第5話

 数日をかけて俺たち兄弟は帝都へと戻ってきた。

 巨大なブーゼ帝国の中心とあっていつ来ても凄まじい賑わいだ。

 毎日祭りでもやってるんじゃないかと思う。


 俺たちが目指すのはこんな人がごった返す中央通りじゃない。

 さっさと裏道に入って仲介屋の店に行かないとな。


 そうすると前方から黒色の鎧を纏った集団が見えた。

 帝国自慢の『ヘルツ騎士団』御一行様だ。

 毛並み美しい白馬を操るのは団長のディートハルト。

 万人にやさしさを振りまき、忠義に厚く、騎士道を貫く騎士のお手本のような奴だ。


 現王になってからは帝国の侵攻もなく、訓練と称して遊んでればいいものを帝都の警護を率先して行っている。

 俺たちはみ出し者からすると邪魔でしかない厄介者だ。

 自国民から称賛を浴びて笑顔の警護任務。

 その整った顔に矢の一本でも放ってやりたい気持ちを抑えて俺たちは裏道に入る。


 街の喧噪を後にし人気が少ない区画へとやってくる。

 真昼間から店を開けている酒屋に入り弟と二人カウンターに座る。

 賑わっているとは言い難いが、昼間から酒を呷(あお)るロクデナシどもが集まっている。


「いかがいたしましょう?」

「ここで一番きつい酒をくれ」


 店主にそう頼むと同時に一枚の金貨をさしだす。

 それを手に取り確認すると店主はニッコリ笑った。


「奥の部屋へどうぞ」

「ありがとう、バルトルトはここにいろ」


 弟を置いて案内された部屋の前に立つ。

 そして扉を五度叩く。


「騎士団は?」

「クソッタレ」


 それだけの言葉を交わすと鍵の開く音が聞こえる。

 扉を開け中に入るとすかさず閉め鍵を掛け直す。


「まったく、毎度面倒だ。ガキの遊びかよ」

「そう言うな、ワシだって辟易してるが己の身を守るには仕方ないんだよ」


 仲介屋は不気味極まりない笑みを零しながら俺を迎える。


「どうだ、簡単な仕事だっただろう?」

「ふざけるな、何が簡単だ。俺たちに化物退治でもさせようってのかよ」

「くくく、聡明なお前のことだ。必ず戻ってくると思っていたよ」


 聡明……ね。

 どの角度からもどんな解釈をしても嫌味にしか聞こえないな。


「依頼人のことを聞きたい。黙るってなら腕ずくにでも……」

「国の役人だ、情報元は言えねーが確かだ。まぁワシのとこに来た奴も使いのものみたいだがな」

「えらくあっさり話すじゃねーか。お得意の守秘義務ってのはいいのかよ?」

「構わんさ、この仕事がうまく片付いて金さえ貰えれば、仲介屋も終わりだ」


 なるほどな。

 俺たちに払う金も莫大なら仲介屋に払う金も同じ。

 それだけ羽振りのいい客を怪しんで調べたのか。


「請け負ったときは眉唾だったが、アレを見た俺から保証するぜ。これは本物だ」

「あぁ、お互い甘い蜜が吸いたいものだな。で、何がいる?人か、武器か?」

「両方だ。それなりに腕が立つなら馬鹿でもいい、いやそっちのほうが好都合だ。人数集めてくれ」

「なら知合いの傭兵団に紹介状を書こう。報酬はそっちで相談してくれ」


 紹介状を手に部屋を後にする。

 話がトントン拍子に進んで気持ち悪いが順調であるなら是が非でもない。

 ただ、気になるのは依頼人の話だ。

 間接的にとは言え国からの後ろ暗い依頼だ。馬鹿げた依頼料の出どころにも納得出来る。

 依頼の内容に関してはわからないことが多いが、それはあの娘に秘密があるのだろう。

 まぁここで考えても詮無いこと。やることは明確だし、報酬は十分……ならあとはやるだけだ。

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