第277話 ユナーツの本気
俺はホクトにユナーツの観光客が来ていると報告を受けた。国内の諜報活動を取り仕切る草魔のハンゾウから報告を受けて、首を傾げる。
「ユナーツのような遠くから観光に来るとは思えんが、どうなのだ?」
ハンゾウは頭を下げ、
「その通りでございます。あやつらはユナーツの間者でしょう。いろいろな場所に出掛けて情報を集めているようでございます」
「会ってみたいな。手配してくれぬか」
「承知いたしました」
それから数日後、ホクト城にパトリシア教授たちが登城した。城に到着したパトリシア教授たちは、一階の奥へ案内され、小さな部屋に入る。
「この部屋は何です?」
小さな部屋に押し込められる感じになったパトリシア教授が、不審に思い問い質した時に部屋全体が動き始めた。
「これは?」
「この部屋はエレベーターというもので、上の階へ移動する装置です」
通訳を引き受けたドウセツが説明した。
エレベーターがガタッと止まると、ドウセツは扉を開けて四人を外に出した。
「こんなものまで……」
ユナーツ人たちの驚いている顔を見て、ドウセツはニコッと笑ってから大広間に案内した。大広間には玉座と椅子が用意されており、評議衆が椅子に座って待っていた。
俺が大広間に入り挨拶をしてから玉座に座ると話が始まる。
「遠いユナーツから来られたと聞いたが、このアマト国の感想はどうかな?」
俺の質問をドウセツが通訳する。
一番の年配であるグラント教授が代表して、
「私が住んでいた土地より、過ごしやすいですな。故郷では冬になると雪に覆われ、道路を塞いだ雪を取り除く作業が大変でした」
「ほう、グラント教授の故郷は豪雪地帯なのか、大変だな。きっと大量の石炭が必要なのではないか?」
「その通りでございます。以前は大量の薪を用意していたのですが、薪が高価になったので、最近は暖房に石炭を使う家が多くなりました」
「ユナーツは炭田が数多くあると聞いている。あまり炭鉱がないアマト国として、羨ましい」
それを聞いたパトリシア教授が口を挟む。
「上様、発言をお許しください」
「自由に発言されても構わない。あなたがたの話が聞きたくてお呼びしたのだから」
「では、アマト国では灯油や軽油、重油などという油が採掘できると聞いております。その油が石炭の代わりになるのではありませんか?」
ユナーツや列強諸国では、灯油や軽油、重油が別々の油として採掘されると考えているらしい。
「いや、石炭の代わりになるほどの量はない。やはり石炭は必要だ。ところで、ユナーツは長い間孤立主義を貫いてきたと聞いている。どうして積極的に交易を始める事になったのだね?」
「列強国で進んだ機械が発明されたと聞いたからでございます。労働者不足となっている我が国で、焼玉エンジン車はどうしても欲しいものだったのですわ」
俺はパトリシア教授が正直に答えるのを聞いて、不審に思った。間者だと聞いていたので、間者らしくないと思ったのである。
「ですが、イングド国で本当の事を知りました。焼玉エンジン車はアマト国で開発されたそうですね?」
俺は頷いた。
「その通り、焼玉エンジン車はホクトで開発され、列強国に広まったものだ」
様々な質問をぶつけ、俺も質問に答えた。
「ところで、ユナーツでは西の海も調査しているのかね?」
グラント教授が首を傾げてから答えた。
「もちろんでございます。三千キロ彼方に島を発見して、領土としました」
三千キロと言うと、ハワイ島とは違うようだ。新しい島なのかもしれない。着実に調査の範囲を広げながら西へと領土を広げているという。
このままではユナーツの探検船がハチマン諸島まで来てしまうだろう。ハチマン諸島の周辺にある島々を把握して領土・領海を確定しなければならない。
ハチマン諸島の周辺にある島を見落として、ユナーツに奪われてしまえばユナーツの軍事拠点にされてしまう。それはアマト国の安全保障の観点から危険だった。
ユナーツ人との会見が無事に終わった後、俺はハチマン諸島の周辺の海を念入りに調査させた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
一方、パトリシア教授たちはアマト国を徹底的に調査して、蒸気機関の原理を学んだ。学校で教える程度の簡単なものだったが、グラント教授は原理から蒸気機関車の仕組みを分析した。
その結果を設計図にしてユナーツに持ち帰る。パトリシア教授はアマト国の社会構造を研究し、アマト人たちとどう付き合えばいいのか論文を書いた。
そして、リッチモンド大佐は遠くからサナダ型戦艦を観察して、その姿を克明にスケッチブックに描いた。そのスケッチブックに描かれたものを見て、新しい船の設計を進めようと考えたのだ。
ユナーツに戻った四人は、大きなプロジェクトの中心的な役割を果たし、ユナーツの文明を強力に押し進め始めた。
グラント教授が中心になって進めた蒸気機関の開発が、一番最初に成果を上げた。蒸気機関を完成させたユナーツは蒸気機関車やポンプ、船用の動力と様々な目的で使い始めた。
一億の人口を持つユナーツが本気になったのだ。凄い勢いで鉄道が発展し、蒸気船も開発された。ユナーツは数年で列強諸国に匹敵する、いや追い越すほどの動力源を手に入れたのだ。
そして、蒸気機関を搭載した探検船は外輪で海水を掻き分けながら進むようになっていた。もちろん、まだマストと帆が残っている機帆船である。
その探検船がハチマン諸島に到達した。ユナーツ人たちは地球が丸い事を知らなかったので、酷く驚く事になった。
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