第42話 リアムと我が家③
「リアムお風呂の使い方分からないよね? 私と一緒に入る?」
私達は夕食をリアムが最初に通された応接室で取っていた。リアムとセオ、私の三人でだけでだ。アリナが食事を運んでくれた後は自由に自分達で行っている。
リアムの家の下僕は宿泊の事を伝えるために、一度ウエルス家の屋敷に戻る事にし、明日また改めて馬車で迎えに来ることになった。
アダルヘルムがディープウッズ家への通行証を渡したので、今後迷うことなく我が家へ来られるようになったらしい。
そんなこんなで、宿泊するリアムが見たことのないシャワーなどに戸惑うだろうと思って、私は提案してみたのだった。
今日リアムが泊まる部屋は一番良い客室の落ち着いたお風呂場の方だ、そちらの方がまだ使いやすいだろうと、アリナが準備してくれたのだ。
もう一つの良い客室のお風呂場は豪華に作りすぎてしまい、お風呂が光ったり、窓の景色が変わったりするので、慣れていない人には落ち着かないのでは? との事らしい。少し私の遊び心が行き過ぎてしまったようだ。
いくら待っても固まってしまったリアムからの返事が無いので、もう一度聞いてみることにした。
「リアム、聞いてる? お風呂私と……」
「待て待て待て! 何でそうなる!」
カトラリーを乱暴に手から離すと、ナフキンで口をサッと拭い睨むような目でリアムは私を見た。
「だってお風呂の使い方分からないでしょ? どうせ教えるなら一緒に入っちゃった方が良いと思って」
「だとしたら、セオとだろうが……」
やっぱりセオのが良い様だ。だがセオの親代わりとして、ボーイズラブはまだ認められない。成人してセオがリアムを選ぶのなら反対はしないけれど、セオはまだ子供なのだ。
「セオはダメ、人と入るとのぼせちゃうもの」
私はセオがお風呂で倒れたことがあることを説明した。するとセオは少し赤くなって下を向いてしまった。
「あー、だったらセオに説明してもらうだけで良いよ。セオ、頼むな」
そう言ってリアムはセオに良い笑顔を向けた。セオも頷いている。私は何だか納得がいかず、リアムをキッと睨んでみた。その顔にリアムはため息をまたついて、お前は言動が危険すぎるとか、もう少し自分の事を鏡で見た方が良いとか、セオの立場を考えろ等々沢山のお小言を頂くハメになってしまった。心配しただけなのに酷すぎる。
楽しい夜はあっという間に過ぎていき、翌日の朝食後にオルガがリアム用のスーツを持って来てくれた。流石はオルガ仕事が早い。
リアムは受け取ったスーツに袖を通すと、刺繡部分をまずゆっくりと触って確認した。次に自分の腕のあたりを触り、スーツの生地を確かめるように手を滑らせた。
「なんて素晴らしいんだ……」
少しレモンの色が入ったような白色のスーツは、リアムにとても似合っていた。胸元からジャケットの裾へと続く刺繡が、リアムの色気のある整った顔を一段と引き立たせる。手足の長いモデルの様な体つきのリアムがスーツを着ると、本当の王子様のようだった。
「オルガさん、有難うございます。こんな素晴らしいスーツを作って頂けるなんて!」
リアムは感動のあまりオルガの手をぎゅっと握ったが、ハッとしてすぐに離し謝っていた。オルガはそれをニコニコと笑って許していた。
「リアム、オルガは凄いでしょ?」
私は胸を張って自慢する。ウチの使用人は皆優秀なのだ。
「ああ、俺はこんな素晴らしいもの初めて見たよ……」
自分の着ているスーツを触りながら、リアムは感動を何度も口にする。オルガも嬉しそうに頬をピンクに染めて、満足そうな表情でリアムを見つめていた。
「リアム凄くカッコイイよ」
セオも素直に褒める。リアムはセオに褒められて、益々嬉しそうに顔をほころばせた。
「ふっふっふ……良い宣伝になりそうね……」
