第19話:初クエストと裏切り者
魔物、それは人類の敵の総称。
人語を解さないものはモンスター、解するものは魔族と呼ばれ。
彼らは街道をゆく行商人を襲い荷車を奪い、農業区域に侵入し農作物を荒らしたりと好き勝手に行動し、人類に害を振りまく。
また、魔物は知性が低いものが多く、欲望のままに振舞うため生態系が上手く保たれず、せっかくの自然豊かな森林をすぐに荒れ地に変えてしまう。
そのため、ヒトに害をあたえる魔物の討伐や生態系維持のために魔物を間引く仕事が連日、ギルドから冒険者に依頼される。
「オウリャァぁぁぁぁぁあぁぁーーーー!」
俺のどこか間抜けな声が上がると同時に、ゴブリンの首が飛ぶ。
生暖かい液体を切り口から吐き出しながら膝が折れ、胴体が崩れ落ちる。
「よし、とりあえず、圧勝だな」
初めてサオリ先生とウェル森林に来たときは苦戦したが、今となっては敵ではない。
――と言うか、あの時はサオリ先生が支援魔法かけていたから、ノーカンだ。
俺は、愛刀である神剣アシュラか軽く血振りし、背後を向くと――
「お疲れ。やるじゃん、アキラ!」
緩く巻かれた茶色の毛で覆われた猫耳と尻尾を持つ猫人(キャットピープル)の少女――リアム――が俺の肩をバシバシ叩いてくる。
褒めてくれるのは嬉しいけど、力加減と言うものを知らないのか、結構痛い。
「あのあの! 怪我は大丈夫ですか? 魔法ですぐに癒せますけど……」
と、モジモジと杖にしがみつきながら、涙目で見上げてくる小柄なエルフ少年。
えっと、確か、この子の名前は……。
「ん~、傷はないから大丈夫、ありがとう……レオ」
「そ、そうですか……」
と、レオは自らの緑みがかった金髪をクルクルと指に絡ませながら、答える。
この子は小さいし、いつも恥ずかしそうに頬を染め涙目だし、顔立ちが中性的なので、なぜか話しているだけでイケないことしている気分になる。
――本当にナニ、ついてんのかな?
閑話休題。
そして、俺は最後の一人。
槍についたゴブリンの血をそこらの草でぬぐっている益荒男、マースルへ声をかける。
「お疲れ、楽勝だったな」
「おう、お疲れ! ただ、油断するなよ、アキラ。今回は二匹しかいなかったからいいが、群れで来られたら、ひとたまりもないぞ」
「お、おう、肝に銘じておくわ」
「そんな緊張しすぎるでも良くないけどな!」
ま、あと八匹だ、とおどけたように、くしゃっと笑うマースル。
今までの発言や熊のような体格から、おそらく彼がパーティのリーダーだろう。
「怪我はないようだし、先に進みましょ!」
そう言うと、猫人のリアムは軽やかな足取りで先頭を歩く。
先ほどから見るに彼女はスカウト(斥候)のようだ。
こんな森に罠なんて無いので、その役割は敵の感知だろうが。
「おい、アキラ! ボーと突っ立てるな。前衛だろ」
「あのあの、リアムちゃん、もう進んでいるので……」
そして、益荒男のマースルが戦士、エルフのレオがウィザードと言ったところか。
なかなか、バランスの良いパーティじゃなかろうか。
「「アキラ(さん)!!!!」」
「わ、悪い」
見ると、リアムがふんふんっと鼻歌を吟じ、歩を緩めることなく森の奥へ進んでいる。
ごめんね。隊列は前からリアム、俺、マースル、レオ、だから俺が行かないと後ろつかえちゃうよね。
「よしっ!」
と小さく緊張感を入れないし、ゆらゆらと揺れる猫人の尻尾を目で追いながら、彼女のもとへ走る!
