蜥蜴の尻尾

【魔物の魔法発動について:魔物の場合は使用したい魔法を詠唱しなくても、魔法を発動できる。魔物の大半は声帯が発達していないということもあるが、身体に独自の器官があることが一番の理由だとされている。】


あれから数週間後、俺はクエストに勤しんでいた。風が強く吹き付ける。俺の顔にも冷たい空気が当たり、その場の寒さを助長する。同時に血の匂いが風と共に運ばれてくる。俺は特に顔色を変えることも無く、息を吐き出す。


「……ふぅ。」


慣れとは怖いもので、俺の目の前には人と同じ大きさで二足歩行の蜥蜴虫のような化け物が倒れていた。そいつはもう動く気配は無い。俺の槍で頭部を貫かれており、そこから血液が流れ出ている。硬い鱗ではあったが、タイタンに比べればどうということは無かった。


《リザードマン︰二足歩行をする蜥蜴の魔物、人族ホモ・サピエンスに比べると知能が低い。また使。》


「ちッ……援軍かよ……」


俺は舌打ちしながら周りを見渡すと、宝石の様な目をした二足歩行の蜥蜴が数十匹ほど俺を取り囲んでいた。宝石の様な眼球こそ、リザードマン討伐クエストを下位のクエストながら報酬額を大きく跳ね上げる要因である。リザードマン自体は希少な魔物では無いし、数が多いのも特徴だ。

まあ、今はそんなことはどうでもいい。先程討伐したリザードマンの戦闘を目撃した個体が仲間を呼びにいったのだろう。面倒だが放置しておけば近くの村を襲う可能性もある。俺は大きく深呼吸すると、槍を構えて取り囲むリザードマンの群れへと突っ込んだ。


「……無駄に数だけは多いな。」


俺は独り言を呟きながら槍を振り回す。大半の個体は槍を警戒しているのか、距離を取ろうと後ろに下がる。

何だか嫌な予感がする。一部のリザードマンは動きを止めて、腕をこちらに向けている。俺は動きを止めたリザードマンに向かうが、俺と距離を取らずに戦闘を続けるリザードマンが邪魔で近づけない。そして、時間稼ぎが終わったのか俺に向けていた手から何かを放った。


「水球か!?」

水球は水魔法のレベル1で使用できる魔法だ。俺は咄嵯に槍で防御するが、他リザードマンの攻撃も迫ってくる。


「クソが!!面倒な!!」


俺は悪態を吐いてから、槍を振るって襲い来る攻撃を弾いていく。しかし、数が多すぎて捌き切れない。リザードマンの集団は攻撃を一カ所に集中し、俺は数キロ先に吹き飛ばされた。


「グッ!!」


《熟練度が一定に達しました。スキル『苦痛耐性(レベル3)』が『苦痛耐性(レベル4)』に上昇しました。》


苦痛耐性のレベルが上がったおかげで、多少の痛みは感じるが行動に支障はない。しかし、身体にダメージが溜まっているのは間違いないだろう。口の中に血液が溜まり、吐き気がする。これは肺辺りにダメージが蓄積されているな……


「……ッ!!」


俺は吐血を咄嗟にリザードマンに向けて吐き出す。狙い通り俺の血と唾液で出来た液体が奴の顔に直撃し、目潰しに成功した。


「ギャッ!」

3……炎剣……」


俺が今出せる最大威力の魔法で、目潰しで怯んだリザードマンの首を切り落とす。落とした首は地面に落ちる前に灰になって消えた。俺は更に炎剣を形成し、遠く離れたリザードマンに投擲した。炎剣は一直線に進み、数体のリザードマンの身体に突き刺さり炎上させた。

ここ数日は槍よりは魔法中心で戦闘を行っていた。その結果、火魔法はレベル3まで上昇した。勿論、槍戦闘の方も怠ってはいない。俺は右側で仲間の死に動揺したリザードマン達を槍で仕留める。


「キシャアアアアアア!!!!」


激高した様子のリザードマンが怒りの形相を浮かべて水球を放つ。もはや集団戦闘の連携など忘れたかのように、各々が好き勝手に攻撃を仕掛けてくる。


「火盾!!」


火盾は火魔法レベル2で使用できる魔法だ。水球が着弾する前に火の盾が出現し、攻撃を無効化する。一部のリザードマンが持っていた棍棒も燃え上がり、その手を火傷させた。リザードマン達は慌てて棍棒を投げ捨てると、両手を振って炎を振り払おうとする。


「残り五体……」


俺は冷静に残りの敵を見据える。油断する気は無いが、既に奴等は俺の脅威では無い。烏合の衆と言うに相応しく、統率も乱れ、連携も取れていないからだ。


《熟練度が一定に達しました。スキル『考察(レベル8)』が『考察(レベル9)』に上昇しました。》


「火球と炎剣……全弾持ってけ!!」


俺の放った魔法はリザードマンの集団を焼き尽くす。身体に高温の熱が襲い掛かり、周囲の酸素を奪って更に燃え上がる。燃焼反応を起こしながら骨すら残さず灰へと変わるリザードマン達。気分の良いものでは無いな……


