モンスター"Monster"

【マイナスエネルギー:知的生命体の悪感情の塊。この世界に考えることができるものがいる限り悪意が無くなることは決して無い。マイナスエネルギーを利用する存在もいるがごく少数である。】


アガレス家の屋敷を後にしてから数週間後。今日は日差しが強く、外にいるだけで汗が滲むような暑さだった。


「大変だ!!」


すると、一人の冒険者が慌てた様子で街中を走っていた。


「どうしました?」


俺は冒険者に声をかける。特に顔見知りでは無いが、この暑い中を必死に走っている姿を見て無視することはできない。


「あっ!ハガヤ殿!!大変なのです。アガレス領の付近にオークの集団が出現いたしまして……」

「えっ!?」


どうやら、この冒険者の人は俺のことを知っていたようだ。だが、そんことよりも今はオークという魔物の方が気になる。


「……その、具体的な数は?」

「分かりません……ただ、かなりの数がいるということだけは確認できました。」


それを聞いた俺は冒険者の人と共にギルドに駆け込んだ。


「……緊急で依頼書の作成をお願いします。」


報告を受けた受付嬢は、即座に自分の補佐であるギルド職員に指示を出し、依頼書を作成した。


「……恐らくですが、報告を受けたオーク集団は全体の一部である第一波の可能性が高いでしょう。」


受付嬢の言葉を聞きながら、渡された紙に目を通す。そこにはオークの特徴や行動パターンなどが記されている。


「……そうですか。」

「……はい。その紙に書かれた通り、オークは集団戦闘を最も得意としております。オークの行動を見ても、必ず激情することなく冷静に対処して下さい。」


分かっている……とは言い切れない。……


「分かっていますよ。」


だが、今はこう言うしかないだろう。


「応援が直ぐに向かいます。それまでどうかご武運を……」


受付嬢からの激励を受け、ギルドから飛び出した俺は急いで準備を整えて、町の東門に向かう。そこには数十人の冒険者とアガレス領の兵士が集まっていた。何となくだが雰囲気的に察することが出来た。これは死者が簡単に出るような戦いになるだろうと。


