Freeze!!!
奈々星
第1話
僕は寝相がいい。
でもたまに朝起きると足を枕の方にやってひっくり返っていることがある。
そして、そういう時に見た夢は必ずその日に現実になるのだ。
これまでは晩御飯が外食に行く予定だったのが家でスーパーの弁当に変わるのを知ってたり、クリスマスプレゼントを夢の中で先に開けていたなんてこともある。
そして僕は今朝、目が覚めると枕に足を乗っけていた。
そして今日見た夢はこれまで見た事あるような日常のちょっとしたことではなかった。
今日の夢は、近くの大きい公園の夏祭りに幼なじみの遥香と夏祭りを一緒に回り、僕が用を足しにトイレに行っている間に他の男にひとけの少ない池に連れていかれ告白をされそのままその男と祭を回る。
戻ってきてもいない遥香を探しているとその2人を見つけてしまう。さらに遥香と目が合うと彼女は人差し指を立て、「1回だけ。時間を止められる。」そう言ってその指を僕の方へつんつんと出した。
その後、あとをつけていると男が不良とトラブルを起こしてボコボコにされ、遥香が巻き添えをくらい連れていかれそうになる。
そこで僕の好きな漫画に出てくる時間を止める力を持つキャラクターと同じように
「Freeze!!!」と心の中で叫び時間を止め、彼女と二人でその公園を出て少し散歩をして落ち着く。
そのまま僕達がいい雰囲気になってきたところで目が醒めた。
少し卑怯だったかもしれないが完全な勝ち戦で多分僕はこの後彼女と付き合うのだろう。
昨日から今日の夏祭りに二人で行く約束はしていたので今日も例のごとく夢の出来事が現実に起こるのだろう。
ということは僕は今日だけ時間を止める
特殊能力者になったということだ。
学校では何も変わったことはなく、友達との話題も今夜の夏祭りで持ち切りだった。
そして夕方5時30分。
僕は彼女の家に迎えに行った。
遥香は学校のマドンナと呼ばれ、男子たちから根も葉もないことを言われることは多かったが僕は気にしなかった。
では僕はなぜ学校のマドンナと夏祭りに行くことになっているのか。
それは僕らは家族ぐるみで仲が良く小さい頃からの毎年恒例の行事だったからだ。
「行こうか。」
玄関から綺麗な浴衣を着た彼女が出てくる。
眩しい。目を当てられないくらい眩しい。
僕は彼女に見とれていたが直ぐ首を振って切り替えて祭りへ向かった。
僕はいつ彼女に何が起こるか分からないので気が気でなかった。
そのせいで口数が減っていた。
「ねえ、今日なんか落ち込んでるの?
全然喋らないよね。」
「あぁ、ちょっとお腹痛くて。」
僕は怪しまれないように丁寧な返事をして、さらにトイレに行くための伏線も張ってみせた。
「そう。今日なんか変なもの食べたんじゃない?」
その後は話も軌道に乗ってきた。
焼きそばやわたあめを食べて楽しい時間を過ごした。
そして僕は自然に催し、トイレに行くことになる。
「遥香、トイレ行ってくるからここで待ってて。」
「うん。早くしてねー。」
これから大変なことになると言うのに能天気なものだ。
僕は急いで用を足し彼女のところに戻るも夢の通り、彼女はそこにはいなかった。
本題はここからだ。
僕が次に彼女を見つけるのはもう他の男に捕まって祭りを回っている時。
僕はなるべく告白の直前に時間を止めて彼女をどこかへ連れ出したいので人をかき分け血眼になって彼女を探した。
これ以上探しても埒が明かないので池の近くに張り込むことにした。
夢で見た景色と重なる場所を探しその近くの草むらに隠れる。
ここで僕は少し嫌な予感がした。
この場所で彼女をあの男の告白から連れ出そうと張り込んでいるということは未来を変えてしまっているということで、もしかしたら夢とは違うことが起きるかもしれない。
しかし彼女とあの男は僕をいい意味で裏切ってくれた。
男は彼女の手を引いて夢の通りの場所までやってきた。
彼女は男の手から必死に逃げようとしていた。
「嫌だって言ってるじゃん。私には好きな人がいるの!離して!」
「うるせえなあ、いいじゃねえかよちょっとくらい。」
ヤバそうだ。
彼女が嫌がっているのに男はその状況を愉しんでいるように見える。
気持ち悪い。
早く助けなければ僕が立ち上がろうとした瞬間。
バチンッと彼女が男の顔面を引っぱたいた音が聞こえた。
男が彼女を睨みつける。
「くそっ、てめぇっ。」
今しかない。
僕は心の中で叫ぶ。
"Freeze!!!"
時間が止まった。さっきまで鳴いていた蝉の声も祭りのどんちゃん騒ぎも景色だけを残して消えてしまった。
夢の通りならばこの時間が続くのは10秒。
僕は彼女の元へ駆け寄り手を握って動かない彼女を引っ張って行こうとした。
しかし時が動き出す。
未来を変えてしまったせいだ。
本来ならば10秒だったのが5秒しか止めることが出来なかった。
それでも無我夢中で彼女を連れて走る。
急に目の前にトイレに行ってから会っていない幼なじみが現れて一緒に走って逃げているのだから状況を飲み込むのに時間がかかるだろう。
ぽかんとしている彼女と違い男は追いかけてくる。状況を飲み込めるかどうかなどどうでもよく彼女を取り戻したいという一心なのだろう。猿め。
僕らはすぐに人混みに紛れ人をかき分け進んでいく。
そして公園を出て2人で暗い住宅街をゆったり歩く。
彼女は怖かったと言った。
彼女はありがとうとも言った。
僕は立ち止まって彼女の方に向き直って言った。
「遥香は僕が守るから。」
男から逃げ切った達成感で態度とは裏腹に落ち着きを取り戻せず熱を帯びたままの僕はつい口に出してしまった。
遥香は笑ってた。
冗談だと思ってくれたら幸いだな。
心の中で呟いていたら彼女が話しかけてくる。
「私も好き、ていうかずっと好きだったんだよ。」
僕はびっくりして黙り込んでしまった。心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと思い僕は慌てて口を開く。
「ほんとに?」
勇気を出して言ってくれただろうに僕は何を言ってんだろう。
彼女はそれでももう一度言ってくれた。
「好・き!
付き合おう?」
赤くなった顔を隠すように僕はうなづいた。
もう一度、時を止められたらな。
この時間が一生続けばいいのに。
Freeze!!! 奈々星 @miyamotominesota
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