第322話 ボドル部族連合

 ボドル部族連合は六人の部族長が合議で舵取りをしている国である。人口は三百八十万人ほどで、総兵力は十万を超え十一万に近いと言われている。


 その十一万の中で有名なのが、六旗騎兵隊である。一個の騎兵隊は三千騎ほどで、六旗合わせると一万八千騎が主力部隊となっていた。


 騎兵の武器は木材に動物の骨や腱、角などを使って強化した合成弓と呼ばれているもので、その飛距離は五百メートルを超えると言われている。


 鉄砲に弓矢で勝てるのかと思う者も多いが、弓矢の威力は馬鹿にできない。それに主力武器が銃になってから、列強諸国の防具は軽装になっていた。


「それで、ボドル部族連合のマライ州を制圧するのに、どれほどの兵力が必要なのだ?」

 シーモア総督がプレストン将軍に尋ねた。


「マライ州には、およそ二万の兵が居ます。それを打ち破るには、一万のユナーツ兵と植民地兵二万が必要です」

「それくらいなら、問題ないだろう。だが、維持できるのかね?」


「マライ州と他の州との州境は山岳地帯になっております。その山岳地帯を抜けるルートは六つありますが、大軍や騎馬で通過できるとなると二つだけです」


 将軍は地図で、そのルートを指差した。どちらのルートにも砦があり、封鎖するためには砦を占拠しなくてはならない。


「その砦は堅固なのか?」

「かなり頑丈な造りをしています。但し野戦砲を使えば、落とせるでしょう」

 総督が渋い顔になる。

「その野戦砲を扱う砲兵は、桾国軍により殺されたと聞いたが?」


 プレストン将軍が頷いた。その時の将軍の顔には、僅かに不機嫌そうな感情が浮き出ていた。

「その点なのですが、ジャクソン提督に協力をお願いしたい」

 提督が何の事だという顔で将軍を見る。

「海軍の砲兵を貸してもらいたいのです」


「馬鹿な。海軍の艦載砲と野戦砲とは違う」

「ですが、全くの素人を訓練するよりはマシです」


 ボドル部族連合を攻める準備を終えたユナーツ軍は、突如マライ州に攻め入った。戦う理由はない。問答無用で攻め込んだのである。


 不意を突かれたボドル部族連合は、ユナーツ軍の果敢な攻めで追い詰められる。そして、州境にある二つの砦まで後退した。


 そして、ユナーツ軍の砲兵部隊が砦の近くに現れ砦を砲撃。その二つの砦が陥落し、マライ州がユナーツ軍の手に落ちると、ボドル部族連合の族長たちが集まり相談した。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 六部族の中で最も規模が大きいミレイヤ族の族長コウヤは、厳しい顔で他の族長たちを見回した。

「この事態をどうする?」

「雷王に応援を求めては如何でしょう?」


 コウヤ族長が首を振る。

「それはまずい。桾国は不作で苦しんでいる。それは雷王も同じ、時期がまずいのだ」

 遠征を行うには、膨大な兵糧を用意しなくてはならない。今の雷王には、その兵糧を用意できなかった。それでも援軍を要請するとなると、その兵糧をボドル部族連合が用意しなければならないだろう。


 だが、ボドル部族連合も二年間不作で用意できる兵糧が限られている。何も手を打てないまま時間だけが過ぎ、コウヤ族長はある決断をした。


 極東同盟に助けを求めようと考えたのだ。コウヤ族長は息子のジョセスにバラペ王国のヤナックへ行くように命じた。


 ジョセスは騎馬の小部隊で、バラペ王国へ向かう。国境線で少し揉めたが、無事にバラペ王国に入り首都ヤナックへ向かう。


 国境付近の町は、あまり変化はなかった。だが、南下して首都のヤナックが近付くと、道幅が広くなり道路が綺麗に整備されているようになる。


「ジョセス様、バラペ王国は少し変わったようですな」

 従士のカザックが周りを見ながら言った。

「そうだな。商店の品揃えも豊かになり、行き交う人の服も上等なものに変わっているようだ」


 服については綿花の栽培が奨励され、紡績の機械化で安い綿糸が出回るようになったからである。また染料に関してもアマト国から良いものが輸入されて、色鮮やかな布が織れるようになったのだ。


 首都のヤナックに入ると、ジョセスたちは驚いた。初めてポンポン自動車を見たからだ。ポンポン自動車の存在は聞いていたのだが、実際に見るとやはり実物は違った。


「おおっ、あんな大量の荷物を載せて走るのか。馬より力があるんじゃないか」

 部下の一人が声を上げる。ジョセスが黙り込んでしまった。それに気付いたカザックが尋ねる。

「どうかされたのですか?」


「ミレイヤ族の男の宝は、馬だった。だが、あの車を見ていて、宝だった馬が色あせていくように思えたのだ」


 騎馬民族であるジョセスらしい言葉だ。首都の中心部に到着した一行は、宿を取ってから王宮へ先触れを出した。


 ジョセスが到着した事を知ったルミポン国王は、案内役を出しジョセスを王宮へ招いた。

「陛下、お久しぶりでございます。またお会いできて光栄でございます」


「ふむ、五年ぶりくらいかな。健勝なようで何よりだ。さて、今回はどのような用件で参られたのかな?」

「ユナーツ軍でございます。撃退するために手を貸して欲しいのです」


 ルミポン国王はジョセスの顔を見て、

「それは難しいかもしれぬ」

「なぜでございますか?」

「我が国の戦力は、ユナーツ軍と戦えるほど大きくないのだ。それにボドル部族連合は、極東同盟の一員ではない」


「しかし、我々も極東諸国の一員でございます」

「そう思っているのなら、同盟の話が出た時に、同盟に加わるべきだった。我が国にではなく、アマト国に頼んでくれ」


 良い返事が聞けなかったジョセスは、ベク経済特別区へ行ってアマト国の者と相談する事にした。


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