第43話 手紙
『王都に無事に着いた。これから品物を売りに街に行ってくる。楽しみに待ってろよ』
金の日の夕方にその手紙は届いた。予定通り順調にリアムは王都に着いたようで、私とセオは安心した。
すぐに手紙の返事を書く事にする。きっと今頃は商談も終わって、宿ででもゆっくりとしている事だろう。
いや、もしかしたら王都にあると言っていた実家に帰っているかもしれない。
その場合は帰りは少し遅くなるかもしれないなと思った。
『リアム、無事に王都に着いたようで安心しました。商談頑張ってくださいね。少しは観光も楽しんで来て下さいね』
セオにも内容を確認してもらって、私は紙飛行機を飛ばした。リアムが無事に帰ってくることを祈りながら。
次に日の朝目を覚ますと、テーブルの上に紙飛行機型の手紙が届いていた。リアムは私達の手紙が着いてすぐに返事を書いてくれたようだ。
『商談は無事に終わった。内容は危なくて手紙には書けない、今日は人と会う。順調に行けば明日には王都を出発する予定だ。また、手紙を送るな』
セオを起こして一緒に手紙を読んだ。
良かった無事に商談は終わったようだ。リアムに何事も無くて安心した。護衛も連れていっているようだし、守りは万全なのかもしれない。
ホッと息をつくと、私は寝間着姿のまますぐに返事を書いた。
『リアム有難う。早く会いたいです』
セオにも確認してもらって、すぐに返事を送る。きっと次に届くのは明日の出発の知らせだろうと私達は思っていた。
だが夕方またリアムからの手紙が届いた。セオと何か緊急事態が起こったのかもと慌てて手紙を開く。
『恋文みたいなことを書くな!』
そこにはたったそれだけが書いてあった。私はセオに恋文みたいなこと書いたっけ? と確認するが、セオも分からず首を傾げていた。取り敢えず緊急事態じゃ無かったようでホッとした。
そして私達はまた返事を書いた。
『手紙の内容はセオにも確認してもらったよ。特に問題なかったって。恋文? じゃないって言ってたよ。それより帰りは気を付けて、リアムが無事に戻ることを心待ちにしています』
またセオにも読んでもらって大丈夫だと太鼓判を貰ったので、私は早速手紙を送る。どうかリアムが無事に帰りますようにと、また祈りながら。
火の日のお昼過ぎにリアムからの手紙が届いた。
早速セオと手紙を開く。アダルヘルムもそばにいたので手紙を見せた。
『無事に王都を出た。友を連れて帰る』
時間が無かったのかリアムにしては簡潔な文章の手紙だった。アダルヘルムが順調に行けば太陽の日の夜か、月の日の午前には着くだろうと教えてくれた。
その後はアーニャとアルを交えた楽しい剣術の稽古を終えて部屋に戻った。湯浴みを終えてソファでお茶を飲みながら一息ついていると、手紙が手元に急に現れた。
これは黒の隠蔽の紙飛行機だ。もしかしたら私が一人になるのを待っていたのかもしれない。
サッと手紙を開き、中身を確認する。やっぱりメイナードからの返事だった。私はセオを部屋に呼ぶ。セオも湯浴みを終えて、自室でくつろいでいたようだ。セオにもメイナードからの手紙を見せる。ずっとメイナードを心配していたのだ。
『ララへ プレゼントありがとう。ハンナがいなくなって、あたらしいせんせいがきました。ちょっとこわいです。メイナードより』
良かった。メイナードは元気でいるようだ。ただ手紙が届くまでかなり日にちが掛かった。すぐに返事を出来ない状況にあるのかもしれない。やっぱり心配だ。
(会えれば一番いいのだけれど……)
「ララ… …大丈夫だよ。魔道具を渡したんでしょ?」
「うん… …でもいい子だからこそ心配なんだよね… …」
誰にでも優しいいい子というのは、自分が我慢すればとギリギリまで自分を追い込んでしまう気がするのだ。
