和風戦国サバイバル～戦国ファンタジーを生き残れ～

第168話 ホロベツ半島

　ホウジョウ家のノベハラがビホロ城を去った後、ミヤモト家の当主トシカツと数人の重臣だけが残って、話し合いを始めた。

「ホウジョウ家が味方すると言っておったが、どう思う？」

　トシカツが重臣たちに問う。ワカバヤシ城代は渋い顔をしていた。

「殿、ホウジョウ家は信用できませんぞ。あの家は肝心な時に裏切る傾向があります」

　ホウジョウ家が大きく成長した時代、いくつかの裏切りを行っている。味方だと思い一緒に戦っていた友軍の背後から襲い掛かった過去が有るのだ。

　その御蔭で大きくなったのが、ホウジョウ家なのである。但し、裏切るのは十回に一回ほどである。周囲の者がホウジョウ家の裏切りを忘れた頃に、効果的に裏切るのがホウジョウ家なのだ。

　なので、ホウジョウ家と組む大名は、常に裏切りを警戒しなければならない。警戒を忘れた時、その大名は滅ぶのだ。

「分かっておる。だが、ホウジョウ家の力を借りねば、カイドウ家とは戦えぬ」

「戦う必要が有るのでございましょうか？」

「城代、どういう意味だ？」

　ワカバヤシ城代が、トシカツに顔を向ける。

「今回のカイドウ家との戦は、ホロベツ半島を割譲する事で決着するでしょう。ミヤモト家には時間ができるのです。その時間を使って、ミヤモト家を強化するのです」

「強化だと？　何をするのだ？」

「カイドウ家が、どうやって大きくなったのかを調べるのです。そして、真似できる事を全て行います」

「そんな二番煎じでは、永遠にカイドウ家に追い付く事などできぬではないか」

「追い付く必要はないのです。この後、カイドウ家とホウジョウ家は戦うでしょう。そして、カイドウ家が勝利すると思われます。ハジリ島の三分の一がカイドウ家のものとなるのです」

「馬鹿な。そんな事になれば、カイドウ家は島全体を掌握しようと動き出す」

「その時は、カイドウ家に臣従するのでございます」

「城代……正気か？」

「カイドウ家の内部には、臣従した大名が居ます。それらの家と同じになるのです」

　トシカツが顔を歪めて、ワカバヤシ城代を睨む。

「他に道はないのか？」

「ホウジョウ家を信じて、カイドウ家と戦う道もございます。但し、この道を選べば、カイドウ家に滅ぼされる事になるでしょう」

「そうなると思うのだったら、なぜコタン島を攻めると決めた時に反対しなかった？」

　ワカバヤシ城代が深々と頭を下げた。

「あの時は、カイドウ家の実力を理解していなかったのでございます。ですが、コタン島で戦った将兵から話を聞きました。コニシ殿が話しておられた軍艦、イナミ湊に配置されていた大砲と鉄砲。特にカイドウ兵のほとんどが装備しているらしい新型銃は、脅威と言う他ありませぬ」

「カイドウ家は、鉄砲を国内で作っているのであろう。我が領地内でも作れぬのか？」

「それらの製造方法は秘匿しているようです。ただクジョウ家がカイドウ家の故郷であるカイドウ郷を襲い、村人を連れ帰るという戦いがありました。あれはカイドウ家が隠し持っている製造方法を探り出すためだったと思われます」

「ならば、暗摩（くらま）に調べさせよう」

　暗摩はミヤモト家が雇っている忍びである。召し抱えている訳ではなく、金で雇っているだけなので、重要視されていないが、優秀な忍びだった。

「さて、カイドウ家との戦、どういたしますか？」

　ワカバヤシ城代が改めて尋ねた。

「今、カイドウ家と戦う事は、ホウジョウ家が味方しても無謀だと思う。なので、ホロベツ半島をカイドウ家に割譲する。但し、半島の根元に三つの砦を築き、カイドウ家が容易に攻め込めぬようにする」

　ワカバヤシ城代は妥当な結論だろうと考えた。ミヤモト家は時間稼ぎをしただけなのだ。だが、ミヤモト家に必要だったのは、その時間なのである。

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　俺はコニシから報告を聞いていた。

「ほう、ミヤモト家がホロベツ半島を割譲すると決めたのか。ホウジョウ家が味方すると言ったのに、なぜだ？」

「ホウジョウ家が、信用できないと考えたようでございます」

　俺は頷き広げたハジリ島の地図を見た。コタン島から一番近い陸地であるホロベツ半島は、細長い土地である。利用価値は限られているが、半島の根元の部分に良い湊になりそうな海岸がある。

