第388話 ピオリア号vsヴェロニカ号
逃げるピオリア号を追ったヴェロニカ号は、蒸気機関の火室に石炭を放り込み、蒸気の圧力を最大に上げる。増速したヴェロニカ号は、少しずつピオリア号に追い付き始めた。
「逃さんぞ」
オニザワ船長がピオリア号を睨みながら呟いた。
「船長、あいつら必死ですね」
「追い付かれたら、沈められると分かっているんだ。必死にもなるだろう」
ヴェロニカ号がピオリア号に追い付き横に並んだ。左舷の搭載砲が突き出され、また砲撃戦が始まる。激しい砲撃音が海に響き渡り、硝煙の臭いが漂ってきた。
今回は至近距離ではなく、ある程度の距離があったので簡単には命中弾が出ない。ピオリア号は戦いたくないようで並ばれると砲撃するが、基本は逃げようとしている。
命中しないのは波が少し高くなって、船の揺れが強くなったせいでもある。そんな中でヴェロニカ号が砲撃した砲弾が、ピオリア号の船尾に当たり爆発。そこに大きな穴を開けた。
そればかりではなく船尾から火の手が上がる。そして、船内で騒ぎが起きたようだ。オニザワ船長は接近させて、手回し式多砲身機関砲で甲板に居る敵を撃ち始めた。
その攻撃で操舵室に居た海賊たちが死んだ。その中には操舵手も居て、ピオリア号が直進するようになった。これはチャンスである。オニザワ船長はピオリア号の中心を狙って砲撃させた。
同時に六発の砲弾がピオリア号に向かって飛び、その中の一発が舷側中央に命中して爆発する。その破孔から海水が船の中に入り込み、船足がガクッと落ちた。
ピオリア号の乗組員は、ヴェロニカ号の事を別の海賊船だと思っているので、中々降伏しない。普通なら浸水が始まった時点で降伏してもおかしくない。
相手が海賊の場合、降伏しても皆殺しになる事があるので、降伏せずに戦い続けているのだろう。だが、船が傾き始めると仕方なく白旗を揚げた。
オニザワ船長は海賊たちを武装解除して縛り上げた。海賊船の中には奴隷狩りで捕まったオーストラリア人も居て、その人々は解放する。
まずオーストラリア人を陸地に運んで上陸させてから、海賊たちの尋問を始める。オニザワ船長が知りたかったのは、開拓村の襲撃にユナーツ政府が関与していたかどうかである。
尋問の結果、関与していなかった事が分かった。これは海賊たちにとっては悲しい結果になりそうだ。関与していたと分かれば、証人として生かしておく価値もあるのだが、ないのなら死刑確定である。
「ま、待ってくれ。開拓民を殺した事は後悔しているんだ。あの時は魔が差しちまったんだ」
海賊船の船長であるホルバインが醜い言い訳を始めたので、オニザワ船長が顔をしかめた。
「言い訳はやめろ。こいつを甲板に連れて行け」
暴れるホルバインをオニザワ船長の部下が連れて行く。
「どうするつもりだ?」
「海に落とす。死にたくなければ、必死で泳ぐんだな」
ホルバインは殺さないと聞いて、少しホッとしたようだ。
その時、オニザワ船長がナイフを抜いて、ホルバインの足に突き刺した。そして、ホルバインを海に突き落とす。
「クソッ、
ホルバインが血を流しながら泳いでいた。
「騙しちゃいない。殺さなかっただろ」
ここは鮫の多い海なので、後は鮫が処分してくれるだろう。オニザワ船長は海賊たちを全員海に落とした。もちろん、足にナイフを突き刺してからである。
下の海を見ると、血の臭いを嗅ぎ付けた鮫が集まり始めている。一時間後には一人も生き残っていないだろう。
オニザワ船長がロクゴウ少将に報告すると、少将は喜んだ。そして、奴隷船を襲い捕まった奴隷を解放するように命じた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
ユナーツ人の海賊が死んだという報告を受けたロクゴウ少将は、胸のつかえが消えたように感じて満足そうに頷いた。だが、これで終わりではなかった。
二週間後にユナーツのオーストラリア総督であるボウマンが、ピオリア号とヴェロニカ号が戦っていたという報告を受けた。そして、ピオリア号が消えた事で沈んだと判断する。
アマト国の仕業だと推測したボウマン総督は、アマト国のグアム島基地に乗り込んできた。
「ロクゴウ少将、ピオリア号に何をしたのです?」
鼻息を荒くしたボウマン総督の顔に、ロクゴウが冷たい視線を送る。
「ピオリア号ですと? 私のところには別の海賊船と戦って沈められたのではないか、という報告が届いています。何かしたのは、我々ではなく海賊船です」
ボウマン総督が凄い目でロクゴウ少将を睨んだ。
「誤魔化さないでもらいたい。ユナーツの武装船を倒せる船ですぞ。アマト国のものとしか思えない。海賊船ではなく、南洋警備隊の船ではないのですか?」
「とんでもない。我が南洋警備隊の船は警備任務で忙しいのです。オーストラリア周辺で海賊退治をしている船などありません」
「ピオリア号は海賊船ではない、と言ったはず。間違えないでもらいたい」
「そうなのですか? これは失礼」
ボウマン総督は執拗に追及してきたが、ロクゴウ少将は白を切り通した。ここまでボウマン総督が怒りにかられて追及してくるのは、おかしいと感じた。
ピオリア号のホルバインから賄賂をもらっていたという噂は、本当なのかもしれない。ピオリア号の他にも奴隷狩りをしている船があり、それらの船の船長からも賄賂をもらっているという噂だ。
上様から戦争の引き金とならないように対応しろ、と命じられているロクゴウ少将は、ボウマン総督を追及しなかった。ユナーツと南洋警備隊の間で小競り合いになってはいけないと考えたのである。
怒りが収まらないという感じのボウマン総督が、グアム島基地を去りロクゴウ少将はホッとした。そこにヒキタ大尉が現れる。
「少将、賄賂の件を追及しなかったんですね?」
「それを言ったら、ボウマン総督が馬鹿な事を考えるかもしれん」
「馬鹿な事と言うと?」
「オーストラリア総督府の戦力で、俺たちを口封じしようというような事だ」
ヒキタ大尉がちょっとびっくりした顔をする。
「まさか!」
「わからんぞ。今の地位を守るために、戦争も辞さないという人間だって居るんだ」
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