刹那、切に
伽藍青花
刹那、切に
午後八時半の繁華街。レストランは混雑のピークが過ぎ、居酒屋はサラリーマンであふれ始める頃。大通りは人で混雑し、道路も渋滞こそないものの、たくさんの車が走っている。
その人ごみの中、僕たちはとても目立っていた。
「誰よ! この女!」
金髪の、いかにもギャルというような僕の彼女が、叫び声をあげた。
「……うるさい」
黒髪の、いかにも清楚というような僕のもう一人の彼女がつぶやいた。
いくら他人のことに興味がなくても、こんな公共の場で修羅場があれば、少しは見てしまうもの。ほとんどの人が横目で見ながら通り過ぎていく。
「ちょっと、説明しなさいよ!」
と金髪の方の彼女が叫ぶ。
「……」
一方、黒髪の方の彼女は何もしゃべらなかった。
「えっと……」
僕は、どうやってこの状況から抜け出そうか、考えていた。こんな人通りの多いところで騒がれては困る。
「あなたね! あなたが、私の彼氏をたぶらかしたのね!」
何故だか、怒りの矛先は黒髪の方の彼女に向いたようだ。助かった。
「……」
黒髪の方の彼女はやはり無言を貫いていた。
「ちょっと、何か言いなさいよ!」
金髪の方の彼女が、黒髪の方の彼女の髪をつかみ引っ張った。
「痛い! ちょっと、やめてよ!」
黒髪の方の彼女が、痛さで叫ぶ。
「あなたのせいなんでしょ! ……ちょっと! 離しなさいよ!」
黒髪の方の彼女も抵抗して金髪の方の彼女のバッグをつかむ。
二人は、罵詈雑言を浴びせ合い、取っ組み合いの喧嘩を始めた。
周りからざわめきが聞こえ始める。
だから嫌だったのに。
二人はまだ周りの目を気にせず喧嘩をしている。
金髪の方の彼女が黒髪の方の彼女の足をかけバランスを崩させる。
黒髪の方の彼女は金髪の方の彼女のバッグを引っ張り、自身の方へ引き寄せる。
悲鳴。
二人はそのまま道路へ――
刹那、切に――
刹那、切に 伽藍青花 @Garam_Ram
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