第356話 ギルマン王国の狙い
「ギルマン王国の人口は、千五百万ほどだったな?」
「はい、列強諸国では、最大でございます」
ホシカゲが答えた。それを聞いた俺は、列強諸国の勢力図が変わるのではないかと思った。フラニス国はかなり弱体化しているからだ。
「そうすると、兵力は四十万ほどか?」
「もう少し多いようです。ですが、数万人ほどの差でございます」
フラニス国の陸軍の兵力は十二万ほどなので、圧倒的にフラニス国が不利である。
「だが、フラニス国には単発銃がある。その分優位か?」
「ところが、ギルマン王国の間諜は優秀で、起爆薬の秘密を盗み出し実用化しております」
列強諸国と言えども防諜技術や制度は発達していないようだ。
「つまりギルマン王国の兵士は、単発銃を装備しているという事か?」
「その通りでございます」
「そうなると、ギルマン王国側に優秀な指揮官が揃っているかどうかだな」
「エックハルト・メルシュタインという将軍が、名将だと言われているようです」
メルシュタイン将軍は、八年前に起きた戦争でフラニス国陸軍四万の軍団を同規模の兵力で破っている。
「ギルマン王国の狙いは何だと思う?」
「フラニス国東部のヌンバス地方を奪い取る事だと思われます。ヌンバス地方には大きな造船所を中心とする工業地帯があるのです」
俺はなるほどと頷いた。狙いは工業地帯か、奪い取ればフラニス国の弱体化が進み、ギルマン王国はフラニス国の技術を奪い取る事もできる。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
年末年始が過ぎたある日、八万の軍団がギルマン王国西部からフラニス国のヌンバス地方へ侵攻した。宣戦布告も何も無い不意打ちだったので、フラニス国は慌てた。
もちろん、フラニス国政府もギルマン王国が攻め込んで来るかもしれないという情報は入手していた。だが、戦いはもう少し先になると、フラニス国は考えていたのだ。
フラニス国は慌てて四万の兵を集めヌンバス地方へ送り込んだ。ヌンバス地方で激しい戦いが繰り広げられるのだが、最後までフラニス国が優勢になる事はなかった。
「このままではヌンバス地方をギルマン王国に取られてしまいますぞ」
オズボーン副議長がフォルチエ議長へ声を掛けた。
「分かっておる。だが、兵力が決定的に違うのだ。どうする事もできん」
「国家総動員法を議会で可決して、新たに国民から徴兵するしかありませんな」
「それを行った政府は、戦争が終わった後に潰れている」
「それがどうしたというのです。それともこの国がギルマン王国の属国になっても良いというのですか?」
「そうは言っておらん」
苦虫を噛み潰したような顔になったフォルチエ議長は、臨時議会を開き国家総動員法を可決し、徴兵を始めた。
フラニス国政府は列強諸国から武器や弾薬の購入を始める。イングド国は大量の兵器をフラニス国に高値で売った。その代金で新型の武器を製造しようと計画したのである。
ギルマン王国はヌンバス地方を制圧し、フラニス国の半分まで制圧地域を広げたが、補給が障害となって勢いが衰える。
それにより戦争は長引いた。フラニス国の国土は荒れ、国民は疲弊した。だが、フラニス国だけが疲弊した訳ではなかった。ギルマン王国でも生活が苦しくなり、国民の間に厭戦気分が広がったのだ。
ギルマン王国は終戦交渉を始めた。条件はヌンバス地方とフラニス国が中東に持つ植民地サラドバ国である。
フラニス国はギリギリまで抵抗したが、結局ヌンバス地方と植民地サラドバ国をギルマン王国へ渡す事が決まった。
戦争の結果、ギルマン王国は中東に植民地を持つ事になった。それにフラニス国の造船技術も手に入れたのだ。
ギルマン王国の首都ラルブルクでは、国王であるヨーゼフ・ベルク・アルムガルトが満足そうな顔でテーブルに広げた世界地図を見ていた。
「ボーマン、フラニス国が建造した戦艦の設計図は、手に入ったのか?」
「もちろんです。技術者の一人が隠し持っていましたが、隠し場所を白状させました」
相談役ボーマンの答えに、ヨーゼフ国王が頷いた。
「これで我々も世界へ進出できる。まずは極東地域との取引を増やそう」
「それは素晴らしいお考えでございます」
「極東のアマト国は、文明国だそうだが、植民地にできないものだろうか?」
ボーマンは厳しい顔をして、
「ギルマン王国が全力で戦いを挑めば、植民地にできるかもしれませんが、極東へ大規模な戦力を移動させれば、必ずイングド国やフラニス国が、我が国を攻撃するでしょう」
立場上勝てないとは言えないボーマンは、イングド国とフラニス国のせいにして無謀な戦いは諦めさせた。
「イングド国とフラニス国か。あの連中なら、やりそうな事だな。仕方ない交易だけにしておこう」
ギルマン王国はヌンバス地方の財産を搾り取り、造船所の修理と海軍の拡充を始めた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
ギルマン王国が中東にあるサラドバ国を手に入れたと聞いた俺は、嫌な予感を覚えた。ギルマン王国が領土拡張競争に参加するのではないかと思ったのだ。
その領土拡張競争というのは、昔オセアニアと呼ばれていた地域の島を領土に組み入れようという競争である。南半球の太平洋には無数とも思える島々が存在する。
ほとんどの島は無人であり、それらの島を調査して自国領土に組み入れようという競争が始まっているのだ。
その参加者はユナーツ・イングド国・フラニス国・アムス王国・アマト国である。最初に始めたのはユナーツだった。島を発見すると調査して、原住民が居れば抹殺するという事をしていたので、原住民を保護するためにもアマト国も競争に参加したのである。
これらの島々は、大変動が起きた時に海面が上昇し海に沈んだ。だが、また海面が下がると島として復活したものだった。
ユナーツはライン諸島を領土に組み込み南下している。アマト国はマーシャル諸島を手に入れてから、南下していた。
またイングド国とフラニス国は、オーストラリア大陸がズタズタになった後に残った島々を領土に組み込み始めていた。
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