第312話 遂に最終学年です!
セオとルイも遂に最終学年、三年生になった。
背も伸び、二人とも随分と逞しく、そして青年らしくなっていた。
相変わらず同室のトマス、コロンブとは仲が良く、常日頃からワイワイとしながら一緒にいる。
そしてそこにレチェンテ国の第三王子のレオナルドと大公家の第三子であるアレッシオが加わった事で益々学校中の注目を浴びていた。
セオ達お年頃の男の子は、同じようにお年頃の女の子達にとっては恰好の獲物。ギラギラした目を向けられているが、セオとルイは性格上あまり気にしない。レオナルドとアレッシオにしてみたら生まれた時からの事なので大した事ではない。怯えているのは可哀想になれていないトマスとコロンブだ。
仲が良い友人が有名人と言うだけで庶民の彼ら迄狙われているのだ。王が ”ディープウッズの関係者に手を出すな” と御触れを出して居なければ、個室に連れ込まれていた可能性もあるだろう。
ディープウッズ家の子息はそう言ったことには無頓着なため、トマスとコロンブが頼りにするのはレオナルドとアレッシオだった。特にアレッシオは女の子の扱いが上手い為、断るのも上手なのだ。それもありトマスとコロンブは最近アレッシオにベッタリであった。
そう、トマスとコロンブは三年生にしてセオ達と同じAクラスになれたのだ。勉強を大勢でやる事でゲームの様な感覚となり、成績をグンッと上げる事が出来た。
夏の長休みに実家に戻った時は成績の良さに両親が涙したぐらいだった。庶民がAクラスになるのは何年かぶりの快挙の様だ。それもアデルも含め三人もの庶民がAクラスになるのは史上初なのだそうだった。両親揃って泣くのも仕方が無い事だった。
三年生になると、卒業に向けて様々な催し物がある。
まずはユルゲンブルク王都内の各学校の視察。それから学校対抗の剣術・武術大会。そして騎士隊への仮入隊体験。そして最後には卒業式と卒業パティーがある。勿論この他に試験や就職先の打診など三年生はやる事がいっぱいな為忙しい。皆将来に向けて動き出したと言って良いだろう。
「なー、アレッシオは卒業パティーは誰を誘うんだ?」
お昼を食べ終わった後、次の武術の授業の準備の為男子更衣室に向かって居る時に、ひっそりとトマスがアレッシオにそんな事を聞いて来た。
他の友人達がこういった事に当てにならない事がよく分かっているトマスだった。
「うーん……私は差障りがない様にレオの妹か姉に頼むかもしれないな、今の現状では婚約者など決められないからねー」
アレッシオはそう言ってトマスの肩をポンポンと優しく叩いた、こう言う所がアレッシオはスマートだ。どっかの誰かみたいに揶揄ったりはしない。
「その様子だとトマスは誘いたい子がいるんだね? 誰だい?」
トマスは周りにいる友人をチラッと見て、聞こえないぐらいの小さな声でアレッシオにだけ「アデル……」と呟いた。アレッシオは真っ赤になったトマスを見ながら困った顔になった。
「トマス、それは早く誘った方が良い」
「えっ?」
「人気な女の子はすぐに取られちゃうからね。アデルはディープウッズ家とそして僕ら王族とも友人で、その上可愛いくて優秀だ。それと言い方が悪いかもしれないけど、家格の低い平民だ。余りに高位の貴族から誘われたら、家の事を考えると断り辛いかも知れない。だったら「もう決まった相手がおります」と言えればアデルも助かるからね、早めにそう言って誘ってみなよ」
「アレッシオ! 有難うー!」
トマスはそう言って歩きながらアレッシオに抱きついた。彼らは知らぬ間に王子とか平民とかまったく気にしならない間柄になっていた。
友人と仲良くするのは別に普通の感覚のトマスだが、アレッシオは違う。やっと出来た友人が大切で少しでも役に立ちたいとも思っていた。
やっと出来た宝物をずっと大切にしようとそう思っているのだ。
着替え終わって武道場に着くと、皆準備運動を始めた。
トマスは上の空でドキドキしていた。アデルにいつ申し込みをしようかと言う事で頭がいっぱいだった。その為準備運動にも集中出来て居なかった。
女子達も武道場にやって来た。アデルをチラッと見てみるとやっぱりクラスで一番可愛いと思った。
アデルはあんなに可愛いんだ……アレッシオの言う通り早くしないと他の子に誘われてしまう……
今日の放課後か? いやいや気持ちを落ち着かせて明日の昼時か? それとも手紙が良いか?
トマスがぐるぐると頭を抱えていると、突然思わぬ声が聞こえて来た。
「なー、マティ、マティって卒業パティー誰かに誘われてるのか?」
その聞き覚えのある声の人物の方へと視線を送ると、やはりルイだった。間も無く授業が始まると言う時に、そしてこれだけの同級生がいる中でのルイの問いかけに、皆がザワザワし始めた。レオナルドやアレッシオ、そしてコロンブも唖然としてルイを見ていた。時と場所を考えようよと顔に出ている。セオだけはクスクスと楽しそうに笑っていた。
「も、申し込みは何度かあったけどお断りしてるわ。一緒に行きたい人は居なかったし……」
皆に注目されているのが分かったのか、マティルドゥの顔は赤かった。ルイはいつもの様子で「ふーん」と言うと言葉を続けた。
「だったら俺と卒業パーティーに参加しないか?」
「えっ? な、何で私なの?」
「さっき可愛い子は早くしないと相手が決まっちゃうってアレッシオが言ってたからさー、マティはこの学校で一番可愛いだろ、だから早く申し込んでみたんだ」
ルイ! 話し聞いてたのか!
