夢と幻想 overflow.
春嵐
01 overflow.
夢を見た。
人がたくさん、落ちていく夢。
その日の夜、バラエティでぬるぬるした坂から芸能人さんたちがたくさん落ちていくのを見た。
これが、夢の内容なんだと思って、妙に納得してしまったのを覚えている。
夢は、ときどき見る。脳内が記憶を整理していて、そのときの内容が現実や感覚とは関係なく出てくると本には書いてあった。
「漫画のなかでは」
よく読む漫画のなかでは、夢の中は別の世界と繋がっていたり、物語上で重要な示唆がされたりするのに。
わたしの夢は、特に、何もない。
無理してこじつけるなら、ぬるぬる坂で芸能人さんが落ちていくのを予見したから、予知夢。
「予知夢」
ありえない。たまたま、似た内容の夢を見ただけ。どうせ、CMか何かでその番組のその部分だけをどこかで見て、それが夢に出てきただけ。
日常のなかに、何も、特殊なことはなかった。人が流れて、勉強や仕事が押し寄せて、そして去っていく。朝が来て、お昼ごはんを食べると、もう夜。
今日は夢を見なかった。何も、起こらないのかもしれない。
その日は、雨と風が強かったので外に出ることはできなかった。河川氾濫とかは起こらない。窓に叩きつけられる雨を、一日中眺めて過ごした。お昼ごはんはカレー。夜ご飯もカレー。
夢を見た。
泣いている、自分。
すぐに起きた。
おかしな夢。自分のことを、自分で見る夢。なんで、泣いていたんだろう。
そこで、気付いた。ベッドじゃなくて、ソファで寝てた。ごはんを食べてすぐ。
さっきまで頭を
「カレーが」
口元のカレーが、ソファに付いちゃった。ちょっとだけ泣いた。お気に入りのソファなのに。
次の日。
がんばってソファの外張りを剥がし、洗濯にかけた。一時間のあいだで、雑貨屋に行って良さげな色のバスタオルを買ってくる。
部屋に帰って、洗濯が終わった外張りを干して、バスタオルをソファにかけて座った。
「カレー」
いや、カレーは昨日二回食べたな。
うどんにした。
カレーうどん。
晴れていたけどすぐまた雨の予想だったので、外張りは早めに取り込んだ。ちゃんと乾いていたので、がんばってソファに取り付ける。
その上にバスタオルを敷いて、座った。
バスタオルのやわらかな感じが、癖になりそう。
眠くなる前に、ちゃんとベッドで寝た。夢は見なかった。
次の日も雨。
その次の日も雨。
窓を眺めるのに飽きたので、漫画を読んだ。夢の中で、大事な人が出てきたり、なんかテレパシーみたいなのを使ったり。
「夢」
思い出した。そういえば昔買って、まだ読んでなかったっけ。大きな夢を掲げて、それに向かって進んでいく王道系の少年漫画。
棚を探して、1巻を引っ張り出して、読んだ。
「これは」
夢じゃない。こういうのは、目標っていうんだ。
「おもしろくない」
全巻セットで買ったのは、間違いだったかもしれない。
「おもしろくない」
何が。
夢を持たず。寝て見る夢に思い耽って。
「おもしろくないのは」
自分自身じゃないのか。
読んでいた漫画を蹴っ飛ばし、ベッドにもぐりこんで眠った。
夢は、見なかった。
空腹で起きた。牛乳にフレークを入れて飲んだ。途中少しむせた。顔が白くなったので顔を洗った。気付いたら、お風呂に浸かっていた。顔を洗うだけの予定だったのに。
お風呂あがったらお腹がまたすいたので、お茶漬けを食べた。さっきお風呂に浸かっていた自分を食べるような、そんな、なんか、不思議な感じがした。おいしかった。途中でわさびを入れたら、更においしくなった。
また、ベッドにもぐりこんで。
気になったので、いちどベッドから出て窓を確認する。閉まってた。雨はまだ降っている。
ベッドに。
もぐり込んで。
眠った。
夢を見た。
誰かに会った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます