第359話 ギルマン王国とアムス王国

 ドウセツは戦闘機に載せる連発銃の開発に参加する事になった。陸戦で使っている連発銃だと威力が低いという事で、もう少し威力の有るものを開発しようという話になったのである。


 使う銃弾は直径が十二ミリと決まった。それも弾帯に銃弾をセットして連続で発射するという形式の銃である。ドウセツたちは機関銃と呼ぶ事にした。


「確かに銃弾を大きくして、発射薬の量を増やせば威力は増します。しかし、その分銃の構造も強化しなければなりません」


 技術者の一人に言われて、ドウセツは頷いた。それは分かっているのだが、飛行機から攻撃するとなると、射程が長くなければならないのだ。


 それには熱に強い素材で銃身を作るという研究も始まった。

「しかし、本当に空から敵が襲って来るのでしょうか?」

 職人に聞かれてドウセツは困ったような顔をする。

「それは分かりません。ですが、ルブア島ではユナーツの飛行船が目撃されています。その飛行船を攻撃に使うかもしれないのです」


「分かりました。頑張ります」

 職人たちが精一杯の努力をすると約束してくれた。

 新たに銃弾を送る機構や操縦席から引き金を引く仕組みが考え出され、発射した反動で空薬莢を排出して、次の銃弾を装填するという画期的な方法が考え出された。


 技術者たちは試作品を作り、何度も実験した。不具合が発見されれば直すという事を繰り返し、ベガ航空機関銃が完成する。ベガというのは星の名前である。航空機に装備する火器は星の名前を付けると決まったのだ。


 その間に戦闘機の開発も進み、タカマルⅢ型戦闘複葉機が開発される。ドウセツたちは完成した機体にベガ航空機関銃を載せて、試験飛行した。


 もちろん、機関銃発射の試験も行う。その間にドウセツも飛行機の操縦を習得していた。

 ドウセツが操縦するタカマルⅢ型戦闘複葉機が空に舞い上がり、タビール湖の上を飛ぶ。航空機戦術研究班が練習空域としている場所は、立入禁止となっている。


 チモシー草原とタビール湖の一部を範囲とする練習空域で、ドウセツたちは戦闘機乗りとしての技術を磨いた。時には湖に着水するという事故も起きたが、ドウセツたちは五機の戦闘機と八人の戦闘機乗りを用意した。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 アマト国がタカマルⅢ型戦闘複葉機の開発をしている頃、ギルマン王国はフラニス国との戦いに勝利した事で勢いが付き、軍事力を増強しようという勢力が大きくなっていた。


 その影響で周辺諸国との関係もおかしくなった。その一つがアムス王国である。

 アムス王国はアマト国との交易で一歩先を行っており、アマト国から仕入れた商品を周辺国に売る事で膨大な利益を上げている。


 ヨーゼフ国王はそれが気に入らなかったようだ。同じ事をギルマン王国がしようと思っても、極東まで行って交易を行う船舶と船乗りが足りなかった。


 そこでヨーゼフ国王は戦争を仕掛けて、その膨大な利益を奪おうと考えた。ギルマン王国は、宣戦布告なしにアムス王国への侵攻を開始したのである。


 慌てたのはアムス王国の国民とエルベルト・ダキア・アムス国王だ。

「バース外務大臣、どういう事なのだ? なぜギルマン王国は侵攻を始めた?」

「理由は分かりません。ただ推測として、アムス王国の富を欲しがっているのではないか、と思われます」


「富だと?」

「はい、ギルマン王国はフラニス国と戦い勝利しましたが、金銭的なものは得ていません。戦争には多額の費用が必要だったはずです。ギルマン王国の財政は厳しいのです」


「だったなら、植民地など手に入れずに、賠償金をフラニス国に要求すれば良かったではないか?」

「フラニス国も敗戦が続き、決して財政的は豊かではなかったのです。列強諸国の中で財政が潤っているのは、アムス王国なのです」


 エルベルト国王は歯を食いしばり、怒鳴り散らしたいという欲求を抑える。

「ボスマン国防大臣、ギルマン軍を撃退できるか?」

「できます、とお答えしたいのですが、難しいかもしれません。ギルマン王国は大国です。海戦なら勝利する自信がありますが、陸戦でギルマン王国を退けるには兵力が足りません」


 アムス王国の人口は三百五十万、ギルマン王国の千五百万と比べると大きな差があった。しかも、比率で考えると、歩兵の数はそれ以上に差がある。


 銃などの武器のレベルは同等なので、後は練度の違いであるが、練度においてはギルマン王国が勝っていた。


 ギルマン王国がアムス王国の三番目に大きな町であるラムセラールを占領すると、戦いは膠着状態に陥った。これはギルマン王国もフラニス国との戦いで学んでおり、補給線が伸び切らないように侵攻速度を調節した結果だった。


 膠着状態が一ヶ月ほど続く。その間に弾薬や食料などの補給品をラムセラールに送り込み、占領地を拡大する準備を始めたのである。


 ボスマン国防大臣は、そこに目を付けた。ギルマン王国とフラニス国との戦いでも補給線が重要なファクターとなっていたのを知っていたボスマン国防大臣は、味方にギルマン王国の補給部隊を狙うように命じたのである。


 この命令が遅かったら、ギルマン王国側も補給線の警備を厳重にしただろうが、まだそこまでアムス王国の領土を把握していなかった。


 ギルマン王国の補給線を狙うという作戦は、成功した。補給線を分断し、ギルマン王国軍を補給品不足という状況に追い込んだのである。


 その状態で膠着状態が続き、両国首脳は終戦を考えるようになった。ギルマン王国は占領地を返還する条件として、極東地域にあるアムス王国の植民地オルソ島東半分と莫大な賠償金を五年間払えという要求を出した。


 アムス王国は渋々その条件を飲んで、戦争を終わらせた。その莫大な賠償金というのは、アムス王国が交易で上げる利益の六割に相当するものだった。


 アムス王国の王城では、国王が敗北感を噛み締めていた。

「我が国は、海軍に力を入れてきたが、これからは陸軍にも力を注がねばならない。またギルマン王国に領土を奪われるような事が有れば、国が滅ぶ」


 資金が有ったのに、国防に予算を使わなかった間違いを、国王は後悔した。


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