第331話 隠し武器
「リアムおはよう!」
「おう、ララ来たか、ご苦労さん」
最近の私は週の半分、それも半日だけスター商会へ来ている。
魔力もだいぶ落ち着き、歩いても床を壊すことも無くなり、勿論家具を破壊することも無くなったからだ。
クルトもそこまで気を張って私を見て居なくても大丈夫になった為、アダルヘルムから許可が下りたのだった。
そして今私の肩にはキキが乗っている。
キキは今色んな事を学習している最中だ。
スター商会の従業員の皆の事も覚え、私の仕事の事も理解し始めている。
言葉も段々とたどたどしさが消えて来たようにも思える、キキは蝙蝠界の天才児なのだろうと私は思っている。親ばか全開でも良いじゃー無いか! と開き直りだ。
それでもやっぱりキキの一番のお気に入りはココとの森へのお出掛けだ。
二人が並んでいる姿はとっても可愛くって、魔力の調整の練習の時に何度か絵に描いた。
色鉛筆は何本も折れたけど、いい絵が仕上がったと満足できた。キキが小さくってココが大きいので距離感は大事だったけど、自慢の絵に仕上がったのだ。
今騎士学校に在学中のセオ宛に絵を送ってあげたらとても喜ばれた。
セオには二人の可愛さが良く分かるようだった。流石私の息子、良く分かっている!
それからお母様にも絵を見せたらとても褒められたので、今度はキャンパスに描いてスター・リュミエール・リストランテに飾りたいなと、調子に乗った私は思っている。きっと銀蜘蛛と不思議蝙蝠のコラボは利用客に喜ばれること間違いないだろう。
お母様とだが、最近は朝、夕とお母様のお部屋に行って顔を合わせている。
私が日々あったことを話したり、お母様がお父様との昔話を話してくれたりもする。残された時間の事など考えずに、今を楽しもうとそう親子で話し合ったのだ。
それにお母様はお父様にまた会えることを楽しみにしている。私がしょんぼりして変な横やりを入れたくなかったのだ。
私もいつかお父様とお母様のような素敵な恋がしたい。
神様に乙女心が無い……ううん、まだ眠っているとそんな事を言われてしまったので、先ずはそこから勉強だと思う、暫くはそれについての本でも読んでみようかなと、考え中でもあった。
恋の為の努力家だと褒めて貰いたいぐらいである。絶対に乙女心ゲットだぜー!
私がソファへ座ると、リアムも仕事の手を止めて私の前へと座ってくれた。
以前よりも格段に仕事が忙しいと思うのだが、私が来る時間をいつも空けて居てくれるようだった。
優しいリアムと、仕事の調整をしてくれているランスやジョンには感謝しかなかった。
「リアム、はいこれ、どうぞ」
「こ、これはチョコレートのケーキか? ララが作ったのか?!」
「うん、やっとお菓子作りにも手が出せれたの、やっぱりリアムに一番に食べて欲しくて、このホールケーキは全部リアムのものだからね」
「そ、そうか……一番か……」
リアムが何かボソボソっと言いながらもケーキを見てとても喜んでくれた。
部屋にいる皆の分のケーキもテーブルに出していく。皆ケーキの事は勿論喜んでくれたが、何よりも私がお菓子を作れるようになったことを喜んでくれて居る様だった。リアムなんて涙目だった。
まあ、リアムの場合ケーキが美味しかっただけかも知れないけどね……
「ねえ、リアム、ケーキを食べながらで良いから見てくれる?」
「んあ? 何をだ?」
私は髪に付いていたリボンをサッと外すと、それを鞭を振るうようにバシッと振って見せた。するとリボンは棒状になり、武器として使える様な固さになった。これにはリアムも大好きなケーキを落としそうなほど驚いていた。
「ララ……今のはなんだ?」
「ふっふっふ、驚いた? 隠し武器なの、どう? 凄くない?」
私はもう一度棒状になったリボンを振り、本来のリボンの状態に戻して見せた。
クルトがそれを受取り、私の髪に付け直してくれた。キキが「オカアサン スゴイ」と喜んでくれている。可愛いのでナデナデしておこう。
「それからね、これも見て」
私は胸元から小さな針のような物を出した。
本当はブラジャーにでも仕込んでみたいが、今の私の胸の大きさでは必要が無いため、下着のある部分に隠して付けてみたのだ。リアムは突然の事に目を丸くしていた。
「ララ……お前どっから出してんだよ……」
段々と頬が赤く染まって来たリアムを見て、十歳の子がちょっと胸元を開いただけで赤くなるなんて、可愛い人だなと思った。それなりに経験値はある人のはずなのに、きっと目の前で幼い女の子が破廉恥な事をしたように見えたのだろう。
この世界で前世の水着なんか着た日には変態……いや、痴女扱いだ。胸元から針を出すのも淑女らしくないんだろうなと、苦笑いを浮かべているランス達を見て思った。
まあいいやと気を取りなおして、もう一つの武器を取り出す。
ソファから立ち上がり、片足をソファへと掛けると、ドレスのスカートを股までたくし上げて、小さな隠し武器であるナイフを股のホルダーから取り出した。
リアムは体まで真赤になってケーキのフォークで私の事を指さしてきた。
「ば、馬鹿! ララ! こんなところで何やってるんだよ!!」
「えっ? 武器を――」
リアムが慌てて私のスカートを引っ張り下げ降ろした。
