ姫……しかしどうやって……」

「転移で、セオが道案内で私が魔力を使うの、有り余ってるから今ならどこへだって行けると思うの」


 セオとルイは 「なる程!」 と頷き、レオナルドとアレッシオ、トマスとコロンブは口を開けて固まってしまった。

 クルトが皆にお代わりのお茶とお菓子を出しながら「はー……」と何故か深いため息をついていたのだった。


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