《熟練度が一定に達しました。個体名"トモヤ・ハガヤ"がレベル4になりました。》

《身体の損傷を再生します。》

《基礎戦闘力が上昇しました。魔法攻がEからDになりました。魔法防がEからDになりました。》

《スキルポイントを入手しました。》


同じ人型を殺す事に抵抗が無いかと言われれば嘘になる。燃えている時はグロテスクだったし、焦げ臭いが冷たい風に混ざって不愉快な気分にさせられた。軽く深呼吸をして、炭化しなかったリザードマンの死体を調べてみる。それからクエストの目的である眼球を収集する。今日はいつもより多めに狩れそうだから、結構良い収入になりそうだ。

こうして俺は街に戻ると……


「おぉ!!兄ちゃんすげぇ量のリザードマンの眼球だな!!」


皮装備の門番が話しかけてくる。


「今日は調子が良くて。」

「冒険者としては勤勉だが、自分の身体も大切にしてくれよ? 君はまだ若いんだ。」

俺がそう言うと、隣にいた金属鎧の門番が、 少し顔色を悪くしながら言った。


「おいおい。あんまり若造を困らせる様なことを言うんじゃねぇぞ?」


革装備の方が茶々を入れる様に口を挟む。


「門番としては、一人くらい堅物がいた方が良いだろうさ。」

「ちげぇねな!!」


そんなことを言いながら笑い合う二人。そうだ。死ねばそこで終わりなんだ。三度目は無い。心に強く刻んでおこう。


――――――――――――――――――――――――

「じゃあな。坊主!」

「君の更なる活躍を祈る。」

「はい!!ありがとうございました!!」


二人の門番に見送られて街に入る。

それから俺は依頼主の商人の元へと向かい報酬を受け取った。次に俺はギルドへと向かった。ギルドに入ると相変わらず賑やかだ。依頼を確認するが特に目ぼしいものは無い。帰ろうかと踵を返すと……


「トモヤ・ハガヤ様。」


名前を呼ばれた。声の主は受付嬢だった。何か用だろうか?俺が振り向くと彼女は一通の手紙を差し出してきた。


「アガレス公が貴方をお呼びです。」


アガレス公って確か領主のジャミノフ・アガレスさんだよな?心当たりがあるとすれば、この前のエレノアさんが攫われた事件だよな……領主が俺を呼び出すとは……

ギルドから出て、アベルさんの家で手紙を開封する。手紙には俺に対する御礼の言葉が書かれていた。それと、近日中に屋敷に来て欲しいとも書かれている。

まあ、断る理由も無いし行くしかないよな。でも領主の屋敷だし、それなりに整った服装で行った方がいいよな。とアベルさんに相談するが……


「アガレス公は領民と会う時はいつも通りで構わないと発言していますよ。勿論、失礼のある格好で伺えば流石に注意されると思いますが。」


とのことなので普段着のまま向かうことにした。

町の東南部にアガレス家の屋敷はあった。その手前には広大な庭園があり、花々の優しい香りが鼻腔をくすぐる。門の外から見える範囲でも手入れがよく行き届いているのが分かる。

さて、どうなることやら……


――――――――――――――――――――――――

現在のステータス

生命力:C

魔 力:C

体 力:C


攻撃力:C

防御力:C

魔力攻:E→D

魔力防:E→D

走 力:C


現在使用可能なスキル

●身体、精神、霊魂に影響するスキル

『旋律』音や歌声を響かせ、自分や他者に影響を与えるスキル。

『鑑定』情報を調べ、表示するスキル。※現在表示できる情報は全情報の10分の1である。

『簡易演算(レベル1)』簡単な計算を解きやすくし、記憶力や思考力を高める。

『考察(レベル9)』物事を予想し、記憶力や思考力を高める。

『解読』文や言語を理解するスキル。

『敵意感知』近くにいる人族や魔物の敵意を感知するスキル。

『加速(レベル1)』身体の速度を上昇させるスキル。


●技術

『解体技術』解体の技術を高めるスキル。対象はモノだけではない。

『貫槍技術』貫通に特化した槍の技術を高める。


●耐性

『寒冷耐性(レベル3)』寒さを和らげて、活動しやすくする。

『苦痛耐性(レベル4)』痛みを和らげて、活動しやすくする。

『毒耐性(レベル1)』毒を弱体化させて、活動しやすくする。

『爆音耐性(レベル1)』音のダメージを和らげて、活動しやすくする。


●魔法

『火魔法(レベル3)』火を操る魔法。

『生活魔法』モノを綺麗にしたり、簡易的な回復を行う。


●加護

『死者の加護』死した者から生きる者に与えられる加護。 ※本人は獲得したことに気づいていない(気づけない)。


現在の持ち物

銀の槍(無名)

冒険者カード

ヴィクター・アガレスの日記帳

毛布(ハウンドの皮をつなぎ合わせた物)

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