第231話 第七艦隊と第三艦隊(2)

 ロジュロ提督はすれ違った敵艦隊を細かく観察していた。こちらの新型戦列艦と同じく鋼鉄板の装甲が施された軍艦だと分かった。


「艦載砲の数は少なかった。列強諸国とは違う考えで設計されているようだ」

 それが分かってロジュロ提督は、唇を噛み締めた。列強諸国以外でも軍艦を建造する国は存在する。それらの国は列強国の軍艦を真似て建造する事がほとんどだった。


 なので、あまり脅威だと感じた事はない。真似て建造された軍艦より、オリジナルの軍艦の方が性能的に上だと知っていたからだ。


 だが、アマト国海軍の軍艦は違う。あれはオリジナルなのだ。自分たちで戦い方も含めて研究し完成させた軍艦は、脅威となる。


「提督、敵艦隊は戻らないようです」

「どういう事だ?」

「バナオ島を目指して進んでいます」

 それを聞いたロジュロ提督は、離れていく敵艦隊を睨んだ。


「反転しろ! 敵艦隊を追うぞ」

 提督の命令で舵を切った第七艦隊の軍艦は、アマト国海軍の艦隊を追った。この時に各艦の動きに大きな差が出たのは、推進方式が違うからである。蒸気機関で動いている新型戦列艦はスムーズに反転して追い掛けたのだが、帆走で進んでいる軍艦はもたもたした。


「やはり推進方式が違う軍艦を艦隊として運用するのは、難しい」

 二つの艦隊は東へ向かい、バナオ島の直前で戦う事になった。アマト国海軍の第三艦隊が進路を変えようと速度を落とした時に、フラニス国海軍の第七艦隊がバナオ島と第三艦隊の間に飛び込んだのである。


 再び砲撃戦が始まった。本格的な砲撃戦になると、第七艦隊が有利になる。敵艦との距離が近く一隻に搭載している砲の数が多い事が第七艦隊に有利に働いたようだ。


 戦列艦から放たれた砲弾が、新型装甲巡洋艦に命中し爆発した。装甲のない部分に命中したのは、第七艦隊にとっては幸運だった。


 新型装甲巡洋艦から煙が上がり始めた。それを見たロジュロ提督はニンマリして、集中的に煙を上げる敵艦を狙うように命じる。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 クゼは僚艦が被弾したのを見て顔をしかめた。

「試作艦の準備をさせろ」

 その命令が試作艦に伝えられると、試作艦の後部が開き試作艇が中から引き出されて海に浮かんだ。それも二隻である。その試作艇には小型の蒸気機関が装備されており、試作高速艇となっていた。


 海に浮かんだ試作高速艇が動き出すまでに少し時間が掛かった。その間に新型装甲巡洋艦が集中砲火を浴びて沈んだ。


 クゼは苦虫を噛み潰したような顔で、その様子を見ていた。

「試作艇はまだなのか?」

「あっ、やっと動き出しました」

 クゼは試作高速艇の動きに注目する。この試作高速艇には新兵器が搭載されているのだ。


 二隻の試作高速艇は、それぞれが違う新型戦列艦に近付いて行った。それを見た敵の指揮官は、試作高速艇を沈めるように命じたようだ。


 いくつもの砲弾が試作高速艇の周りに落ちて大きな水飛沫を上げる。一番艇の艇長はササキだった。

「速度を上げろ!」

「艇長、これ以上は無理です」


 至近距離に砲弾が落ちて海中で爆発。一番艇が大きく揺れる。ササキは試作高速艇から放り出されそうになって、慌てて船縁を掴んで堪える。


「魚雷用意!」

 水兵たちが船縁に設置されている魚雷発射台に魚雷を載せ、発射準備を行う。


「発射準備完了!」

「よし、発射だ」

 魚雷発射台がガタッと傾き、魚雷が海面に滑り落ちた。試作魚雷の推進力は空気ボンベから吹き出す空気である。


 白い航跡を残しながら敵艦へと進んでいく魚雷は、敵も発見して騒ぎ始める。それが危険なものだと分かった敵兵たちは、声高に叫び始め艦長が舵を切るように命じた。


 だが、避けられなかった。魚雷が吃水線付近に命中。榴弾よりも大きく爆発した。その部分には装甲がなかったので、大きな穴が開き大量の海水が艦内に流れ込み始めた。


 もう一隻の試作高速艇からも魚雷が発射されたが、これは新型戦列艦を外れ、後方に居た補給艦に命中。補給艦はこの爆発に耐えられなかった。船体が裂けすぐに沈んだ。


 味方を沈められた第七艦隊は、試作高速艇に集中砲火を浴びせ二番艇を沈めた。

「艇長、もう一度攻撃しましょう」

 水兵の一人が言い出したが、ササキは承知しなかった。


「どうしてです?」

「我々は、この結果をホクトに持ち帰って、報告しなければならんのだ。魚雷一発が敵戦列艦を行動不能にできた事は重要だ。そして、いくつかの問題があった。絶対にホクトへ戻って報告する」


 クゼは味方に撤退の合図をした。第三艦隊の各艦が戦場を離れ、ホクトに向かう。艦隊の中で一隻が沈没、数隻が小破、魚雷艇一隻沈没という結果は、クゼの心を重くした。


 敵艦隊は補給艦一隻沈没、新型戦列艦一隻大破という結果である。どちらが勝ったとは断言できない戦績だった。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 ホクトに戻ったクゼから、俺は報告を受けた。

「……よくやってくれた。命を賭けて戦った将兵には、アマト国将帝として、感謝する。ゆっくりと休んでくれ」


 海軍提督であるソウマは、この海戦の結果に満足していなかった。

「上様、第一艦隊を送り、敵の第七艦隊を沈めましょう」

「今敵艦隊を潰すのは簡単だろう。その後、フラニス国はどうすると思う?」


「それは本国に帰って、極東地域から手を引くのではないですか?」

「そんな簡単に諦めるような連中か?」

「上様は、どう思っておられるのです?」


「イングド国海軍と協力して、また艦隊を送ってくるのではないかと心配している」

「そんなものが来たとしても、我々が海に沈めてやります」

「頼もしいな」

 そう言って笑いながら、俺はどうするか考えた。

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