第308話 ユナーツと海水淡水化装置
海水淡水化装置と浄水器が極東同盟の間に広まった時、ユナーツの諜報員も注目した。諜報員たちはアマト国が援助した二つの装置をできるだけ詳しく調査した。
浄水器は援助先の国でも製造を始めたので、その構造を知る事は比較的楽だった。だが、海水淡水化装置を調べるのは難しかったようだ。
それでも外観だけは調べ上げ、スケッチして本国に送った。それを受け取ったユナーツの情報機関は、再現するように自国の技術者チームに依頼した。
その技術者チームのリーダーであるカーディフ主任技師は、スケッチを研究して海水淡水化装置の機能と構造を正確に理解した。
「なるほど、蒸留酒を作る蒸留器と同じだな。構造も簡単そうだし楽勝で作れそうだ」
技術者チームは海水淡水化装置の試作を始め、問題にぶつかる。
「ボイラーの溶接か、スケッチを見る限りロウ付けしているようだが、圧力は耐えられるのだろうか?」
そう言う不安はあったが、作業は進み海水淡水化装置の試作品が完成した。
そこで試運転をする事になり、海水が運ばれてきた。海水がボイラーと冷却装置の中に入れられ、石炭に火が点けられる。
ボイラーの温度が次第に上がり始め、海水が沸騰する。
「ここまでは順調だな。このままボイラーの温度を上げていこう」
アマト国が製造した海水淡水化装置の造水能力は分かっているので、それを目標にもう少し温度を上げて蒸気の量を増やさなければならない。
ボイラーが変な音を出し始める。
「これは何の音でしょう?」
チームの技術者の一人であるゴードンが、カーディフ主任に声を掛けた。
「分からんが、少し様子が変だ」
ゴードンはボイラーの溶接部分が、少し膨らんでいるのに気付く。
「ボイラーの温度が上がりすぎです。これではロウ付けで溶接した部分が耐えられません」
「そんな馬鹿な。アマト国の海水淡水化装置の造水能力を考えれば、もっと高温で動かしているはず」
ボイラーがガタガタと揺れだした。
「うわっ、ダメだ。皆、離れるんだ!」
ゴードンの叫びで全員が離れた瞬間、ボイラーが爆発した。正確には蒸気の圧力に耐えられなくなってボイラーが破裂したのである。
カーディフ主任がガクリと肩を落とす。
「そんな、スケッチの通りに作製したのに」
見た目だけ真似してもダメだという例だった。アマト国で製造した海水淡水化装置はアーク溶接を使って作られたものであり、銅や銀をロウ剤として使いロウ付けされた海水淡水化装置とは、頑丈さで雲泥の差が有ったのだ。
その後、何度も海水淡水化装置を作り直したが、カーディフ主任のチームは満足いくボイラーを作る事はできなかった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
ドウゲン型戦艦の一番艦が完成した。排水量四千五百トンの鋼鉄製戦艦であるドウゲン型戦艦は、軍艦の常識を打ち破るほどの新しい戦艦だった。
船奉行であるツツイ・カンベエは、一番艦ドウゲンの甲板で主砲である二十センチ速射砲を見ていた。そこに海将であるソウマが近寄る。
「ツツイ殿、やっと完成しましたな」
「ああ、上様から指示があってから研究を始め、やっと姿を見る事ができた。感慨無量とは、この事です」
「喜ばれるのは、まだ早いですぞ」
「どう言う意味です?」
「この戦艦を使って、敵艦を圧倒した時こそ、本当に喜ぶべきです」
ツツイが笑う。
ソウマが真面目な顔になって、ツツイに問う。
「ユナーツが戦を仕掛けてくるかどうか、どう思われます?」
「そうでござるな。ユナーツが西に勢力を拡大させるには、中継基地としてハチマン諸島が必要だと判断すれば、戦を仕掛けてくる事も有ると、思っておる」
「もう一つ可能性が有りますぞ」
ツツイが首を傾げ、ソウマに視線を向ける。
「もう一つとは?」
「中東のルブア島です。あそこに大量の原油が埋蔵されている事が知られれば、ユナーツなら確実に取りに来ると思うのです」
「なるほど、ルブア島か。だが、あそこの秘密は厳重に管理されているはずでござる」
「そうなのですが、人手が足りなくなったルブア島では、周辺国から大勢の労働者を雇い入れております。いつかは知られると思うのです」
「そうかもしれんな。だが、海軍はルブア島の要塞化を進めていると聞きましたぞ」
「しかし、ミケニ島の二倍ほどもある島です。完全に封鎖する事はできませぬ。いくつかの場所に海軍基地を建設し、侵入を防ぐのが精一杯です」
「ユナーツが攻めてきたら返り討ちにして、罰としてユナーツの首都を焼き払えば良いのではござらぬか?」
「ツツイ殿にしては、過激な事を言われる」
「列強諸国もそうでござったが、一度ガツンと叩かなければ、我が国の強さを理解できぬのです」
「確かに列強諸国やユナーツには、そういうところがありますな。ですが、叩けるでしょうか?」
ツツイが探るような目でソウマを見る。
「この戦艦のような軍艦が有るのに、自信がござらぬのかな?」
「上様から聞いたのでございますが、ユナーツというのは、世界で最強の国だったようです」
「昔の話でございますよ。我々が日本人と名乗っていた頃の話です」
ソウマが静かに頷いた。
「ところで、上様は桾国で何か仕掛けておられるようですな」
「ああ、桾国にユナーツを叩かせようとしておるそうです」
「そんな事ができるのでしょうか?」
「桾国の大兵力を使えばできる、と上様は言っておられます」
「面白い、海軍の出番は有るのだろうか?」
「さあ、まだ分かりませんが、船を動かすのなら、護衛は必要でしょう」
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