第68話 閑話1 インタビュー
今日はディープウッズ家にお住いの皆様に質問をしてみたいと思っております。
私がそう話すと困ったような笑顔を向けて、可愛らしい仕草で頷いて下さいました。最初の質問者はアリナさん。銀髪の美しい髪に、ピンク色の瞳を持った御年70歳越えの……いえいえ、17、8歳にしか見えない美しい女性のエルフの方でございます。
特技は遠投らしく、何でも百発百中の名手だそうで、飛んでいる鳥も落とすことが出来ると伺いました。ただしかしながら裁縫が大の苦手らしく、差し上げたミシンをまだ使って居ないとお聞きしましたので、彼女に真相を尋ねてみたいと思います。
「ミシンですか……ええ……挑戦してみたいとは思っているのですが中々……忙しくて……」
最後の方は尻すぼみになってしまいました。どうやら痛いところを突いてしまったようです。次にそれと無く今必要な物を尋ねて見ました。彼女は可愛らしい顔で悩んでおられます。
「そうですね……このお屋敷には何でも揃っていますので、強いて言えば時間? でしょうか? お嬢様ともう少しゆっくりとお話しできる時間があれば、嬉しいなとは思っております」
頬を染めながら話すアリナさんは、なんと可愛らしいのでしょうか! その言葉と仕草だけで私は、ご飯が3杯は食べられそうです。素晴らしい!
そして、最後に一番気になることを聞いてみます。貴女のお嬢様に今求める物は――
「女性らしさでしょうか……少しお転婆なところが有りますので、せめてもう少しで宜しいのでおとなし……いえ、女性らしくなって頂けたらと思っております」
私はアリナさんに質問に答えて頂けたお礼を述べて、その場を離れました。
次に目に入ったのは、少しワイルドな男性マトヴィルさんです。銀髪、碧眼のエルフらしい風貌なのですが、口を開けば男らしさがのぞける方です。そして彼の一番の魅力はその料理の腕前でしょう。世界を食べつくしたと本人が言うだけあって、大変舌が肥えており、一度食べた料理はすぐに再現できるのでは? と思える程の腕前です。
さあ、彼にも質問をしてみましょうーー
「料理? 好きっていうか、うーん、生き甲斐か? 自分がうめぇ物食いたいだけなんですよ、俺は―ー
アラスター様に付いて回ってたら、知らない間に料理が上達してたって感じですかね」
夕食の準備を手際よく行いながら、マトヴィルさんは私の質問に嫌な顔をせずに答えてくれます。私は忙しい彼の作業を手伝いながら次の質問を致しました。今彼に必要な物は何かです。
「そうだなぁ……助手ですかね? 俺が作り置きしておくのは簡単なんですが、こうやって誰かに手伝ってもらえると、仕事が楽しいですからね」
手伝う私を気遣ってか、マトヴィルさんはウインクをしながら私に微笑み掛けてきます。こういうことが自然に出来るのが彼の素晴らしさでしょう。私は感動で胸がホッコリと暖かい気持ちになりました。
さて、では最後の質問をしてみましょうか。この屋敷のお嬢様に求める物は何でしょうか――
「うーん、そうですねぇ……もう十分面白い方ですからね。たくましいし、発想力はありますし、それにアラスター様に似てらっしゃるところが良い! それだけで十分なんじゃ無いでしょうか」
嬉しそうにそう答えて下さったマトヴィルさんのお手伝いをもうしばらくして、私は彼の元を離れました。マトヴィルさんには手伝いのお礼にと、イチゴを少し頂きました。甘くてとっても美味しかったです。
さて、次にお会いしたのはオルガさんでした。エルフ界の美魔女と私が勝手に名付けたピンクの髪をした美しいご婦人です。お年は秘密の様なので伏せておきますが、年齢よりもかなり若く見えることだけは確かです。
そんなオルガさんの特技は裁縫です。初めて作業を見せて頂いた時には、とても感動したのを覚えています。そう言えば私がプレゼントしたドレスはどうなさっているのか、聞いてみましょうか。
「頂いたドレスですか? あれは着るのがもったいなくて……とても普段着る気にはなれないのでございます」
オルガさんは嬉しそうに微笑んでそうおっしゃいます。そんなに大切にして頂けるなんて、贈った方としては嬉しい限りです。私は頬が緩むのを感じながら次の質問をしてみました。今必要な物はありませんか?
「そうですね……物というか……健康でしょうか……お嬢様がご結婚される際は、是非私がドレスを作りたいと思っておりますので、その時までは出来るだけ元気でいたいと思っております」
おー! なんと嬉しい言葉でしょうか、オルガさんが作られるドレスならば、さぞ美しい事でしょう。そんなドレスを着て結婚式を挙げられるなど、お嬢様は果報者ですね。
私は拍手でオルガさんの気持に答えました。オルガさんは少し苦笑いを浮かべて 結婚していただきたいですね とボソッと呟かれました。それがどういう意味なのかは、追求するのは今日は止めておきましょう――
私は最後の質問をオルガさんに致しました。お嬢様に求める物は何でしょうか。
「落ち着き……でしょうか……特にマトヴィルと一緒の時は、何か起きるのではと心配になってしまいますから……」
そう言って目を伏せられたオルガさんを見て、私は何故か胸が痛みました。どうやらマトヴィルさんはかなりオルガさんの信用が薄いようです、これは日頃の行いのせいでしょう。私は質問に答えて下さったオルガさんに礼をして、その場を離れました。
次に向かうのは、このお屋敷のご主人の元です。そこには美しい女神の様なご主人だけでなく、銀髪、緑眼の美エルフ男子、アダルヘルムさんがいらっしゃいます。折角なので、お二人一緒に質問してみましょう。
私が部屋へ伺うと、ソファへとアダルヘルムさんが案内してくださいました。美味しいお茶を出してくださり、ホッとひと息つきます。心に染み渡るとても温かいお茶でした。
私はお二人に先ずはアラスター様とお嬢様の似ている点を聞いてみました。お二人は顔を見合わせて笑い出します。
「突然飛び出すところかしら?」
「それと、型破りなところも似ていますね」
お二人は嬉しそうにそう私に教えてくださいます。どうやらお嬢様の内面は、かなりアラスター様に似ているようです。私は次に必要な物を聞いてみることに致しました、お二人ともとても悩まれているようです。
「そうねぇ……特に物は欲しくは無いのですけど、貴女をずっと見ていられる時間が欲しいかしら」
そう言って美しい奥様は微笑まれました。まさに女神の笑顔とよべる美しさです。
アダルヘルムさんも答えてくれました、何故か少しニヤリとしています。
「害虫駆除の薬でしょうか……」
微笑むその姿が少し恐ろしかったですが、欲しいものが聞けたので安心致しました。でもこの屋敷にはそんなに酷い虫はいないのですが、アダルヘルムさんには何か気になる虫でもいるのでしょうか? 虫の安否が心配になってしまいそうな笑顔でした。
私は最後の質問をお二人に向けました、お嬢様に求める物は何でしょうか――
「まぁ! あの子はあのままで良いのですよ、とっても面白くて、アラスター様と一緒にいる日々を思い出しますわ」
そう言って奥様は微笑まれます。その笑顔に私までもが嬉しくなってしまいました。しかし、そんな気持ちを吹き飛ばすようなアダルヘルムさんの言葉が聞こえてまいりました。
「確実に慎重さでしょうね……行動の前に、一旦、考えられるようになると宜しいかと思います」
そう笑顔でおっしゃったアダルヘルムさんの視線を、何故か逸らしてしまったのは仕方のないことだと私は思いました。とにかく目が怖かったと感じたのは、私のせいではないと思いたいと思います。
部屋を後にして自室に向かっていると、少年に声を掛けられました。髪も瞳も夜の空の様な紺藍色をしている、可愛らしい男の子です。
肩には小さな蜘蛛を乗せ、後ろには紺色の蛇を連れています。どうやら裏庭で剣術の自主練習をしていたようです。私は彼らにも質問をして見ることに致しました。
「この家の子になって? 勿論幸せだよ。ずっとここに居たいと思ってるよ」
少年は可愛らしい笑顔でそう答えました。私は彼の生い立ちを思うと、今にも目に涙が溢れ出しそうになってきました。ですが質問の途中ですので、そこはグッとこらえます。
(ココ、アルジスキ、ココ、シアワセ)
(私も素晴らしい主と、美しい姫様に恵まれましたこと、大変嬉しく思っておりまする)
彼のそばに居る賢獣達も答えます。その答えを聞くと誇らしい気持ちで一杯になります。
私は彼らに続けて質問致しました。今必要な物は何かと――
「うーん……男らしさ? かな? マスターや師匠みたいなカッコイイ男になりたいからさ」
少年は照れて、自分の頬のあたりを少し掻きながら答えました。少し頬がピンクに染まっているのがまた可愛らしくて、胸がきゅんとなります。
(ココ、クマホシイ、クマ、ウマイ)
(私は主を御守りするだけの、力と技を学びとうございまする)
賢獣達の答えも可愛らしいものです。私は頬が緩んでしまうのを止められませんでした。
そして、彼らにも最後の質問を致しました。お嬢様に求める物は何かと――
「ララはそのままでいいと思うよ、俺は今のままのララが大好きだ」
(ココ、アルジスキ、アルジホレテル)
(姫様の美しさは太陽さえも隠れてしまわれるほどでございまする。今のままで十分かと存じ上げます)
皆の言葉に私は頬が熱くなるのを感じました。手にしたメモを放り投げて抱き付きたい気持ちになってしまいます。ですが今はララでは無いので、そこはグッと我慢しました。
「ていうか、ララは何やってるの?」
私は少年の言葉に驚いきました。まさかこの姿が見破られる事は無いはずなのです。念のため被っている帽子をもっと深く、目線が隠れる様に引っ張ってみました。
「もしかして……それは、変装のつもり?」
私はセオの言葉に驚いた。完璧に変装しているのに、何故私がララだと気づいたのだろうか。
「みんな、ララだって分かってたよ。帽子と眼鏡だけじゃ誰もだませないでしょ……」
セオは呆れた顔で私を見ると、被っていた帽子と眼鏡を取ってしまった。これで完璧な変装がばれてしまったのである、私はぷくっと頬を膨らませて、セオを睨んだ。
「セオ以外は誰も気が付いていなかったもの」
私の言葉にセオは深いため息をついた、かなり呆れている様だ。私の手を取ると食事に行こうと促してきた。私達は手をつなぎながら食堂へと向かう。
「それで、何で変装してたの?」
「フフフ、次のクリスマスに向けての事前調査ですよ」
「何か良い意見は手に入ったの?」
「それが……作るとしたら不老不死の薬と殺虫剤と、時を止める魔道具になりそうで……殺虫剤以外、今の私には無理だよね……」
「それは……ちょっと……厳しいね……」
セオはそう言って笑うと、私の頭を撫でた。こんな何気ない幸せな時間がずっと続けばいいなと私は思う。
その後はセオと皆が私のことをどう思っているかを話しながら、大切な家族が揃う食堂まで歩いたのだった。
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