第2話

「ふぅ……」


一仕事終えたように、腕でおでこの汗を拭うような仕草をする加流瀬さん。


「ふぅ……じゃないよ! 何してくれてんの!? なんで、僕におまじない使ったの? 本当に……突然の事すぎて全く理解出来てないんだけど!? 」


その姿を見て、ツッコミを入れることしか出来ない僕。

この人は今、僕に一生のお願いを使った。しかも、言うことを聞かせたりするのではなく、恋の手伝いをしてくれと。


「まあ、まあ落ち着いて。私、本当に恋なんてした事なくて……。高林くんにはおまじないでも使わないと力を貸してくれないと思って……」


僕が大きな声を出したからか、彼女は反省した様子で、ボソボソと喋り始めた。


「それにしても、なんで僕なの? 喋ったこともないし、お互い、性格もよく知らない関係なんだよ? 」


僕達はこの屋上に来るまで、1回も会話した事がないのに、なぜか僕が呼ばれた。


僕は本当に訳が分からなくて頭を抱える。


「私が好きになった人はね……同じクラスの黒崎くんでね、高林くんって黒崎くんによく話しかけられてるイメージがあって、優しそうな高林くんなら手伝ってくれるかなって、思ったんだけど……」


加流瀬さんの声はだんだん小さくなり、最後の方はよく聞こえなかったけど、僕の事を優しそうって思ってくれていたらしく、僕はその言葉を聞いた時、ちょっと自分に自信が持てたような気がする。


「それで、黒崎に告白するのを僕が手伝えばいいんだよね? それなら一生のお願いを使わなくて良かったんじゃ……」


一生のお願いを使わなくたって、お願いされたら応援だって協力だってしたのに……。それでも、加流瀬さんはもしものために一生のお願いを使ってしまったんだろう。使ってしまったものを戻すことは出来ない。

僕がこのおまじないから自由を取り戻すためには、加流瀬さんの恋が成功するために協力する事。

そう、協力するだけでいいのだ。告白の結果がどちらでも、僕は加流瀬さんが黒崎に告白した時点で失われた時間を取り戻せるのだ。


「黒崎って……呼び捨てかぁ。やっぱり仲がいいんだね。やっぱり高林くんなら、私の初恋をいい経験にしてくれそうだな……」


僕がおまじないについて思考を巡らせていると、加流瀬さんは、僕が黒崎の事を呼び捨てにしている事について、なんだか嬉しそうにしていた。


「黒崎君は、ああいう性格だからね。呼び捨てで呼んでくれって言われて、断れなくてさ」


黒崎友希くろさき ともき


僕達のクラスの中心人物のような存在で、基本的に男女関係なく誰にでも話しかけるし、顔はイケメン、更には部活動でバスケットボールもしており、皆からも人気のあるクラスのムードメーカーだ。


そんなクラスの人気者に加流瀬さんは恋をしてしまった訳だ。

しかし、はっきり言うとこの恋は難しいと思う。

きっと黒崎の事を好きな人はクラスにも何人かいるだろうし、もし、告白が成功しても回りから何をされるか分かったもんじゃない。

でも、それを本人に言うのは流石に気が引ける。

それに『初恋』とも言っていた。……なら、恋をしている間だけでも楽しい時間を過ごして欲しい。

学生の間だけは子供でも大人でもない、そんな微妙な年頃の、変わった恋が出来るんだから。


「それで、どうやってアピールしたりするかは決めてるの? 」


早速、僕がする事について彼女に聞く事にした。

加流瀬さんは、少し黙ってから僕との距離を縮めてきて――


「何にも分からないから君を呼んだんだよ? だから、お願い! 私に恋愛を教えて! 」

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