第271話 冬祭り前日②

 ディープウッズ家に着くと、先ずはアダルヘルムに付いてお母様に挨拶に行くことになった。皆後ろから付いてくるココに少し怯えながら歩いていた。銀蜘蛛というのが恐ろしい様だ。


 お母様はすっかり体調も良くなっておりセオとルイの友人たちを笑顔で出迎えてくれた。皆お母様の魅力的な笑顔に胸が苦しくなったようで、四人とも赤い顔で胸を押さえていたのだった。


「皆さんようこそお越しくださいました、セオとルイの義母です。これからも二人と仲良くしてくださいね」

「「「「はっ……は、はい!」」」」


 お母様に会った事で機能停止状態になってしまった四人の手を引っ張り、私の小屋へと向かう事にした。セオが作った剣などを見て見たいと言って居たので、先ずは鍛冶室に行くこととなった。ココが後ろから付いてきていたが少しづつ慣れて来ているようで、そこまで怯えることは無くなっていた。特にトマスとコロンブはセオのモディを知っている為、ココに話しかけるまで出来るようになっていた。帰るまでには仲良くなれそうだ。


「ココ、俺はトマス宜しくな」

(トマス ナカヨクスル セオ トモダチ)

「俺はコロンブだ、仲良くしてくれよな」

(コロンブ ナカヨクスル ルイ トモダチ)


 ココは話しかけられて嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねていた。やっぱりウチのココは世界一可愛い銀蜘蛛だ。マティルドゥとアデルも時間が経てばこの可愛さにメロメロとなるだろう。


 小屋へと入ると、外観の可愛い見た目と中の広さのギャップに皆また目を丸くしていた。今日は驚いてばかりだと、ぼそりとトマスが呟き、他の子達はそれに頷いていたのだった。


 鍛冶部屋ではセオの作った剣に皆が興味津々だった。騎士を目指す子達だけあってセオの作った物がどれだけ素晴らしいかが分かる様だった。


「スゲー……カッコイイぜ……」


 コロンブがセオの剣を手に取りなめるように見ていた。コロンブはどうやら有名な武器屋の息子の様だ。武器を作る者が剣を使えなくてどうすると父親に言われ、騎士学校に入れられたそうだった。貴族が多い学校で肩身の狭い思いをするのは嫌だなと思っていたが、ルイと寮で同じ部屋になった事で貴族から嫌がらせを受けることも無いのだと笑って教えてくれた。


「最初ディープウッズ家の子と同じ部屋だって聞いてさー、学校辞めようかと思ったぐらいだったんだぜー」


 今だから笑えるが最初の日はルイを前にとても緊張していたのだそうだ。

 でもルイが自分はスラム出身で拾われた子だから、ディープウッズ家って言っても気にしないでくれと気軽に話しかけてくれたことで、随分と気軽になったのだそうだった。


 そしてトマスはと言うと、やはりセオと同室で緊張していたそうだった。同じ部屋にした学校を恨んだぐらいだったそうだ。


「でもさ、初日にそんなのどうでも良くなっちゃったんだよ、セオってば風呂とトイレを急に改装しだしたんだからなー」


 手早い作業にあっけに取られていると、今度はルイの部屋も改装するんだと言ってセオは何食わぬ顔で出て行ったそうだ。そして数十分で終わらせて戻ってくると、一緒にお風呂に入ることになったそうだった。


「そしたらセオの奴、モディ出すんだぜー、腰が抜けるって言うのー!」


 皆今だからハハハッと笑って居るが、最初モディを見たときの驚きは酷かった様だ。良く気絶しなかったものだと自分を褒めてやりたいぐらいだとトマスは笑って言って居た。

 でもモディと仲良くなるとその肌触りが最高で、暑い日とかは良く触らせてもらって体を冷やして貰っているのだと教えてくれたのだった。


「セオとルイったら初日の授業前に、クラスの皆にクッキーを配ったのよ」


 マティルドゥがクスクスと笑いながら教えてくれた。スター商会でご近所付き合いを学んでいる彼らはクラスの子達と仲良くしようとお菓子を配ったのだった。


「それ、寮でもやってた! 俺も貰ったし、同じ階の奴らは殆ど皆貰ったんじゃねーの?」


 それを聞いていてアデルが羨ましそうに「良いなー」と呟くと、ノアが自分の鞄からクッキーを取出しアデルに渡していた。アデルが明るい顔でお礼を言うとノアは満足げな顔をしていたのだった。男の子達が武器に夢中になっている所で、私とノアはマティルドゥとアデルを連れて裁縫室へと向かった。明日の為に二人に似合うドレスを作ろうと思ったのだ。


 裁縫室に着くと色とりどりの生地やリボン、レースが有る事にマティルドゥとアデルは「きゃー、綺麗ー」と可愛い声を上げていた。何色が似合うかなと生地を当てながら選んであげて、今夜のうちに私とノアとオルガで二人のドレスを作ることにしたのだった。


「えー、ララちゃんもノア君もドレスが作れるの?」


 私達が頷くとマティルドゥとアデルは顔を見合わせて驚いた。自分たちより小さな子がそんな事が出来ることが不思議でしょうがない様だった。


「うちは四人姉妹なの、それであたしは末っ子。洋服は全部おさがり、だからとっても嬉しいわ、二人共有難う!」


 確かに今日アデルが着ている服はお古かなと思えるものだった。それでも以前のブルージェ領の領民たちよりはずっとましな服だろう。でもアデルは女の子だ、自分の洋服が欲しいと思うのは当たり前だと思った。