てか、早くしなきゃって! 早すぎだよ! マティ真っ赤だし!
トマスは心の中でルイに突っ込んでいた。
マティルドゥは体まで赤くなり、湯気が出そうな程だ。ただルイだけはこれだけ周りの同級生に見つめられているのに飄々としてる。かなり恥ずかしい事を言っているはずなのに何で平気なんだとこっちが恥ずかしくなる程だった。
「か、可愛いって……可愛い子なら誰でも良かったの?」
「あははっ、まさかー、マティルドゥの事が大好きだからに決まってるだろう、なんて言ったって一緒にいると楽しいからな!」
ルイの告白に周りに居るクラスメート達の方が真っ赤でドキドキしている様だった。
なんでルイは平然として居るのかが分からない……こんな人前で恥ずかしくないのか?! って叫びたくなったトマスだった。
「い、良いわよ、今日の組手で私に勝ったらパートナーになってあげる……」
「やったー! 有難うマティ! 絶対に今日も勝つからな!」
「う、うん……」
その後の授業は何だかクラス中がふわふわして居た様な気がした。
皆横目でマティルドゥとルイの組手を見ていたし、女の子達は羨ましそうにして居た。
男たちもルイの度胸がある姿に感心したようで、違う意味でも尊敬して居る様だった。
そして組手はいつも通りルイが勝った。ルイは組手が終わると、膝をつきマティルドゥの手を取った。クラス中の視線が集まる中でだ。武術の担当のアレクセイ先生迄何故かマティルドゥの事を羨ましそうに見ていた。
ルイの心臓には毛が生えているのは確実だってトマスは思った。そして――
「マティルドゥ・シモン嬢、私ルイ・ディープウッズは君と卒業パーティーに出席したい、どうかよろしくお願いします」
「は……はい……」
マティルドゥがルイの申し込みに応えるとクラス中から歓声と拍手が上がった。
ルイ……凄いよ……生まれながらの王子のレオナルドとアレッシオが真っ青になる程の告白だったよ……最初の流れを知らない先生迄拍手してるし……本当に尊敬するよ……
授業が終わって更衣室へ向かう道すがら、アレッシオがトマスの肩にポンッと手を置いた。
そして目で「頑張れ」て言ってるようだった。レオナルドとコロンブ、それにセオも何かを感じたのかアレッシオの真似してトマスの肩にポンッと手を置いて行った。
友人達皆の応援を受けて、トマスは 「明日にでもアデルに申し込みをしようっ!」 と決意を固めた。
次の日のお昼。トマス達はいつものように中庭でテントを張って居た。
アデルは誰かに呼び出されたみたいで、付き添いのマティルドゥと共にテントに遅れてくるようだった。
これって絶対パーティーの申し込みか、告白を受けているんだよなって思うとトマスは胸が痛くなった。もっと早くに申し込んでおけば良かったかも……と思い今更 「明日、明日」 と後回しにした事を後悔して居た。
気持ちを落ち着かせるために、トマスはルイに昨日の告白の話を聞くことにした。緊張しないコツが有れば知りたかったからだ。
「なー、ルイはマティに断られるかもって思わなかったの?」
レオナルドやアレッシオ、コロンブも頷いてルイを見ていた。ルイはパンを口に含みながら 何言ってんだ? という風に目をパチクリしていた。
「別に、断られたら断られた時に考えれば良いかなって……」
「「「へっ?」」」
「だって、断られたって死ぬわけじゃ無いだろう? それに自分が明日も必ず生きてる補償なんてどこにもないって、俺痛いほど分かってるしなー」
そう言えばルイはスラム出身だったと皆が思い出していた。
以前のブルージェ領は貧しくて多くの人が亡くなったって聞いたことがある。病気も流行ったようだし、スラムに居たルイはそれを目の当たりにしたんだろう。
そう考えたらパーティーのパートナーを断れるぐらいルイからしたら大したことは無いのかもしれないとトマス達は思った。この場で一番大人なのは実はルイなのかもって皆ちょっと思っていた……
「はー、お腹すいたー」
「私もー」
アデルとマティルドゥがやっとお昼を食べにテントへやって来た。
マティルドゥはチラッとルイに視線を送ると頬をピンクに染めていた。
何だか一日で凄く女の子らしくなってる。ルイってやっぱりスゲーかも……
トマスは深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、勇気を振り絞ってアデルに声を掛けた。
「あ、あの……」
「ねえ、トマス、私と一緒に卒業パーティーに出席しない?」
「へっ?」
「「「えっ?」」」
トマスだけではなく、レオナルドやアレッシオ、コロンブまでアデルの言葉に驚いていた。セオだけはクスリと笑っていて、ルイは食事に夢中だ。
「ルイとマティの事が有ったからか、今日だけであたしに三人も申し込みをしてきたの、もううんざり……貴重な休み時間が潰れちゃうわ……」
お昼をパクパク早食いで食べながらアデルがそんな事を言ってきた。
何だ風よけか……ってちょっとトマスはがっかりしたけど、いや、これはチャンスだって開き直った。告白は当日すればいいんだから!
「アデル! 是非、宜しくお願いします!」
「そう、良かった。よろしくね!」
トマスは気が付いていないようだったがこの時アデルの耳は赤かった。勇気を出したようだ。
庶民ならこの場にはコロンブもいるのに何故アデルがトマスを誘ったのか、トマスは分かっていなかった。
入学して教室に入るのが辛かった時、最初に声を掛けてくれたのはトマスだった。だからこそ学園生活がとても楽しい物になり感謝をしていた。優しいトマスにアデルが好意を抱くことは当然なのだった。
だがそれにトマスが気が付くのはまだまだ先の話になる……
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