第247話 ハチマン諸島の調査開発
フラニス国がチュリ国の湊町オサを整備していると報告を受けた。
「あの国も桾国を狙っているのだろうか?」
俺の問い掛けに評議衆たちが頷いた。
「誕生した諸王の中には、フラニス国の力を借りて、領地を増やそうと考える者も居るでしょう。そうなれば、フラニス国と諸王の誰かが戦うという事もあり得ます」
トウゴウが冷静な顔で意見を言った。フラニス国の狙いは桾国の一部を切り取り、植民地化してから周りに侵攻しようというものだろう。
「フラニス国の動きを監視する人員を増やすのだ」
「承知いたしました」
ホシカゲが頭を下げた。
俺はナイトウに顔を向けた。ナイトウはクジョウ家の名将と言われた武将で、現在は南方調査部隊の纏め役を任されている。
「ハチマン諸島の調査は、どうなっている?」
「ハチマン島で、二つの炭鉱が発見されております。それに加え銀鉱山も見付かったと報告が有りました」
「ふむ、石油を期待していたのだが、見付からぬか?」
「調査中でございます。さすがにミケニ島の六倍も大きな島でございます。数年単位の調査が必要かと思われます」
そうだろうな。簡単に石油が見付かるとは思っていなかった。諦める必要はないので調査を続けさせよう。
「発見された石炭でございますが、露天掘りができる大規模な炭田のようです」
「それはいい。質がいいならホクトに運んで使おう」
ハチマン島にはミケニ島にない果物などが豊富に存在した。アボガド・バナナ・ライチ・ランブータンなどが発見され、食べられる事が確かめられている。
特にバナナは青いうちに収穫してホクトに運んで売り出すと、高値で売れる事が分かり人気商品となった。
俺はハチマン諸島の開発にカイドウ家の財産を投資する事にした。俺が関与している資金は、俺個人の財産・カイドウ家の財産・アマト国の財産というように明確に分けている。
アマト国の財産については、俺に最終権限が有るのだが、勘定方の官僚が管理している。ハチマン諸島の土地は国の財産となり、その中で良い湊になりそうな土地をカイドウ家が購入した。
その土地は『ハリマ』と名付けた。良い湊になるハリマ湾に人と道具を船で運ばせ、大々的に開発させる予定を立てる。
評議衆たちにもハリマの土地を買わせた。カイドウ家で独り占めすれば、不満が出ると考えたのである。そして、ハリマの周囲にある土地を庶民にも売り出した。
ハチマン諸島の事は、あまり列強国の注意を引かなかったようだ。列強諸国は人が住んでいる土地に興味があり、未開の土地を開発するのは効率が悪いと考えているらしい。
確かに開発には何十年という歳月が掛かるが、それを成し遂げた時には巨万の富を得られるのに。
イングド国の動きを探るように命じた影舞が、イングド国が制圧した江順省についての情報を報告した。
「江順省に移住したチュリ人が、自分たちを第二市民と呼んでいるのか」
ホシカゲが頷いた。
「はい、第一市民がイングー人で、第三市民が桾国人だと申しております」
これがイングド国の植民地運営のやり方なのだろうか? チュリ人を第二市民と決めた事で、チュリ人による桾国人の殺戮は収まったようだ。
桾国人は自分たちの財産の一部なので、殺すべきではないという考えが広まった。チュリ人は桾国人を農奴として扱い始めたのだ。
江順省の農地は一部だけ水田に変えられたが、ほとんどは畑のまま作物を栽培している。その働き手に桾国人を使うようだ。
農奴にされた桾国人は、イングー人よりチュリ人を憎んだ。桾国人に命令するのはチュリ人であり、虐待するのもチュリ人だったからだ。
「なるほど、我慢できなくなった桾国人が一揆を起こした場合、チュリ人に責任を押し付けるつもりだな」
俺の言葉を聞いたフナバシが首を傾げる。
「どういう事でしょうか?」
「一揆が起きた場所を管理していたチュリ人を処刑して、新しい管理人を連れてくる、という事だ」
フナバシが顔をしかめた。
「イングー人が命じて、チュリ人にさせた事でも、責任を取るのはチュリ人だという事でございますか」
クガヌマが不愉快だという顔をする。
「チュリ人は、それを我慢するのでございますか?」
「桾国人よりは、マシだと考えるのではないかな」
イサカ城代が溜息を漏らす。
「国を失うという事は、哀れなものでございますな」
俺は力強く頷いた。
「だからこそ、我が国は油断してはならんのだ。列強諸国を調べ、軍備を増強する。アマト国を負けない国にする必要がある」
コウリキが俺に視線を向ける。
「我が国を勝てる国にするとは、言わないのでございますね」
俺は苦笑いする。
「相手は列強諸国だ。あれほどの遠くにある国に遠征して、制圧する事ができるだろうか? できるとすると、どれほどの戦備が必要になるのか考えると、寒気がする」
「列強諸国を制圧する事は無理だと、御考えなのですな。ですが、遠征艦隊については、編成すると言われています」
「遠征艦隊は、列強国を制圧するための艦隊ではない。我が国を攻撃した国が有れば、その国に報復するために用意する艦隊だ。一撃して帰国するのが目的なのだ」
「我が国は、フラニス国の第七艦隊とイングド国海軍の艦隊を打ち破りました。そんな国に戦を仕掛ける国があるのでしょうか?」
普通に考えれば、ないだろう。だが、人間は時に考えられないような愚行を犯す事がある。特に欲が絡んでいる場合は、自分なら大丈夫だと根拠のない理由で、愚かな事をする。
「油断できんぞ。油断すれば、そこを突かれる」
アマト国では遠征艦隊を編成する軍艦の建造を続けている。もう少しで必要な戦力となるだろう。
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