そんな状況になる前に私に魔道具で連絡くれればいいなと、思う事しか出来なかった。
メイナードに返事を書く。勿論黒色の紙飛行機型の用紙を使ってだ。
『メイナード、困ったときにはすぐに連絡をしてね。私達は友達だよ。助けるからね。ララより』
メイナードの力に少しでもなれると良いのだけれど… …
セオの様に傷付く子を見たくはない。私はそう思いながらメイナードへ手紙を送った。
樹の日、私の部屋でアリナに教わりながらセオと一緒に勉強をしていると、手紙が飛んできた。私はアリナに許可を得て、手紙を読むことにした。
『賊に襲われた。だが無事だ。そこは安心してくれ。ただ馬車が壊れた。帰りが遅くなりそうだ。すまん』
私はセオとアリナに手紙を見せる。二人共私と同じ様に心配な面持ちとなった。賊に襲われたって書いてある、やっぱり私が目立つことをお願いしてしまったのがいけなかったのかもしれない。そんな思考に陥っていると、セオにポンと肩を叩かれた。
「ララ、自分のせいだって思ってるだろ?」
「えっ?」
「リアムは無事だって書いてあるだろ。だから心配要らない。それに悪いのは盗賊だ。ララじゃない。何でも自分のせいにしたらダメだよ」
「でも… …目立つことをさせたのは私だし… …」
私はリアムに対して申し訳ない気持ちでいっぱいになる。やはりこの世界の事を考えると、少しでも目立たないように工夫してあげるべきだったのだ。
体の中の魔力が動き出すのを感じる。自分の不安な気持ちが爆発しそうだ。
リアムは大丈夫だって言っていたけれど、私に心配かけない為の嘘かもしれない。
あの人は見ず知らずの女性の為に、死にそうになるぐらいのケガをする人なのだから。
不安から体が熱くなるのを感じる。体の中心から魔力が増幅し始めている。どんどんと魔力が外へと流れて行き、体が太陽の光の様に輝きだした。
「お嬢様!」
アリナは部屋を飛び出し、誰かを呼びに行ったようだ。
「ララ!」
セオが私をぎゅっと抱きしめる。私の体の魔力によってセオは苦しそうに額に汗をかき、顔を歪める。
「セオ! ダメ! 離れて!」
私はセオの体を引きはがそうとしたが、セオはもっと力を入れて私を抱きしめる。
「嫌だ、絶対に離れない!」
セオは苦しさを我慢して私に顔を向け微笑む。
「ララ、リアムは大丈夫だから。落ち着いて… …」
セオが私の頭をそっと撫でる。落ち着くようにゆっくりと優しく。まるで寝るときにモディを撫でるように。そして優しく落ち着いた声で、私の耳元に語りかける。
「大丈夫、大丈夫… …どうしても心配なら転移しても良い… …俺達はあれだけ練習したんだ。得意だろ?」
私は撫でられる気持ちよさを感じながら、こくんと頷く。
「それにララが作ったバイクもある… …探しに行ったっていい。それにララはリアムに防御のお守りも、番犬のブレイも渡してある。絶対に大丈夫だよ… …」
セオの優しさに自分の体から溢れる魔力が落ち着いていくのが分かる。
光っていた体が普段を取り戻してくる。セオはわたしを抱きしめながら頭を撫で続ける。
「それにリアムのところに飛んで行ったら、きっと怒られるよ」
ふふっと鼻で笑うセオに私は問いかける。
「何故?」
「俺を信じてないのかって、リアムならきっとそういうよ」
想像して私も笑う。確かにリアムならそう言うだろう。それもデコピン付きで。私が落ち着いたのが分かったのか、セオが私を離して顔を覗いてきた。
私の瞳をジッと見つめ、観察しているようだ。
「ララ… …もう大丈夫だね?」
私はセオを見たままこくんと頷く。セオはホッとしてその場に倒れこむように座った。まだ優しく笑っている。
「セオ! ごめんなさい! 大丈夫?」
「ララ……大丈夫だよ。ホッとして力が抜けただけだから」
セオは力のない笑みを浮かべながら、私の頬をそっと撫でる。私はセオのその手にそっと自分の手を重ねた。
