第333話 セオとルイの友人達

 今日私はクルトと一緒にユルデンブルク王都にあるお屋敷に来ていた。


 ユルデンブルク騎士学校に通っているセオとルイが外出許可が取れた為、友人と一緒にこの屋敷に遊びに来てくれるのだ。


 皆長の休みの際には眠っている私のお見舞いに来てくれた様で、直接皆にそのお礼が言いたかった事と、間も無くセオとルイが学校卒業で卒業パティーがある為、友人皆のタキシードやドレスを私がお礼に準備させて貰いたかったのだ。


 その為今日はオルガとアリナも一緒に来てくれている。スター商会からではなく、ディープウッズから皆にお礼をしようとなったからなのだ。


 そして何と何と! マティルドゥの兄であるオクタヴィアンも私と一緒に来ている。

 私は先日まで知らなかったのだが、オクタヴィアンはスター商会の研究所に就職したようだ。


 それもアダルヘルムの推薦で! 


 一体寝てる間に何があったのか?! とも思ったが、オクタヴィアンは話してみると、とても研究熱心で、何よりも魔道具が大好きだった。いや愛しているとも言って良いかもしれない。


 なので私の事を凄く尊敬する様な目で見てきて、それと大型犬の様な人懐っこい姿を見てしまうと、もう何も言う気は無くなってしまい、良い人材が入ってくれて良かったという喜びしかなかった。


 そしてそのオクタヴィアンが、どうやらアリナの文通相手の様なのだ! 

 アリナラブのジュリアンはこの事を知っているのかな? と心配になったが、私が望むのはアリナの幸せなので、アリナがどちらかを選ぶのかはアリナの意思に任せたいと思っている。


 まー、どちらも選ばない可能性もあるしね! とにかくアリナの幸せが一番なので、様子を見て行きたいと思った私だった。


「アリナ、ララ様は素晴らしいね! 発想が私とは全然違うよ、君に聞いていた通り奥が深いお方だよ」

「やっぱりアンなら分かってくれると思っていたわ、お嬢様は素晴らしいでしょう。私も常にそう思っているのよ」


 アリナ?! 呼び捨て! アン? アン?! オクタヴィアンの見た目で可愛いくアン呼び?!  


 話している内容はともかく、二人がかなり仲がいい事だけは分かった。そりゃーそうだよね、文通してる仲なんだもん。


 チラッとオルガの方へと視線を送ると二人の姿を微笑ましそうに見ていた。私と一緒で見守る気満々のようだ。


 うん……ジュリアン……これはヤバいですよ……この事をジュリアンは知っているのかなあー……


「あ、そうだ、アリナ、良かったらこの花を君に……」


 オクタヴィアンは自分の魔法鞄から可愛らしいピンクの花を一輪取り出し、アリナに渡した。


 決して花屋で売っている様な整った美しさは無いけど、温かみのある強さのある花だった。アリナの頬が少し赤く染まっているのが分かった。


「まあ、綺麗、アン、これはどうしたの?」

「ああ、マルコ先輩達と森へ行った時に見つけた ”アコルデ” と言う名の花らしいのだけど、強さと可憐さを兼ね備えた花だろう、これを一目見てアリナを思い出してね。君に贈りたいと思ったんだ」


 うん。オクタヴィアン、君の気持ちは分かる! 

 アリナは美しいだけじゃ無いからね! 君は良く分かってるよ!


「まあ、ありがとう、とても嬉しいわ」

「なら良かった。ノエミ先輩に聞いたら花言葉は ”美しい人” と言うらしい。君にピッタリだろ」


 アリナは恥ずかしそうに頬を染め、またオクタヴィアンにお礼を言っていた。


 オクタヴィアン……見た目は厳ついけど、君中々やるじゃ無いか! 美女と野獣。うん。許す!


