乾き逝き続ける怨霊

【怨霊系魔物︰生物の死後、マイナスエネルギーそのものに変異した魔物。通常攻撃ではダメージを与えにくく、魔法の威力も弱体化させる。ただし個体差はあるようだが。】


「トモヤおはよう!!」


エレノアさんだった。相変わらず陽気な声で話しかけてくる。


「おはようございます。エレノアさん。」


いつも通り後ろにはミーシャさんが控えていた。


「護衛の方は大丈夫?疲れてない?」

「はい。大丈夫です。」

「なら良かったわ!!あ、これ後で食べてみて!!ミーシャの新作だから!!」


エレノアさんは笑顔で言うと、小包を手渡してきた。


「それじゃあ私は用事があるから!!またね!!」


そう言って彼女は去っていった。ミーシャさんも軽くお辞儀をして、エレノアさんについていく。

小包みを開けると中にはクッキーが入っていた。また自由時間になったら食べようと思い、ポケットに入れる。その後朝食を食べて、部屋に戻る。チラッと窓から外を見ると、今日の空は鉛色だった。

数時間後には雨が降り出しそうな天気だ。


「キュイ……」


リザンテも気分はあまり良くなさそうだ。


「リザンテ大丈夫か?無理してないか?」


俺はリザンテの頭を撫でながら言った。リザンテは気分が悪いというよりは、何かに怯えてる様にも見える。


「どうしたんだろうな。」


俺は窓の外を見てそう呟く。

それからしばらくして、部屋の扉がノックされた。


「トモヤ君!!ちょっといい!?」


声の主はリゼだった。しかもリゼだけでなく、ミヅキ、アキオ、アイリの三人も一緒だった。

四人は部屋に入ってくると、深刻な顔つきになる。


「どうしたんだ?」


一体何事だろうか。俺は少し緊張しながら尋ねる。

ミヅキが話し始めた。かつて、この学園に突如として現れた怨霊系の魔物が再び中庭に出現したのだという。しかも前回よりも強力な状態で……

その話を聞いた時、俺はローブの男の顔を思い出した。


「それだけじゃないの……」


ミヅキの話によると、今回現れたのは一匹ではなく四体。


「今は副学長が結界魔法で抑えてるけど……」


そこでリゼが言葉を詰まらせる。


「四体とも強力な呪怨を持ってるんだよ……」


アキオが呟いた。

呪い……それがどんなものなのか俺には分からないが、どうやらただのモンスターではないようだ。

生徒や教師陣は避難が始まっているらしいが、俺達はどうするか話し合うためにここに来たという。

この場に置いて戦力になるのは、学長であるミネルさん、その息子の副学長、そして俺達しかいなかった。


「……行くしかないよな。」


俺は覚悟を決めた。


「そうよね……」

「とりあえず先生が鑑定で四体の怨霊の詳細を教えてくれたから、それを確認しよう。」


アキオが言う。


「奴らは中庭の東西南北に配置されていて、東に『エルドシザリーの怨霊』、西に『ガリアン・ターストラの怨霊』、南に『妖精族フェアリーの怨霊』、北に『巨人族ジャイアントの怨霊』がいるみたいだよ。」

「……」

「この学園にかつて現れたのはガリアン・ターストラの怨霊だ。こいつは亀型の魔物で、怨霊特有の物理耐性に加えて、甲羅による高い防御力を誇る。」

「……なるほど。それにしてもガリアンってことはガリアン・アトラストやガリアン・ノアムーンと関係があるのか?」

「ガリアン・ターストラは絶滅した魔物なんだよ。」

「ああ……そういうことか。」


確か飛行能力のある鯨と猛毒や菌を持った大群の鰐だったよな。そんな奴らに挟まれたらひとたまりもないな。


「ターストラはアイリと俺が仕留める。学長がエルドシザリー、先生が巨人族の怨霊に当たるらしい。トモヤ達はミヅキと妖精族の怨霊を頼む。」

「分かった。」

「それで、もし危なくなったらすぐに逃げる。いいね?」

「もちろんだ。」


俺達は早急に準備を整えると、それぞれの持ち場に向かった。


――――――――――――――――――――――――――

既に雨はどんどん強くなっている。まるで嵐のような天候の中、俺たちは中庭に到着した。


「雷雨だね……トモヤ君大丈夫?」

「問題ない。それにしても……あれが妖精族フェアリーの怨霊なのか……」


目の前には、黒い霧のようなものに覆われた人型の何かがいた。よく見ると蝶の羽が生えており、明らかに普通の人間とは違うことが分かる。


「人族……フフフフフフフフフ……ブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチブチに引き裂いてやるの。私を貶めて犯して苦しめて殺した……人族……」


