第47話 訓練と試運転
次の日、私達は朝から裏庭に出て剣術の稽古を皆で行うことにした。飲み過ぎた大人たちが少し具合が悪そうだったが、汗をかけば良くなると言って参加を表明していた。
朝食後に自室へ戻ると着替えて私も裏庭へと向かった。リアムとセオは練習用のリアムの剣を選ぶと言って先に向かっている。
ジュリアンは護衛として常に剣を帯同しているので問題なく参加できる。ランスとジョンは木陰に用意された席へ座ってこちらをみていた、そこにはスノーとウインが待機しており、二人のお世話をしてくれている様だった。
「セオ、リアムお待たせしました」
私が練習着姿で現れると、早速準備運動を始める。何故かリアムは落ち着きなくこちらをチラチラと見ているが、二日酔いで具合がやっぱり悪いのだろうか?
そんな事を気にしていると、アダルヘルムがアルを連れていつもの真白な練習着を着てやって来た。
「仕事がありまして、遅くなりました」
ウエルス家のメンバーはアダルヘルムの横にいるアルの姿に驚いている様だ。それもそのはずである、アルは雷を使う狼魔獣の一角狼を模写したもので、アダルヘルムの魔力を帯びているので、銀色でとても美しく、主に似て隙が無く、とても強そうなのだ。そして体長はアダルヘルムが軽く魔力を注いだだけなのに2mの大きさもある、初めて見る人は驚くであろう。
「……すげえ……銀色の一角狼だ……滅茶苦茶かっこ良い……」
セオがリアムの言葉にうんうんと頷いている。その横でジュリアンがごくりと喉を鳴らしていた。
「ねぇ、リアム、ブレイも襲われた時にあれぐらい大きくなったの?」
そう質問すると、リアムは私を見て怪訝な顔をして固まった。私は不思議に思いリアムに手を振ってみる、聞こえなかったのかもしれない。
「おーい、リアム、聞こえてますか?」
「……もしかして……君は……ララか……」
そう言えばノアの姿でリアムの前に出たのは初めてだったと思い出す。ジュリアンはリアムの言葉が聞こえたのか、私の方をジッと見つめだした。
「ごめん、リアム、説明してなかったね」
私は一旦ノアの姿を解除すると、ララに戻った。
「そうなの、私ララなのです。剣の練習や武術の練習の時は男の子になってて、名前をノアって言います。中身はララなので今まで通り接してね」
そしてまた変身してノアの姿に戻った。リアムもジュリアンも言葉を失って口をあんぐりと開けているし、椅子に座ってこっちを見ていたランスとジョンは椅子から立ち上がって、驚いているようだった。申し訳ない。
「……それもお前が作ったのか……?」
「これは、お母様です。ふふふん、凄いでしょ?」
私が腕輪を見せながらニヤリと笑うと、リアムは自分の額をぺちんと叩いて笑い出した。
「まったく……凄い親子だぜ……」
こうしてノアの紹介は無事(?)に終わり、練習となった。ココやモディ、ブレイはアルに稽古を付けて貰う。
主従共に師匠なので面白い。先ずはジュリアンの腕前を見る。セオが相手になって乱打をする。
「ふむ……ジュリアン殿は剣が大振りですね、それでは相手に隙を与えている事になります。特にセオはあなたに比べて体も小さく素早い、それを普段と同じ動きで凌いでいてはいけません。分かりますね」
「はっ……はい!」
ジュリアンはアダルヘルムの指導を受けて感動している様だ。顔が真っ赤で目もウルウルしている。どうやら体は大きいのに感動しいの様だ。
次はリアムだ、相手はノアがする。リアムは私が女の子だからか優しい剣裁きになる。そこをアダルヘルムが注意する。
「リアム様、ノア様は十分に耐えられるだけの技量をお持ちです。遠慮せず打ち込みなさい!」
そう言われたのにリアムがグズグズしているので、しびれを切らした私が思いっ切り魔力を込めて木刀を振ってみた。
