第202話 ハジリ島の長期戦
ホウジョウ家の領地を東に進んだアマト国軍は、カホイの町に侵攻すると瞬く間に制圧した。その後カホイの町に野戦砲を運び込み、簡易な要塞に造り変えた。
その事を知ったホウジョウ軍は、二万の軍勢をカホイの町へ向かわせる。その総大将はコマダである。
「敵の兵力は五千のようだな。我らは二万。数の上では勝っているが、勝てるだろうか?」
コマダから弱気な言葉を聞いたので、マツクラは意外に思った。
「自信がないのでございますか?」
「我らの鉄砲兵は五百、それに対して、カイドウ家の連中はすべて鉄砲兵だというではないか?」
「確かに鉄砲兵の数では劣っております。ですが、兵力は四倍でございます」
コマダが渋い顔をする。問題はアマト国軍の兵が、高い技能を持つ鉄砲兵ばかりだという事だ。よほど大量の弾薬を使って訓練したのだろう。
ホウジョウ軍の二万がカホイの町に到着した。町の東側に陣を構えたホウジョウ軍の兵士は、一斉に突撃すればアマト国軍も打ち破れると思っていた。
コマダは賭けに出る事にする。戦力の逐次投入を反省し、第一撃に全兵力を投入する事にしたのだ。
「この一撃で撃退できぬようならば、ホウジョウ家も終わりだろう」
「不吉な事を仰らないでください」
コマダは槍兵のすべてを突撃させた。鉄砲兵には援護射撃を行わせる。
槍兵が町に近付いた時、町から激しい銃撃音が響き渡った。およそ五千のアマト国陸軍兵が、射程内に入った敵兵を狙って銃撃したのだ。
ホウジョウ兵がバタバタと倒れ、動かなくなった槍兵の数がみるみる増えていく。それを見ていたコマダが呻き声を発する。
「……そんな馬鹿な。鉄砲とは、これほど威力の有るものだったのか」
「コマダ様、撤退命令を……」
そう言われてコマダはためらった。もう少し粘れば、町に入り込めるのでは、と思ったのだ。だが、槍兵たちは野戦砲に装填された散弾筒の射程に入ってしまった。
その瞬間、野戦砲が火を吹いた。野戦砲が死をばら撒き、多数の遺体を製造する。ホウジョウ兵の数が半数近くにまで激減する。
その様子を見たコマダの心が折れた。撤退の命令を出したのである。アマト国軍は追撃し、ホウジョウ軍をバラバラに引き裂いた。
その報せはすぐにハルノ城へ伝えられた。
「な、何だとコマダの軍が敗退したというのか!?」
知らせを聞いたツナヨシは、身体が震えるほど驚いた。
家老のノベハラは、暗い顔をして確認する。
「御屋形様、如何いたしますか?」
「き、決まっておるだろう。何が何でも撃退するのだ。当主自ら先頭に立って戦えば、兵も奮い立つだろう」
ノベハラは危険な兆候だと感じて、
「それはやめてください。当主が先頭に立つ事は、今までなら度々有った事でございますが、今は鉄砲の時代です。狙い撃たれてしまいます」
「このツナヨシが、鉛玉に当たって死ぬと申すのか?」
「カイドウ家の鉄砲は特別です。射程が長く威力が有ると聞いております」
その十数日後、三万の兵を率いたツナヨシが、カホイの町に向かった。その十数日の間にアマト国軍は、カホイの周囲にある町や村を制圧し、占領地を広げている。
カイドウ家が投入した兵も二万に増え、ホウジョウ軍三万とアマト国軍一万の戦いとなった。アマト国軍が一万に減っているのは、占領地を抑えるために一万の兵が必要だったからだ。
ツナヨシを総大将とするホウジョウ軍は、最初の戦いで総大将のツナヨシが負傷した。鉛玉が足に命中したのである。
「ノベハラの言う事を聞いておけば良かったか? いや、まだ負けた訳ではな……イタタッ……」
そう言いながら戦場を離れるツナヨシを見たホウジョウ兵たちは何を思ったかは分からない。だが、この日からホウジョウ兵の士気がガタ落ちとなったのは事実である。
ホウジョウ軍はゆっくりと後退しながら抵抗するという消極的な戦いをするようになる。その御蔭で戦いが長引き、アマト国軍は町や村を一つずつ占領しながら支配地を広めるというやり方を取り始めた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
俺はハジリ島での戦の報告を聞いて渋い顔になる。それを見た小姓のドウセツが尋ねた。
「御屋形様、御味方が優勢だと聞いておりますが、御不満なのでございますか?」
「この戦いは長引きそうだ。そうなると金が掛かる」
ドウセツが頷いた。
「そうでございますが、仕方のない事ではございませんか?」
「伊和守殿が死んでくれていれば、この戦も早く終わったのだが、残念だ」
負傷したツナヨシは、ハルノ城に運ばれ養生しているらしい。
「まあ良い。ハジリ島の事は評議衆に任せて、俺はイングド国の動きに集中する」
「ホウジョウ家より、イングド国が重要だと考えておられるのですね」
俺は頷いた。
「サコンより連絡が来た。イングー人がチュリ国のエナムに、造船所を建設しているそうだ」
「遠い故国より、船を運んでくるのをやめて、チュリ国で建造して運用する事にしたという事でしょうか?」
「そうだ。乗組員もチュリ人の若者を訓練するのだろう」
「そんな事をすると、チュリ人が反乱を起こしそうですが」
ドウセツはチュリ人の若者を訓練し兵や水兵にすると、知恵を付けたチュリ人が反乱を起こすと考えたようだ。
「長い間、植民地を増やし維持してきた列強国だ。そういう時には、訓練する若者を徹底的に洗脳するのだろう」
ドウセツが首を傾げた。
「洗脳とは?」
「他人の脳を支配する事だ。何度も何度も無条件でイングー人に従う事を教え込み、反抗できなくするのだ」
それを聞いたドウセツは、顔を青褪めさせた。
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