呪詛……であることは間違いないが、妖精族フェアリーの怨霊は異常に落ち着いている。


「……!!」


ミヅキは剣を構えて突進するが、怨霊はひらりと避けてしまう。


「あなたも殺してあげる。物語の王様みたいにギロチンで首を落としてあげましょう。」


そう言いながら妖精族フェアリーの怨霊は手に持っていた杖を掲げる。すると、空中に魔法陣が浮かび上がり、そこから無数の氷の刃がミヅキに向かって放たれていく。


「くっ!」


ミヅキはそれを全て避けるが、怨霊はさらに追撃を行う。


「これって寒冷魔法なのか!?」


俺は思わず叫んだ。俺はかつて受付嬢の寒冷魔法を間近で見たことがあるが、それとは全く違う。あまりにも鋭利で、そして哀しい。


竜眼ドラゴニックアイズ!!」


リゼが竜魔法で自身を強化すると、怨霊に斬りかかる。しかしそれを怨霊は軽く受け流すと、そのままリゼの腹に蹴りを入れる。


「ぐふっ!?」


リゼはそのまま吹き飛ばされてしまった。


「リゼちゃん大丈夫!!」

「フフフフフフフフフ……憐れ哀れね、何が王様よ。何が英雄様よ。結局は物語に守られただけじゃないの。」


……やっぱりこの怨霊、王様って言葉を何回も何回も使ってるな。しかも、かなり恨んでいるようだ。


「何がガリア帝国よ……フフフフフフフフフ……何もかも滅ぼしてやるわ……」


そのガリア帝国はとっくの昔に滅んでるんだけどな……


「……何……その目?私を馬鹿にしているの?憐れんでいるつもり?哀れんでいるつもり?……イライライライライライライライラするわ。妖精族フェアリーよりも惨めで弱くて醜い存在の癖に……」


初めから分かっていることだが、この怨霊はずっと独り言だ。一方的な呪詛……孤独な自分語り……それなのに喋り方はずっと平坦で抑揚がない。


《熟練度が一定に達しました。スキル『仮説組立(レベル2)』が『仮説組立(レベル3)』に上昇しました。》


「お前の言葉……何処か他人事の様に聞こえるよ……実際にやられたことも言ってるんだろうけど、それでも一部は物語の中の出来事だろ?」


この怨霊は恐らく個人の怨みだけではなく、物語の中の妖精族フェアリーの怨みも背負っている。だから現実と虚構が入り交じったような言葉になる。


「それが何?それで私が止まるとでも思ってるの?そんなことは初めから知っているわ。私は妖精族フェアリー……でも今はこの悪意と憎悪マイナスエネルギーに満ちた怨霊でしかない。」

「……」

「その目……フフフフフフフフフ……抉り出して氷漬けにしてあげるわ。そうすれば未来永劫語られる神秘となるでしょう。」

「……」


もう何を言ったところで無駄だろうな。俺は槍を構える。リゼが回復する時間稼ぎは何とかできたはずだ。


「去ね。」


妖精族の怨霊はそう言うと、再び攻撃を開始した。


――――――――――――――――――――――――――

「……そうですか。あの怨霊が蘇る土壌は準備できましたか。」


エウテルベは帰ってきた荒くれの男に話しかけた。


「へぇ……ですが本当に蘇るんですかい?あのグランベードとかいう植物系魔物の怨霊は……」

「あの場には元々四体の怨霊がいました。弱体化を解けば勝手に捕喰を始めるでしょう。」

「グヘヘ……共喰いする怨霊なんて聞いただけで食いがいがありそうだな!!」

「言っておきますがグランベードには生命力はありませんよ。全く知識不足に油断それがあなたの弱点でしょうに……」

「す……すまねぇ旦那。」

「まぁいいです。そろそろこの大陸からはおさらばしましょうかね。」

「グヘヘ。懐かしの戦乱の大地かァ……楽しみだぜ……」

「ええ。あそこは良い。既にテルプシエラさん達も到着している頃合いでしょうかね……」


二人の目の前には強固に作られた軍船がある。船底は黒い鋼で出来ており、非常に頑丈に作られている。そして船首部分には、禍々しいデザインの石像が埋め込まれている。これにより海の支配者である魔物達からの襲われる危険もほぼ無くなくなるのだ。


――――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

生命力:B

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:B

防御力:C

魔力攻:D

魔力防:D

走 力:B


現在使用可能なスキル

●身体、精神、霊魂に影響するスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『仮説組立(レベル3)』考察によって生まれた仮説を組み合わせて信憑性がある考えを導き出す、また記憶力や思考力を高める。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『熱感知』目視可能な範囲の温度変化を感知するスキル。

『多重加速(レベル2)』加速を重ねることにより、更に速度を上昇させるスキル。

『大蛇の育成者』タイタンの幼体を育てる者、レベルアップ時にタイタンのスキルを獲得することがある


●技術

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『加工技術』加工の技術を高めるスキル。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。

『斬槍技術』斬撃に特化した槍の技術を高める。


●耐性

『寒冷耐性(レベル4)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『毒耐性(レベル1)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。

『爆音耐性(レベル2)』爆音を和らげて、活動しやすくする。

『風圧耐性(レベル1)』風や衝撃に対するダメージを和らげて、活動しやすくする。


●魔法

『火魔法(レベル3)』火を操る魔法。

『水魔法(レベル1)』水を操る魔法。

『風魔法(レベル1)』風を操る魔法。

『時魔法(レベル1)』時を操る魔法。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。


●加護

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。

『象兵の加護』ヤコバクから異種族に与えられる加護。

『大蛇の加護』タイタンから異種族に与えられる加護。


現在の持ち物

銀の槍(緑王):ヴィクター・アガレスの槍。オークロードの額にあった宝石の欠片で強化し緑王という名前が刻まれた。

冒険者カード:名前、性別、年齢が書かれたカード。特殊な魔法道具が使われているため個人を特定できる。

毛布:ハウンドの皮をつなぎ合わせた物。粗末だが、トモヤがこの世界で初めて作ったもの。

黄色の水晶:エレノアからのプレゼント。微かにオーラを感じる。

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