「セオ、ごめんね。ごめんね」
私の目からは滝のように涙がこぼれた。大事なセオを危険にさらしてしまったからだ。
「ララ様、セオを少し休ませましょう」
私がその声に驚いて周りを見渡すと、心配した皆が部屋に集まっていた。お母様もいる。
どうやら私は周りが全然見えなくなっていたようだ。アダルヘルムがサッとセオを抱え、部屋を出て行った。セオを自室のベットで休ませるようだ。
私が自分の体をぎゅっと抱きしめると、その上からお母様が包み込むように私を抱きしめた。
「ララ……良く頑張りました… …」
「えっ?」
私はなぜ自分が褒められるのか分からず、お母様の顔を見つめる。
「貴女が魔力量が多いのはわかっていますよね… …体がまだ成長していない貴女には、その魔力は大き過ぎてしまうのです。ですから普段からそれに耐えられるだけの体を作るために鍛えていますね。貴女はとても頑張っていますよ。
今回は感情が高ぶってしまって、それが上手くコントロール出来なかったのでしょう。でも大丈夫です。これから体が大きくなれば、キチンと魔力を扱うことが出来ますからね。
ただし、まだまだこれからも勉強は必要ですよ」
私はこくんと頷く。以前もお母様から魔力が多い話は聞いていた。マトヴィルにも精神面を鍛えるようにと、言われていたのだ。
「セオを傷付けてしまいました… …」
私がしゅんとなって下を向くと、お母様が頭を撫でてくれた。とても暖かい。
「大丈夫。セオは貴女を抑える為に魔力を少し使い過ぎて疲れてしまっただけで、どこも傷ついていないですよ」
「本当ですか?」
「ええ、少し休めばすぐに良くなりますから、心配いらないわ」
私はホッとして息をついた。良かった、セオは大丈夫なのだ。アリナ達が心配そうに私を見ているので、そちらを向いて謝った。心配かけてごめんなさいと。
皆ホッとして胸をなでおろす。私はアリナに促されて、ベットで少し休むことになった。
でもその前に手紙の返事を書きたいとお願いすると、アリナに困った顔で渋々承諾してくれたのだった。
『リアムなら大丈夫と信じています。帰ってくるのを楽しみに待ってますね』
私は飛行機を飛ばしてベットに横になった。すぐに睡魔が襲ってきたので、自分が思っていたよりも疲れていたようだ。
お昼寝をしたことで、体も頭もスッキリして目が覚めた。時計を見ると2時間ぐらい眠っていたようだった。
グーとお腹がなる、そう言えばお昼を食べていない。セオの様子を見ながらアリナにお昼を準備してもらおうと、部屋を出ることにした。
スノーにアリナへの伝言を頼み、私はセオの自室へと向かった。
そっとベットを覗くとセオはまだ寝ていた。私は近付きセオの顔を見る。良かった、顔色も悪くなさそうだ。
私が部屋を出ようと思ってその場を離れようとすると、声が聞こえた。
「ララ……」
「セオ、ごめんなさい。起こしちゃったね……」
私はセオの顔を見ながら謝った。セオは微笑んでから、起き上がって伸びをした。
「うーん、よく寝た! 凄い体がすっきりしたよ」
私はセオの様子に安心して笑いかける。
「あの… …セオ…さっきは、本当にごめんなさい… …」
セオは微笑みながら私の頭を撫でる。
「謝る必要はないよ、ララを守るのが俺の役目だ」
「でも… …」
「じゃあ… …有難うって言って。その方が俺は嬉しい」
優しいセオに私は頷き、ベットに飛び上がってセオに抱き付いた。私の大好きな温もりだ。
「セオ、有難う。大好きだよ」
私がそう言うとお腹が返事をする様にグーとなった。
セオと笑い合って、その後アリナが運んでくれた遅めの昼食を仲良く2人で食べたのだった。
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