私がニヤリとすると、リアムもニヤリとして 任せとけ! と胸をたたいた。その後ジャケットを大事そうに私があげた魔法鞄にリアムはしまった。王都に行ってから着るので、それまでは大切にしまっておくらしい。
オルガが私にだけ聞こえる様に、いい子ですねとリアムを褒めていたのがなんだか嬉しかった。
リアムが我が家を後にする時間となった。下僕が馬車で迎えに来た様だ。ずっと一緒に楽しい時間を過ごしていたので、何だかとても寂しくなる。
リアムは自宅に戻り次第王都へ向かう準備をし、早ければ明日にでも出発すると教えてくれた。ユルデンブルク王都までは馬車で2~3日掛かるので、帰って来るまでに最低でも一週間は掛かるだろうと教えてくれた。
旅の途中、紙飛行機型の手紙で状況を教えてくれると言ってくれた。
リアムは見送りに出てきた我が家の家族一人一人に丁寧に挨拶をし、帰路に就いた。
私がお菓子の詰め合わせを屋敷の皆さんへのお土産にと言って渡すと、照れたように笑い。ララは母親みたいだなと、私が貰って一番嬉しい言葉をくれたのだった。
次の日、早速リアムから手紙が届いた。お菓子のお土産を屋敷の者がとても喜んで感謝していたと言うお礼と、これから王都へ出発すると言う内容の手紙だった。私とセオは気を付けてと短く返信を書き、飛行機型の手紙を飛ばしたのだった。
水の日の武術の稽古の日、マトヴィルに相談された。自分にもモディみたいなキーホルダーを作ってもらえないか? との事である。
私は赤くなってお願いしてくるマトヴィルが、思わず可愛くて抱きしめてしまった。
ただし身長差があるので、腹部に頭付きの様になってしまい、マトヴィルがうっと唸っていたけれどーー
私は次の金の日の自由時間に、早速キーホルダーを作ることにした。マトヴィルは魔力量も高く、もう成人した男性なのでどんな動物が良いか考える。
マトヴィルは森に行って魔獣を倒したり、木の実を取ったり、様々な領地へ仕入れに行ったりと出かけることも多いので、強い動物がいいだろうとセオと話し合った。
魔木を丁寧に削っていき、キーホルダー型に形作る。あとは魔石を取り付ければ完成だ。
流石にセオ、リアムの分に続き作るのが三人目なので、作業も手慣れたものである。
セオにもララは物を作るのが上手だと褒められて、ちょっと気が善くなってしまった。
なのでアダルヘルムのキーホルダーも作ることにした。
最近セオも私も散々迷惑とお世話をお掛けしているので、お詫びも兼ねている。アダルヘルムに合う動物は何だろうと、セオと二人頭を捻って知恵を絞り出す。アダルヘルムも魔力量が高いし、成人なので遠慮は要らない。
考えるのに一番時間がかかってしまい二人分を作り上げた時には、お昼をとっくに過ぎていた。アリナに夢中になりすぎてはいけませんよと、お小言をもらいながら昼食を終えると、マトヴィルとアダルヘルムを裏庭へと呼び出した。
先ずはお願いされたマトヴィルにキーホルダーを渡す。マトヴィルが軽く魔力を注ぐと、大きな銀色の陽炎熊が現れた。本当の陽炎熊は黒色なので、マトヴィルの魔力に関係した色なのだろう。
銀色の陽炎熊は2mぐらいの大きさで、とても軽く魔力を注いだだけとは思えないほどだった。その体はがっしりとしており、見た人は逃げ出してしまうだろうなと思った。
「ララ様……これは、凄い!……陽炎熊じゃ無いですか」
マトヴィルの嬉しそうな顔に私も嬉しくなる。動物好きのセオも、目がキラキラと輝いている。ココやモディも仲間と分かるのか、近寄ってきてジッと見ていた。
「凄い! カッコイイね!」
「ほう……陽炎熊ですか……」
「成功して良かったです」
(姫様が仲間を与えてくださった……)
(クマ、ウマイ)
それぞれが思い思いに口を開く。マトヴィルは感動して泣き出しそうだ。
(あなたが主でよろしいか?)
