君と出逢えた世界
【白鳥:水鳥の一種。あるいは白い羽の鳥。】
遂に、この時が来た。天気は黒くそして灰の様に煙った曇天。空気は冷たく湿っている。異常と言えるほどに澄んでいる空気から鼻腔を刺激する強烈な酢酸臭が漂ってくる。デイゴアモスも此方を本気で滅ぼすつもりで来ている様だった。
それでいい。今から始まる演奏はお前の為の鎮魂歌なんだ。
「分かってるとは思うが、観客に最高の演奏を届けてやりな。」
神官服を着た青年が指揮者の前に立って発した言葉は、演奏者達、そして俺の耳にしっかりと届いていた。
「教皇として魔強酸粘液の野郎を食い止める。だから、どんなことがあっても演奏は止めるな。そして、絶対に勝て。」
「ちょっと待ってください!!教皇様自身が囮になるなんて聞いてません!!危険すぎます!!」
一人のシスターが悲鳴の様な声で叫ぶ。教皇と呼ばれた青年は少女を安心させるように微笑む。
「俺チャンはどんなことがあっても演奏を止めるなと言ったんだぜ?この意味が分かるだろ?」
そう言い残し、教皇は踵を返して歩き出す。
「ジジイがいつまでも出しゃばる時代じゃねぇんだよ。俺チャンの代わりなんざこの大陸に幾らでもいる。」
教皇の背中を見て、誰もが不安を隠しきれない表情をしていた。教皇は最悪死ぬかもしれない。教皇自身はそれを覚悟している。
「(ワタシにも意地がある……か。)」
脳内にデイゴアモスの台詞が蘇る。デイゴアモスにも、教皇にも、それぞれの意地がある。
俺も迷うつもりはもうない。
指揮者の男性も白髪を気にしながら、指揮棒を懐から取り出した。そして指揮棒を構える。演奏が始まる前の独特の緊張感の中、俺は息を深く吸った。
そして怒号と共に演奏が始まった。怒号の正体は、デイゴアモスの触手が大地を砕く音だ。激しい衝撃と轟音が鳴り響く中、演奏者達は必死に演奏を続ける。
「(まるで嵐の中にいる様だ……)」
俺は演奏を続けながらも、周囲の様子を伺っていた。何故か脳の処理能力が上がっている。演奏しながら戦闘を冷静に確認くらいには。
「オラッ!!」
「邪魔よぉ!!神官服!!ワタシ、チャラいお子ちゃまは嫌い……なのよぉ!!」
デイゴアモスの触手を教皇の強力な神聖魔法が弾く。更に聖光魔法により生成された光の柱が次々と触手を貫く。だが、触手の数が減る気配は全く無い。
「人族の四肢の内、腕のみ魔法陣の制御が可能……だ・け・ど、腕の代わりとなる器官を持つ魔物はその分だけ制御出来る魔法陣が増えるのよねぇ!!」
教皇が放った光の矢が何本も地面に突き刺さり爆発を起こす。だが、その爆炎の中から触手が伸びてくる。
デイゴアモスの台詞通り、触手の先端に幾つもの魔法陣が展開され、そこから雷や火球が放たれている。
教皇は間一髪で触手と魔法を避けるが、着ていた神官服の一部が焦げてしまっていた。
「クソッタレ!!高ぇんだぞこれ。」
教皇がそんな攻撃を受けてなお、演奏は続けられていた。教皇の言葉通り、演奏を止めることは許されない。
「だったら……更に激しくイクわよぉ!!」
デイゴアモスの身体が発光し始めると同時に、デイゴアモスの周囲に光を吸収する暗黒の球体が無数に現れた。
そして、触手が先程までとは比べ物にならない速度で動き始める。
「おいおい……ここで震恐魔法なんて冗談きついぜ……」
演奏も戦闘もまだ始まったばかりだ。この場において諦めという感情は存在しない。
――――――――――――――――――――――――――
それは一つの可能性。かつて人間だった男の小さな霊魂。
数多の宇宙空間を旅する果てに一つの宇宙に辿り着いた。
「ここは、無だ。死んだ宇宙なのか、それとも始まってすらいないのか、何も感じない。霊的粒子もエネルギーも存在しない黒き場所……」
男は止まった空間の中で一人呟いた。所詮は人族、ちっぽけな存在に過ぎない。それでも、彼は永い旅の過程である能力を手に入れた。その能力は正に創造主と言うに相応しかった。
無を照らし、刻は確かに動き始めた。無重力の中に無数の小さな星々が浮かぶ光景が広がる。
星の河に三匹の白鳥が現れ、男に語りかける。
──貴方は信じて?