 ジュリアンごめんよ……もう無理かもしれないや……



 そんな仲良しの二人を見ながら王都の屋敷の玄関へ降りて行くと、時間を見計らった様に赤い色の馬が引くかぼちゃの馬車がやって来た。どうやら今日はルイが馬車を大きくしたようだ。

 タルコットの時の馬も綺麗だったけど、ルイの赤い馬も凄く艶やかで綺麗だった。


 馬車が玄関口に着くと、中からセオ、ルイ、マティルドゥ、トマス、コロンブ、アデルそして何とレオナルド王子とアレッシオ王子が降りてきた。セオから仲良くなったとは聞いていたが、姿を見て本当だったのだと実感した。


 それにしてもレオナルド王子の方はいざこざがあったせいか少し顔が赤く、恥ずかしそうにしている。私の事もしっかりとは見てこない、きっとアダルヘルムに色々言われて遠慮して居るのだろう……ここはこちらから色々と話しかけてあげるべきだろうなと、中身におばさんを飼っている私はレオナルド王子と仲良くなろうと決意した。


「ララ様! 会いたかったぜ!」


 久しぶりに会うルイが馬車から出てくるとすぐに私を抱きしめてきた。

 ルイだけは起きてから会えて居なかったので、私の元気な姿を見てやっとホッとしてくれたようだった。ルイは嬉しそうにニコニコと笑い何度も確かめる様に私の姿を眺めていた。


「心配かけてごめんね」と伝えると照れ笑いをしていて、成人になったとはいえまだまだ可愛いルイだなっとニヤケそうになってしまった。


 オクタヴィアンはマティルドゥと挨拶を交わし家族の様子や、自分の仕事が順調な事などをマティルドゥに伝えると「仕事が有るから」と言って研究所へと戻っていった。

 今は魔道具作りが何よりも楽しいらしくて、仕事に集中して居たいようだ。研究所チームは皆引きこもり体質なので心配だ。でも所長のビルと副所長のカイが上手く回してくれるだろ……


 そんなオクタヴィアンだったが、帰り際にアリナへの声掛けは忘れなかった。オクタヴィアンはとても愛情表現が上手なようだ。

「またすぐに手紙を書くから」と言ってアリナに手を振って戻っていった。


 オクタヴィアン……中々見せつけてくれるでは無いか! グッジョブ!



 応接室へと着くと、先ずは男の子たちの採寸が始まった。


 その間は女の子同士で話をする。


 マティルドゥはルイと卒業パーティーに出席すると聞いたので、母親代わりの私としてはその辺の事を詳しく聞きたいと思っていた。勿論一人の乙女としてアデルの恋バナとかも勉強の為に教えて貰おうと思っている。恋愛学習に余念がない私なのだった。


 そしてここからはこそこそ話。

 私の後ろにはクルトが控えているが、乙女たちの話を前に気配を消して壁の花になってくれている。そこは年の功、女の子たちの会話に入るつもりは無い様だ。


「マティルドゥはルイとお付き合いをしているの?」


 マティルドゥはお茶を ごっくん! と良い音を立てて飲み込んだ後、真っ赤になりながら首を横に振った。卒業パーティーの申し込みはされたようだがお付き合いはしていないらしい。でもルイには「大好き」と告白らしきものは受けているらしいので、時間の問題かもしれない。


「ルイの事が好き?」


 と訪ねると、マティルドゥは湯気が出そうなほど赤くなって小さく頷いた。


 可愛い! 可愛い! マティルドゥ可愛いよー! お母さんはお付き合い許可するよ! 何なら今すぐ娘になりなっ!


 と私はマティルドゥの可愛さに胸がキュンキュンなっていた。案の定クルトに ”落ち着け” の意味で肩をポンポンと叩かれてしまった。興奮した気持ちを深呼吸をして落ち着かせる。


 次はアデルだ。

 アデルはトマスと卒業パーティーに出席するそうだ。「友達として」とアデルは言って居たけれど、話をしている最中は耳まで赤かったので、トマスの事が好きなのだろうと思った。

