第149話 閑話21 女子会
今日はララが企画したスター商会の ”女子会” が開催される日だ。
定休日を使ってララが作った新作料理をランチに食べながら、女子従業員全員で【女子トーク】をするのだ。
初めての女子会に楽しみ一杯のララは既にスター商会に来ていて、先程会場である応接室に料理を置きにきた。今は子供たちの様子を見てくると言って、子供たちが遊んでいるであろう裏庭へと向かって行った。
子供たちも定休日は勉強もお手伝いもお休みで、名一杯遊ぶ日だ、ララは何やら新しい玩具を作ってくれたらしく、子供たちに持っていくのだと言って張り切っていた。
ララは6歳で自分も子供なのにもかかわらず、スター商会で働く子供たちをとても可愛がっている、自分も幼子なのにまるで母親の様にかいがいしくしてくれていた。
先日は 「みんな私の孫みたいなものだわ」 なんて冗談を言って、その場にいた大人たちを笑わせていた。本当に会頭であるララは面白く、慈悲深い人であると、ここで働く皆がそう思っているのであった。
ララが置いて行った料理はカプレーゼ、プルスケッタ、バーニャカウダ、ローストチキン、ローストビーフ、ラザニアとパエリアと言って、見たことも聞いたことも無い、とても美味しそうな料理であった。その上、この他にデザートもあるのだと言ってララは笑っていたのだ。
こんな豪華な食事を6歳の女の子が一人で作り、当たり前のように皆にご馳走してくれる事を、驚き感謝する女性従業員達なのであった。
そしてやはりディープウッズ家の者というのは、ケタ違いに凄い一族なのだとララの行動を見て、改めて実感する皆なので有った。
テーブルに食事を並べ準備をすると、ララが来るのを席について待った。
今日の参加者はブリアンナ、マイラ、ナッティー、ペイジ、ノエミ、ミリー、ミア、ロージー、アイラ、ジェシカ、ブランディーヌ、キャーラ、ビオラ、レベッカ、マルタそして何故か男性であるニカノールもいる。
「ちょっとニカ、今日は ”女子会” ってララ様が言ってたわよ、あんたいちお男でしょー」
「あら、マルタ固いこと言わないでよ、美容の話とかするのに、あたしがいなきゃ始まらないでしょ」
「あ、あの、ニカ様がいらっしゃると私も嬉しいですわ」
「まあ、ノエミちゃんありがとう、いい子ね」
ノエミがニカノールの微笑みにうっとりとしている所へ、会頭のララがやって来た。ニコニコととっても嬉しそうな顔をしている所を見ると、女性従業員同様にこの女子会を楽しみにしていたようであった。
「それでは早速食事にいたしましょう!」
ララの合図で女子会が始まった。真昼間だと言うのに今日はお酒も置いてある。ララが発明したビールやウイスキー、梅酒や日本酒、ブランデー、ワインもある。それぞれが好きな飲み物を選び乾杯をした。
「わー! 今日のお料理は一段と美味しいです」
ナッティーが料理を食べて嬉しそうに頬を押さえている、隣にいるペイジも幸せそうに頷いている。
ワイワイと皆が盛り上がっている所に、ララは女子トークに欠かせない ”恋バナ” を出してみた。前世では話した事など無い話題だ。
「そう言えば、ミリーはトミーとはどうなのですか?」
ララの突然の問いにミリーは真っ赤になり、スプーンを落としそうになってしまった。動揺しているのが丸わかりでとっても可愛い。新しく来たばかりのメンバーは二人が良い仲だとは知らなかった様で、「キャーキャー」 言いながら盛り上がっていた。
「いえ、そんな……どうとかは……」
ミリーは特に何もトミーから言われてはいないようだ。だが顔を見ればミリーがトミーの事を好きなのはすぐに分かった。トミーに至っては普段から丸わかりである、これは何とかしなければと思うララなのであった。
「ララ様、最近ナッティーとモシェはいい雰囲気なのですよ」
こっそりとミアがそんな事を教えてくれた。どうやらモシェの方はナッティーに恋しているようで、ナッティーの方は友達以上恋人未満ぐらいの感覚でいる様だ。こちらも何かきっかけを作ってあげたいなと思う、世話好きおばさんのララであった。
「そう言えば、ミアは二人目は作らないの?」
キースとドロシーの母であるジェシカが何気なく聞いたが、ミアの顔は曇ってしまった。一人目のピートは結婚してすぐに出来たのだが、二人目はなかなか出来ないようだ。アーロも子供好きの為、出来れば早めに二人目が欲しいと思っているのだとミアは言っていた。
「もう私もこんな年ですし……」
二十代半ばのミアがそう言うので、ララは口に含んだ飲み物を吹き出しそうになってしまった。この世界は結婚が早いため、出産年齢も早く、二十代半ばともなると焦ってしまうようであった。
「ミ、ミア、出産に適しているのは20代ですよ、それに三十代でも十分に出産は出来ますから焦らないでください」
盛り上がっていた部屋がララの言葉を聞いて急に静かになった、子供が妊娠出産に詳しいのに驚いたようだ。勿論蘭子時代の記憶のお陰なのだが、そこはお母様から医学を学んでいるのだと言ってごまかした。
そして出産や妊娠など前世の記憶を基に説明を始めると、皆真剣な表情で話しを聞いていたのだった。何故かニカノールもだ。
その後は男性陣の話になった、どこの世界でもそうだが、女性はアイドルや俳優など可愛くて綺麗な生き物が好きである。スター商会にはイケメン男子が沢山いるので、盛り上がる気持ちはおばさん女子のララにでも十分に理解できたのだった。
「アダルヘルム様とマトヴィル様は別世界の生き物に見えるわよねー」
「本当に、ブルージェ領ではファンクラブが出来てるらしいのよ、凄いわよねー」
「私もレジに立っていた時に、お二人が今度いつ来るのかとお客様に聞かれました」
まずはイケメン代表のアダルヘルムとマトヴィルの話で盛り上がる。ララは自分の家族が褒められて嬉しくて鼻が高くなった、自分の事ではないけれど家族が褒められるのはとっても嬉しい。
「リアム様にもファンがいらっしゃるみたいですよ」
「「あー……リアム様はお気の毒よねー」」
リアムの話が出て何人かが苦い顔になった。リアムは副会頭という立場から、打算的に近づいてくる女性が多いのだ、リアムの中身を見る前に、美しい外見とスター商会の金や貴族との繋がりなどに目を向けられてしまう為、本来のリアムの良いところに気が付いてくれるような女性には中々出会えないのではと、皆が心配していた、それに――
「リアム様って……ほら、ねえ……辛そうな恋をしてらっしゃるでしょう?」
リアムの好きな相手を知っているようで、皆が同情したような表情を浮かべていた。それを見たララは驚いた。まさかリアムがセオに恋している事を、皆が気が付いているとは思っていなかったからだ。
「みんな……リアムの気持ちに気付いていたのですか?」
「「ええっ! ララ様こそ、リアム様のお気持ちが分かってらっしゃったのですか?」」
ララが頷いて見せると、皆は驚き、顔を見合わせていた。
「皆さん、リアムがセオを好きな事は内緒にしてくださいね」
「「えっ?」」
「セオが成人するまではリアムには手出しさせない予定でいます、なので協力してもらえると嬉しいです」
ララの言葉を聞くと皆が気の毒そうな表情を浮かべて頷いて見せた。勿論誰一人として6歳児のララに 「リアム様は貴女の事が好きなのですよ!」 と突っ込むことをする者はおらず、まだ暫くはララの勘違いは続くようであった。
「皆さん結婚相手としてなら誰を選びますか?」
「えー……やっぱりビル君かしら?」
「あ、私も同じ、ビル君もカイ君もいい子よねー」
「とっても気が利くのよね、それに子供たちとマルコ君の面倒もよく見てくれるし」
ビルとカイ兄弟の評判は高い様だ、残念なのは自分たちよりも若すぎることだとキャーラ達は言っていた。ニカノールが 「子供に手を出さないでよ」 と言って隣で注意していた。
すると、ブランディーヌがララの方に良い笑顔を向けてきた。
「ララ様はどんな男がタイプなんだい? やっぱりセオ様かい?」
ブランディーヌの言葉を聞いて皆がごくりと喉を鳴らした。ララは6歳児の恋心なんてみんな聞いてもしょうがないのではと思ったが、ニカノールを始め、この場に居る皆に真剣に見つめられたので、しょうがなく答えることにした。
「うーん、セオはとっても大事ですけど、兄弟って感じですね……」
「兄弟かい……まあ、一緒に居る時間が長いからね……」
「ララ様、ウチのタッドとゼンはどうでしょうか?」
「タッドとゼンですか? うーん、可愛くて弟(本当は子か孫ぐらいかな)のようですね」
「ララ様、ピートはどうですか?」
「ピートはそれこそ本当に弟(子か孫)の様ですね」
中身アラフォー女性のララからすると、幼い子供たちは自分の子か孫としてしか見えないのだが、そんな事は知らないスター商会の女性陣は、同じ年代の男の子たちに興味が無い様子のララの事が少し心配になったのだった。
「そ、それじゃあ、ララちゃんはどんな人が理想なの?」
ニカノールの質問にララは頭をフル回転して考えた。6歳児の女の子が答えるとしたら、どうしたらいいだろうかと――
「それは……勿論、お父様です!」
「「ア、アラスター様?!」」
「そうです、お父様を越える様な男性こそ私の理想のタイプです!」
ララは百点満点の自分の答えに満足して胸を張ったが、ララの父親のアラスターがこれまでどんな偉業を成し遂げてきたのかを知っている女性たちに取っては、ララの理想は高すぎて、一生結婚できないのではないかと不安になる物なのであった。
食事の後はお待ちかねのデザートだ。
ララは魔法袋からある魔道具を取出しセッティングを始めた、今日はチョコレートの噴水を作ってチョコレートフォンデュにする予定なのだ。様々な果物も取出し、チョコレートを魔道具に流し込むと皆が目を輝かせ、歓声も上がった。
「「ララ様! 凄いです! 綺麗、素敵、美味しそう!」」
女性陣がチョコレートフォンデュにとても喜んでくれたので、ララは魔道具を頑張って作って良かったなと、満足した。
こうして皆が喜んでくれる姿を見ることがララにとってのご褒美でも有るのだ。蘭子時代料理をしても裁縫をしても誰に褒められることもなかった、勿論自分の為のものであって、褒められたくてやっているわけではないのだったが、それでも虚しさや寂しさは常に蘭子の心に付いて回っていたのだ。
それが今はこんなにも沢山の人達が、自分の作った料理に喜び感謝をしてくれていた、それだけでこの世界に来たかいがあったなと思うララなのであった。
この後女性従業員から、ララに恋心を抱いている男性陣に、ララの理想のタイプがアラスターだとの話が飛んでいき、男性陣は目標に届くようにと益々仕事や日々の生活に気合が入り、自らの価値を高めていった。
こうして魅力が益々上がったスター商会の男性従業員を ”結婚相手” にと望む声が、ブルージェ領全体に広がっていくのだが、それはまた別の話である。
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