二十年目のおはよう

山川ぼっか

おはよう。

「おはよう。今日もいい天気だね。俺君とここの桜を見るのは何回目なんだろうね。いつもそうやってほほえでくれていて私はうれしいよ。まさかこんなに長い付き合いになるなんてね。もう私はおばさんだよ」

「俺だってそうですよ。ってか先におはようって言わないでください。俺が先にいうんだから」




 彼女との出会いは高校一年生の入学式の日だった。方向音痴な俺は学校に行く途中でどうやら道を間違えていたようで迷子になってしまっていた。その時、彼女が声を掛けてくれた。

 

「お、うちの制服の人がこの辺にいるなんて珍しいじゃん。どうしたん?」

「は、はいっ! 同じ制服の高校だと思います…、あ、えっと…。」


 女子生徒の制服は、採寸の時に置いてあるのを見ていた。なので同じ高校なのだろうということは分かった。しかし、初日から迷子なんですなんて言えるわけがない。


「そうだよね~。ってか私二年生なんだから同じ制服ぐらい覚えておけってな? それでこのあたりには今まで私しか住んでいないはずだから、新入生かな? それとも謎の転校生?」


 彼女はそう俺をからかいながら満面の笑みを見せる。からかわれたのはなんか悔しいが迷子だとはばれていないようだ。このままこの辺に引っ越してきたということにしてごまかそう。


「そ、そうなんです。今日から学校でドキドキで早く行かないとなぁって」


 俺はそういいながらはにかむ。


「ふーん。じゃあ私と学校行こっか。 私も一人で行くの寂しかったんだよね~」


 俺の同意もなく決まる。うれしいけれども家の方角とは真逆…。うそをつくべきじゃなかったな。


「なんか言ってよ。返事がないってことは決まりってことでいいね。じゃあ学校行こうか。走って」


 彼女はそういうと俺の手を引いて全力で走り出す。とても早い。確かに俺が元帰宅部だからかもしれないがついて行くので精いっぱいだ。

 そのまま信号に引っかかることもなく学校についたのだがもちろん男女が手を引きながら走ってきたら注目の的になるのは至極当然のことだろう。学校初日からやってしまったと思っていたらそうではなかった。チャイムがもうなっていたのだ。


「じゃあ私はこっちだから今日よりはもう少し早い時間に同じ場所でっ! じゃあ頑張りなよ、迷子の新入生さんっ!」


 彼女はそのまま走り去り、校舎へと消えていく。また明日…。ってかやっぱり迷子ってばれていたのか。


 それから、俺と彼女は出会った場所で毎日一緒に登校をすることに。




「おはよう! 今日もいい天気だね! せみも鳴き出しているしそろそろ暑くなってくるかな~?」

(おはよ、そうだね。雨も降らなくなってきたし、夏になるのかもね。)

「そうね、でも今日は夕方に雨が降るらしいからもう少しだね。俺君は今日は傘を持ってるの?」

(そ、そりゃあね? 傘くらいね。)

「持ってないなら帰り降ってたらいれ…。何でもないっ! さあ、早く行くよ?」



「おはよう! 今日は元気なさそうだね…。そんなを顔すんなって。私がいるんだから」

(元気がないわけではないが…。心配してくれてすごくうれしい。俺はそんなことないぞ)

「あら、そうだったの? まあ、明日は私の大事な大学受験の日なんだからもう少し笑っていてよ! 心配するじゃん」

(ごめんごめん。がんばって来てよ!)

「俺君が一緒に居ると思って頑張るから応援しててねっ! じゃあ行こか」




「おはよ。ごめんね、久しぶりになっちゃって。去年さ、大学落ちてからショックすぎて立ち直れなくて。まあ、今年こそって張り切って勉強してたのもあって俺君と全然お話しをできなかったのよ。別に俺君を一人ぼっちにしたいとかそういうわけじゃないのよ? でも、頑張りたかったからさ。今年こそ頑張ってくるよ~!!」

(そんなにずっと話すなんて珍しいね。いつもは元気いっぱいでササっといっちゃうのに。大丈夫。俺はずっと応援してるよ)




「おはよ! 大学って忙しいんだね。俺君に、毎日会いに来られると思ってたんだけどなあ。論文とか研究とかいろいろやってると会いに来れなくてね」

(そんなに毎日来られても恥ずかしいから…。来られるときだけでいいよ)

「まあ、来られるときは、ぜええええったいに来るようにするから。大事な時も絶対に行くからっ! じゃあ今日も行かなくちゃっ!」




「おはよっ! 今日は大切な発表があるんだっ! まあ、これが成功しないと(24)単位もらえないから絶対に、落とせないんだけどね」

(そんな日に俺とあっていていいの? 早く練習とかもあるだろうし、行けって)

「言ったじゃん。大事なことがあるときは俺君に会うって決めてるのっ! 応援しててね」




「おはよ。そろそろ俺君もお酒が飲める年になるねぇ。やっと追いついたかっ!」

(おいつくもなにもまだ誕生日じゃないから飲めませんよ~!)

「おっとまだ誕生日じゃないから、飲めないのか~。早く私に付き合えるようになりなさいねっ!」

(俺だって早く飲みたいよ!)




「おはよっ。寒いね~。雪も降って来ちゃって。今日はね、ちょっと話があって来たんだ」

(そんな神妙な顔してどうしたんだ)

「いやね、私来年から大学のキャンパスが遠いところになっちゃって俺君には会いに来れなそうなんだ」

(なんだ、そんなことか。それくらいどうってことないよ)

「いやさ、俺君がどう思ってくれてるかは分からないけど私凄く寂しくって。がんばれるかなって」

(そんなことないよ。がんばれるって。いつでも俺がそばにいる。いつもそうなんでしょ?)

「当分会えないの寂しくてさ、やめようかとすら思ったけど私たちの未来のために頑張ってくるから、もう少し待っててね」




「おはようっ! やっと帰って来たよ~!!! 学校も卒業して就職も決まっちゃってるんだけどね。これからは毎日俺君に会えるところだし頑張らないと!!」

(おかえり、やっぱり二年間会えないと寂しかったわ。でもこれからまいにちあえるならうれしいっ!)

「あ、いま笑ったでしょっ! わったしも~! これからもよろしくね」


これから俺と彼女は毎日会うことができた。彼女は忙しいのでおはようの一つのやり取りばかりだったが俺にとってはとても嬉しかった。彼女の声が届くのが。


「おはようございます。ついにこの日が来ました。私はこの日のために二十年頑張ってきたと言っても嘘ではありません。絶対に大丈夫です」

「俺君もずっと生きてこれたのは彼女さんのおかげだと私たちは思っています。どうか、どうかずっとお世話をかけてしまっている俺のためにももう少しお願いします」

「ありがとうございます。それでは」



「おはよう! 今日は大切な日になるよ。いつからだろうね。おはようって私からしか言わなくなっちゃったのは。でも、それも今日で終わり。次ちゃんと会うときには俺君からおはようって言ってくれないと、許さないんだからね? まあ、よその人から見たら

ずっと眠っている少年に喋りかけてる変な人って見られてたかもしれないけど私はいつも俺君が返事してくれていると思って話してたから。絶対に伝わってるって。だってなんども俺君にここまで私が救われてきたもん。今度は私が救う番。一緒にがんばろ…」










眩しい…。光が。んん、目の前にいるのは…。



「おはよう…ですかね?」

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