ぶわっと言う風圧と共にリアムが結界の壁まで吹き飛んだ。リアムは壁に激突し、倒れてしまった。
私は慌ててリアムに近づき癒しをかける。
「ごめんなさい。リアム、大丈夫?」
リアムは はぁー と大きく息を吐き起き上がった。良かった。癒しが効いて大丈夫そうだ。
「リアム様は優し過ぎますね……剣を戦いで使った事はないのではありませんか?」
リアムは黙って下を向いている。それが答えだろう。
「では、リアム様は次回の練習までに、どんな魔獣でもかまいませんので一体倒してきて下さい」
「えっ?」
「ノア様やセオでも自分で魔獣を倒し捌いております。心が強くならなければ本当の意味で人を守ることは出来ません。今のままでは自分自身さえも守る事は出来ないでしょう。厳しいようですが宜しいですね」
「……はい!」
リアムはアダルヘルムが言った言葉をかみしめるように聞いていた。きっと思うことがあったのだろう。
その後もアダルヘルムの厳しい練習を皆で耐え、午前中一杯を使った練習は終わった。次回からは普段の午後の練習時間になるので、リアムもジュリアンも通って指導を受けると息巻いていた。
私達は各自部屋でシャワーを浴び、汗を流すと応接室で昼食を摂った。マトヴィルの作った料理はとても美味しかったが、リアムは食欲がないのか少し残していた。もしかしたらアダルヘルムに言われたことを気にしているのかもしれないとふと思った。
午後からは楽しみにしていた魔石バイクの試運転だ、裏庭に行って魔法袋からバイクを出す。黒色の二人乗りバイクに昨日と同じくまた皆が目を輝かせていたので、大人男子達がかわいく見えた。
セオも自分のバイクを取り出し、リアムに乗り方を教える準備をしている。セオのバイクは一人用なので、リアムやマトヴィル達のより少し小さめだ。それにも興味があるようで、皆近寄って細部まで見ていた。
「今後もリアム達は四人で行動することが多くなるのかしら?」
「ああ、そうだな、店の準備にしても買い付けや商品の卸にしても、四人で動くことになるだろうな。それがどうかしたか?」
「うん、だったら、ジュリアンも乗り方を覚えて貰えれば、いざという時二人乗りで逃げられるよね?」
「姫様、まさか私にもこの魔道具を準備してくださろうとしているのですか?」
リアムの後ろに控えていたジュリアンが思わず口を挟んできた。セオもそうだが、護衛は主の会話に普通は口をはさむものではない、だが余りのことに思わず声が出てしまったのだろう。すぐにハッとして口を噤んだ。
「ジュリアン、普通に話に入って下さって構いませんよ、これから私達は協力していくのですから。バイクの事ですがその通りです。私はこの前の賊の話を聞いて出来る限りの事をしようと思ったのです。ですからジュリアンさえ良ければ乗り方を覚えて頂きたいのです。そして、リアムを助けて下さいませんか? お願いします」
私はジュリアンに頭を下げた。これは命令でなくお願いなのだから……主のリアムではなく、私からの願いなのだからここは私が頭を下げておくべきなのだ。
そう思っていたら、リアムに急に肩をグイっと引っ張られて状態を元に戻された。顔を上げた状態になって、ジュリアンが真っ青な顔になりオロオロしているのが分かった。ジュリアンは髪も青いので、面白いことになっていた。
「……たくっ、お前が頭下げるなよ……」
「……へっ……?」
「俺がララに品を売りに行かせて欲しいとお願いしたのに、お前が頭下げるのはおかしいだろう」
「でも……それは……」
「でもじゃない! ジュリアンだって、困ってるだろうが」
「……いえ……そんな……あの……」
確かにどう言っていいのか分からずにジュリアンは困っているようだ、益々顔が青くなっていた。
「はーい……ごめんなさい……」
私は口をとがらせて返事をしてプイっと横を向いた。リアムがそれを見て笑い出す。
