表裏一体の盾 柔らかくそして硬い

【ヤコバクの加工技術︰ヤコバクの非常に優れた骨加工の技術は冒険者を支える武具防具や魔法道具だけでなく家具や日用品に至るまで幅広く利用されている。】


「ハガヤ殿!こちらです!」


冒険者の人が門の前で手を振って呼んでいた。隣には弓を持った女性がいた。おそらく彼女がもうひとりの冒険者なのだろう。


「お待たせしました。」

「いえ、問題ありませんよ。では早速向かいましょうか。」


リザンテは眠そうにポケットから顔を出していた。まだ日が上がって数時間といったところだ。仕方ない事だろう。


「ゲカルドゲは朝に弱体化する生態を持っています。ですが、全く油断のできる相手ではありません。気を引き締めていきます。」

「わかりました。」


俺達はエイハブ山脈に向けて出発した。弓を持った女性は一言も喋らずにスタスタと歩いていく。俺は彼女の後ろについて行く形になっていた。それにしてもこの人も強そうだな……俺がそんなことを考えていると彼女は立ち止まり、こちらを向いてきた。


「その子、可愛いですね。」

「あ、ありがとうございます。」

「……撫でてもよろしいでしょうか?」

「えぇ、もちろん。」


俺が答える前にリザンテは既にポケットから飛び出し、女性の肩の上に乗っていた。


「あら……随分人懐っこい子ね。」


そう言いながら優しくリザンテの頭を撫でた。


「それでは参りましょうか。」


俺達は再び歩き始めた。


「ところでハガヤさん……でしたっけ?いつも姉がお世話になっています。」


姉?俺の知り合いに妹がいる人なんていたっけ?


「あの?」

「はい、何でしょう。」

「お姉さんは誰のことでしょうか?」


すると彼女はキョトンとした表情になり……少し間を置いて口を開いた。


「まさか……ご存知ないのですか?」

「ハガヤ殿、彼女はウサリア様の妹のエルウサさんですよ。」


ってことは受付嬢の妹さんか!言われてみれば氷の様なクールさは似ているかもしれない。しかし受付嬢と違って、あまり感情を表に出していないように思える。


「えっと……お姉さんには助けて貰ってばかりです。」

「そうでしたか。姉曰く非常に伸びしろがある冒険者の方だと聞いております。姉からの伝言ですがギルド職員に興味はないかということです。」


あの人、どれだけ俺のことギルド職員にしたいんだよ!


「まあハガヤ殿にも何か事情があるのでしょう。その辺りは私からも伝えておきます。」


そういえば、この冒険者の人の上司でもあるんだもんな……受付嬢……それから談笑しながら暫くして、目的地に到着した。

山岳地帯はオークロード戦以来だ。だがすっかり道が舗装されていて、なんなら山小屋まで建てられていた。


「ハガヤ殿、今回は魔物の大量発生では無いので、もし異常事態が起きた場合は深追いはしないで下さい。」

「即座に撤退。その為の舗装された道ですので。」

「はい。分かりました。」


しばらく歩くと、岩陰からゴブリンが現れた。数は四体。


「黒い影の様なモヤが見えた警戒を!」

「了解しまし……離れてください!」


戦闘が始まろうとしたその時、俺の敵意感知に反応があった。当然二人も気づいたようで武器を構えている。

ゴブリンの群れを中心に爆発が巻き上がった。


「グギャァ!?」

「グギィ!!」


どうやら爆発はゴブリンごと俺達を仕留めようとして起きたものらしい。これはまずい……早く逃げなければ!


「おや?懐かしい顔が一人。」

「いつぞやの野郎じゃねぇか!!」


爆煙の中から現れたのは、エレノアさんを攫った連中だった。しかし赤ローブを着た男と荒くれの男しかいないようだ。


「他の奴等はどうした!」

「彼等には休暇を楽しんでもらっていますよ。と言っても休暇場所はこの世ではありませんけどね。」


つまり荒くれの男以外は死んだということか?