「二人の為なら僕が幾らでもドレスを縫うよ、任せて」


 ノアが二人の手を取りそう言うと、アデルとマティルドゥはカーッと顔が一気に赤くなってしまった。お母様譲りの笑顔はやはり破壊力満点のようだ。末恐ろしい兄である……

 採寸も済み、セオ達に声を掛けてお昼を取る事にした。小屋の中のキッチンに向かい、クルトが皆にお茶を入れてくれた。


「さて、何か食べたい物は有りますか?」

「俺、唐揚げ定食が食べたいです! 前にセオから貰ったけどスッゲー美味かったー!」

「俺はカツ丼! ルイから貰ったけどめちゃくちゃ美味いんだよー!」


 セオもルイも魔法鞄に沢山食事を持って行っているので、食堂で食べられない日が有った時は鞄から出して食べているそうなのだが、同室の二人の胃袋もキッチリ掴んでいる様だった。流石スター商会の一員だと褒めてあげたくなった。


 アデルとマティルドゥは何が良いのか分からないそうで、メニューはお任せしますとの事だった、なのでモデストの蒲焼があるよと伝えると、何故かトマスとコロンブも食べたいと言いだし、二人は唐揚げとカツ丼を合わせた二食を食べる事となった。流石男の子、凄い食欲だ。


 食後はお待ちかねのアダルヘルムとマトヴィルからの指導の時間となった。皆訓練着に着替えて裏庭に集合だ。

 アダルヘルムとマトヴィルの賢獣、アルとアーニャと、そして勿論可愛いココとモディとルイの賢獣のオッティモも参加する。四人とも憧れのアダルヘルムとマトヴィルを前に、緊張気味の表情だった。


「「「「宜しくお願いします!」」」」

「ふむ、先ずはそれぞれの動きを見せてもらいましょうか」

「よっし! その間にセオとルイはどれだけ成長したか俺と手合わせするぞ!」

「「はい! 師匠、宜しくお願いします!」」


 ノアはオルガの所へ行って、アデルとマティルドゥのドレスを早速作ると言って屋敷へと行ってしまった。


 なので私はクルトと賢獣たちと訓練をすることにした。

 クルトは今まで自己流の喧嘩殺法の様な戦い方だったが、ディープウッズ家に来てマトヴィルから武術の基礎を学び、かなり強くなっている。クルトはこんな年齢になってから強くなれるとは思っては居なかったと喜んでいた。私を守る為にも強くなりたいのだそうだ。有難い事だと思った。


 アダルヘルムとマトヴィルの指導は熱がこもっていた様で、終わった時には友人達四人はヘトヘトになっていた。

 私が四人に癒しを掛けて上げると、驚いた顔をした後で「ありがとう」とお礼を言ってくれたのだった。


 汗をかいたので皆で大浴場へと行く事になった。

 モディは男の子達と、ココは私達女の子と一緒に入ることにした。体が大きくなってきたので泳ぐのならば別々が良い様だった。


 お風呂場に行くとアデルとマティルドゥは歓喜の声を上げた。こんなに立派で大きなお風呂は初めてなのだと喜んでくれた。

 私は二人にシャワーの使い方やシャンプーやリンス、ボディソープの説明などをした。

 その横でココが慣れた手つき? (足つき?)で全身を洗う姿は、泡がもこもこで面白かった様で、二人共クスクスと笑っていた。


 私は二人の体のある部分を見て羨ましくなった。それは今現在私がペッタンコな所だ。二人には膨らみがあり、私もあの歳になれば……とちょっと期待した。早く大人になりたい物だとぺったんこをまた見ながら、ふーとため息をついたのだった。


 皆で湯船に浸かりながら何気ない話をする。ココだけは女子トークに混じらず、水黽泳ぎの練習をしていた。


「あたしね、トマス達から寮のお風呂を改装した話を聞いて、凄く羨ましかったの。女子寮にも来て貰いたいって思ってたの……だけど流石にセオに女子寮に来て貰う訳にも行かなくて諦めていたんだけど……今日このお風呂に入ったらやっぱり改装して欲しくなっちゃった……寮長に話せば可能かしら……」

「うーん、難しいかも……男子禁制だし……」

「やっぱりそうだよねー」


 アデルとマティルドゥは二人同時に 「はー」 とため息をついた。息ぴったりなその様子に仲良くなったなと嬉しくなった。


「じゃあ、セオ達を新学期に送る時に、私が二人のお部屋を改装して上げる」

「「えっ?! ララちゃんが?」


 私は頷くとセオよりも改装は得意なのだと自慢した。

 二人がとても嬉しそうに「宜しくお願いします」と言って来たので、私も仲良くなれて嬉しかった。

 セオの様に担任の先生にだけ許可を取って欲し事を伝えると、マティルドゥは担任がカエサルなので問題無いと言い、アデルはうーんと少し難しい顔になった。なのでどうしてもの時はその先生の部屋も改装するからと伝えると、ホッとした様子になったのだった。Dクラスは厳しい先生の様だ。


 お風呂から出るとアリナが用意してくれたワンピースに着替え、私の部屋へと向かった。今日はリタやブライス、アリスも含めて子供達だけで私の部屋でディナーだ。

 クルトやドワーフ人形のスノーとウィンが給仕をしてくれる予定だが、庶民の子がいるので気軽な食事になるだろう。


(オショクジ オモチイタシマシタ)

「スノー、ウィン、ありがとう」

「ありがとうございます」


 子供達だけで食事を摂りながら色んな話をした。

 特にスター商会には興味を持ってくれた様で、明日案内する事にしたのだった。

 彼らの冬の長休みの良い記念になれば良いなとそう思うばかりで有った。


 こうして楽しい前夜はゆっくりとふけて行ったのだった。


 

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