第69話 閑話2  創作活動

「ララ、何やってるの?」


 太陽の日、私が自室で作業をしていると、自主練習を終えたセオが私の部屋へとやって来た。ココを肩に乗せモディを後ろに従えている。セオが裏庭で訓練を行う時はこの2人(二匹かな?)は必ず付き添って裏庭に行っている。

 モディはセオの相棒だから分かるとしても、何故ココまで一緒に行くのかというと、セオの練習時に流れ出す汗ではなく魔力を浴びるのが楽しい……気持ち良いそうだ。


(セオ ウマイ セオ オイシイ)


 と練習中に良く呟いているそうだ。そんな三人(1人と二匹?)が不思議そうな顔を浮かべて、私の作業を覗き込んできた。


「ララ、絵を描いてたの?」


 私の手元を見てセオは絵を描いていることに気が付いたようだが、不思議な顔をしている。それはなぜかと言うと、いつもの様に風景画や動物の絵を描いていたわけではないからだ。私は作業の手を止めてセオの方へと向き直した。


「実は、【漫画】を描いていたのです!」

「マ……マンガ?」


 私はセオに書き終わっている作品を見せてみる。前世の記憶を頼りに男の子の好きそうな作品を選んでみた、私の魔力ボールの元となった作品だ。

 勿論すべて覚えているわけでは無いし自己流の所もあるが、取り敢えず1話分を描き切って有る物で、原稿用紙のサイズそのままの状態の物だ。何作か描いてみて、この中からこの世界でも受け入れて貰える物を 商品に出来ないかな? という邪な考えから描いてみたものだった。


 セオはソファに座って早速読みだした。すると、すぐに質問が飛んできた。


「この子は獣人族なの? でも耳は人間の耳だね……もしかしてハーフかな?」


 どうやら出だしから登場人物に疑問を持ってしまったらしい。そうだよね、宇宙人とかって言ってもこの世界の人には理解出来ないよね。

 私は少し悩んで肯定する。ララオリジナル作品として、主人公は獣人族としようと割り切った。


「まぁ、獣人族の子供という事で良いと思います……」


 敬語になった私の言葉に、セオは苦笑いを浮かべながら続きを読んでいく、すると途中で急に真っ赤になり、原稿を裏返しにしてテーブルの上に置いてしまった。私が疑問に思い声を掛けると、真っ赤な顔のままこちらを向いてはいるが、目は私を見ていない。セオの行動を不思議に思い訳を聞いてみることにした。


「セオ、何か変なところがあった?」


 セオは返事をしようと声を出そうとしているが、口をパクパク金魚の様に開けたり閉じたりしているだけだ。しょうがなく裏返しになっている原稿を見てみたが、特に可笑しい所は無かった。私が首を傾げているとセオがやっと声を出した。


「なん……の……」

「えっ?」


 セオが顔を手で覆いながら話すので、何を言っているのか聞き取れない。しょうがなくセオの顔の近くまで耳を寄せると、やっと言葉が聞こえてきた。


「なんで女の子は何もはいてないの……」


 セオの言葉に私はポンと手を打った。そう言えばヒロインをミニスカートのまま描いてしまった。この世界の人からしたら、女性が下着が見えそうなぐらい短いスカートを履いているなど理解でき無いだろう。足が丸見えなので、セオは何も履いていない女性が外に出て走り回っていると思ってしまったのだろう。

 どうやらセオには少し刺激が強すぎたようだ……


 私はセオに謝り原稿を机にしまうと、女性物の漫画を見て貰う為に、十代の乙女に見えるアリナの元へと向かった。(本当は70代だけどね……)その後ろからは、また私が変な物を見せるんじゃないかと、セオ達三人も付いてきていた。

 暫く屋敷の中を歩いているとアリナを見つけた。仕事中に申し訳ないと思ったが、私の描いた少女向けの漫画を見て欲しいとお願いした。アリナは快く受け入れてくれて、近くの食堂へ皆で移ると、美味しいお茶を入れてから嬉しそうに私の漫画を読みだしてくれたのだった。


「お嬢様の描かれた絵を見せて頂けるなんて、とても嬉しいですわ」


 アリナはそう言いながら私の漫画に目を通すと、あっと言う間に真っ赤になってしまった。原稿を持つ手は小刻みに震え、原稿用紙が折れてしまいそうな勢いだ。私がどうしたのかとアリナを覗き込むと、アリナは赤い顔のまま私の方へと顔を向けてきた。セオは私の隣で何故かため息を付いていた。