　ニベシという土地だ。ここを湊に整備して町を造るべきだろうな。その件について評議衆の意見を聞いた。トウゴウが代表して意見を述べた。

「それは賛成でございます。ハジリ島への足掛かりとなるでしょう。その湊町に関しまして、我々に任せてもらえぬでしょうか？」

「どうしてだ？」

「ハジリ島を攻略する橋頭堡（きょうとうほ）としたいのでございます。そのためには、軍港として整備せねばなりません」

「よかろう。但し、そこの海岸で獲れるというハマグリだけは持ち帰るように」

　トウゴウが苦笑した。偶に主から、このような注文を聞く事がある。別に持ち帰らなくとも罰するような事はないのだが、家臣たちは万難を排して注文に応える事にしていた。

　数日後、そのハマグリがホクト城に持ち込まれた。大きなハマグリである。俺は仕事が終わった後、家族と一緒にハマグリ料理を楽しんだ。

　まずは、七輪の上で焼いたハマグリは絶品だった。

「旨いな」

「本当に美味しいです」

　フタバが美味しそうに食べている。その横では、ふうふうと息を吹きかけながら夢中で食べているフミヅキの姿がある。長男であるフミヅキは五歳、次男であるハヅキは二歳だ。

　二人の子供には、ハマグリが大きすぎるので、料理人頭のロクロウが食べやすいように包丁を入れている。

「ロクロウ、もっと」

　フミヅキが催促すると、ロクロウは嬉しそうにフミヅキの要求に応えていた。

「ミナヅキ様、ハジリ島の大名たちと戦になるのでございますか？」

「そのような噂を聞いたのか？」

「はい、ホクトの街では、その噂で持ち切りだそうでございますよ」

　俺は苦笑いする。

「ミヤモト家との戦は終わりだ。メムロ府のホロベツ半島を割譲するという条件で、和睦する事になった」

「そうでしたの。でも、ホウジョウ家が騒いでいると聞きました」

　耳聡（みみざと）い商人たちが噂を流しているのだろう。困ったものだ。

「今回の戦いは、ホウジョウ家がカイドウ家の実力を試すために、仕掛けたものだと考えている」

「では、今度はホウジョウ家と戦になるのでございますか？」

「すぐに仕掛けてくるとは思えない。特にミケニ島へ攻め込んでくるとは思っておらん。攻めてくるとしたら、新しく手に入れたホロベツ半島か、コタン島だろう」

　俺はフタバに安心しろと伝えた。フタバは納得したように頷く。

　変な噂が広まっているようなので、俺はかわら版のような読み物である世相誌に、ミヤモト家との戦の顛末を書かせて、変な噂を打ち消した。

　人々はハジリ島の一部がカイドウ家のものとなったので、もしかするとハジリ島もアマト国に組み込まれるかもしれないと、思うようになった。

　それは商人にとって、商売の機会が増える事になる。なので、何やら期待しているようだ。

「本当に困ったものだ。国の形も定まらない時期なのに……」

　俺が平穏な日々を願っているというのに、また問題が発生した。

　チュリ国の国王であったハン王が、イングー人の手を逃れて隣国であるコンベル国に逃げ込んだのである。しかも、運が悪い事にアマト国の商人たちが綿の積出港として使っているグルサの湊町にだ。

　その報告を受けた俺は、溜息を漏らした。

「ホシカゲ、それは間違いなくハン王なのか？」

「間違いありません。元メラ家当主ヨリチカ殿も同行されておりました」

「むっ、ヨリチカ殿か。それならば、ハン王に間違いないだろう」

　チュリ国から桾国軍が叩き出される寸前にはハン王の陣営に食い込み、国王自身とも知遇を得ていたのだ。

「ハン王は、どうやって逃げ出したのだ？」

「ヨリチカ殿が手配したようでございます」

「はあっ、余計な真似を……」

「ヨリチカ殿にすれば、大切な手駒の一つですから、失う訳にはいかなかったのでしょう」

　逃げ込んだのはイシェラ族が支配するコンベル国なので、俺にはどうする事もできない。