第142話 新魔道具と友人たち
「えーと……スター商会の会頭のララ・ディープウッズです」
私がキチンと名乗るとニカノールの友人達は真っ青な顔になってしまい、 ディ、ディープウッズ…… と小さく呟いているのが聞こえた。
いつもの事だがディープウッズと名乗るだけで、何で皆固まってしまうのだろうか、凄いのはディープウッズの名ではなく、お父様とお母様なのに……と私は皆の様子を見ながら思っていたのだった。
固まってしまった皆を見かねてリアムが声を掛けた、何だか先日の燐家購入の時のチャーリー達みたいだなとぼんやりと思っていた。
「彼女が会頭であることは、ここだけの話にして頂けると助かります」
皆がブンブンと力強く頷いていた、せっかく綺麗にセットしてある髪が乱れてしまって申し訳ない気持ちになった。美人が台無しである。
まだ声が出せそうにない彼女たちに、ジョンが新しく冷たいお茶を用意してくれた。季節的には温かい飲み物の方が良いだろうが、一気に飲み干した彼女たちの様子を見ると冷たい飲み物で丁度よかった様だ、流石気が利くジョンである。
「それで、どうでしょうか? ここで働いていただけますでしょうか?」
お茶を飲み干してグラスを置いたブランディーヌが ふーっ と息を吐くと、リアムの方に顔を向けた、そしてやっと声を絞り出したのだった。
「仕事内容を聞いても良いかい?」
リアムは良い笑顔で頷くと仕事内容を話し出した。ここに来てからずっと商人らしい笑顔をみせている、普段とは別人で、ちょっとカッコイイなと思った。
まず、スター商会で新しくブティック兼化粧品店を作る話から始めた、そこの店長にはニカノールを置くことを話すと、皆がニカノールに温かい視線を送っていた。まるで大切な弟が何かに合格したことを喜んでいるような皆の視線に、私まで心が暖かくなり、ニカノールはほんのり頬を染めていた。
そして、その店で皆に従業員として働いてほしい話をした、自分達が出来るのかと不安そうな表情を浮かべていたので、リアムがきちんと教育する話をした。
「それでもさ……貴族なんかが文句を言ってきたらどうするんだい?」
後ろで話を聞いていたレベッカが口を挟んできた、庶民からすると貴族の相手をするというのは覚悟がいる様だ。立場が違うからと言って無理難題を押し付けてくる人がいるのかもしれない、タルコット達のように、すぐに庶民である商人のスター商会になじめることの方が、珍しい事なのだろうなと思ったのであった。
そこで私はブティック兼化粧品店の在り方を話すことにした、従業員が不安で働きづらい様では良い店とは言えないからだ。
「店のある部分は、会員制にしようと思っています」
「「「会員制?」」」
何故かリアム達までも 聞いてないぞ という表情で私を見てきた、それもその筈、ずっと考えていたが誰にも話しては居なかったからだ。リアム達にも頷いて話を続けた。
「化粧品や衣類などの販売は誰でも購入できる形にして、魔道具を使った美容系のお手入れは、会員制にしようかと思っています」
私は魔法鞄から呆けている皆の前に作ったばかりの魔道具を取り出してみせた。
美顔器や美尻マッサージ器、美脚器、それと脱毛器を作ってみた、どれも前世では当たり前のような物だが、この世界には無い物だ。皆がどういった物なのか分からず首を傾げていた。
私は魔道具の使い方を皆に一つづつ説明をした、前世の自宅で使える様な器具なので簡単な説明だけでもすぐに理解してくれた様であった。
女性たちが美容器具に盛り上がる中、リアム達男性陣は居たたまれないような表情を浮かべていた。女性の秘密にしたい部分を目の当たりにするのは、商人といえども流石に気が引けるようであった。
特にジュリアンは純情なのか顔を真っ赤にして、なるべく女性たちを見ないようにしていた、護衛対象がいなれば目も耳も塞ぎたかったに違いないだろう。
女性たちの様子を見ながら落ち着いてきたリアムが私の肩をちょいちょいと指で叩いてきた、何か話がある様であった。
「ララ……まさか……あの魔道具を販売するとは言わないよな?」
私は安心させるように笑顔で首を振った、あの魔道具はスター商会限定なのだ、そうでなければ会員制の利益が無くなってしまう。自宅で出来るのならわざわざ会員になる必要はないだろう、それに魔道具はかなり高価な物になる為、販売しても売れる気がしなかったのであった、そこで――
「この、別で作った美容魔道具の【フェイスローラー】は販売しようと思ってるの」
銀色のフェイスローラーを何個か取り出すとリアム達は口を開いて固まってしまったので、取り敢えずリアムの手にフェイスローラーを持たせてみた。
そして目の前で使い方を説明する、顔のマッサージで有り、小顔効果やリストアップ、むくみ改善の効果もあるのだと教えてあげると、その話が聞こえた女性たちが(ニカノールも含む)フェイスローラーにも興味を持ったようで、使ってみたいと言い出したので、少し魔力をハンドル部分に通して使うのだと教えてあげると、順番に使い始めとても評判が良かったので安心した私であった。
「女性は年齢と共にたるみが気になりますからね、魔力の効果でかなり改善されると思いますよ」
女性たちはキャッキャッと喜んでいたが、リアムはとうとう頭を抱えて俯いてしまった。これも女性の知りたくない部分だったのだろうか? と少し理想を壊してしまって申し訳ない気持ちになった。
ニカノール達が嬉しそうにしているので、今度は別の魔道具を出してみた。ネイルプリンターだ。
代表してニカノールの指にネイルを施すと、皆が驚いた顔になった。爪に綺麗な模様が付いたので信じられないと驚いた顔になり、さっきまでの騒がしい様子は消え、黙り込んでしまったのだった。
リアムはさっきまで頭を抱えていたのに、復活して興味深げにニカノールの爪を覗き込んできた。なのでついでにリアムの爪にもネイルを施してあげる、リアムには大好きなブレイデンの顔のネイルにしてあげた、これで少しは元気になるかな? と思ったのだが、何故か最近よく見せる、無我の境地の表情になってしまった。何かいけなかっただろうか……
「ララ様……これは売り物では……?」
リアムが動かなくなってしまったので、代わりにランスが話しかけてきた。勿論これもスター商会限定の魔道具にする予定であるので、首を横に振った。
売り物は普通のマニキュアだけだからだ。魔法鞄から作ったマニキュアを10色ほど取り出した、マニキュアが浸透していないこの世界で受け入れられるように、ベージュやピンクなどそれ程目立たない色を選んで作ってみた、これなら気に入ってもらえるだろう。
ふと皆の方を見ると、私を見つめ固まってしまっているのに気が付いた、セオだけは私の後ろでまた笑いをこらえて居る様だったが、リアムもランスも頭が痛いと言った風にこめかみを押さえて動かなくなっていた。
ニカノールもブランディーヌ達も綺麗な顔が台無しになるぐらい口を開けポカンとしていた、まるで幽霊にでも会ったかのようであった。
「……ララちゃん……まさか……これ全部ララちゃんが一人で作ったの……?」
ニカノールはスター商会に来て私が作った物を見て居るはずなのに、何故その質問をとも思ったのだが、衣装は私が作ったと言ったことはあるが、魔道具は作ったところを見せて居なかったことを思い出した。
なので頷いて今後も色々と作る予定でいることを話すと、何故かニカノールまで頭を抱えてしまった。 不思議だ……
「お嬢ちゃん……いえ、姫様……ニカノールとこの子達の事をお願い出来ますか?」
「「「ママ?!」」」
ブランディーヌが綺麗な仕草で私に頭を下げてきた、自分以外の皆を私にお願いしたいようだ。でもブランディーヌはどうするつもりなのだろうか、ニカノール達も心配そうにブランディーヌの事を見ていた。
「あの……それは、ブランディーヌさんはここでは働きたくないという事でしょうか?」
ブランディーヌは優しく微笑むと首を横に振った、そんなちょっとした仕草でも彼女がやると艶があった。
「あたしは、この子達みたいに若いわけでもないからね……もうひっそりと静かに暮らしていこうと思ってるんですよ」
少し悲しげに微笑んだブランディーヌをニカノールもその友人たちも心配そうに見ていた、私からすると若く見えるブランディーヌだが、そんなに年なのだろうか?