「お、お、お、お嬢様、これは何を参考に描かれたのですか?」

「えーと……夢の中で……」

「夢で、こんな、は、破廉恥な事を見たのですか?!」


 破廉恥? と言う言葉に私は首を傾げる。前世で子供の頃に読んだ少女漫画を描いただけだ。特に破廉恥な部分など無かったように思う。

 私が分からず首を傾げていると、アリナは諦めたように大きくため息をついて私に教えてくれた。


「女性がこの様に異性を好きだ好きだと言ってはなりません! それに、女性のスカートが皆短すぎます……」


 私は またそこか! とガックリくる。制服のスカートの長さでも、こちらの世界ではタブーなようだ。私がダメ出しに項垂れていると、アリナの言葉はそれだけでは終わらなかった。


「この様に、い、異性に噛みつくなど……お嬢様! 決してこの様な事をなさってはなりませんよ!」


 アリナは私に固く固く約束をさせると、仕事へと戻って行った。どうやらセオとアリナに見せた二作品ともこの世界では刺激が強すぎる様だ……

 販売は無理かなと少し諦めかけたが、これはこれで需要者がいるかもしれないと思い立ち、明日我が家に遊びに来るリアムに見せて意見を聞いてみようと、思い付いた。

 商人の目から見たらまた違って見えるかも知れない、取り敢えず明日に向けてスカートの長さだけは修正する事にしたのだった。




 月の日の午後にリアムは我が家へ遊びにやって来た。今日は少しラフな服装をしている。オレンジ色の輝く髪はハーフトップに結いあげてあり、とてもカッコイイ! リアムをいつものお客様用の応接室に通すと、私は早速描いた漫画を見せることにした。

 昨日のセオとアリナの言葉に反省をしたので、スカートの長さはドレス仕様だし、主人公の男の子の耳は獣人族らしく獣の様に頭に付けてみた。それと少女漫画の主人公の女の子が嚙みついて変身するところは、頬を触ると変身する様に変更した。これで大丈夫だろうと安心してリアムに見せてみた。


「すげーな! 小説とも絵本とも違うものだな! 漫画だったか? 新しい読み物だな!」


 どうやら修正が効いたらしく、リアムの中では中々イイ感じの様だ。リアムが昨日セオ達に見せた2作品を読み終わると、私は次の作品をリアムに渡した。青い色のロボットが怠け者の主人公を助けて成長させる物語だ。

 リアムは読みだすとイケメンの顔に似合わない皺を眉間に寄せ始めた。そして暫くすると バンっとテーブルを叩いて立ち上がった。その顔はとても怒っているように見えた。


「俺は、こんな怠け者は嫌いだ!」


 確かに主人公の男の子はかなりの怠け者だし、青いロボットに頼ってばかりだ。リアム的にはそこが受け入れられないようだ。


「楽して良い目に合おうとして、まるで俺の兄貴たちみたいじゃないか!」


 どうやらお兄さん達みたいな主人公が気に入らないのが一番の理由の様だ。私は苦笑いを浮かべながら昨日描いた最後の作品をリアムに見せてみる、国民的主人公の女性の4コマ漫画だ。

 これにはセオも興味を持ったようで、リアムの横に座り二人で順番に漫画を読みだした。所々クスリと笑いながら、時には顔を見合わせて二人は楽しそうに読んでいた。

 2人は読み終わると笑顔を私に向けてきた。そしてセオが最初に口を開いた。


「この主人公の頭に花を三つ付けてる人って、ララがモデルなの?」

「えっ?」


 笑いながら話をするセオが思いもよらないことを言ったので、私は思わず驚いてしまう。


「どう考えてもララが主役だろう、この無鉄砲なところとかさ、普通淑女が箒を持って弟を追いかけたりしないだろう」

「そうだよね、でもララならやりそう……」

「はい?」


 リアムもセオも何だかとっても楽しそうに感想を言い合ってる。何故か主人公が私だと思われている様だが、まったくの別人だ。大変不愉快である。


「これさ、いっその事タイトルを ”ララちゃん” みたいに分かりやすく変えた方がいいんじゃないか? 」

「そうだね! あんまり聞いたことない名前だと覚えにくいよね」

「それから本当にララが今まで起こした事件を漫画にしてさっ」

「うん! 沢山あるからね。木から落ちたり、屋敷の壁壊したりさ!」

「それこそ誰も女の子がそんなことするとは思わねーから、笑えて良い漫画になると思うぜ!」

「確かに! ララみたいに面白い子は中々いないからね!」


 セオとリアムの二人だけでどんどんと話が進んで行き、最終的に私が主人公のお転婆な姫の四コマ漫画を描いて本として出版してみようという話になった。

 私的にはそんな物は絶対に人気など出ないと思ったのだが、じわりじわりと人気を博し、先ずはアズレブの街全体に広がり、それがブルージェ領まで広がっていき、国全体で人気の作品となっていった。そして最終的にはレチェンテ中全体に広がっていくのだが、それはまた別の話である――


 私はまったく納得出来なかったのだが、その漫画は不動の人気作品となり、後世まで語り継がれるのであった… …

 

(ううう… …想像と違うよー! 酷すぎるー!)

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