他の男性陣は私の事を見ない様にと視線を外してくれている。
ただ隠し武器を見せたかっただけなのだが、どうやら急に太股を露にした破廉恥女になってしまった様だ。どうやら胸よりも足の方が出してはダメなんだなーと少し勉強になった私だった。
クルトにはこの武器の事は話していたので、私の後ろでアダルヘルム様に額に手を置きながらため息をついていた。皆に見せてはいけなかった様だ……
「ララ! お前は……もうすぐ10歳になるんだぞ、ちょっとは年齢を考えろよ!」
「はーい、ごめんなさーい」
テヘペロごっつんっと可愛い女の子の仕草で誤魔化してみたが、リアムには大きなため息をつかれただけだった。私ではリアムの胸キュンの琴線に触れる事は出来ないようだ。
見たくもない子供の胸と太股を見せてごめんよ、リアム君。君が見たいのはセオの体だったね、うっしっし……
なーんてことを考えて居ると、何かを察したのかリアムからデコピンが飛んできた。でも私は今も軽く身体強化を掛けている状態なので、リアムの指の方が痛そうだった……重ね重ねごめんね、リアム。
「たく、ララ、何でそんなもん付けてんだよ……」
「うん、この前の事件の時に魔力が使えなかったから、それでも使える咄嗟の武器が欲しかったの……」
リアムは困った顔をしながら私の頭を撫でた。
気持ちが分かってもらえたようだ。
あの時魔法が使えず、魔法鞄からも手枷をされた為なにも出せなかった。その後は鞄も取り上げられてしまったし、何でも良いから武器が欲しいとそう思った。
ヴェリテの監獄にいたアザレアを思いだし、女性だからこそ見逃される武器を作りたいとそう考えたのだった。リボンがまさか棒になるとは思わないだろうし、胸に手を突っ込んで迄持ち物を調べようとはあの子なら思わないだろう。
それにスカートを捲し上げて武器を探されることも無いと思った。勿論もっと違う山賊や強盗なら喜んで調べ上げそうな部分ではあるけれど……
「こういう隠し武器を沢山作って、いつ誰に襲われても対抗できる様にしておきたいんだ」
ふふふんっと胸を張って自慢すると、リアムに呆れられてしまった。苦笑いだ。
「ララ……お前……襲われること前提なのかよ……」
リアムの困ったような表情を見て、リアムが私を危険な目に合わせたくないと考えて居ることが分かった。私の事を守るとリアムはアダルヘルムに約束してくれていた。今回のウイルバード・チュトラリーの事件の事でも、私が連れて行かれたことを凄く気にしてくれていた。リアムの温かい気持ちと心配が良く分かった。
「リアム……心配してくれて有難う……でもやっぱりあの子は……ウイルバード・チュトラリーは何かを仕掛けてくると思うの……だから準備しておきたいと思ってる……」
「はー……まあそうだな……どんなことでも準備と対策は必要だよな……」
リアムは私の目をジッと見てきた。真剣な顔で見つめられると何だか少し恥ずかしくなる。
リアムが私の事を子供としか思っていないのは分かっていても、イケメンの顔が間近にあるとやはりドキドキする物のようだ。
するとリアムはニコッと笑って私の頭に手を置いた。
「だけどな、今度は絶対にお前を守るぞ! 俺だけじゃないこの店の皆がお前の味方だ、だから心配いらないからな!」
「……リアム……有難う……」
私は抱き着きたくなるのをグッと我慢したが、リアムが笑いながらその長い手を広げたのでそっと飛び込んで抱き着いた。リアムの良い香りをかぐと何だか安心できた。リアムは癒し効果があるのかも知れないとそう勝手に思った。
「ふむ……ララ様、では、それ用のドレスを作ってみたらどうでしょうか?」
「それ用? ですか?」
イライジャに話しかけられて私はリアムから離れ、イライジャの方に向き変えた。
イライジャは頷き話を続けた。
「暗器を隠せるドレスですね、例えば裾の部分に何か武器を隠したり、ドレスに着いているリボンを先程の物と同様で作っても良いかも知れませんし……」
「なる程! 流石イライジャですね! ボタンの中に毒薬とか仕込んでも面白そうですものね」
皆それはどうだろうか……という顔をしたが、痺れ薬程度をどこかに隠し持っているのは対策として良いと思うのだが、ダメなのだろうか?
クルトが私の後ろで、これ以上危険な姫様にならないでくれ……と思っている事など気が付かない私であった。
「では、早速妻と話をしてまいります。案がまとまりましたら、ララ様にお話いたしますので……」
「えっ? 妻?」
イライジャは颯爽と部屋を出て行ってしまった。
今、妻って言ったよね? と驚いている私などには見向きもしていない早さだった。
リアム達はイライジャが ”妻” と言った事にまったく驚いていない様だった。
「あのー……リアムさん?」
「ハハッ、なんだよ、リアムさんって」
「いえ……あの……イライジャは結婚したのでしょうか?」
リアムは私の発言に目を丸くした。
そして「そう言えば……」と言い出し、イライジャとマイラが結婚したことを教えてくれたのだった。
勿論この後私は興奮から魔力が溢れ出し、癒し爆弾を空へと打ち上げたのであった。
爆弾少女はまだまだ続く様だ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます