第270話 冬祭り前日

冬祭りの前日となった。

 私とセオとノアとルイとクルトは今王都の屋敷に来ていた。これからセオとルイの友人を迎えに行くのだ。


 騎士学校の友人が遊びに来たいと言って居る話をアダルヘルムにはクルトがしてくれた。私が誘ったのだがそこは上手に話してくれたようだった。

 アダルヘルムは先ずはどんな相手なのかとクルトに聞いてきたようで、平民の子と、騎士家の娘だと伝えるとすんなりと許可が下りた様だった。

 きっと王子とか、高位の貴族家の子だったりしたら許可は下りなかったのだろう。あの事が有っただけに想像が出来たのだった。

 

 あの事とは勿論レチェンテ国の第三王子であるレオナルド・レチェンテが、お迎えの時に傲慢な様子で話しかけて来たことだ。

 彼の護衛が私に手を掛けようとした話もクルトはアダルヘルムに伝えたようで、笑顔がとっても怖かったのだと、思い出し震えをしながら教えてくれた。


 私には怪我も無くマトヴィルが護衛を止めてくれて問題も無かったのだから、アダルヘルムに伝えなくても良かったのではないかと思ったのだが、そこはクルトもあの王子と護衛には腹を立てて居たようで、絶対にアダルヘルムに伝えてやろうと思っていたのだと、悪い笑顔で教えてくれた。「俺の主を馬鹿にする奴はぶっ殺す」と怖い事を言って居たので嗜めるのが大変だった。


 そして困ったことにこの事がベアリン達の耳にも入ってしまった。

 アダルヘルムからなのか、クルトからなのか、それとも両方からなのかは分からないが、「レチェンテ王室を闇討ちに行く」と、こちらも危ない発言をし出したので止めるのに一苦労した。


 そこはセオが役に立ってくれて。

 学校で正々堂々とレオナルド王子を良く分からせるから(痛めつけるから)安心してくれと、ちょっとあくどいような笑顔を見せて皆を納得させていたのだった。

 どうやらレオナルド王子はディープウッズ家で相当嫌われてしまった様だ……可哀想に……


 レオナルド王子も悪い子では無く、世間知らずなだけだから優しくしてあげて欲しいと皆に話すと、ベアリン達やクルトは涙ぐんで「やはり聖女様だ……お優しい……」と呟き、アダルヘルムとセオは尚更怖い笑顔になっていたのだった。もうレオナルド王子の事は話題に出すのは止めようとその笑顔を見て誓った。セオが段々アダルヘルム化しているのがちょっと怖いと思ってしまった。


 今日、セオとルイの友人達とは騎士学校の前で待ち合わせをしていた。マティルドゥ・シモンは騎士家の子なのでともかく、残りの子達は平民だ。馬車で王都にある我が家の屋敷まで来るようにと行っても無理なのは分かっていた為、こちらから迎えに行く事にしたのだった。


 トマスとコロンブは平民だか、その中でも裕福な家の子達の様だった。

 ユルゲンブルグ騎士学校は有名な為、学費がかなり掛かる、標準的な家庭の子では通うのは難しい様だった。

 それに入学試験だが、学科はともかく、武術と剣術の試験は他の騎士学校に比べてもかなり厳しいそうだ。貴族家の子は幼い頃から教養として剣術などは習う為、入学前に集中的に指導すれば問題は無い様だが、そうはいかない庶民の子が試験に合格するのは難しい事なのだそうだ。

 その為庶民であるトマスとコロンブの二人が学校に入学出来ただけで十分な成果の様だった。このままの成績でも卒業時には大店などからの就職の誘いが多くあるだろうと、アダルヘルムが教えてくれた。そう考えるとトップの成績を保っているセオはとてもすごいのだなと改めて感心したのだった。


 かぼちゃの馬車に乗ってユルゲンブルグ騎士学校前に着くと、友人達は揃って待っていた。そしてその中にはこの前のお迎えの時に会わなかった、ピンク色の髪をボブヘアーにした可愛いらしい女の子も一緒に居た。それとマティルドゥ・シモンのお兄さんも保護者のような様子で付き添っていたのだった。


「「おはよう」」

「「「「「おはよう」」」」」


 セオとルイが先に馬車から降りて朝の挨拶をすると、皆が元気に声を返してくれた。私とノアもクルトの後に馬車から降りると、お母様似の美しいノアの姿を見て、男の子もお兄さんも含め、皆が頬を染めたのが分かった。ノアの笑顔は破壊力満点のようだ。


「あ、あの……初めまして、アデルです。アディって呼んで下さい。その……私まで一緒に来てしまって申し訳有りません。今日は宜しくお願いします!」


 ピンク色の髪の女の子はアデルといってトマスとコロンブと同じDクラスの様で、平民の女子というのがDクラスには彼女しか居ないらしく、トマスとコロンブと仲良くしている様だった。それで今回トマスとコロンブから彼女も誘って良いか? と聞かれ一緒に来る事になったのだった。


 ノアは優しい笑顔を浮かべたままアデルに近づくと手を握った。そして「楽しみにしてたよ」と声を掛けるとアデルは真っ赤になってしまったのだった。我が兄ながら乙女心を簡単に掴んでしまうとは……恐ろしいものだ。


 マティルドゥのお兄さんに挨拶をして早速ディープウッズ家に向かう事にした。お兄さんはやっぱり自分も誘って欲しそうな顔をしていた。ここまでお見送りに来たのもその気持ちがあっての物だろう。だが今回は心を鬼にして別れを告げたのだった。

