第368話 ギルマン王国海軍vsアマト国海軍

 チガラ湾の海軍基地から、八隻のイワミ型駆逐艦が出港しバナオ島へ向かう。この駆逐艦隊はバナオ島まで航海しスナル海軍基地の湊に入港した。


 本国から植民地を拡大しろという命令が届き、どこかを攻めなければならなくなったオルソ島の海軍基地では、戦いの準備が進められていた。


 だが、オルソ島の海軍基地の近くには、バナオ島のスナル海軍基地がある。極東同盟のどこかを攻めても、スナル海軍基地が報復としてオルソ島のギルマン王国海軍基地を叩くだろう。


 ギルマン王国の海軍としては、スナル海軍基地を潰しておきたい。そこで偵察艦をバイヤル島にまで出して陽動作戦を行っている。


 その成果が上がっているとは思えないが、スナル海軍基地に増強されたのは小型艦船が八隻だけなので、ギルマン王国海軍は勝てると考えた。


 ギルマン王国海軍の戦力は、ドゥンケル級戦艦二隻、ギーレン級巡洋艦四隻、レンバッハ級哨戒艦八隻である。ドゥンケル級はフラニス国から奪ったヌンバス地方の造船所で建造途中だった戦艦である。


 ヌンバス地方を手に入れたギルマン王国は、建造中の戦艦を自分たちで完成させ、極東へ送ったのだ。たかが戦艦二隻でアマト国海軍に対抗しようと考えるのがおかしい、とヨーゼフ国王は考えなかったようだ。


 とは言え、プロであるクレーマン提督は、海軍力で戦に勝とうと思っていなかった。大量の陸軍兵を敵国領土に送り込み、陸軍の力で制圧しようというのが、作戦の要となっている。


 何の警告もなしに、オルソ島の海軍基地から出港した艦隊が、バナオ島の北側にある町アムリを襲った。但し、町では警戒していたので、ギルマン王国の軍艦が見えると同時に、住民は避難を開始した。


 海に並んだギルマン王国海軍の軍艦が艦載砲を町に向けて攻撃を開始する。海岸に響き渡る発射音に怯えた住民たちが、必死になって逃げ始めた。


 砲弾は町に着弾すると大きな爆発を引き起こす。建物が壊れ爆炎が立ち昇り、住民たちから悲鳴が上がる。


「立ち止まるな。急いで避難するのだ!」

 アマト国陸軍の兵たちが避難誘導を行っていた。燃え上がる町を見て涙していた住民たちも、避難場所へ急ぎ始めた。


「くそっ、前回の漁村は予行演習だったのか」

 避難誘導している兵が、海に浮かぶ敵艦を見て呟く。

 住民が避難して空っぽになった町に、オルソ島から数十隻の小型船に乗ったギルマン王国陸軍兵が運ばれて来た。上陸した敵兵は、アムリ町を制圧する。


 ギルマン王国陸軍の小型船は、兵をバナオ島に降ろすと次の兵を運ぶために引き返していく。


 ギルマン王国軍が攻めたのはアムリ町だけではない。アムリ町での避難は成功したが、その他の町では上手くいかなかった場所もある。


 セルマ町の住民は町を離れるのを嫌がり避難が遅れた。そのせいで百人を超える死傷者が出て、誘導していた兵も敵兵に撃たれて死んだ。


 その報告を受けたスナル海軍基地は、サナダ型戦艦一隻、アケチ型巡洋艦三隻、イワミ型駆逐艦八隻を出港させ敵艦隊を沈めろと命令した。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 ギルマン王国艦隊を指揮するクレーマン提督は、アマト国艦隊を見て不安を感じた。陣形を組んで進んでくる敵艦隊が手強そうに思えたのである。


「シュナイダー君、アマト国の艦隊をどう思う?」

 名前を呼ばれた副官のシュナイダーは、敵艦隊を見てニヤッと笑う。

「戦艦一隻、巡洋艦三隻、小型艦八隻です。我らが勝つでしょう」


 確かに数の上ではギルマン王国側が上回っている。だが、どうしても不安を拭えない提督は、敵艦隊を睨んだ。


 アマト国が駆逐艦と呼んでいる小型軍艦が、戦艦に向かって進んできた。

「ふん、あんな小さな船で、このドゥンケル級戦艦に立ち向かおうというのか?」

 シュナイダー副官が駆逐艦を馬鹿にするような事を言った。


 クレーマン提督は何かが引っ掛かり不安に駆られて、必死に思い出そうとする。何かを忘れていると感じたのだ。

「そうだ、魚雷だ。……まずい」

 イワミ型駆逐艦が横に並んで、ドゥンケル級戦艦の頭を抑えるような形になろうとしていた。


「艦長、戦艦を増速しろ。敵の駆逐艦から離れるんだ」

「了解」

 提督はもう一隻の戦艦にも同じ指示を出す。だが、連絡手段が手旗信号かマストの旗なので、時間が掛かる。


 クレーマン提督が乗る旗艦は増速して逃げたが、もう一隻のドゥンケル級戦艦は遅れた。その戦艦に向かって、四隻の駆逐艦が一斉に魚雷を放った。


 一隻から四本の魚雷が放たれ、十六本がドゥンケル級戦艦に向かって進む。

「くっ、やはり魚雷だったか」

 提督は十数本の魚雷が僚艦に向かって進むのを歯を食いしばって見ていた。白い航跡を残して進んでいく魚雷の最初の一発が外れホッとした瞬間、爆発音が響き渡り水飛沫みずしぶきが舞い上がる。


 それから二発目の命中弾が出て戦艦が速度を落とす。エンジンに問題が起きたようだ。足の止まった戦艦は標的に過ぎない。すぐにトドメを刺されて沈み始めた。


 その東側では巡洋艦同士の戦いが始まっていた。だが、これは一方的な戦いとなった。ギルマン王国海軍の艦載砲の命中率が酷かったからだ。


 アマト国海軍のアケチ型巡洋艦が次々に命中弾を出すのに対して、ギルマン王国海軍のギーレン級巡洋艦から放たれた砲弾は、中々アケチ型巡洋艦には命中しなかった。


 これは艦載砲の性能と砲兵の練度が違ったからである。まだまだギルマン王国は陸軍国なので、海軍の練度は低かったのだ。


 レンバッハ級哨戒艦八隻はイワミ型駆逐艦四隻と戦っていたが、これは相手にならなかった。哨戒艦にはイワミ型駆逐艦を沈める打撃力がなかったのである。


 クレーマン提督は味方の軍艦が次々に沈んでいく様子を見て、自国海軍の評価が高すぎ、アマト国海軍の評価を低く見積もりすぎたと気付いた。


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