クソゲー拷問

ちびまるフォイ

あまりもつらすぎる仕打ち

薄暗い部屋にはゲーム機と古めかしいテレビが置いてあった。


「こ、ここは……!? 俺はたしか帰り道で意識を失って……」


「お前の話など聞いてはいない」


「だっ……誰だ!?」


「お前は隠していることがあるだろう?

 それを吐かない限り、お前はここから出られない」


「ふざけるな! 隠していることなどない!」


「ふふ……その強気がいつまで続くかな?

 スイッチ、オン」


男がゲーム機のスイッチを入れると、テレビにいわくつきのゲームロゴが表示される。


「このクソゲーの噂くらいは聞いたことがあるだろう?」


「バカな! あまりに評判が悪すぎて販売停止になったはず!!」


「ああそうさ。だがこうして裏では今でも流通しているのだよ」


「どうして……!?」


「クソゲーというのはどんな拷問よりもこたえるからな。さあやるんだ」


「い、いやだ……!」


「やれ!!」


コントローラーを手に取り、ゲームを開始する。

せめて難易度選択ができればまだ楽なのに、クソゲーにそんな親切設計はない。


「うう……なんでこんな目に……」


「吐く気になったか?」


「だから! 何も隠してないって言ってるだろ!」


「手が止まっているぞ」

「ひいい!」


ゲームが進むとますますクソゲーはその片鱗を見せつけ始める。


「あああ! また死んだ!!」


「どうだいともたやすく時間が無駄にされる気分は?

 せっかく買い込んだアイテムも武器も全部ロスト。

 辛いだろう? もうやめたいだろう? 履く気になるだろう?」


「ふざけるな! なにも隠していない!!」


「では続けるんだ。お前が喋らない限りこのプレイは続く」


「うああ……」


理不尽でむちゃくな難易度はプレイする意欲を削いでゆく。

死ぬたびに何度も同じ道をやり直させられ、徒労感がほこりのように心へたまる。


「なぜ我々のような裏組織がわざわざクソゲーを拷問に使うかわかるか?」


「……」


「痛みを伴う拷問は相手を死なせてしまう場合もあるからな。

 しかしクソゲーはどうだ? 人間の精神を追い詰める要素が盛りだくさん。

 これほど拷問に適した道具がこの世界にあるか!?」


何度も同じ道を行かせられ、ノーヒントで広大な土地を当てもなく歩かされる。

クソゲー拷問から逃れたいとのめりこむほど、ゲームから与えられる苦痛は倍加する。


支離滅裂なシナリオは感情移入するスキをも与えず。

使いまわしのBGMは脳の奥底にこびりついてクソゲーから頭を離してくれない。


進んだかと思ったらバグやフリーズで台無しにされる。

賽の河原で石を積み上げるほうがどれだけ楽かわからない。



休むことなくずっとクソゲーに向き合わされると、

拷問されていた男はついに観念した。


「あああああーー! もう限界だ!! 耐えられない!!」


「なかなか頑張ったほうじゃないか。しゃべる気になったか?」


「俺がすべて悪かった! もう何でも話す!!」


「それではお前がひた隠しにしていることを話すんだ」


男はごくりとつばを飲んだ。

このことは墓場まで持っていこうと誓ったはずの秘密だった。



「実は……このクソゲーは……うちの会社で作ったんだ」



「ほほう」


「クソゲーなんて作りたくなかった!

 でも時間と予算と人手が足りない上、上司からは無理難題を言われて!

 それでも形にしようと必死にやったんだ!!」


「デバッグはしなかったのか?」


「こんなクソゲー、デバッグできるわけないだろう!?

 デバッグプレイなんかしてたらこっちの心がもたない!

 そもそも、デバッグする時間があったらもっといいものを作っている!」


「それですべてか?」


「ああ……もうこれが秘密のすべてだ……。

 負の遺産になるからと永遠に隠し通すつもりだった……。

 真実を明らかにすればいい……俺は早く楽になりたい……」


「いいや、そんなことはしないさ」


「な、なんでだ!? お前はクソゲーという産業廃棄物がどこで作られたのか調べているんじゃなかったのか!?」


「産業廃棄物? いいや、クソゲーは我々にとって財産だ。

 これを手にしてからどれだけ拷問がはかどったかわからない」


「なにを言ってるんだ……」


「我々はこれまでずっとクソゲーという悪魔の拷問器具の開発者を探していた。

 やっとお前だと確証を取ることができた。この意味がわかるか?」


男の額にあぶら汗がにじんでくる。

歯はがちがちと恐怖で震え始める。


拷問主はにやりと笑った。



「これからクソゲーの続編を作るんだよ」



拷問よりもひどい仕打ちを聞いた男は舌を噛み切った。

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