「アキラの装備って今日登録したばかりの駆け出しにしては、しっかりしてんな」
俺たちは初戦でゴブリン二匹を屠ってから、どれくらい経っただろうか。
あれから、全く魔物と遭遇せず、気が緩みかけていたところに、マースルの声が響いた。
「そうなの? 普通じゃない?」
自分の装備に目を落とす。
黒を基調とした、どことなく学ランに似たデザインのインナー。
その上に纏っているのは胸、腰、腕など主要なところを守るライトアーマー。
そして、最後に愛刀である神剣アシュラ。
「普通じゃないわよ。駆け出しの頃なんて、そんな上等な金属の鎧なんて買えないわよ」
リアムが周囲を警戒しているのか、耳をピクピクと動かしながら教えてくれる。
確かに、この三人の中で前衛のマースルしか金属の鎧を身に着けていない。
しかも、筋骨隆々な体格のくせに纏っているのは、俺と同じライトアーマー。
フルプレートメイルを装備するだけの筋力はあると思うのだが。
「金属製の鎧って、そんなに高いの?」
胸当てをガチャガチャと弄びながら、何気なしに言う。
と、じぃ~~と効果音が出そうな程、三人は一斉に怪訝な目を向けてくる。
「どうし……は!」
ここでようやく気付く。俺が着るの、金属製の鎧じゃん!
なんで自分が纏っている鎧の値段を知らないんだ、と疑問だよね。わかるわかる。
「……ハハハ、そう言えば高かった気がするわ。結構、昔に買ったから忘れてたわー」
「あれぇ? でも、アキラって今日、冒険者登録したばっかじゃなかった?」
「…………」
とっさに言い訳を考えるが、すぐにリアムに看破されてしまう。
流石、猫人は感性が鋭い。そう、感性が鋭いから、見抜かれたのであって、俺の言い訳のレベルが低いということは無いはずだ。
わたくし、年齢=言い訳歴なので……。
「い、いいじゃん! お下がり(、、、、)とかなんだよ、多分」
まだ少し納得がいってない様子だったが、「そっか」とこれ以上の追及は辞めてくれた。
え? なんで、そこまで言いたがらないのかって?
そんなの、神剣同様、このインナーもライトアーマーも全て、サオリ先生に買ってもらったからだよ!
こちとら、こっちの世界じゃ無一文だ。
――学生なんて、見方を変えれば、ただのヒモなんだぞ!
「ん? ――ちょっと止まって!」
リアムの小さくも鋭い声が響き、皆一斉に足を止め、武器に手をかける。
「……モンスター?」
「うん。……右方向、数は六体!」
俺が問いかけると、ワンテンポ遅れて正確な情報が告げられる。
【勇者の卵】により聴覚も強化されているのだが、それらしい足音は全く聞こえない。
が、なんの迷いもなく武器を構えるマースルとレオを見て、俺も神剣を腰の鞘から引き抜き、ゆっくりと魔力を捧げる。
「モンスターが顔を出したら、レオが先制で魔法をぶっ放し、俺とアキラが斬りこむ。リアムはサポートに回ってくれ」
と、マースルは素早く作戦をたて。
俺たちは反対することなく「分かった」「りょ~かい」「が、がんばる」と答える。
「ねえ、リアム。敵の種類は分からないのか?」
モンスターが接近するまでのわずかな時間、少しでも情報はないか、と問いかけてみる。
「流石に、音だけではねぇ。声に特徴がある奴ならいけるけど、ゴブリンとかコボルトみたいな基本的に唸り声しか上げない魔物は判断できないなぁ」
ゆるっとした楽観的な口調で答える。
だからといって、彼女が周囲への警戒を解いてないことはピンっと張られた猫耳と細く睨むような眼から分かる。
この気の抜けたような口調は猫人だからか、彼女だからか。
「来たぞ!」
いつの間にか、隊列の先頭に陣取ったマースルから声がかかり、瞬時に頭を切り替える。
「ウゥーーァーーッーーゥ」
「アッーーーーウーウーッ」
初めに二匹のモンスターがゆらゆらとした足取りで姿を見せ。
それに続くように、四匹の魔物がこれまたゆっくりとこちらに近づいてくる。
リアムの言った通り、計六匹。
灰色の皮膚、だらんと力なく伸びた四肢、鋭く研ぎ澄まされた爪を牙。
人型モンスター。食屍鬼とも呼ばれる、グールである。
「いくぞぉぉぉ――――おぉぉ――――ッ!」
マースルの大音声を、皮切りに一斉に動き出し。
戦闘開始――!
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