「来たか。ハガヤ……」


後ろから声を掛けられ振り向くと、そこに領主のジャミノフさんがいた。彼は俺の顔を見るなり眉間にシワを寄せていた。


「はい。あの……大丈夫ですか?」


そう聞くと、ジャミノフさんの表情がさらに険しくなった。そして大きなため息をつくと、苦笑いを浮かべながら答えてくれた。


「正直なところ君には来て欲しくなかったのだがね。」

「えっ?何故です?」

「孫を救ってもらった恩人だ。死なれたら目覚めが悪い……と言ったところで、君は行くのだろう?」

ジャミノフさんの言葉を聞き、素直に嬉しかった。だからこそ、行くという決意が強くなった。


「ハガヤ……生きて帰ってこい。必ずだ。」

「はい。」


俺はヴィクターさんの銀槍を握りしめ、ジャミノフさんに笑顔で返事をした。そして士気を高める演説をしている門番達の元へ向かった。


「よし!!全員揃ったな!!」


皮装備の門番が声を張り上げる。


「お前等、今から俺達は敵の群れと戦うことになる。正直言って厳しい戦いになるだろう……だが安心しろ!!俺は死ぬ気は無い!必ず生きて帰って来るぞ!!」


周囲から歓声が上がる。


「それに今回は援軍も駆けつけてくれるそうだ。俺達、第一陣は全力で時間を稼ぐ!!」

「おおぉぉぉ!!!」


再び大きな歓声が上がった。


「では行くぞ!!門を開けろ!!」


門がゆっくりと開いていく。


「応ッ!!!」

「待ってろ豚野郎!!」


こうして、戦いが始まった。


《オーク:二足歩行の豚型魔物。知能は低いが、非常に強い腕力を持つ。また魔法や独自の薬を使う個体が多い。集団で行動し、拠点を作成する社会性の強い魔物。。》


――――――――――――――――――――――――――

「オラァアアッ!!」

「ブヒィイイッ!!痛いブゥ!!」


冒険者達は次々とオークを倒していく。


「はぁあああっ!!」

「連携して行くんだブゥ!!」


一体のオークが指示を出している。それによりオークが冒険者達を容赦なく薙ぎ払っていく。やはり魔物と人族では力の差があるようだった。

俺も負けじと敵を薙ぎ払っていく。しかし……


「斬っちゃうブゥ!!」

「ぐっ……」


俺は腹部に傷を負う。俺を攻撃したオークは隊長格のようだった。


「大丈夫か!?」


一人の冒険者が駆け寄ってくる。


「はい。なんとか……」


その時だった。後ろの方で大きな爆発音がする。


「気をつけろ!!オークソーラーもいるぞ!!」


駆け寄って来た冒険者の人が爆発を起こした犯人の存在を周りに伝えた。


「ブヒヒィ!!女の子にしてやるブゥ!!」


《オークソーラー:魔法に特化したオーク。。》


「クソォオオッ!!」


俺はその光景を見て絶望した。冒険者の一人が魔法で女性に変えられてしまう。そしてオークに囲まれながら犯されているのだ。


「やめてくれぇええ!!」


元男が泣き叫ぶ。だがオークは構わずに犯し続ける。


「やめるわけないブゥ!!」


オーク達はゲラゲラと笑い、男を凌辱していく。俺は我慢できずに無我夢中で走っていく。


「ま、待て!!」


先ほど駆け寄って来た冒険者の人は止めようとするが、俺は無視して走り続けた。


「炎剣ッ!!」


俺は魔法を唱えて、近くに居たオーク達も巻き込んで燃やしていく。


「ブヒィィィィイッ!!」


突然の奇襲に対応できなかったのか、数匹のオーク達が燃え上がっていた。


「熱いブゥゥ!!」

「おのれ!!酷いことをする人族だブゥ!!」


俺は更に炎剣でオークを切り裂いていった。


「もう終わりだブゥ!!リーダー!!」


一匹のオークが言った瞬間、目の前に先程戦った隊長格のオークが突然現れた。


「なにっ!?」

「油断するとはお馬鹿さんだブゥ!!」

「まずいっ!!」


オークの斧が腹部の傷部分にモロに直撃する。


「……がっ……」


視界が一気に真っ白になる。同時に身体の感覚が麻痺していく。


「ソーラー来るんだブゥ!!」

「(不味い……このままだと俺も……女にされる……)」


意識を必死に保とうとするが、身体はその命令を聞かない。それどころか、どんどん瞼が重くなっていく。


人族よりも何倍の筋肉を有するオークの一撃が直撃すれば気絶するのは当然である。


――――――――――――――――――――――――――

トモヤが気絶してから、オークソーラーは少しの間、動きを止めた。


「この野郎ッ!!」


そのオークソーラーの隙を、戦いなれた冒険者が見逃すはずが無い。オークソーラーは二度と魔法を発動することなく、冒険者が投擲した短剣によって頭を貫かれた。トモヤの危機を救ったのは、先程までトモヤの隣で戦っていた冒険者だった。


「みんな援軍が来たぞ!!」


冒険者の声が響くと、皆が歓喜の声を上げる。


「おいおい……アイツが来てくれたのか!?」

「……マジかよ!?」

「あれを見ろよ……」


冒険者達の視線の先には巨大な氷の馬車があった。寒冷魔法の優れた使い手であることを示すどこか暖かな冷気を纏った造形物、この様なことができる者は街に一人しかいない。


「……雪兎だ。」


先程まで絶望的だった空気が一変して希望に満ちたものへと変わる。


「ません……」


援軍の中でもずば抜けて早く到着した受付嬢は……


「こんなことするなんて……許せません!!」


強い怒りを露わにしていた。そして彼女は手をかざす。すると青い魔法陣が現れた。その大きさから優れた魔法であることが分かる。


「アイスキャノン!!」


彼女の手から放たれた極太の氷柱によって、オーク達は一瞬で一掃された。


「嘘だろ……」

「これが……雪兎……」


冒険者達は驚愕の表情で、その光景を見ていた。


「…………」


受付嬢の目線の先には冒険者に担がれたトモヤの姿があった。気絶しているトモヤには何一つとして聞こえないが……


「それにしても、これで第一波なんて先が思いやられますね……」


馬の足音と馬車の音が聞こえる。どうやら援軍が全軍到着したようだ。


「ウサ子状況。」


援軍を引きていたのは、ルシエドだった。彼の登場によって周囲の空気が固くなる。


「トモヤ様を含め六名重症、十四名が軽傷、八名が死亡……そして三名が強姦被害……」

「そうか……救護班は回収急げ!!まだ動ける奴は探索班の援護!!ウサ子は坊主を最優先に街まで運べ。」

「了解しました。」


受付嬢ことウサリアの返事と共に、救護班は迅速に行動し、動けない冒険者を運んでいく。戦場となった草原に一際巨大な氷柱が残る。この氷柱は数ヶ月に渡り溶けることなく残ったという。


――――――――――――――――――――――――――

「ここは……」


目が覚めるとここはアベルさんの家のようだ。


「おっ!起きたか。」


そこにはルシエドさんがいた。


「ルシエドさん……あの後……どうなったんですか?」

「探索班がオーク共の根城を発見した。近々殲滅戦に入る予定だ。」

「じゃあ俺も……」

「まあ待て坊主。今回で理解したろ?次の殲滅戦は今回の何倍も過酷で残酷だ。」

「はい……」

「それでも行くのか?」

「行きます。」

「そうか……ならまずしっかり怪我を治してこい。攻略会議に席は用意しておく。」


ルシエドさんは手を振りながら去っていた。


「クソ……」


俺は悔しさから布団を殴った。そして再び眠りについた。再び起きるとアリシアが近くで机に伏して寝ていた。よく見ると目が赤い……


「おはようございますトモヤさん。」

「アベルさん……」

「重症とはいえ生きて帰ってこれて良かったですよ。アリシアは大泣きでしたが……」

「すみません…また何も出来ませんでした…」

「……弱さは罪では有りませんよ。それに貴方は誰よりも優しい心という武器を持っているじゃないですか。」


アベルさんは優しく微笑む。その笑顔はとても暖かく、俺の心を満たしてくれた。もう負けない。次は絶対に乗り越えてみせると覚悟したのだった。


――――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

生命力:C

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:C

防御力:C

魔力攻:D

魔力防:D

走 力:C


現在使用可能なスキル

●身体、精神、霊魂に影響するスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『考察(レベル9)』物事を予想し、記憶力や思考力を高める。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『加速(レベル1)』身体の速度を上昇させるスキル。


●技術

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。


●耐性

『寒冷耐性(レベル3)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『毒耐性(レベル1)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。

『爆音耐性(レベル1)』音のダメージを和らげて、活動しやすくする。


●魔法

『火魔法(レベル3)』火を操る魔法。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。


●加護

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護 。


現在の持ち物

銀の槍(無名):ヴィクター・アガレスが使っていた槍。

冒険者カード:名前、性別、年齢が書かれたカード。特殊な魔法道具が使われているため個人を特定できる。

毛布:ハウンドの皮をつなぎ合わせた物。粗末だが、トモヤがこの世界で初めて作ったもの。

黄色の水晶:エレノアからのプレゼント。微かにオーラを感じる。

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