第369話 バナオ島の戦い
クレーマン提督は負けだと判断し、ギルマン王国海軍の艦隊に撤退の合図を出した。提督の乗る旗艦も敗走を開始し、それをスナル艦隊の旗艦であるサナダ型戦艦ヤマシロが追う。
ギルマン王国海軍の旗艦に追いついたヤマシロが、砲撃を開始。逃げるのを諦めたクレーマン提督は、旋回して戦うように命じた。
「提督、これでは敵に包囲されてしまいます」
旗艦艦長のメッテルニヒが意見を述べる。
「分かっておる。だが、あのままでは背後から砲撃されて沈められていた」
無抵抗で沈められるのは避けたかったのだ。メッテルニヒ艦長が唇を噛み締め覚悟を決めた。それから二隻の戦艦による激しい砲撃戦が始まる。
ギルマン王国海軍の旗艦ボナパルトが一発の命中弾を出す間に、ヤマシロは三発の命中弾を出していた。但し、どの命中弾も重大なダメージを与えられなかった。
そして、ヤマシロから一斉砲撃の砲撃音が海上に響き渡る。その砲弾がボナパルトへ向かって飛翔して、その中の一発が喫水線近くの舷側に命中し爆発した。
舷側に大穴が開いたボナパルトに海水が流れ込み、戦艦が傾き始める。艦橋で敵旗艦を睨んだクレーマン提督は、船から脱出するようにという最後の命令を出す。
しかし、一割ほどしか逃げ出せないうちにボナパルトが沈んだ。こうして海戦が終了し、残るのは陸戦だけとなった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
バナオ島のミノブチ総督は、秘書官のサカキを呼んだ。
「陸軍のサタケ大佐は、どこまで進んだ?」
「先遣部隊が、輸送船でアムリ町へ向かっておりますので、そろそろ現地に到着するでしょう」
「しかし、先遣部隊は二千ほどだ。敵は一万を超えていると聞いたぞ」
「先遣部隊が、敵の侵攻を食い止めている間に、本隊が現地に到着するでしょう」
本隊はサタケ大佐が率いる八千の兵である。問題は先遣部隊が、どれほどの時間を持ち堪えられるかになる。
先遣部隊を率いるヒビノ少佐は現地に到着すると、部隊をアムリ町の前方に展開させた。ギルマン王国陸軍が制圧したもう一つの町であるセルマ町は、アムリ町の西方にある。
このアムリ町が一番スナル海軍基地が近いので、ここのギルマン王国陸軍を抑えれば、敵軍の侵攻を止める事になる。
「ヒビノ少佐、ギルマン王国陸軍は列強諸国で、最強と聞いています。我々で勝てるでしょうか?」
「そうだな……前回の小競り合いは、我軍の方が圧倒的に兵力が多かったから、参考にはならんと思う。ただ武器の性能はアマト国が上だ。落ちついて戦えば、勝てるだろう」
ただ先遣部隊とアムリ町に居る敵軍の兵力を比べると、敵軍が優勢である。苦しい戦いになる。
先遣部隊とギルマン王国陸軍が会敵し、銃撃戦が始まる。先遣部隊は町の近くまで広がっている森の中から、木の幹を盾にして銃撃し、ギルマン王国陸軍は土嚢を積み上げた塀の背後から攻撃した。
最初は拮抗していたのだが、死傷者が増えるに従いギルマン王国側が優勢になった。やはり兵力の差がじわじわと戦いに影響し始めたのである。
アマト国側で死傷者が続出するようになり、怪我人は後方に送られた。そうなると弾幕が薄くなり、ギルマン王国側の攻撃を抑えきれなくなった。
ヒビノ少佐は撤退の合図を出して、先遣部隊は引き始める。敗走ではなく整然たる撤退作戦である。反撃しながら後退する先遣部隊は、教本通りの撤退作戦を実行した。
その様子をギルマン王国側の指揮官オイゲン大佐が見ていた。
「手強い。撤退作戦を、あそこまで完璧に遂行できる軍隊は、中々居ないぞ」
オイゲン大佐は嫌な予感を覚えたが、ここで手を抜く事はできない。部下たちに追撃を命じる。
追撃を受けながらも後退する先遣部隊は、本隊が来る方向へと向かう。追撃して来るギルマン王国陸軍の将兵は、アマト国側の本隊が居る場所へと誘い出される格好になった。
そして、追撃部隊とアマト国の本隊がぶつかり激しい銃撃戦が始まった。今度はアマト国陸軍が優勢になり、ギルマン王国の追撃部隊は敗走を始める。
そして、アムリ町へアマト国陸軍の将兵が飛び込もうとした時、ギルマン王国の新兵器が火を吹いた。
その新兵器というのは、小銃で撃ち出す
その擲弾がアマト国軍の将兵の間に撃ち込まれ、爆発に巻き込まれた兵たちが死傷する。その死傷者の数に驚いたサタケ大佐は、兵を引き町を包囲した。
擲弾の射程は短いが、町に近付けば擲弾を撃ち込んでくるので、無理に攻め込むのをサタケ大佐はやめる。
その代わり海軍の駆逐艦隊を呼んだ。海から攻撃させようと考えたのである。その考えは正解だったようだ。海岸線に並行して並んだ駆逐艦から、多砲身機関砲が町に撃ち込まれた。
その圧倒的な火力にギルマン王国陸軍は、混乱して逃げ惑う事しかできなくなった。駆逐艦からの攻撃を避けようと、町から飛び出せば包囲しているアマト国陸軍の兵からの銃撃で死ぬ事になる。
ギルマン王国陸軍は精強な兵を揃えていたが、まだ銃器による戦いについて訓練が足りないようだ。結果として、擲弾という新兵器を持ち出したギルマン王国だったが、海からの攻撃で敗北した。
制海権を手にしたアマト国側が勝利したのである。バナオ島に侵攻したギルマン王国軍は壊滅し、生き残った少数の将兵はオルソ島へ逃げ戻った。そして、オルソ島の植民地自体も危うくなった。
アマト国の艦隊が、ギルマン王国の海軍基地に向かって進軍し海から多数の砲弾を海軍基地に撃ち込んだのだ。それにより海軍基地が壊滅し、マンフレート総督が全面降伏した。
この報せを受けたホクトでは、重臣たちが悩んだ。ギルマン王国が何で戦を仕掛けてきたのか、という疑問である。
冷静に評価して考えれば、勝つ見込みのない戦いだというのは分かったはずだ。それなのに、なぜ戦う事を選んだのだろうと不思議に思ったのである。
結局、列強国は自分たちの物差しでしか世界を評価していないのだと結論した。そうなると、遠征艦隊を送り込む作戦が重要になる。それを重臣たちは心に刻んだ。
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