血潮

柿.

人は繰り返すことの集大成である。

 コロッ、コロコロ。

 音のした方向を見やるとシャープペンシルが転がっていた。わたしのものではないなあ。板書を再開。


 誰もシャープペンシルを拾おうとしないらしい。シャープペンシルはじっとその場から離れないみたい。持ち主は困らないのかな? それとも予備を使っているの。気になってしまってシャープペンシルに視線を戻してしまう。このときなんだかそれと目が合った気がした。なんとなく拾ってくれと言いたげな感じ。

 とはいえもちろん拾わない。わたしのものではないし持ち主に皆目見当がつかないしね☆ それにわたしとそれとはそれなりの距離がある。沈黙の五コマ目、立ち上がって持ち主を探すのはわたしのような人間には高度な任務だ。もし、床をゴミ箱だと思っている人が捨てたものだったら拾うのはおせっかいになってしまう。実際、消しゴムでこういったことがある。消しゴムの欠片とかって人によって使える基準違うからねえ。

 やっぱり気になる。うーんあんまり好かない方法だけれど前の人にシャープペンシル落とさなかった? って耳打ちして拾ってもらうかなあ。んーダメだね。拾う以前に見れば自分じゃないってわかっちゃうな。見たことないデザインなんだよね、これ。洗練されすぎてる(語彙がこない)感じ? ナウでヤングでトレンディなオートクチュールかな? オートクチュールの語感ってなんか不思議だよね。板書なんてどこ吹く風(使い方あってるか?)。ノートの端にオートクチュールと書く始末。ただただ真っ赤なシャープペンシル。なんでこんな赤いの、せめてグリップは別の色にしなさいな。あと先端が潰れてない? 書けんの、あれで。


 突然右斜め前の人がうなだれる。左側に。すんげえうなだれてる(語彙が)。両手が床に触れる。軟体動物かってレベル(語彙)。

左側にうなだれたのに頭は正面。寝てんのかな? ストレッチかな? それともミックスして体育の夢みてんのか? あ、ちげぇシャープペンシル拾ったんだ。ふうぃ、やっと視線戻せる。軽く金縛りレベルで見入っちゃった。

板書再開。

 ごっ!

 噴水。真っ赤な噴水。板書させない気だね。シャープペンシルはシャープペンシルでなく噴水の棒(語)になり果ててしまった。うなじにシャープペンシルがぶっ刺さってた。うなだれてた彼の血は重力に反して四方八方に四散。まるで血のスプリンクラーや。彼はびくともしないで居眠りの体制。あの、血が一生分(文字通り)でてますちょ。てかさ、ぶっ刺さってるのに血が出てるってことはたぶん二回以上は刺しなおしてるよね。水袋にえんぴつぶっ刺しても水が漏れないあれ。や、血でやったことはもちろんないからわからないけど。あ、ちなみにね周りの人は逃げまどってる。わたしは腰が抜けてるから動けねえ。


「ねえ、なんで拾ってくれないの?」そう言ったのは去年から同じクラスの男の子。いつのまにか噴水の傍にいた。シャープペンシルを握りしめる。

「困るなあ。またやり直しだ」

 シャープペンシルを引き抜いてはシャープペンシルを刺しなおす。シャープペンシルを引き抜いてはシャープペンシルを刺しなおす。シャープペンシルを引き抜いてはシャープペンシルを刺しなおす。シャープペンシルを引き抜いてはシャープペンシルを刺しなおす。シャープペンシルを引き抜いてはシャープペンシルを刺しなおす。シャープペンシルを引き抜いてはシャープペンシルを刺しなおす。シャープペンシルを引き抜いてはシャープペンシルを刺しなおす。シャープペンシルを引き抜いてはシャープペンシルを刺しなおす。シャープペンシルを引き抜いてはシャープペンシルを刺しなおす。シャープペンシルを引き抜いてはシャープペンシルを刺しなおす。シャープペンシルを引き抜いてはシャープペンシルを刺しなおす。シャープペンシルを引き抜いてはシャープペンシルを刺しなおす。シャープペンシルを引き抜いてはシャープペンシルを刺しなおす。シャープペンシルを引き抜いてはシャープペンシルを刺しなおす。抜いては刺す。抜いては刺す。抜いては刺す。抜いては刺す。抜いては刺す。抜いては刺す。抜いては刺す。抜いては刺す。抜いては刺す。抜いては刺す。抜いては刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。刺す。

 噴水の勢いは何故だか衰えない。

「次はちゃんと拾ってね」

男の子と目が合う。ニッコリ素敵な笑顔。彼のきれいな白い歯は鮮やかな赤い玉もように変わっていった。

                                                                  了 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

血潮 柿. @jd2020

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