 あれだけ大きな体でシュンとなる姿は可哀想だった。次回は誘ってあげようとそう思ったのだった。



 かぼちゃの馬車に乗り込むと皆が目を丸くした。10人は軽く乗れそうな馬車の広さに驚いたようだ。


「何だこの馬車! スゲー!」

「座席がふわふわしてる、柔らけー!」


 馬車の内装に目をキラキラさせて驚いている四人はとても可愛いかった。ノアもニコニコとしてその様子を見て居て、私と同じ気持ちなのが分かった。


 馬車の中でセオとルイの学校での様子を皆に教えて貰った。まずトマスとコロンブがDクラスと、Aクラスのセオとルイとはクラスは別の為、寮での様子を話をしてくれたのだった。


 寮は王族のレオナルド王子と大公の息子のアレッシオ・ユルゲンブルクは一人部屋の様だ。セオとルイも一人部屋が良いかと入学前に打診があったそうだが、そこはアダルヘルムが学生なのでと皆と同じにしてくれと言ったそうだった。

 ディープウッズ家という事での特別扱いはやめてほしいと前もって校長にアダルヘルムが脅して……いや、お願いしてあるのだとセオ達が教えてくれた。


 寮でセオは学生の見本の様な生活をしているらしい。誰よりも早く起きて朝練をし、夕方戻れば勉強しているのだと同じ部屋のトマスがセオを尊敬した様子で見ながら教えてくれた。セオは友人に褒められて少し恥ずかしそうだった。

 ルイはと言うと目覚ましを大音量にして何とか起き、セオに付き添い朝練をしているそうだ。勉強はたまに疲れ切って寝てしまう日以外は毎晩頑張っている様で、同じ部屋のコロンブが笑いながら教えてくれた。ルイはへへへっと照れくさそうに笑っていたのだった。


 教室での様子は同じAクラスのマティルドゥが教えてくれた。ディープウッズ家の子とあって、最初の頃は遠巻きにしている者も居たそうだが、セオは面倒見が良いので今ではすっかり兄貴分として馴染んでいるそうだった。ルイも俺は養い子だからと気取った様子を見せないのですっかりクラスのお調子者……いや、人気者になっている様だった。


「レオナルド王子はクラスで浮いていて……『護衛を通してから話しかけろ』って言ったりするから、皆声を掛けなくなってしまったの……」


 レオナルド王子は迎えの時のあの様子をクラスでもやっているそうだ。卒業までに友人が作れるのかと心配になってしまった。何とかしてあげたい物である……


「俺たちセオのお陰で二年生からはBクラスに行けそうなんだ!」


 トマスとコロンブはセオに勉強や剣術、武術の稽古を付けて貰っている為、今回の前期の試験の成績がかなり良かったそうだ。後期の試験も同じ様な成績を取れればBクラスは確定の様だった。


 この話になった途端アデルの顔が曇ったのが分かった。トマスとコロンブの二人がBクラスに行ってしまうとクラスに仲が良い子が居なくなってしまうのだろう、不安になっても仕方がないなと思った。


「アディ、良かったら私が勉強を見ましょうか?」

「えっ? ララちゃんが?」

「私はドリル……あー、勉強の問題集を作るのが得意なので、教えられると思いますよ。それに学校が始まったらこれからはセオとルイに教われば良いと思いますよ」

「えっ? えっ? 良いの?」


 自分より小さな私が勉強を教えて上げると言ったからかアデルはキョロキョロっとしてセオやルイの事を見ていた。二人が頷くのをみるとホッとして頬を染め「ありがとう」と呟いた。頑張ればBクラスに一緒に上がれるかもしれないと思って少し安心したようだった。


「私も参加させて貰えるかしら?」


 話を聞いていたマティルドゥが小さく手を上げてそう言って来た。頬と耳も赤くなっているので、きっと勇気を出してお願いしたのだろう、そうと思うと、可愛いなと感じてニヤケそうになってしまったのだった。


「勿論良いぜ、なっ、セオ」

「うん。皆んなで一緒に頑張ろう」

「あ、ありがとう……」

「あたしも女の子一人じゃなくて嬉しいわ、マティちゃん仲良くしてね」

「うん……よろしく……」


 可愛い女の子二人が友人になる姿を、皆で温かく見守ったのだった。

 

 可愛い……可愛すぎる……


 馬車がモロロの森の中に入り屋敷が見えてくると、皆が「おおー!」と歓声を上げた。綺麗なお城に驚いたようだった。


「スゲー……城だ……」

「ええ……? これでどうやってディープウッズの森に行くんだ?」

「凄い綺麗ねー、ね、マティちゃん」

「うん、素敵……」


 屋敷に着くとかぼちゃの馬車をしまい中へと進んだ、皆口をポカーンと開けて可愛い顔をしていた。危ないからとノアはマティルドゥとアデルの間に入り二人と手を繋いで歩かせていた。放っておかれたトマスとコロンブはよそ見のし過ぎでつまずき放題だった。


 転移部屋の前に着き、皆に転移用の簡易ペンダントを渡しながら説明をした。

 これからこの部屋を使ってディープウッズの屋敷に転移をすると話すと、口だけでなく目までまん丸にしていてとても可愛かった。前世ならば中学生ぐらいの彼らもまだまだ可愛い物だなと、自分の目じりが下がるのが分かった。


 あっと言う間に転移してディープウッズ家に着くと、部屋の前にはアダルヘルム、マトヴィル、アリナ、オルガ、そしてココが待ってくれていた。時間を見計らって待機してくれていたようだった。


「セオとルイのご友人方ようこそディープウッズ家へお越しくださいました。どうか楽しんで行って下さい」


 アダルヘルムがそう言って微笑むと皆がその笑顔に打ちのめされて真っ赤になったのだった。



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