 トマスは以前ディープウッズ家に来たときからアデルの事を気にいしていたので、きっと二人は両思いなのだろう……

 卒業パーティーで何か進展が有る事を一緒に参加する私は少し期待した。


 そして私は若い子達の純粋な恋を目の当たりにして、何だか私までくすぐったい気持ちになった。これが乙女心なのだろう……と疑似恋をさせて貰ったようで嬉しかった。


「ララちゃんは好きな人はいないの?」


 マティルドゥとアデルの問いかけに、私は首を横に振った。好きな人は沢山いる。

 だけど恋が分からないのだ。そこが乙女心が分からない所以なのかもしれない。


「好きな人は沢山いるの……だけど……特別な好きって言うのが分からなくって……皆大切だし、皆大好きなの……どうしたら一番好きな人って分かるのかな?」


 マティルドゥとアデルは顔を見合わせ困った顔になった。

 人それぞれ感じ方も違うはずだし、どう答えて良いのか分からないのだろう。心の中で困らせてごめんねっと謝っておく。

 可愛い女の子たちを困らせたいわけでは無いのだ……


「ララちゃんはまだ小さいから……恋とか分からなくっても仕方が無いと思うよ」


 アデルが優しく励ましてくれる。うん……ごめんね、見た目は10歳だけど、中身は40プラスララの年なの……それでも分からないのですよ……


「大丈夫ですわ、年ごろになれば自然と恋するものですもの、こんな私だってそうだったんですから……」


 マティルドゥがポッと頬を染めてそう教えてくれた。そうだよね……年ごろになればだよね……蘭子の時に一度年ごろは経験しているのだけど……うん……ララの時はきっと大丈夫なはず!


「二人共ありがとうございます」


 私が笑顔でお礼を言うと二人はホッとしてくれたようだった。

 凄ーく気を使われていたようだ。

 自分の気持ちが分からないと言ったので、もしかしたら寝て居た時の後遺症とでも思われたのかもしれない……


 おう、すみません……凄く心配かけてる……壁の花になっているはずのクルトまで苦笑いをしている……呆れているのか心配しているのか分からないけどごめんね。


 ふっふっふ……でも大丈夫なのです! そこは昔から勉強家の私! 恋心も勉強して見せましょう!


「マティ、アデル、私ね、勉強しようと思っているの」

「「勉強?」」


 私は良い笑顔で頷き胸を張る。二人は何故か心配そうだ。不思議……


「うーん……勉強というか……研究に近いかもしれない……」

「「研究?」」

「今その研究の為に本を沢山読んでて」

「「本?」」


 私は首を傾げている二人に、スター商会の図書室から持ってきている本を数冊魔法鞄から取出し見せた。


 まずは人気の恋愛小説を数点、ティボールドがマダム達に聞いてくれて恋愛勉強の為に私に教えてくれた物だ。王都でも有名な女性作家が書いた物なので二人も知っていた様だが、何故か顔が引き攣っている。何でだろう?


 それから結婚について書かれたティボールドの小説だ。ティボールドは ”ルド・エルス” という名で小説を書いているスター商会に通うマダムたちに人気の作家なのだ。

 ティボールドの小説の事はマティルドゥとアデルは知らなかった様で、手に取ってペラペラと見出したが、途端に真っ赤になりテーブルに置いてしまった。二人とも頬が染まっていて可愛いが、チラチラとクルトに助けを求めるような視線を送っている。どうしたのだろうか?


「ラ、ララちゃん……これって……不倫小説じゃないの?」

「あー? そうかなぁ? ”真実の愛” ってタイトルなんだけど」


 クルトが突然壁の花を止めて、人間に戻り最初に出した女性作家の本をペラペラと捲って見出した。目をまん丸にしている。


「あと……その……コッチの……後から出したルド・エルスさんの本って……か、官能小説じゃないの……かしら……」


 アデルの言葉は最後の方は尻つぼみになってしまった。言葉にするのも恥ずかしい様だ。もしかしたら挿絵つきだからかもしれない。


 クルトは今度はそちらの本を捲って見ると、真っ青な顔になってしまった。刺激が強かったのかもしれない。


「フフフ、これで恋心が分かるかと思って、私って勉強家でしょう?」


 この後アデルとマティルドゥは真っ青になってどや顔の私を恐ろしい物でも見る様な目で見てきた。

 そしてクルトには本を取り上げられてしまい、本のダメ出しを怖い顔でされてしまった……


 私が乙女心を理解するのはまだまだ先の様だ……残念……


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