「お、おう、そうだ。マトヴィルだよろしくな!」
(あなたが私を生み出した方でよろしいか?)
「はい、ララです。よろしくお願いします」
私はマトヴィルに陽炎熊に名前を付けてあげるようにと促す。マトヴィルは少し考えて陽炎熊に話しかけた。
「よし! お前はアーニャだ! 俺の相棒だぜ!」
(私はアーニャ、主、有難うございます)
アーニャは光ると雄たけびをあげた。その姿はとても雄々しく勇ましい。だが女の子名なのが私は少し気になったが、マトヴィルとセオの顔は恋する乙女の様なので、丁度良かったかもしれなかった。
次はアダルヘルムだ。アダルヘルムにキーホルダーを渡すと、自分の物もあるとは思っていなかったのか、とても驚いた顔をしていた。
アダルヘルムがサッと魔力を流すと、キーホルダーからは一角狼が飛び出した。これは私とセオで強い魔獣から選んだもので、狼の頭には角が有り、そこから雷魔法を出す恐ろしい魔獣なのだ。
本物の一角狼はグレーに近い色をしているが、アダルヘルムの一角狼は銀色にキラキラと輝き、瞳の色もアダルヘルムと同じ緑眼でとても美しい。まるで神話の中の生き物の様だった。
神々しくてとても魔獣と間違える人はいないだろう。体もやはりとても大きく、2mを超えているようにも思える。尻尾はふさふさとしており、触ってみたいと思わせる魅力的な尻尾だった。
「おー! スゲー!」
「一角狼やっぱり、カッコイイ!」
「銀色で綺麗ですね……」
(姫が作りし新しき仲間……)
(オオカミ、ハジメテ)
「ララ様、有難うございます。一角狼大切にいたします」
アダルヘルムはそう言って、一角狼と向き合った。
(アダルヘルム様、我が主、共にララ姫様を守らせて頂く従者としてわが身をお使い下さい)
「ふむ……そなたの名は、アルテミシオスと名付けようーー
アル、これからよろしく頼む」
(ありがたき幸せ……この命尽きるまで従順である事を誓いまする……)
アルはキラキラと輝くと遠吠えを上げた。その姿にマトヴィルもセオもうっとりしている。アダルヘルムはふっと笑い、アルの事を愛おしそうに撫でていた。
その後私達もアーニャやアルを触らせてもらったり、乗せてもらったり、抱っこしてもらったりと、裏庭で楽しく過ごした。
マトヴィルもセオもとても興奮してアーニャに空へ投げ飛ばしてもらったり、アルに乗って裏庭を何度も駆けまわったりしていたので、しびれを切らしたオルガが裏庭にやってきて、こっぴどくしかられていた。
アダルヘルムはそんな二人を尻目に、アルをサッとキーホルダーの形に戻して屋敷へと戻っていった。
勿論私へのお礼をもう一度言ってからだ。さすがアダルヘルムである。
その夜の何時ものセオとの大切な二人の時間、セオはまだ興奮が冷めやらぬようで、何度も凄かったとか、かっこよかったとか言っていた。
でもその後にココと一緒に丸くなって寝ているモディに向かって、モディが一番だからね と言って撫でていたのが可愛かった。
今後私とセオの武術と剣術の稽古には、アーニャとアルが参加する予定だ。どんな練習になるのか分からないけれど、今からとても楽しみである。
私もその日はずっと寝付くまでココを撫でながら寝たのだった。ココも少しづつ成長してきている。いつまで一緒に居られるかは分からないけれど、ずっと大切にしようと心に誓ったのだった。
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