第381話 ユナーツの富国強兵

 ヌンバス地方の総督府を任されたアリスガワ・タメトモは、ホクトから届いた電報を読んでいた。

「総督、上様からは何と?」

 アリスガワ総督の秘書をしているモリカワ・セイジュウロウが尋ねた。


「戻りたいと言っているフラニー人が、アマト国に帰化するなら、戻る事を許可するそうだ」

「あのフラニー人たちの覚悟を、試しているという事でございましょうか?」

「そうなのだろう」


「フラニー人たちを、ヌンバス地方へ入れても大丈夫でしょうか?」

「一箇所に纏めずに、ばらばらにすれば、大丈夫だ」

「後々、問題になるかもしれませんね」

「上様は、実験だと言われている。列強人とアマト人が一緒に暮らしていけるかという実験だ」


「このヌンバス地方でなければ、できない実験でございますな」

「その実験で分かった列強人の性格や考え方を、全て記録に残せという指示である」


 ヌンバス地方に戻りたいという者たちに、アマト国に帰化するかどうかを選ばせ、帰化すると決断した者に対して、ヌンバス地方の放棄された農地を与えた。


 その事が知れ渡るようになると、農地欲しさに多くのフラニー人がヌンバス地方へ集まった。御蔭で人口が十二万から十三万に増えそうな勢いだ。


 総督はその者たちを働かせるだけでなく、ミケニ語とアマト国の社会常識について学ばせた。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 桾国が滅び、列強諸国は他国と争うだけの余力がなくなったので、アマト国が気を付けねばならないのはユナーツだけになった。


 そのユナーツと熾烈な競争を行っているのが、南洋の島々を領土にする事である。アマト国がギルバート諸島やエリス諸島を領土化した後、ユナーツの領土拡大部隊と接触した。


 アマト国の南方調査部隊の指揮官であるロクゴウは、大佐から少将に昇進していた。部下であるヒキタも少尉から大尉に昇進し、グアム島に部隊の基地を建設し領土拡大のための調査と警備を行っていた。


 部隊の任務に警備が加わったのは、アマト国の支配海域の近くまでユナーツの部隊が迫ったからである。部隊の名前も南洋警備隊となった。


 ロクゴウの部隊は、ニューカレドニア島を領土化し、今はニュージーランドの調査をしている。一方、ユナーツはニューカレドニア島を無視して、オーストラリアへ手を出した。


 オーストラリアには大勢の原住民が居る。その土地を手に入れるには、その原住民たちと争い手に入れるしかなかった。ユナーツは陸軍の大規模部隊をオーストラリア大陸に上陸させ、原住民のキャンベラ族と戦い始めたのである。


 ロクゴウ少将はユナーツ軍とキャンベラ族の戦いを調査していた。

「やはり鉄砲を持っているユナーツ軍が、圧倒的に強いな」

「ですが、イングド国とフラニス国が、キャンベラ族に支援と称して武器を売りつけ始めたようです」

「キャンベラ族は、どんな貨幣で支払っているのだ?」


「オーストラリアには金鉱山があり、そこで採掘された金で支払っているようです」

「金鉱山か、それは欲しいが、戦をしてまで手に入れようとは思わんな」


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 ユナーツのギネス大統領は、再選されて大統領を続けていた。

「アマト国は、南洋のニューカレドニアからニュージーランドへ、領土を広めているようだね?」


 大統領から質問を受けたドノヴァン国防長官は、地図を広げてニュージーランドを指し示す。

「はい、この島を手に入れようとしています」

「中々大きな島のようだ」


「ですが、オーストラリア大陸に比べれば、ゴミのような存在です」

「それは分かるが、オーストラリアには大勢の原住民が居る。抵抗が激しいのではないか?」


「確かに激しい抵抗をしていますが、自分たちで銃も作れない野蛮人です。我々の敵ではありません」


 その通りだろうと大統領も思った。だが、それが正しい事なのか、大統領自身にも分からない。時代は植民地主義で植民地を拡大する事は正義なのだ。弱い者が悪いのである。


「問題はオーストラリアの原住民を支援している列強国の連中でございます」

「あの連中はどうしようもないな。何度負けても『身の程を知る』という事を理解しない」


「一度、オーストラリアに建設された列強国の基地を叩くべきです」

 それを聞いた大統領が悩み始める。

「国民は平和な世の中に満足している。ここで戦争を起こせば支持率が下がる」


 大統領にとって、オーストラリアの原住民との戦いは、戦争のうちに入らないようだった。


「大統領、強いユナーツにするには、犠牲が必要です。反対する国民も居るでしょうが、それを恐れて何もしなければ、国が衰退してしまいますぞ」


「そうだな。アマト国の事もある。我が国はまだまだ強くならねばならん」

「その通りです。強くなるためには資金が必要です。そのためにもオーストラリアを植民地とするのです」


 ユナーツは海軍の増強を始めていた。アマト国のドウゲン型戦艦を参考にして、七千トン級の鋼鉄戦艦の建造を始めたのである。テキサス級と名付けられた戦艦は、ユナーツの強大な国力を使って短期間に完成した。


 主砲は三十三センチ砲四門、副砲が二十センチ砲八門という戦艦だ。この時点で世界最強の戦艦だとユナーツ人は誇った。


 それだけではない。鋼鉄製の巡洋艦も建造した。三千トン級のチャールストン級巡洋艦である。二十センチ砲二門と十センチ砲六門を搭載し、最大速度が時速三十五キロとなっていた。


 ユナーツの計画は、テキサス級戦艦を十二隻、チャールストン級巡洋艦を三十六隻も建造し海軍の柱とするというものである。


 その計画を知ったアマト国は、あまりの規模に絶句した。


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