「ハガヤ殿のこの男達は?」

「以前、街中で遭遇した怪しい集団です。」

「なるほど……それでしたら私にお任せください。」


そう言ってエルウサさんがローブの男に矢を放った。


「無駄です。」


放たれた矢は男に直撃する2mといった所でポニュンと気が抜ける音と共に空中で静止していた。冒険者の人はナイフを投擲するが、これも同じく止められてしまった。


「流石だぜぇ旦那!!」

「……先に答えだけ教えてあげましょう。“最強の盾”、私から半径2m以内の攻撃は全て無効化されます。柔らかいそして硬い、矛盾した二つの要素を両立させた究極の防御なのです。」

「グヘヘ……しかも旦那の透明な膜最強の盾は旦那自身の攻撃は通すんだよなぁ……旦那は無敵だぜぇ!!」


俺は火球を男に投げるが……やはり2mの地点で消滅した。魔法攻撃すら防ぐのか……


「それに私に目を向けていて良いんですかね?」


俺達は周りをよく見ると山岳地帯ではなく、花畑に立っていた。花の甘い匂いや涼しい風まで感じる。


「これは!?ゲカルドゲの幻覚攻撃か!!」

「では我々はこれで。」


恐らくローブの男は幻覚すら相殺しているんだろう。そうでなければこの状況でこんなに余裕のある行動はできないだろう。

そして一瞬瞬きする頃にはローブの男も荒くれの男の姿は消えていた。


「ハガヤさん、今は周りの警戒をお願いします。」


そう言いながらエルウサさんが弓を構える。


「ハガヤ殿、もはや敵意感知だけが頼りです……ゲカルドゲの攻撃を喰らわないように!!」


ゲカルドゲは幻覚や幻聴などの精神干渉を得意とする魔物だ。それに幻痛という、物理攻撃を介さない痛みを与えることもできる厄介な相手である。


「魔法道具を使います!!」


冒険者の人がそう言うと、杭の様な物が地面に刺さっていた。すると花畑にいた幻覚は解けた。


「ヤコバクの骨杭……この骨杭から発せられる弱毒の気体から神経系を麻痺させます。これを吸うと一時的に幻覚などの精神干渉を無効化できます。」


なるほど、ゲカルドゲ対策のアイテムなのか。


「弱毒と言っても、非常に危険なものです。あまり使いたくはありませんでしたが……仕方ないでしょう。」


それからしばらく警戒していたが、敵の気配は感じられなかった。周りをよく見ると岩がピクピクと動いているのが見える。

どうやら骨杭の効果でゲカルドゲも動けなくなったようだ。この後、俺は冒険者の人に指示に従い、ゲカルドゲを討伐したのだった。結果的に依頼は終わったが、あのローブの男はオークロードやエルドシュリンプとは違う圧倒的な能力を持っているのだと思い知らされた。


《熟練度が一定に達しました。個体名"トモヤ・ハガヤ"がレベル10になりました。》

《身体の損傷を再生します。》

《スキルポイントを入手しました。》

《熟練度が一定に達しました。スキル『熱感知』を獲得しました。》


――――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

生命力:B

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:B

防御力:C

魔力攻:D

魔力防:D

走 力:B


現在使用可能なスキル

●身体、精神、霊魂に影響するスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『仮説組立(レベル2)』考察によって生まれた仮説を組み合わせて信憑性がある考えを導き出す、また記憶力や思考力を高める。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『熱感知』目視可能な範囲の温度変化を感知するスキル。←new

『多重加速(レベル2)』加速を重ねることにより、更に速度を上昇させるスキル。

『大蛇の育成者』タイタンの幼体を育てる者、レベルアップ時にタイタンのスキルを獲得することがある


●技術

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『加工技術』加工の技術を高めるスキル。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。

『斬槍技術』斬撃に特化した槍の技術を高める。


●耐性

『寒冷耐性(レベル4)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『毒耐性(レベル1)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。

『爆音耐性(レベル2)』爆音を和らげて、活動しやすくする。

『風圧耐性(レベル1)』風や衝撃に対するダメージを和らげて、活動しやすくする。


●魔法

『火魔法(レベル3)』火を操る魔法。

『水魔法(レベル1)』水を操る魔法。

『風魔法(レベル1)』風を操る魔法。

『時魔法(レベル1)』時を操る魔法。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。


●加護

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。

『象兵の加護』ヤコバクから異種族に与えられる加護。

『大蛇の加護』タイタンから異種族に与えられる加護。


現在の持ち物

銀の槍(緑王):ヴィクター・アガレスの槍。オークロードの額にあった宝石の欠片で強化し緑王という名前が刻まれた。

冒険者カード:名前、性別、年齢が書かれたカード。特殊な魔法道具が使われているため個人を特定できる。

毛布:ハウンドの皮をつなぎ合わせた物。粗末だが、トモヤがこの世界で初めて作ったもの。

黄色の水晶:エレノアからのプレゼント。微かにオーラを感じる。

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