「何を?」
──この
──この
「……旅を続けて理解したことがある。生き残りたいという生物の本能こそが進化を促し、文化を生み、文明を築く。やがて下級宇宙を超えて上位宇宙に辿り着き……そして更に上位の宇宙を目指し続ける。」
──それが
白鳥達の姿は徐々に薄れていく。
──忘れないで。独りでは何かを成しても無意味なの。
──忘れるな。宇宙には、多くの可能性と
男の視界から、白鳥達は完全に消えてしまった。彼等も旅を続け、再び別の
「ありがとう。」
男が礼を言うと、羊皮紙の様な紙が何処からか飛んできて彼の手中に収まった。
羊皮紙の表面に文字が浮き出てくる。
「秘書官イザベル・ウルザード。種族は不死蝶。」
瞬間、羊皮紙が燃え上がり、中から幼き少女が現れた。
「おじさんだぁれ?」
「おじさんって……まあ、良いか。いいかいイザベル。よく聞いてくれ。」
男は少女の目線に合わせて屈みこむ。
「この宇宙を理想的な世界に創り直す。でもね、この世界はまだ不完全だから、君の力が必要なんだ。」
少女は首を傾げる。
「きっと面白い事になるよ。退屈なんてさせないさ、きっとね。」
退屈なんてしないと聞いたイザベルは目を輝かせながら笑った。
「そうだ。名乗るのが遅くなったね。私の名前はリムゥニア=ルゴトース。■■■だとか■■■■■だとか■■■■・■■■■とか名乗っていたこともあるけど……まあ覚えなくていいや。」
「おじさん!!面白いことするんでしょ!?なら、私は何をすればいいの!?」
イザベルは話を聞かずに目を輝かせて無重力空間に漂う。
そんな様子を苦笑いしながら見つめたあと、リムゥニアは静かに呟いた。
「……追々教えるよ。まずは……」
こうして一つの物語は確かに始まった。
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現在のステータス
生命力:B
魔 力:C
体 力:C
攻撃力:B
防御力:C
魔力攻:D
魔力防:D
走 力:B
現在使用可能なスキル
●身体、精神、霊魂に影響するスキル
『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。
『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。
『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。
『仮説組立(レベル5)』考察によって生まれた仮説を組み合わせて信憑性がある考えを導き出す、また記憶力や思考力を高める。
『解読』文や言語を理解するスキル。
『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。
『熱感知』目視可能な範囲の温度変化を感知するスキル。
『多重加速(レベル2)』加速を重ねることにより、更に速度を上昇させるスキル。
『大蛇の育成者』タイタンの幼体を育てる者、レベルアップ時にタイタンのスキルを獲得することがある
●技術
『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。
『加工技術』加工の技術を高めるスキル。
『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。
『斬槍技術』斬撃に特化した槍の技術を高める。
●耐性
『寒冷耐性(レベル6)』寒さを和らげて、活動しやすくする。
『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。
『毒耐性(レベル4)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。
『酸耐性(レベル5)』触れた酸を中和させて、活動しやすくする。またこのスキルを発動すると、触れた酸と同質量の水が生成される。
『塩基耐性(レベル3)』触れた塩基を中和させて、活動しやすくする。またこのスキルを発動すると、触れた酸と同質量の水が生成される。
『爆音耐性(レベル2)』爆音を和らげて、活動しやすくする。
『風圧耐性(レベル1)』風や衝撃に対するダメージを和らげて、活動しやすくする。
『恐怖体制(レベル1)』迸る恐怖を和らげて、活動しやすくする。
●魔法
『火魔法(レベル4)』火を操る魔法。
『水魔法(レベル3)』水を操る魔法。
『風魔法(レベル3)』風を操る魔法。
『時魔法(レベル4)』時を操る魔法。
『結界魔法(レベル1)』障壁を作り出したり、対象を拘束する魔法。
『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。
●加護
『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。
『象兵の加護』ヤコバクから異種族に与えられる加護。
『大蛇の加護』タイタンから異種族に与えられる加護。
現在の持ち物
銀の槍(緑王):ヴィクター・アガレスの槍。オークロードの額にあった宝石の欠片で強化し緑王という名前が刻まれた。
冒険者カード:名前、性別、年齢が書かれたカード。特殊な魔法道具が使われているため個人を特定できる。
毛布:ハウンドの皮をつなぎ合わせた物。粗末だが、トモヤがこの世界で初めて作ったもの。
黄色の水晶:エレノアからのプレゼント。微かにオーラを感じる。
デモカイガの繭:デモカイガは卵から双子の幼虫が生まれ、その双子の繭は空間が捻じ曲げられたかの様に繋がっている。その性質を利用し音声を共有することが出来るが、一度しようすると繭の中から成虫が飛び出して使えなくなる。片方の繭をミズキ達が所持している。
グランベードの遺石︰グランベードが消滅時に遺した結晶。微かな意志を感じる。
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