第164話 ホウジョウ家

 トウゴウはクガヌマとコウリキ、ナイトウを探して、四人で軍議を開いた。

「御屋形様より指示があった。ハジリ島の大名家を一気に制圧するために必要な戦備を検討せよ、との事である。また、コタン島の領地を返せと言い出したミヤモト家がコタン島に手を出した時に、どう対応するも検討せよとの仰せだ」


「まずは、ミヤモト家への対応を検討しようではないか」

 クガヌマが提案した。トウゴウたちも賛同する。


「ミヤモト家がコタン島に攻め込んできたら、水際で撃退するのが良いのではないか?」

 ナイトウが意見を言った。それを聞いたコウリキも賛成する。

「某もそう思う。ただコタン島の湊は小さい。多くの軍艦を停泊する事はできませんぞ」


 トウゴウは頷いてから、

「ミヤモト家に関する情報が足りませんな。ホシカゲに言って、探らせましょう」


 海軍の協力も必要だと言うので、海軍の海将であるソウマが呼ばれた。

「コタン島の湊に停泊できる艦船となりますと、装甲砲艦が三隻ほどになるでしょう。あ、いや、装甲砲艦一隻と星型哨戒艇四隻が良いかもしれません」


「どうしてだ。星型哨戒艇の武装は貧弱だと聞いたぞ」

 クガヌマが質問した。現在、星型哨戒艇は十二隻が完成している。その武装は小型艦載砲が四門だけである。クガヌマは少ないと感じたのだ。


 ソウマはクガヌマに視線を向けた。

「ミヤモト家には、碌な軍船がないと聞いております」

「だが、小早船や関船、もしかしたら安宅船があるだろう」


 ミヤモト家が所有している関船は、二十メートル前後のものが多い。大砲も列強諸国から購入したものを一、二門ほど搭載されているだけのようだ。


「カイドウ家では、関船や安宅船を建造した事がないので、あまり知られておりませんが、関船は星型哨戒艇より小さく搭載砲もほとんどないのです」


 以前の関船の武装は、弓矢ぐらいしかなかったようだ。現在の関船は、火縄銃と焙烙玉を投げ付けるという攻撃方法を取るらしい。


「なるほど、コタン島を守る程度ならば、装甲砲艦一隻と星型哨戒艇四隻で良いという事なのだな」

 クガヌマが確認すると、ソウマが頷いた。


「問題は、ミヤモト家の船を発見する前に上陸されてしまった場合だと思われます。ただ正気ならば、そんな真似をするはずがないと思いますが」


 ナイトウたちが苦笑いした。

「ミヤモト家が、カイドウ家の力を分かっていれば、手出しするはずがない。我らもそう思っている。ただハジリ島の者たちが、本当にカイドウ家の実力を分かっているか……そこが判断できぬのだ」


 ソウマは首を傾げた。

「カイドウ家はミケニ島を掌握し、八百五十万石、保有兵力二十四万となりました。それだけの国に戦を仕掛けるなど、気が狂っているとしか思えません」


 それを聞いたトウゴウも頷いた。

「そう思うのは、当然の事だ。だが、ミヤモト家の背後には、ホウジョウ家が控えている。油断ができる相手ではない」


 ホウジョウ家と聞いたソウマは、厳しい顔になった。

「二百万石の太守でございましたな。確かにクジョウ家に匹敵する強敵でございます。ですが、今のカイドウ家ならば、確実に倒せる敵なのではありませんか?」


「御屋形様は、今、戦をしたくない御様子なのだ」

「なるほど、内政に専念したいという御意向ですな。実は某もそうなのです」


 クガヌマが、意味が分からないという顔をする。

「なぜだ? 新しい国になったからと言って、海軍の海将である貴殿には影響あるまい」


「それは違いますぞ。アマト国になって、益々交易が盛んになっております。商人は輸送船を建造し、バラペ王国やコンベル国へと商売に出る事が多くなりました。その交易路を守っているのが、海軍なのです。今は数多くの船を出して、海賊退治や海路の調査をしているところなのです」


「もしかして、バラペ王国やコンベル国にも海賊が出るのでござるか?」

 ナイトウが尋ねた。

「はい、粗末な船で沿岸の村や町を荒らし、交易船にも襲い掛かっているようです」


 海軍では海賊狩りをしているが、その数は一向に減らない。貧しい漁師や貧民が海賊に転職する事が増えているのだ。


 元々海賊の多い海域だったのだ。そこに大きな富を持ったアマト国の交易船が航海するようになり、それを狙った海賊船が増えたのである。


「コタン島に駐留させる艦船は、用意できるのかな?」

「現在、装甲巡洋艦が七隻、装甲砲艦が十九隻、星型哨戒艇が十二隻完成していますので、十分な数は有ります」


 ソウマは使い勝手の良い星型哨戒艇を増やして欲しいと思っていたが、星型哨戒艇ではイングド国海軍の軍艦に対抗できないというので、そんなに増やせないと言われている。


「話を戻しましょう。ミヤモト家がコタン島に送り込める兵数は、どれほどだと思われる?」

 コウリキがソウマに尋ねた。

「そうですな。カイドウ家のように、兵員揚陸艦を所有している訳ではないので、二千が限度でしょう」


「なるほど、その二千を撃退する戦力を、コタン島へ配置すれば良いのか。そうなると同じ二千程度を準備すれば良かろう」


 トウゴウたちも賛成した。

「さて、次はハジリ島を短期間に制圧するには、何が必要か検討しよう」


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 その頃、ハジリ島のミヤモト家では、ビホロ城の広間に重臣たちを集め話し合いが行われていた。

「コタン島で銀山が発見されたのを聞いておるな」

 当主であるミヤモト・華平督かひらのかみ・トシカツが確認した。家臣たちが肯定するように頷く。


「コタン島は、元々ミヤモト家のものだった」

 トシカツの言葉を聞いた城代家老のワカバヤシが顔をしかめた。

「ワカバヤシ、異論が有るのか?」


 ワカバヤシ城代が、トシカツに目を向け、

「それは、さすがに道理が通りません。カイドウ家のコニシ殿が海賊の件で、ビホロ城に参られた時、コタン島はミヤモト家の支配地ではないとはっきりと申されたのは、殿でございます」


 トシカツが顔を歪めた。

「あの時は、コタン島で銀鉱山が見付かるなど思ってもみなかったからだ」

「だからと言って、今更コタン島はミヤモト家のものだ、と言い出したら、ミヤモト家は何と欲深なのだと、笑いものになるでしょう」


「だが、銀山だぞ。宝の山をカイドウ家に渡して、指をくわえて見ていろ、と言うのか?」

「遅いのです。某が『カイドウ家と戦う事はできぬのでございますか?』と問うた時、殿は戦力を考えれば、戦えないと申されました」


「分かっておる。あの時のカイドウ軍の兵力は四万、今は二十四万だそうだ」

 トシカツからカイドウ家の兵力を聞いた家臣たちは溜息を漏らした。


「なおさら、逆らえる相手ではございませんぞ」

 ワカバヤシ城代に家臣たちも賛同する。


「それが……伊和守いわのかみ様が、支援すると仰せられたのだ」

「伊和守様というと、ホウジョウ・伊和守・シゲヒロ様でございますか?」

 ワカバヤシ城代が驚きの声を上げた。


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