「……たくっ、悩んでるのが馬鹿らしくなるぜ……」
「えっ?」
「おい、ジュリアン、俺からの願いだ。バイクに乗るのを覚えて俺たちを守ってくれ!」
「はい!」
ジュリアンはリアムの言葉に感動したようでやっと顔の色が元に戻った。どちらかと言うと赤くなっている。リアムは私の頭をくしゃくしゃと撫でると、小さく 有難うな と呟いてセオの方へと近づいて行った。
今日はリアムに上げた一台のバイクでリアムもジュリアンも乗る練習をすることにした。もう一台は次の剣術の練習までに作っておくと約束をした。魔石バイクのパーツは何台分か作ってあるので、後は組み立てるだけでそんなに時間はかからず作れるだろう。
リアムはすぐに魔石バイクの乗り方を覚え楽しそうに裏庭を走り回っていた。
ジュリアンは宙に浮く感覚が少し苦手なのか、フラフラしている。スピードをもう少し出せば安定するとリアムに言われているのにそれが怖い様だ。
これは乗りこなすまで少し時間が掛かるかも知れないなと、練習している様子を眺めていると、ランスに声をかけられた。ランスはいつもの穏やかな笑みを浮かべていた。
「姫様、有難うございます」
「えっ、バイクの事ですか? それは私の押し付けですから、気になさらないで下さい」
ランスはふふふと嬉しそうに笑う。
「それだけではございません。リアム様のやる気を取り戻してくださいました」
「やる気? ですか?」
「ええ、さようでございます。リアム様はご実家で色々とございまして、生きる希望を失っておられました。最後に私がお会いしたリアム様はこのまま死んでしまうのではと思うほどでした。それが今は見違えるように生き生きとして、楽しそうでございます。あんなリアム様を見るのは初めてかもしれません。本当に姫様のおかげでございます」
また 有難うございます。とランスは言って頭を下げた。
私はリアムは会った時から今みたいに楽しくて優しい人だったから私のお陰というのは違います。と慌ててランスに訴えたのだがまったく取り合って貰えなかった。
私はそんなに立派な人間では無いのにランスの中で私は女神に確定したらしい……さすがはリアム様の女神様、ご謙遜なさいますなぁ と言われてしまったのだ。
(ううう……本気で止めて欲しいよ……)
私とランスがそんな事を話していると、無事バイクの練習は終わりリアム達が帰る時間となった。私はお土産におやつ用のロールケーキをリアムに渡すと、甘いもの好きのリアムはとても喜んでいた。
「色々と有難うな……」
「こちらこそだよ、あ、お屋敷の皆さんにも宜しくお伝えしてくださいね」
「ああ……お守りのミサンガも必ず渡す」
別れの挨拶をしながら私は考えていたことを口にする。
「リアム、私とセオが作った秘密基地に今度行かない?」
「ああ……言ってたやつか……」
「森の中だから魔獣が出ると思うの」
「ララ……おまえ……」
「私とセオと一緒に狩りをしましょう」
リアムは ハハハ……と力なく笑うと、天井を見上げた。
そして私にいつものデコピンをした。結構痛い。私が痛みにおでこをさすっていると、リアムがぎゅっと抱きしめて来た。優しく私を包むように抱きしめて頭を撫でる、私が顔を上げリアムを見るととても優しい笑顔で微笑んでいた。
「……わぁ……リアム【イケメン】だね……」
「はぁ? なんだそりゃ?」
リアムは笑い出して私の頭をくしゃくしゃと撫でるとセオの方に向いて もう遠慮は止めるからな と言って肩をポンと叩いていた。
私はリアムがセオの事を本気で好きなのだとその言葉で確信してしまった。セオの目には熱いものが現れていたので、もしかしたらセオも……
そう思いながらリアム達の馬車を見送ったのだった――
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