第323話 新しい野戦砲部隊
ボドル部族連合のジョセス一行は、バラペ王国の首都ヤナックから南下してベクへ向かった。
「おかしいな。首都のヤナックより、ベクの方が賑やかなのは、なぜだ?」
首都よりも辺境の町であるベクが栄えているのを、ジョセスは不思議に思った。
「やはりアマト国が、主導して開発している地域だからでは」
従士のカザックが答えた。
「それだけアマト国の国力が凄まじいという事か」
ジョセスたちはベクにあるアマト国の大使館に先触れを出した。大使館が首都のヤナックではなくベクにあるのは、ルミポン国王の要望である。
アマト国の外交官に王宮が監視されているようで、嫌だという噂があるが、本当のところは国王にしか分からない。
アマト国は、それでも構わないと思っていた。大使館には大勢の武官が勤務するので、それが嫌だったのかもしれない。
先触れに出した配下が戻り、大使は今日なら午後四時、明日なら午前十時が空いているという。ジョセスは一刻でも早くという気持ちが有ったので、その日に大使館へ向かった。
アマト国の大使は、カトウ・ヒデサトという人物だった。
「カトウ大使、ボドル部族連合を助けてください」
「ボドル部族連合の事情は聞いておりますが、それが軍事援助を含むものだと即答する事はできません」
ジョセスは顔をしかめた。それでも諦めずに懇願すると、カトウ大使が苦笑いする。
「武官のイトウを呼んで相談してみましょう」
大使はイトウ武官を呼んだ。細い目をしたイトウ武官は、話を聞いて頷いた。
「その件に付きましては、上様から指示が出ています」
大使がイトウ武官に目を向けた。
「どういう指示だね」
「野戦砲部隊を義勇軍として派遣する、との事でございます」
「えっ、野戦砲部隊だけなのか?」
「はい、二つの砦のうち、どちらかを突破すれば、ボドル部族連合の戦力だけで、マライ州を取り戻せるだろうと、上様は考えておられるようです」
つまりアマト国は必要最小限の援助しかしないという事だ。そして、その代価としてボドル部族連合の西部にあるボーキサイト鉱床が存在する土地を五十年間借り受けるようにという指示がされていた。
もちろん借地から産出するものは、全てアマト国の所有物になるという条件である。当然の事として、イトウ武官は借り受ける土地にボーキサイトの鉱床がある事は教えない。
ジョセスは指定された土地が、単なる牧草地として使われているだけなので承諾した。ジョセス一行は急いでボドル部族連合へ戻り、アマト国には野戦砲部隊の派遣が要請される。
義勇軍という名目なので、アマト国軍の制服ではなくボドル部族連合の遊牧民が着ているような服を着た砲兵たちがホクトを旅立った。
兵員揚陸艦に乗った野戦砲部隊は、バラペ王国の漁村に上陸する。そこにはバラペ王国の武官たちが待ち受けており、アマト国軍の野戦砲部隊とは、どういうものなのか見物していた。
兵員揚陸艦から降ろされた野戦砲は、今までのものと異なっていた。全てが牽引砲となっていたのだ。牽引砲というのは、砲の台座に車輪を取り付ける事で、トラックや人、軍馬で牽引して輸送できるようにした火砲である。
その牽引砲を索引するために開発された砲兵トラクターも、船から降ろされた。この砲兵トラクターは砲弾や砲兵を乗せた上に、火砲を牽引するものだ。
この砲兵トラクターのエンジンは、焼玉エンジンである。それほど馬力があるものではないので、坂道などでは人が降りて、後ろから押すというような事もしなければならないが、それは偶になので随分と火砲の運搬が楽になった。
アマト国から持ち込まれた火砲は、二十門である。それを砲兵トラクターで牽いてボドル部族連合に持ち込んだのだが、行く先々で騎馬の人々が見物に来た。
これでは秘密にならないと、義勇軍のオオシバ部隊長は思った。
「この様子だと、ユナーツ軍に知られるのではないか?」
案内役をしているジョセスが笑う。
「心配無用だ。ここらの者たちは閉鎖的なので、他国の者たちとは全く接点がない。ユナーツ軍に知られる事はないのだ」
ジョセスはそういう閉鎖的な土地を通るように案内しているらしい。時間は掛かったが、野戦砲部隊がナジェリ砦の近くに到着した。
ナジェリ砦を占拠しているユナーツ軍は、野戦砲部隊、正式にはオオシバ義勇砲隊には気付いていないようだ。砦は峠を越えて少し下った場所にある平地に建設されている。
この位置に建設されたのは、マライ州がある東から侵入した敵を迎え討つのに都合が良かったからだ。だが、今回は西側から攻める事になる。
峠から撃ち下ろすように攻撃する事ができるので、オオシバ義勇砲隊は姿を見せずにユナーツ軍を叩けるという利点があった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
ナジェリ砦では、植民地軍の兵が砦の修復を進めていた。砦の責任者であるローウェル大佐は、部族連合軍の動きがおかしいのに気付いていた。
「ふん、また突撃を仕掛けてくるつもりのようだな」
これまで二度も部族連合軍が突撃してきて、弓矢による攻撃を仕掛けている。だが、銃撃により撃退しているローウェル大佐は、馬鹿にするように笑う。
「弓矢による攻撃に備えて、砦は改良してある。無駄な血を流すだけだと分からんようだな」
ローウェル大佐は同じ事が繰り返されるのだと思っていた。オオシバ義勇砲隊の動きが知られていなかったせいである。
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