この世界はエルフやドワーフ、獣人族らもいることから年齢不肖な人が多い、彼女も本当は100歳を超えているとかなのだろうか?
鑑定もしても良いのだが、本人が目の前に居るので、女性に年齢を聞くのは失礼かもしれないが、気になって聞いてみることにした。
「あの……ブランディーヌさんは、おいくつなんですか?」
「年齢ですか? あたしは40歳ですよ、この子達の母親でもおかしくないでしょ?」
フフフと笑うブランディーヌはとても40歳には見えなかった。それに40歳なら人生の折り返し地点で全然年寄りなんかじゃ無い、私はホッとした気持ちになった。
「ブランディーヌさん、まだ人生半分以上残ってますよ」
「えっ? 半分以上?」
この世界の平民寿命は分からないが、店にはポーションもあるし、私もマルコもノエミもいる。薬に詳しい物がこれだけ揃っていて美人薄明なんてさせるはずがない、出来ればここに勤めて貰って、もっと人生を楽しんでもらいたいなと、前世に40歳で死んだしまった私はそう思った。
ブランディーヌは今きっと自分の店が無くなり、子供達(ニカノールや友人達)の再就職先の当ても出来てホッとしたのだろう、燃え尽き症候群に近いのかも知れないなとふとそう思った。
「出来ればブランディーヌさんにも、ここで働いていただきたいです」
「でも……あたしは……」
きっと気持ちが付いてこないのだろうなと、何となくブランディーヌの心が分かった。新しい事に挑戦することは年齢を重ねると難しくなる物だ、蘭子時代の事を考えると私でもそう思うと感じた。
「でもブランディーヌさんはまだ40歳ですよね、このまま引きこもっては勿体ないです、それに私にもニカノールにも貴女の知識と経験が必要なのです」
ニカノールや友人たちもブランディーヌに近付き頷いて見せた、彼女がいることが心の支えになることを分かって欲しい様に、そっと肩に手を置いていた。
「……分かった、いえ、分かりました……必要とされているうちが花ですよね……姫様、至らないと思いますが私の事も宜しくお願い致します」
「ブランディーヌさん! こちらこそよろしくお願いします!」
それからブティック兼化粧品店の会員制の在り方についてみんなで話し合った、会費を払って会員になってもらうが、問題がある人はそれを剝奪させてもらうこと、それからポイントカードなどを作って、化粧品などを購入すればポイントがたまり、会員でなくても店の魔道具エステを受けられるようにしたらどうかと話してみた。
女性たちからはおおむね好評だったのだが、リアム達はまだ頭を抱えていた、何でだろうと思っていたら 「仕事がまた増える……」 とぼそりと呟いていたので、そこで初めて私が魔道具を色々と出したり、新商品を出したせいで有る事に気が付いたのだった。
その上会員制の登録の件などの手続きもあるのだから、リアム達の仕事が一気に膨れ上がるのは目に見えていたのであった。
「ねぇ、ララちゃん、このエステって、幾らで受けられるものなの?」
ニカノールの問いに値段の事など考えていなかったと気が付いた、ほぼ魔道具が勝手にやってくれるものなので、それ程経費は掛からないだろう……そう考えると妥当なのは――
「うーん……1ブレ? かな?」
何故かリアム達だけではなく、ニカノール達にもダメ出しされてしまった私なのだった。残念。
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