第343話 列強国との交渉
イングド国とフラニス国の代表が、ルブア島の総督府に来た。彼らに取っては終戦交渉になる。このままでは、また本国が攻撃されるかもしれないと考え、アマト国と終戦交渉をする事にしたのだ。
交渉の相手はルブア島のナイトウ総督である。主から交渉を任されたナイトウは、イングー人のジョッシュ・リンドバーグとフラニー人のエドワール・デュロンを相手に交渉を始めた。
交渉は通訳を交えて、イングド語で進められる。
「イングド国とフラニス国は、終戦を求めておるのですな」
リンドバーグが頷いた。
「そうです。我々は終戦を希望しております」
勝手な話だとナイトウは思った。突然、アマト国の領土を襲い、海戦で敗れると終戦だと言い出す。こんな事を繰り返すのなら、戦いを始めなければ良かったのだ。
アマト国も終戦の提案を無視して、戦いを続けようという意見の者も居たが、勘定奉行のフナバシが反論した。列強国まで艦隊を遠征させるためには、膨大な費用が掛かると言うのだ。
列強諸国は遠征しているではないかと意見する者も居たが、列強諸国は遠征して植民地を増やすのが目的なので、成功すれば掛けた費用以上の利益になると計算しているのだと反論された。
「我が国で終戦の条件を話し合ったところ、イングド国とフラニス国の本国の一部を差し出すのであれば、という意見が出た」
それを聞いた列強国のイングー人のリンドバーグが顔を赤らめて怒りを表した。フラニー人のデュロンは耐えて、こちらを見ている。その二人を睨み付けたナイトウが言葉を続ける。
「列強国へ艦隊を遠征させ、もう一度首都を火の海にする事も可能なのだぞ」
その言葉を聞いて、両名は目を伏せた。
「そのような事態になれば、我が国の民はアマト国を百年は恨むでしょう」
とデュロンが言った。列強国がやった事に対して、アマト国が恨まないとでも思っているのだろうか、ナイトウは不快になったが、顔には出さない。
「アマト国が発展させようと、懸命に開拓している島を奪おうとしたのだ。それだけの代償が必要だと考えるのも当然だと思わぬか?」
「しかし、それでは本国の者が承知しないでしょう」
デュロンが食い下がる。そこから交渉が始まったのだが、交渉時間が三時間を越えた頃、ナイトウが妥協するという形で別の提案を出した。
「仕方ない。この条件が難しいというのなら、イングド国はブルム島、フラニス国はトロンガ諸島を渡すのなら、終戦に応じよう」
列強国の二人は、その条件を呑んだ。アマト国は新しい領土として、ブルム島とトロンガ諸島を手に入れた事になる。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
ゲンサイがユナーツ軍の兵站部隊を襲い着実に伊魏省を攻略している頃まで時間を遡る。
「林少将、ユナーツ軍の動きをどう思う?」
「そうですな。伊魏省から撤退するかどうかを迷っているように思えます」
「このまま撤退してくれたら、助かるのだが」
それを聞いた林少将が笑った。
「どうせ、撤退途中を叩くのではないですか?」
「まあ、そうなるだろう。少しでもユナーツ軍の士気を落としてやりたいですからね」
ただユナーツ軍が簡単に諦めて撤退するとは思えない。起死回生の何か手を打ってくるのではないかと、予想している。
その対策として、鬼影隊の趙隊長にはユナーツ軍の動きを見張るように命じていた。その趙隊長が報告に来た。
「周将軍、省都クレンのユナーツ軍は、イジンキ町に我々が建設した兵糧倉庫を襲うつもりのようです」
イジンキ町の兵糧倉庫は、ユナーツ軍にとって一ヶ月分の兵糧を得る事ができる場所だった。趙隊長がもたらした情報は、ユナーツ軍の斥候部隊が、イジンキ町を詳しく偵察している事実を突き止めて推測したものだ。
「イジンキ町の兵糧倉庫か。目の付け所はいい。ですが、斥候部隊の技量がお粗末なようです」
ゲンサイはイジンキ町を襲うために出陣する敵軍を叩く作戦を練り始めた。
「この作戦が成功すれば、ユナーツ軍も静かになるだろうか?」
ゲンサイが質問すると、趙隊長は無理だろうという顔をする。
ユナーツ軍がイジンキ町強襲のために用意した兵力は二千。意外に少ないという印象を、ゲンサイは抱いた。
「準備は出来ていますか?」
「もちろんです」
ゲンサイは林少将と一緒に五千の兵を率いて出発した。桾国軍がイジンキ町の前方に広がる森に到着する。まだユナーツ軍は来ていない。
ゲンサイと林少将は、兵を森の中に隠してからユナーツ軍を待った。
「周将軍、桾国軍に優秀な将が居ないのは、なぜだと思いますか?」
答え難い事を、林少将が質問してきた。
「そうですね。軍内の昇進に関するやり方に問題が有ると思います」
「具体的に言うと、どういう事ですか?」
「人事権を持っている軍内の有力者が、桾国軍を強くするのではなく、コネの有る者を優先して昇進させるからだと思いますよ」
コネの有る者の中にも優秀な将校は居るのだが、そういう者には多くの任務が集中する。それが続くと優秀な者でも潰れてしまうのだ。
そうなると、結果的に仕事のできない者が将軍などの要職に就く事になるらしい。
「やはり、そうですか。どうにかして変えられないでしょうか?」
「変えられるとしたら、兵部の尚書に優秀な人材が就任する必要が有るでしょう。まあ、無理ですね。兵部は陳尚書や曹尚書の一族が牛耳っていますから」
「周将軍でも無理ですか?」
「私は何のコネもないですから、無理です。陛下の勅命で一時的に尚書になったとしても、長続きしないでしょう」
「どうしてです?」
林少将の質問に苦笑した。
「それはきっと暗殺されてしまうからです。それくらいの事は平気でやる連中ですよ」
やめさせられた曹尚書が、その影響力を使って軍の人事を指図しているという話は、林少将も聞いている。だが、暗殺までするような連中だとは知らなかったようだ。
そんな事を話している間に、ユナーツ軍が近くまで迫っているという報告を受けた。
「ユナーツ軍を叩きます」
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